レビュー

「M3」世代でMacBook Pro/iMacはどう変わる? 悩ましいM1世代の買い替え

14インチMacBook Pro・M3搭載モデル。色はスペースグレイ

アップルの新プロセッサー「M3」を搭載した2製品、「MacBook Pro(14インチ、M3搭載モデル)」と「iMac(24インチ、M3搭載モデル)」のレビューをお届けする。

iMac・24インチモデル。M3搭載版で、カラーはブルー

同社が自社オリジナル設計の半導体である「Appleシリコン」をiPhoneに導入したのは、もう13年も前、「iPhone 4」が発売された時だった。それがMacに広がったのは2020年のこと。さらに3年が経過し、M1はM「3」になった。

14インチMacBook Pro・M3搭載モデル。色はスペースグレイ

MacへのAppleシリコン導入は成功した。驚くほど性能は高く、特にノート型には最適なプロセッサーだったと言える。その影響は、インテル・AMDというx86系CPUを製造するメーカーだけでなく、クアルコムのPC向けチップ戦略にも影響を与えている。

では、Mac用Appleシリコン第3世代の実力はどうだろうか? 実機で確かめてみよう。

旧世代・13インチモデルから14インチへ

アップルは製品のクラスごとに異なるプロセッサーを使っている。インテルやAMDのプロセッサーが使われる製品の価格や性質で異なるのと同じ理屈ではあるが、自社製品のためにだけ使うので、ラインナップははるかにシンプルだ。

M3搭載モデルの場合、現状では「M3」「M3 Pro」「M3 Max」の3バリエーションがあり、さらにM3 ProとMaxにはCPU/GPUコア数の異なるバリエーションがあるが、アーキテクチャ自体は同じだ。

今回試用できたのは、スタンダードモデルにあたるM3搭載の2製品。どちらも搭載しているプロセッサー自体は同じであるようだ。

iMacは2021年春、M1搭載で大規模リニューアルしたが、それをM3搭載にしたのが本製品。ハードウェア構成自体は大きく変わっていない。M3搭載に伴い、最大メモリー容量が16GBから24GBになっている。今回テストしているのも、メモリーは24GB搭載されていた。

iMacの背面。USB-Cは4つあり、中央に電源アダプター+イーサネットの専用端子がある
本体、というかディスプレイはかなり薄型

ハードウェアに変更はほぼないのだが、付属するキーボードやマウスの仕様もこれまでと同じだ。つまり端子はLightningだ。

iMacはノートPCと違って持ち歩くわけではないし、ケーブルを使う頻度も充電の時くらい。だから実用上、端子がUSB-Cである理由は薄いとも言える。だが、ちょっと意外だったのも事実だ。

MacBook Proについては、M1搭載モデルは2016年登場のデザインを引き継いだ「13インチモデル」から、2021年秋登場の「14インチモデル」のデザインをベースにしたものに変更になっている。

比較用に用意した、M1搭載版 MacBook Pro。13インチモデルで、2016年以来続くデザイン。今秋出荷を終了
M1 Pro搭載版のMacBook Pro・14インチモデル。写真は2021年秋発売のもの。デザインはこの時に刷新された

14インチモデルのボディがベースになることで少し大型化し、重量も150g重くなった。ただし、ディスプレイがミニLED搭載で高輝度・高画質化しており、内蔵カメラも解像度が720pから1080pへと高画質化した。カメラ部にいわゆる「ノッチ」が生まれたが、その分画面は上下に広がっているので、使ってみるとさほど気にはならない。

同じ14インチモデルではあっても、M3搭載モデルとM3 Pro搭載モデルには違いがある。USB-Cの搭載個数が違うのだ。M3は左側に2つ、M3 Proは左に2つ、右に1つある。

M3搭載版MacBook Proは本体左側のみにUSB-Cを搭載していて、右側にはHDMIとSDカードスロットだけを持つ

ただ、これはM1搭載モデルからそうであり、MacBook Airも同様。そういう意味では、ベースとなるボディデザインが変わっただけで、位置付け自体は13インチ時代と同じ……ということになる。

13インチモデル時代にはMagSafeはなく、左側だけにUSB-Cが2つあった

なお、14インチモデルと16インチモデルでは新色「スペースブラック」が登場しているが、M3モデルは従来通りシルバーとスペースグレイだ。今回使っているのはスペースグレイのモデルになる。

M3の性能はM1 Proに追いついてきた

大きく変わったのはプロセッサーなので、その性能をベンチマークでチェックしてみよう。手元には、M1搭載MacBook Pro(2020年秋発売)とM1 Pro搭載MacBook Pro(14インチモデル、2021年秋発売)があるので、M3の各製品と比較してみた。冒頭でも述べたように、今回試用しているのは「M3搭載モデル」のみで、M3 ProやMaxを搭載したモデルはまだテストできていない。

まずは、CPU・GPUの性能をチェックできる「GeekBench 6」と「Cinebench 2024」の値から。

GeekBench 6のCPUテスト
GeekBench 6のGPU(Metal)テスト
Cinebench 2024のCPUテスト
Cinebench 2024のGPUテスト

M3では、CPUコア・GPUコアともに性能がアップしている。M1とM3を比較した場合、コア数だけで言えばGPUのみが増えている状況なのだが、性能はグッとアップした。CinebenchのGPUテストは1コアでの性能を測るものなので、世代が新しいM3の方が有利になっている。

興味深いのは、発売当時はM1よりもかなり高性能だったM1 Proに、M3の性能が追いついてきている、ということだ。

逆に言えば、現在M1 Pro以上のプロセッサーを搭載した製品を使っている場合、「無印のM3を買っても性能はアップしない」ということになる。

無印M3が高性能になったということでもあるのだが、M1 Pro以上が「まだまだ十分に現役である」という見方もできる。M1 Pro以上のプロセッサーを搭載した製品からの買い替えであれば「来年以降を待つ」もしくは「M3 Pro以上を選ぶ」のが妥当、とも言えるわけだ。

M3は、特にGPU性能が上がっている。前出のテストでも、M1からの伸びしろが特に大きかったのはGPUだ。

ベンチマークソフトである「3D Mark」に含まれるレイトレーシングを使う「Solar Bay」をテストした結果が以下になる。M3はM1を大幅に超え、M1 Proに近い値になるのがわかる。GPU数はM1が8、M1 Proが16、そしてM3が10だから、GPUコア1つあたりの性能アップは顕著だ。

3DMarkの「Solar Bay」でのテスト

実処理でも見えてくるM3の性能優位

もう少しわかりやすく比較するため、実環境での性能を比較してみよう。

まずは、カプコンの「バイオハザード ヴィレッジ」から。解像度を2,540×1,440ドットに、グラフィックオプションを最高画質になる「限界突破」にした上で比較した。

解像度はWQHDとし、画質設定は「限界突破」に

M1 ProとM3のみの比較になるが、M3はM1 Proに性能で劣るものの、その差は比較的小さなものになった。実質的な最高画質設定でも十分な値が出ている、と考えていい。

冒頭シーンで、M1 Pro(上)とM3(下)の結果を比較。M1 Proの方がフレームレートは高いが、その差は大きなものではない。

もう1つ、非常に重い処理として、写真編集・整理ソフトである「Adobe Lightroom」での「AIによるノイズ除去」作業をしてみよう。写真からノイズをかなりきれいに消してくれる機能だが、処理もかなり重い。1枚のRAWデータ写真を処理するのに、M1だと1分以上の時間がかかっていた。

「Adobe Lightroom」でのAIによるノイズ除去は、非常に有用だが時間もかかる。それがM3では短縮できる

それがM1 Proでは30秒になるのだが、テストしてみると、M3でも40秒弱になった。

この差は大きい。M3世代の「Pro以上」のグレードでの速度も期待できそうだ。

「M1が優秀すぎる」がそろそろ世代交代の時期

では、これらの結果を踏まえ、どのMacを選ぶべきか?

スタンダードな製品向けとして、M3は非常に優れている。今回はM2と直接比較をしなかったが、ベンチマークの傾向をみると、M3の方がもちろん有利であるのは間違いない。

一方で、本当にベーシックな用途であれば、多少安価な「M2搭載MacBook Air」でも十分ではある。グラフィック処理やゲームなど、GPUにより負荷をかける使い方をしたい人にはM3の方が良いが、そこが分かれ目かもしれない。

ディスプレイが大きく解像度もより高いiMacがM3になっているのは、適切な判断といえる。

地味な点だが、特にMacBook Proについては「動画視聴時の電力消費が下がった」ことも重視したい。カタログ表記のバッテリー動作時間が「22時間」へと大幅に伸びているが、これは、M3の中に、近年での動画配信サービスで多く使われる「AV1」コーデックのデコーダー(再生支援機能)が入ったためと思われる。動画視聴以外のタスクでは、バッテリー動作時間はさほど伸びておらず「横ばい」だが、動画視聴では伸びている点に着目して欲しい。

全体に、処理負荷軽減による消費電力低減は現れていて、発熱などもさらに感じづらくなっている。これは「スタンダードモデルの進化」として有用な点かと思う。

最大の懸念は、いまだM1の性能が十分に高いということかもしれない。価格だけにこだわるなら、中古などでM1搭載Macを安価に買う、というのも悪い選択ではない。

一方で、これから円安がさらに進み、ハードの価格が高くなる可能性を考慮に入れるなら、比較的性能の良いものを買っておいて2、3年後の買い替え時に下取りして新製品購入の費用に充てる……というやり方を考えてもいいだろう。M1の価値がまだ高いということは、M3への買い替えの原資にもなりやすいということだし、今のM3搭載モデルは、2、3年後にも一定の価値が維持できていると考えられる。

そういう意味で、明確に性能アップしているM3版Macは十分に「買い」の製品と言っていいだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41