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普通の金庫と耐火金庫 どう違う? 購入して比較してみた
2024年1月31日 08:20
通帳を始めとして、自宅の中で保管しておく貴重品や重要な書類が増えてくると、金庫を導入しようという話になりがちです。この時に悩みがちなのが、火災にも耐えられるいわゆる耐火金庫と、そうではない一般的な金庫の、どちらを選ぶべきかということです。
日本の災害事情を考慮すると、耐火仕様であるのがベターなのは明らかですが、予算やサイズなどの条件を集めていくと、なかなか実際の導入には至らないものです。実際に金庫を購入した人に話を聞いても、いったんは耐火金庫を検討したものの、最終的にはあきらめて一般的な金庫に落ち着いた人も多いようです。
今回、ほぼ同じサイズの一般的な金庫と、耐火性能を持った金庫を、相次いで購入することになりました。筆者はこうした金庫の専門家ではありませんが、この両者を連続して入手し使い比べる経験をした人はそう多くないはずで、今回は両者の特徴をまとめつつ、実際に使わなければ分からない知見を紹介したいと思います。
今回購入した2製品をざっと紹介
家庭向けの一般的な金庫と言えば、取っ手がついた工具箱タイプの製品もあれば、今回紹介するような据え置き設置を前提としたボックス型の製品があります。前者は重量も軽く、持ち出しも容易なのに対して、後者は数十kgという重量があり、さらに付属のボルトなどで壁面や床面に固定することで、盗難防止に役立ちます。
今回購入したのは後者、据え置き型の金庫で、一辺のサイズが50cmにも満たない、キューブ型のコンパクトな製品です。ひとつはAmazonベーシックの「42SAM」で、サイズは35.1×33×41.9cm(幅×奥行き×高さ)。施錠はテンキーによる電子式で、耐火機能はありません。価格は1万円ちょっとです。
もうひとつはエーコーの「BES-8」という製品で、サイズは33.6×35.7×44.4cm(同)。施錠はダイヤル式で、一般紙用30分耐火性能試験合格品であることから分かるように、いわゆる耐火金庫としての機能を備えています。ちなみに30分というのは耐火金庫とのしての規格上はもっとも短めですが、家庭用ならば大きな問題はないでしょう。価格は2万円前後です。
冒頭の写真を見ていただければ分かるように、この両者はほぼ同じ外寸で、耐火機能の有無と、施錠の方式が違うだけのように見えますが、実際にはこうした外見だけではわからない大きな違いがあります。以下、3つのポイントに絞って紹介します。
違いその1:容量
まず何といっても異なるのは容量です。一般的な金庫は、壁面にそれほど厚みはなく、ロック機構を備えた扉部分を除けば、外寸から想像できるほぼすべての内部空間が、そのまま容量となります。今回のAmazonベーシック「42SAM」の場合、壁面の厚みは約1.6mm、厚みがある扉部分でも約3.25mmということで、この法則がおおむね当てはまります。
一方の耐火金庫は、火災発生から内容物を守る耐火性能を確保しなくてはいけない関係上、壁面には数cm程度の厚みがあるのが普通です。今回のエーコー「BES-8」は、左右の壁面は約61mm、上下についても30mm前後の厚みがあります。耐火でない金庫の10倍以上の厚みがある計算になります。
そのため、これら2製品は、外寸がほぼ同じであるにもかかわらず、内部の容量には驚くほどの違いがあります。具体的には、耐火性能のない前者が42Lあるのに対して、耐火性能を備えた後者はわずか21.6L。実に半分以下です。
これをA4の書類に換算すると、前者はファイリングした状態で立てて入れても余裕があるのに対し、後者はファイルを斜めにしないと入れられないほど奥行きが不足しています。A4書類を裸のまま入れるか、もしくは奥行きが短い紙ファイルに交換すればなんとか入れられますが、左右方向も決して広くないため、大量のファイルを入れるには向きません。
ちなみにこの壁面の厚みは、耐火仕様である限り大きく変わりませんので、サイズが大きな金庫ほどこの厚みの影響は少なくて済みます。ただ、家庭にそれだけ潤沢な設置スペースがあることは稀なはずで、結果的にこのことが、家庭への耐火金庫の導入のネックになっていると言えます。
違いその2:奥行き
容量とひっくるめて扱われがちですが、奥行きを取ることも、耐火金庫のネックのひとつです。前述のように耐火金庫は、熱を遮るために、厚みのある構造を採用しており、同じサイズの一般的な金庫と比べて、容積は小さくなりがちです。
そのため、一般的な金庫と同等の容積を確保しようとすると、それだけサイズの大きい製品を選ばなくてはいけないわけですが、ここでネックになるのは奥行きです。
というのも、ボディの幅と高さについては、設置場所の上下左右を広く取れば解決できるのに対して、設置場所の奥行きを広く取るというのは、意外と難しいからです。特に既存の棚に押し込むような場合は、すでに奥行きが決まっているため、無理に設置すると金庫が手前に飛び出して通路を遮ったり、部屋を狭く見せることになりがちです。
筆者が今回購入したエーコー「BES-8」は、耐火金庫としては飛び抜けて短い357mmという奥行きゆえ、こうした問題はクリアできているのですが、そのぶん内寸の奥行きにまったく余裕がありません。もしこの内寸の奥行きが広いモデルをチョイスすると、想定していた場所よりも手前に飛び出てしまいます。どちらを優先するかは、非常に難しい問題です。
そのため、耐火金庫を選ぶ時は、幅や高さではなく、まず奥行きをチェックすることをおすすめします。また奥行きがないからといって一般的な金庫に切り替えるという選択肢がなく、どうしても耐火金庫でなくてはならないという場合は、あらかじめ奥行きが十分にある設置スペースを確保しておくことをおすすめします。
違いその3:重量
そしてもうひとつ、大きな相違点は重量です。一般的に金庫は盗難を防止するというのが利用目的の一つですが、壁面や床面にジョイントで固定するだけでなく、ある程度の自重があって動かしにくいことも、盗難を防ぐための重要な条件と言えます。
耐火性能をクリアするために壁面が厚く設計されている耐火金庫は、そのぶん重量も重いため、一般的な金庫と比べて、盗難防止という点で有利です。今回紹介しているエーコー「BES-8」の重量は27kg。耐火仕様でないAmazonベーシック「42SAM」は15.27kgなので、約2倍の重量があることになります。
実際にこれらを動かそうとしてみても、Amazonベーシック「42SAM」がギリギリ持ち上げて移動できるのに対して、エーコー「BES-8」は持ち上げられる重さではないため、移動させるには4つの脚のうち2つを浮かせ、残る2脚を交互に出しながら前後に動かすしかありません。実際にはこれら本体重量に内容物の重さがプラスされるので、移動はなお難しくなります。
このように、物理的な盗難の防止という観点では耐火金庫のほうが有利なのですが、その重さゆえ、2階など階上への搬入が難しいことは、考慮しておく必要があります。木造住宅で実際に火災が起こった場合、その自重の重さゆえ、階下へ落下してくる可能性も高いはずで、設置場所の選定は慎重に行なったほうがよさそうです。
災害への備えは耐火金庫から
今回、一般的な金庫と耐火金庫を相次いで購入し、常用するようになって感じたのは、やはり耐火金庫の安心感は唯一無二のものだということです。当初は貴重なものだけを耐火金庫に移し、両者を半々くらいの割合で使う予定だったのが、いまではほとんどの品が、耐火金庫に収められているほどです。
実際のところ、日本の治安および防災事情を考慮すると、金庫に求める役割は盗難防止よりもむしろ災害への備えのほうがメインと言って差し支えないでしょう。筆者は経緯上、バラバラに計2台を購入するに至ったわけですが、これから新規に購入されるのならば、最初から耐火金庫にフォーカスして製品を探したほうがよいだろうというのが、個人的な意見です。本稿が製品選びの一助になれば幸いです。