レビュー

4倍のGPUパワーだと……っ! 最強性能のMac Studioを試してみた

Mac Studio

3月にMacの新製品「Mac Studio」が発表された。前モデルのない、まったく新しいラインナップだ。上位モデルはM1 Ultraという強烈な性能のプロセッサを搭載し、価格は下位モデルでも249,800円〜と、位置付けとしてはプロ向けの高性能なデスクトップのMacとなる。

何を隠そう、筆者はMac Studioの下位のデスクトップMacであるMac miniを愛用している。現在のメインマシンは2020年11月発売のM1搭載Mac miniで、過去を振り返ればPowerPC搭載の初代Mac miniから6台のMac miniを使い続けており、そんな筆者にはデスクトップのMacに対するこだわりも愛着も執着もある。

今回はそんな筆者がMac StudioのM1 Max搭載モデルをお借りすることができたので、M1搭載のMac miniと比較しつつ、Mac StudioがどんなMacなのかを解説していきたい。

本当に卓上に置けるデスクトップパソコン

Mac StudioとMac mini(2018年発売の旧モデルだけどサイズは現行モデルと一緒)。奥行きと幅は同じで、厚みというか高さが違う

Macにはノート型のMacBookシリーズ、ディスプレイ一体型のiMac、そしてMac miniやMac Proなどのいわゆるデスクトップ型、この3つの形状がある。Mac Studioは形状としてはデスクトップ型で、Mac miniに似た面がある。

Mac Studioの奥行きと幅はともに19.7cm、高さは9.5cm。奥行きと幅はMac miniと同じで、高さ方向に分厚くなった形状をしている。

Mac miniより大きくなったとはいえ、ハイスペックなデスクトップパソコンとしてはかなりコンパクトだ。ゲーミングPCなどハイスペックなデスクトップパソコンというと、「デスクトップって言うけど、ホントに机の上に置くつもり?」と腕を組みながら言いたくなるサイズ感も珍しくないが、Mac Studioは卓上に置いても邪魔にならない。

Mac Studioの前面にはSDXCカードスロットがあるので、卓上に置いて使うと便利だが、ディスプレイとケーブル接続ができれば、置き場所は自由にできる。コンパクトなので棚の中などにも設置しやすい。ACケーブル直結でACアダプタはないので、設置時のスペースは本当に小さく済む。

Mac Studioの背面。初期のMac miniはACアダプタだったが、最近のアップル製品はモバイル以外、ACケーブル直結である

しかしMac Studioはいくらコンパクトでも、設置したあとは基本的に動かさない。ノートパソコンのように外出時に持ち出したり、気分によって書斎からリビングルームに移動したりもしない。この辺り、デスクトップパソコンなので当たり前のことだが、主にノートパソコンを使っている人は、「固定の作業デスクが必要」ということを忘れないようにしよう。

デスクトップパソコンは場所を動かせない代わりに、ノートパソコンに比べるとさまざまなメリットがある。たとえばディスプレイやキーボードに好きなものを使える、ディスプレイやキーボードが壊れたらそれだけ交換すれば良い、バッテリなど故障・劣化しやすい内蔵部品が少ない、大きな冷却機構を内蔵できるので動作音が静か、などなどだ。

ちなみにMac Studioはディスプレイを最大5台も接続可能で、ここがポイントにもなっている。ほかのAppleシリコンMacを見ると、M1 Max搭載のMacBook Proは最大3台、Mac miniとM1 Pro搭載のMacBook Proは最大2台、M1搭載のMacBook Pro、MacBook Air、iMacは1台のみで、最大5台は最も多い。普通のデスクだと3台くらいが限界ではあるが、3台まで接続できるM1 Max搭載MacBook ProよりMac Studioの方が安いので、マルチディスプレイ環境は構築しやすかったりもする。

無印M1とは桁違いのGPUパワー。CPUはマルチタスクに強い

M1チップシリーズの大きさ。M1 UltraはM1 Maxをニコイチしてるので2倍の大きさである

Mac Studioの最大の特徴は、搭載するプロセッサの性能だ。CPUはM1 MaxとM1 Ultraの2種類から選択でき、それぞれオプションでGPUコア数が多いバージョンにもできる。

最安モデル(249,800円〜)が搭載するM1 Maxは、CPUが10コア、GPUが24コア、Neural Engineが16コアとなっている。+2.2万円のオプションで、GPUが32コアになる。ちなみに今回、筆者がお借りしているのは、GPUが32コアのM1 Max搭載モデルだ。

上位モデル(499,800円〜)が搭載するM1 Ultraは、M1 Maxを2個接続しているので、コア数が倍になり、処理能力もほぼ倍になる。さらに処理能力だけでなく、メモリ容量なども増えている。そして価格も倍になっている。

これに対し、デスクトップ型Macの下位モデルとなるMac mini(79,800円〜)が搭載する無印M1はというと、CPUが8コア、GPUが8コア、Neural Engineが16コアとなっている。

CPUはコア数にそこまでの差はないが、中身はちょっと違う。Mac StudioのM1 Maxは、CPUの10コア中、2コアが低消費電力の「効率性」コア、8コアが最高速度の高い「パフォーマンス」コアで、最大性能は高い。対するMac miniの無印M1は、4コアが「効率性」、4コアが「パフォーマンス」で、最大処理性能に寄与する「パフォーマンス」のコア数には2倍の差がある。

Mac StudioのCINEBENCHスコア。グラフ上の比較対象はWindowsパソコンなのであまりあてにならない

CPUのパワー比較としてベンチマークアプリ「CINEBENCH」を使ったところ、マルチコアのスコアではM1搭載のMac miniが7,708ポイントに対し、M1 Max搭載のMac Studioが12,326ポイントと、6割程度上回った。

一方でシングルコアのスコアはというと、Mac miniが1,501ポイントに対しMac Studioが1,531ポイントと、同じ世代のコアだけあって、ほとんど差がついていない。

コア自体は同じなのに、マルチコアのスコアでコア数以上の差が出たのは、パフォーマンスコアの数の差だろう。この辺りはちょっと面白い結果だ。

Mac Studioの3DMarkスコア。もはやこのアプリで計測できる限界領域という性能
Mac miniの3DMarkスコア。10万円未満のモデルにしてはかなり健闘してる

GPUはというと、コア数がMac miniは8個に対し、お借りしているMac Studioは32個と文字通り桁違いだが、ベンチマークスコアも桁違いである。iPad向けのベンチマークアプリ(AppleシリコンMacでも動くのである)の「3DMark Wild Life Extreme」の「Unlimited」モードで計測したところ、Mac miniは5,045ポイントに対し、Mac Studioは20,259ポイントとなった。約4倍である。

フレームレートの推移を見ても、Mac miniは40fpsを超えないのに対し、Mac Studioは90fpsを切ることなく、150fpsに届こうかという勢いだ。Mac miniも価格帯を考えるとかなり健闘しているが、GPUをバリバリに使う用途では大きな差がつくことになる。

GPUというとゲームなどの3D処理を想像してしまうが、いまどき、写真やビデオのエンコードなど重たい処理はGPUが担うアプリが多い。このGPUの性能差はプロユースではかなりのアドバンテージになるはずだ。

といってもminiとStudioの差を体感できる場面は限定的

ベンチマークスコアには差があるが、M1 MaxやM1 Ultraのプロセッサパワーを活かし切る用途はけっこう限られている。

アップルの公式サイトではMac Studioのパフォーマンスを活かす用途として、物理シミュレーションやPhotoshopのフィルタ処理、8K動画のレンダリングなどを挙げている。そうした底なしにプロセッサパワーを必要とする用途だと、Mac StudioのM1 MaxやM1 Ultraはその真価を発揮してくれるはずだ。

ただ、筆者は無印M1搭載のMac miniをメインのパソコンとして使っているが、無印M1でも、Appleシリコンに最適化されたアプリなら、たいていのことはサクサク動くので、かなり重たい作業でないと、「Mac miniだとツラいアプリがMac Studioだとヌルヌル!」みたいなケースには遭遇しない。

Mac Studioだと一部で人気のゲーム「Vampire Survivors」の最終ラッシュでもコマ落ちしないどころか余力がある。が、Mac miniでもほとんどコマ落ちしない。そもそも負荷の大きなMacのゲームってほとんど存在しない(作っても誰もプレイできないから)

例えば「デジカメで撮った数十枚のRAW画像をLightroomで処理」くらいの作業だと、Mac miniではやや時間はかかるものの、数分もかからないし、処理中も別のアプリがサクサク動くおかげで、待たされることなく別の作業ができる。

「8K動画をバリバリに編集したい」や「物理シミュレーションやエンコードなど計算能力を限界まで使う」など、明確に「最高パフォーマンスが必要」とわかっていて、そうしたアプリを1日数時間使っていたり、大幅にストレスを軽減できるなら、Mac Studioは最強の選択肢となるのは間違いない。

しかしそこまでパフォーマンスが必要ないなら、「安いエントリーモデルだから」などと侮らずにMac miniも選択肢に入れるべきだ。

Mac miniの価格は79,800円から。メモリを16GB、ストレージを512GBに強化すると123,800円。Mac Studioは249,800円から(32GB/512GB)。性能差は大きいが、価格差も小さくはない。Mac miniにして浮いた予算でディスプレイを良いものにしたり、iPadや外部ストレージを買ったり、Macの買い替えサイクルを少し早めたり、いろんなことができてしまいそうだ。

余談:Mac Proは「上位モデル」ではない? 方向性が違う

Mac Pro。フロントの吸気口が独特すぎる

Mac Proの現行モデルは2019年発売のインテルXeonプロセッサ搭載モデルで、まだAppleシリコンに移行していない。ちょっと古いモデルということもあり、多くのアプリはMac ProよりMac Studioの方が高いパフォーマンスを発揮する。

Mac Proの特徴の一つは、「拡張性」にある。現行のMac Proは高さ52.9cm、重さ18.0kgというタワー型パソコンの形状をしていて、メモリは12スロット、PCI Expressは8スロット(うち4つはダブルワイド仕様)と、大量の内部拡張スロットを搭載している。

Mac Proはやや迷走した過去のあるシリーズでもある。2012年モデルまではタワー型だったが、2013年モデルは円筒形のユニークなデザインに変更された(ゴミ箱っぽいとか話題になった)。あれはあれでコンパクトながら高い冷却効率で素晴らしいデザインだったと思うが、PCI Expressカードが使えないなど、拡張性がほぼ無くなってしまった。その反動なのか、現行のMac Pro(2019年モデル)は大量の拡張スロット数を持つモデルとなっている。

対するMac Studioの拡張性はというと、Thunderbolt 4ポートを多数搭載するが、PCI Expressカードスロットなどはなく、拡張性は低い。

Mac Proの中身。4本のPCI Expressスロットがダブルサイズという贅沢仕様。このケースとマザボ、WindowsのゲーミングPCで使いたいわ

アップルは近い将来、Appleシリコン搭載Mac Proが登場するとしている。そのMac Proがどういった製品になるかはまだ不明だが、筆者の個人的な予想としては、現行モデルを踏襲した拡張性の高いモデルとしてMac Studioと差別化するのでは、と考えている。Mac Proを待つべきかは、この拡張性が必要かどうかがポイントになるのではないだろうか。

といっても、アップルの未来の製品を予想することは、1カ月後の天気を予想するくらい不確かなことだ。実際どうなるかわからないので、迷っている人はAppleシリコン搭載のMac Proの発表を待つべきだろう。

同じM1 MaxでもMacBook Proよりパフォーマンスが期待できる?

MacBook Pro。これまでは高性能なAppleシリコンMacというと、MacBook Proしか選択肢がなかった

Mac Studioの下位モデルが搭載するM1 Max(10コアCPU/24コアGPU)は、14型および16型のMacBook Proの最上位モデルにオプション選択で搭載できるものと同じだ。

同じM1 Max搭載、メモリ32GB/ストレージ512GBで価格を比較すると、Mac Studioが249,800円、14型MacBook Proが343,800円、16型MacBook Proが365,800円。ディスプレイやバッテリなどがない分、Mac Studioの方が安い。

同じプロセッサを搭載していても、最大パフォーマンスはMac Studioの方が発揮しやすい、とも言える。MacBook Proは本体サイズの関係から冷却機構が小さいので、高負荷が続くと冷却が間に合わず、発熱が限界に達すると、プロセッサが最大パフォーマンスを下げたり、ファン音がうるさくなったりする可能性がある。

Mac Studioは背面に排気口があり、底面から吸気する。公式映像などを見る限り、内部容積の半分くらいが冷却機構のようだ。そりゃ低速ファンでも冷えるわけである

対するMac Studioは大きな冷却機構を搭載するので、パフォーマンス低下するまで過熱する可能性は低い。動作音も静かで、実際にMac Studioでベンチマークアプリやゲームで負荷をかけてみたが、背面の10cmくらいまで耳を近づけないとファン音が聞こえないくらいだ。

もちろん、Mac Studioに対しMacBook Proには「持ち運べる」という利点がある。しかし移動中など電源接続していない状態だと、電力消費の問題で最大パフォーマンスを長時間は発揮できない。そしてオフィスや自宅で最大パフォーマンスを発揮することを重視するなら、モバイル環境はMacBook AirやiPadにして、オフィスや自宅での作業はMac Studio、と使い分けしても良いかもしれない。

Mac Studioの同梱品は電源ケーブルのみ。やや高いが、純正のMagic KeyboardとMagic Trackpadはオススメというかマストアイテムだ

ちなみに同じM1 Max搭載だと、Mac Studioと16型MacBook Proの差額(116,000円)でMacBook Air(115,280円)かiPad Airの256GBセルラーモデル(110,800円)が買える。Mac Studioだとディスプレイやキーボードなども買う必要はあるが、MacBook Proに集約するのではなく、Mac Studio+MacBook Air/iPad Airという2台運用、コスパ的にも悪くない選択肢だ。

Macとの相性抜群のStudio Display

Studio DisplayとMac Studio。相性は良いが、別にこの組み合わせでなくてもOK

Mac Studioと同時に、アップル純正ディスプレイの「Studio Display」も発表された。こちらは27型で5Kのディスプレイで、価格は199,800円から。フロントガラスやスタンドのオプション仕様で価格が変わってくる。

Mac Studio専用というわけではなく、ほかのMacやWindowsパソコンでも利用できる。しかしやはり真価が発揮されるのはMacと接続したときだ。一部機能はMac限定となるし、Mac接続時のカラー再現性はかなり高い。このあたりは純正ディスプレイならではの利点だ。

Studio Displayの解像度は5,120×2,880ドット。アップルのデスクトップパソコンやディスプレイは、UIのピクセル密度が約109ppiに統一されているが、27型で109ppiになる解像度は2,560×1,440ドットなので、5,120×2,880ドットなら2倍の高解像度で描写すればちょうどというわけだ。

4Kディスプレイの解像度。Optionキーを押しながら「サイズ調整」をクリックすると数字ベースで設定できる。これ豆知識な

ちなみにMacでも2倍以外のサイズでの高解像度表示は可能だ。たとえば4Kディスプレイだと、3,008×1,692ドット相当(32型で約109ppi)、2,560×1,440ドット相当(27型で約109ppi)、2,304×1,296ドット相当(24型で約109ppi)などの設定が選べる。

27型5KディスプレイはLGやHPなども製品化しているが、製品数は少なく、価格帯としては各社15万円以上とちょっと高めだ。一方、より大きな32型4Kだと、10万円以下でもそこそこ高品質なIPSディスプレイも選択肢に入る。そう思うと、Studio Displayの27型で20万円はちょっと高いかな、と感じてしまう。

Mac Studioと同時に発表された黒いキーボード、マウス、トラックパッド。それぞれ通常の白いモデルより若干高い

表示以外の機能は豊富だ。空間オーディオ対応のスピーカー、指向性の高いアレイマイク、iPhoneなどでお馴染みの「Hey Siri」、自動フレーミング機能「センターフレーム」対応のカメラなどを搭載する。

スタンドは傾き調整のみの標準スタンドと高さ調整もできるスタンド(+44,000円)、VESAマウント仕様の3種類が選べる。VESA規格のディスプレイアームを使いたいなら、最初からVESAマウント仕様を選ぶ必要がある。この仕様、筆者のような「ディスプレイは絶対にアームに吊るす主義者」にすると、外したアームが部屋の隅で山積みにならないのでありがたい(売却や譲渡することを考えると捨てられないのだ)。

筆者の片付いている(当社比)デスク。32型4Kと24型4Kのデュアル構成だが、2枚合わせても20万円しない

パソコンとの接続は、Thunderbolt 3ポートとなる。この1本を繋ぐと、Studio Display側のスピーカーやマイク、カメラ、USB Type-Cポートも使えるようになる。最大96Wの給電機能もあるので、MacBookシリーズならば充電もできる。

ただしパソコンを繋ぐためのThunderbolt 3ポートは1つだけなので、一般的なディスプレイのようにパソコンやゲーム機など複数のデバイスを繋ぎ、入力を切り替えて使うということはできない。大きなディスプレイはいろいろ使えると便利なのだが、ここはちょっと残念なポイントだ。

とにかくプロセッサパワーが必要なプロのためのMac

Mac StudioはMac miniでは性能が足りないプロ向けのデスクトップMacだ。

これまでのデスクトップのMacのラインナップというと、「10万円前後からとお手軽なMac mini」と「性能を盛ると100万円超が当たり前なMac Pro」のあいだに大きな穴があったが、Mac Studioはそこの穴を埋めるモデルとなる。オフィスや自宅内での利用がメインなのに、プロセッサパワーが欲しくてあえてMacBook Proを選んでいた人にも、Mac Studioは最適な選択肢だ。

電力や本体サイズの制約の少ないデスクトップパソコンにおいて、コストを度外視するなら、確実に大は小を兼ねる。何をするにしても、プロセッサパワーがデカいに越したことはない。動画エンコードなど仕事で重たい処理をしまくる人には、Mac Studioは頼もしい存在だ。

しかし、Appleシリコンは2020年11月に登場してからまだ1年半程度だが、すでに多くのアプリが最適化されていて、たいていの用途だと無印のM1チップでも遅いと感じることは少ない。Appleシリコン未体験のインテルMacユーザーは、そもそも無印M1チップでもかなり高性能ということを心の隅に置きながらMacを選ぶようにしよう。

白根 雅彦