石野純也のモバイル通信SE

第39回

折りたたみスマホの民主化 10万円を切るモトローラ「razr 40」の可能性

モトローラは、razr 40/40sを発表した。写真はソフトバンクの40s

モトローラ・モビリティ・ジャパンは、価格を抑えた折りたたみスマホの「razr 40」「razr 40s」を発表した。前者は、モトローラ自身が販売するオープンマーケット版で、MVNOではIIJが独占的に取り扱う。後者はソフトバンク版という位置づけ。型番は異なるが、ハードウェアに差異はなく、後者のみ、ソフトバンク用のソフトウェアに対応している。2モデルとも、おサイフケータイや防水・防じん仕様も備える。

フォルダブルスマホ、10万円を切る

フォルダブル(折りたたみ)スマホと言えば、ハイエンド中心で比較的高額になりがちだが、razr 40/40sは、その価格の安さに特徴がある。

モトローラの公式オンラインストアでの価格は125,800円だが、IIJは期間限定のセール価格として95,800円でこれを提供。MNPの場合はさらに割引があり、79,800円まで価格が下がる。ソフトバンクの販売するrazr 40sは121,680円。MNPや5歳から22歳の新規契約などでつく22,000円の割引を適用すると、一括価格は99,680円になる。いずれも、10万円を下回る価格をつけた。

IIJが販売するrazr 40は、一括価格で10万円を下回る
ソフトバンクは、MNPなどの割引込みで10万円を下回る価格設定

さらに、ソフトバンクのrazr 40sは、48回払いの「新トクするサポート」を使うと、2年間、破格の値段で利用できるようになる。新トクするサポートは、48回の支払いの内、端末の下取りで最大24回分を免除する仕組みのこと。ただし、ここ最近は均等に48分割するのではなく、端末によっては前24回と後24回の支払い額を大きく変えていることがある。後24回の支払いが大きいというのは、すなわち事前に約束する下取り額が高いことを意味する。

裏返すと、最初の24回は格安になるということだ。razr 40sの場合、MNPなどの22,000円割引が適用された状態で新トクするサポートを利用すると、前24回の支払い額が410円まで下がる。後24回の支払いは3,744円。後24回は高額だが、この支払いが始まる前に下取りに出してしまえば、総額は9,840円で済む。あくまで2年限定のリースに近い形だが、フォルダブルスマホが1万円以下の支払いで持ててしまうのは驚きだ。

新トクするサポートの対象で、前半24回分の支払額は410円から。機種変更でも、24回までは1,326円で利用できる

ちなみに、機種変更や23歳以上の新規契約、さらには端末のみの購入でも、新トクするサポートは適用される。22,000円の割引はなくなり、毎月916円ほど高くはなるが、それでも月額料金は1,326円ほど。2年以内に下取りに出せば、3万円強の価格でrazr 40sを利用することが可能だ。「フォルダブルスマホ=高い」というイメージをくつがえすインパクトのある価格設定と言えるだろう。

「世界ではそれなりに出荷台数が伸びてきていて、数年後には数倍の勢いで伸びていくというフォーキャスト(予測)もある」(モトローラ・モビリティ・ジャパン 代表取締役社長 松原丈太氏)という折りたたみ型スマホだが、日本では、まだメインストリームにはなっていない。

サムスン電子が「Galaxy Z Flip」シリーズを毎年投入しているものの、いずれもハイエンドモデルで価格は10万円を大きく超えている。モトローラ自身も、「プレミアム価格帯の製品しかなかった」のが現状だ。

価格の高さが普及のハードルになっていたとするモトローラの松原氏

サムスンと一騎打ち? フォルダブル競争激化

実際、ソフトバンクの調査でも、折りたたみスマホの不安要素として、「48%は端末代が高い」(モバイル事業推進本部 本部長 郷司雅道氏)と回答している。フォルダブルというホームファクターには魅力を感じているものの、その価格になかなか手が出せなかったのが実情だ。これに対し、razr 40sの価格設定は、その不安を払しょくして余りある安さと言えるだろう。

ソフトバンクの調査では、48%が不安要素として端末価格の高さを挙げていた

また、ソフトバンクは、フォルダブルスマホの不安点として挙がりやすい「壊れやすさ」に対応するため、保証サービスも手厚くしている。同社は、スマホ修理業者のiCrackedとタッグを組み、グーグルのPixelやシャープのAQUOSの即日修理を提供しているが、これをrazr 40sにも拡大。月額990円の「あんしん保証パックネクスト」に加入すると、いざというときの修理代金が年2回まで0円になる。

「壊れやすそう」という不安には、即日修理サービスで対応する

こうした価格が実現できたのは、純増数を重視するソフトバンクの戦略が大きいが、razr 40/40sは、その本体価格も一般的なフォルダブルスマホと比べ、リーズナブルだ。モトローラは、8月にプレミアムモデルの「razr 40 ultra」を投入しているが、こちらの価格は公式ストアで155,800円。IIJの割引価格でも、139,800円だ。

これに対し、razr 40は冒頭で挙げたように、公式ストア価格でも125,800円と3万円ほど安く販売される。

これは、razr 40/40sが、いわゆるミッドレンジモデルのためだ。チップセットに「Snapdragon 8+ Gen 1」を採用し、外側ディスプレイも3.6インチまで拡大したrazr 40 ultraに対し、razr 40/40sは「Snapdragon 7 Gen 1」を採用。外側に搭載されるアウトディスプレイも、1.5インチと小さめだ。ベースとなる処理能力が異なるうえに、前者は閉じたままでもほとんどのアプリを動かせる一方で、後者はできる操作が限定される。

アウトディスプレイが3.6インチと大型だったrazr 40 ultraと比べると、この部分に表示できる情報量は限定的。あまり複雑な操作もできない

とは言え、折りたたみ型スマホの基本である、本体の開閉は可能。しずく型のヒンジを採用しているため、折り曲げたときのすき間がほぼなく、折り目も最小限にしかつかない。無段階で角度を調整できる「フリクションヒンジ」を採用し、机やテーブルの上に置いたまま撮影などができるのも魅力だ。プレミアムレンジのモデル並みの高機能さはないものの、折りたたみスマホならではのメリットは十分生かせる。入門機として、うってつけの1台というわけだ。

半開きにしたまま机の上に置いて撮影したり、画面下部を操作パネルにしたりといった折りたたみスマホの基本的な機能は網羅する

折りたたみ型スマホというと、サムスン電子のイメージが強い一方で、モトローラも早くから取り組んでいた1社。特に縦折り型の端末は、サムスンのGalaxy Z Flipより先に「razr」を商品化した。razr 40/40sのように価格帯を広げる取り組みも、モトローラが一歩リードしている。

日本ではサムスン電子が大々的にGalaxy Z Flip5をアピールしており、認知度も高まっているが、低価格を武器にしたrazr 40/40sはいわばダークホース的な存在。折りたたみスマホ市場で、番狂わせが起こることを予感させる。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya