レビュー

新Fire HD 10はビジネスでも使えるか? Officeやキーボードを試す

Fire HD 10

Amazonのタブレット「Fire HD 10」の最新モデルが発売されました。Fire HDシリーズは新モデルが発売されても名称が変わらないためわかりにくいのですが、世代としては2019年10月発売の第10世代の後継となる、第11世代のFire HD 10です。

新Fire HD 10の特徴は、これまでエンタメ中心だったFire HDがビジネスシーンでの利用もターゲットにしたことでしょう。本体に装着してノートパソコンのように使えるカバー付きキーボードをオプションで用意したほか、カバー付きキーボードとMicrosoft 365 Personalの1年分が付属するセットモデル「エッセンシャルセット」がラインアップされました。

筆者は元々小型で持ち運びやすいPCが大好きで、これまでもSurface Goを仕事で活用したり、AndroidタブレットやiPadでも仕事に使っています。最近では、10インチクラスのChromebook「ASUS Chromebook Detachable CM3」を購入。外出先や家の中でのちょっとした作業用途として愛用しています。

愛用しているChromebook「ASUS Chromebook Detachable CM3」

ビジネス利用も視野に入れたFire HDでどれくらい仕事ができるのか? という興味も手伝い、Fire HD 10を発売日に購入しました。

第11世代のFire HD 10は性能によって複数のモデルがありますが、真価を試すためにも、メモリ4GBでワイヤレス充電に対応した最上位モデル「Fire HD 10 Plus」の64GBモデルを選びました。また、ワイヤレス充電を試すためにAmazon認定のワイヤレス充電スタンドも併せて購入しました。

本体前面
本体右側面に音量ボタン、電源ボタン、USB-Cポート、3.5mmオーディオジャック
本体上部の左右にステレオスピーカー
本体底面にmicroSDカードスロット

Fire HD 10 Plus 64GBモデルのエッセンシャルセットは31,980円で、ワイヤレス充電スタンドが5,980円の合計37,960円。現在利用中のASUS Chromebook Detachable CM3はキャンペーン価格を適用して35,800円で購入できましたが、現在は49,800円で販売されており、充電スタンドを含めてもFire HD 10 Plusのほうが安価になっています。

なお、本体のみFire HD 10は32GBモデルが15,980円、64GBが19,980円と更にリーズナブル。Fire HD 10 Plusは32GBが18,980円、64GBが22,980円です。

購入品一式。本体とキーボード、カバー、ワイヤレス充電スタンド

ビジネスシーンでの活用は“割り切り”が必要

さて、一番の目的のFire HD 10 Plusのビジネスシーンでの活用ですが、先に結論をいうと「過度な期待は禁物」ですが、用途を割り切って使えば活用できる場面もある、という感想です。

ビデオ会議サービス対応は充実も、Google Meetが非対応

大前提として、Fire HDはAndroidベースのタブレットではあるものの、利用できるアプリは「Amazonアプリストア」で配布されているアプリに限られます。そのため、Androidのアプリがすべて利用できるわけではないことに注意が必要です。

ビジネス用途で使うアプリに目を向けると、ビデオ会議サービスは充実しており、ZoomやSkype、Teams、Webexに加えて、FacebookとFacebook Messengerも対応しています。Fire HD 10はインカメラを搭載しており、Bluetoothのヘッドセットや3.5mmオーディオジャックを使ってイヤフォンやマイクも利用できるので、ビデオ会議端末として活用できます。

Zoomなどビデオ会議サービスの対応は充実

ただし、ビデオ会議サービスで利用者数が多いと思われるGoogle Meetのアプリは非対応。Fire HDの専用ブラウザ「Silk」でも、Google Meetを利用できませんでした。

Google Meetは非対応

Officeは文書“確認”には十分。新規作成には物足りない

WordやExcel、PowerPointといったビジネス用途で使われるアプリは、前述の通りMicrosoft Officeのライセンスが同梱されており、モバイル版のWordやExcel、PowerPointが利用できます。Microsoft純正のアプリということもあり、基本的な機能は揃っていますが、パソコン版と比べると制限は多いです。

Wordについては、文書のやり取りでよく使う校閲機能も一通りそろっており、十分利用できると感じました。Excelも基本的な表計算や関数は問題ありませんが、ピボットテーブルやおすすめグラフ、マクロなどの機能がないため物足りない人もいるでしょう。

PowerPointもデザインアイデアのような装飾機能がないため、表現できる内容が制限されます。

Wordの表示イメージ
Excelの表示イメージ
PowerPointの表示イメージ

基本的には一から文書を作成するというより、作成済みの文書の内容をチェックして修正する、という使い方がよさそうです。その点ではMicrosoft純正ということもあり、パソコンで作成したファイルを開いたら表示が崩れる、という心配がない点は安心です。

Slack非対応などチャットは物足りず。ブラウザも制限

リモートワークで重要なチャットサービスについては、Slack、TypeTalk、Chatworkが非対応。アプリではなくブラウザから利用する場合、Typetalkは利用可能でしたが、Slackはアプリに誘導されて利用できず、ChatWorkは6月21日でモバイルブラウザのサポートを終了するなど、利用できるサービスにかなり制限があります。

Slackはアプリに誘導されてブラウザで利用できず
ChatWorkは6月21日でサポート終了
Typetalkはモバイルブラウザでも利用できる

また、Slikブラウザでは、他のブラウザで利用できるサービスも対象外となる場合があります。FirefoxやChromeといったSilk以外のブラウザアプリも利用できません。

Chromebookは、パソコンとほぼ同等のブラウザが利用できるため、アプリが対応していなくてもかなりのサービスを利用できます。

この点、Fire HDは利用できるアプリが少なく、またブラウザの対応も弱いためビジネス用途ではある程度の割り切りが必要です。

見た目はよく似ているASUS Chromebook Detachable CM3(左)とFire HD 10 Plus(右)

キーボードはBluetooth接続。キーサイズなど癖の強いキーボード

文字入力はプリインストールされている「Fireキーボード」で、ATOKなど別のIMEを利用することはできません。FireキーボードはQWERTYキーと10キー両方に対応しており、10キーはフリックや左右表示が可能など、タッチ操作には十分な機能を備えています。

横表示のソフトキーボード
縦表示のソフトキーボード

セットで購入したキーボードは本体に装着する構造になっていますが、Fire HDとの接続はBluetoothで行なう仕組みで、USB Type-Cで別途充電が必要です。キーボードは10インチサイズということもあって文字入力にはやや狭め。特にEnterキーは、日本語配列のキーボードの割に面積が小さく、操作には少し慣れが必要かもしれません。

キーボードを装着したところ
キーボードの配列
Bluetooth接続のため本体に装着しなくても利用できる
他社製のBluetoothキーボードやマウスも利用できる

キーボードの使い勝手は人によって異なりますが、前述のEnterキーが小さいことに加え、左下のキーがCtrlキーではなくFnキーになっている、Escキーが無いといったあたりが個人的には使いにくく感じました。

また、標準IMEでは変換時ではなく文字入力中に変換候補がリアルタイムに表示されるため入力がもたつく、「ん」の入力が「nを2回」という方式も好みが分かれそうです。

対応アプリが限定されること、IMEも標準設定のみで切り替えできない、カバー付きキーボードは配列が使いにくい、というあたりで、個人的にはビジネス利用は難しいと考えています。キーボードは他社製のBluetoothキーボードも利用できるので、自分の好みのサイズや配列のキーボードを使った方がよさそうです。

充電するだけでスマートスピーカーになる「Showモード」

面白いと感じたのはワイヤレス充電台との組み合わせです。Fire HDはワイヤレス充電のQiに対応しており、スタンドに立てかけると充電できるだけでなく、Fire HDの「Showモード」を自動で起動することができます。

ワイヤレス充電スタンド

Showモードは、Fire HDをスマートスピーカーのように利用できる機能で、「Alexa」と呼びかけてさまざまな音声操作が可能です。利用イメージとしては10インチのディスプレイを搭載した「Echo Show 10」に近く、充電しているときはスマートスピーカー、持ち出す時にはタブレット、という2通りの使い方ができます。

充電すると自動でShowモードが起動、スマートスピーカー的に利用できる

これまでのFireタブレットでもShowモードは搭載されていますが、ケーブルを接続する必要なくただ充電台に置くだけでいいのはとても手軽。スマートスピーカーとタブレットをとても手軽に切り替えられることがあります。

なお、キーボードを装着した状態で充電しようとすると、本体が充電スタンドに接着させるため、キーボードがディスプレイを隠してしまい、前述のような使い方ができません。Showモードを活用するのであればキーボードは本体に装着せず、他社製のキーボードを利用した方がいいのかもしれません。

キーボードを装着したままだと充電時にディスプレイが見えない

Showモードで利用できる機能のうち、一部の機能は初期設定でロック解除が必要になっています。例えば「Alexa プライム・ビデオを見せて」と呼びかけてもすぐにはビデオを視聴できず、端末側でロックを解除する必要があります。

そもそもロックを設定しない、ということもできますが、接続するWi-Fiを「信頼済み」に設定すると音声だけで端末ロックを解除してそのままアプリを利用することができます。自宅や仕事場などのWi-Fiは「信頼済み」に設定しておくといいでしょう。

難点としては充電台が大きく、立てかける角度も固定されていること。もう少し幅を取らない充電台が発売されるといいなと思います。

エンタメコンテンツ対応はよし。ビジネスは必要最小限

Fire HD 10本来の用途といえるエンタメ用途は、Amazonのサービスでは非常に快適です。電子書籍のKindleもサクサクと動作してページ送りも軽く、動画サービスのPrime Videoも美しいディスプレイで映像が楽しめます。

ディスプレイがきれいで動画も楽しめる
Kindleもサクサク動作

他社サービスのアプリも充実しており、動画配信ではNetflixやHulu、dTV、DAZN、音楽配信ではSpotifyのアプリが利用できます。このあたりは、ビジネス用途とはかなり状況が違い、ほとんどのサービスが対応しています。

ただし、YouTubeはアプリではなくブラウザ経由になるほか、YouTube MusicなどGoogle系サービスのアプリも利用できません。筆者が愛用している電子書籍サービスの「BookLive!」もアプリは無く、ブラウザから利用する形となります。

Netflixなどの動画配信サービスも対応

Fire HDシリーズは、Amazonのサービスやコンテンツに最適化されているからこそ、安価での提供が可能になっています。そのため、エンターテインメントタブレットとしては、格安で性能的にも申し分ないのですが、ビジネス利用に期待しすぎるのは禁物です。

ただし、ビデオ会議やデータの確認、メールのやり取りなど、用途を割り切って使えば十分に活用できます。本体だけであれば1.5万円で、最新のパフォーマンスが高いタブレットが入手できるので、セカンドディスプレイ的に使ったり、Bluetoothキーボードを組み合わせた補助的な業務などには使えそうです。

Fire HD 10でのビジネスシーン対応強化をきっかけに、アプリやブラウザなどの改善を図ってほしいところです。

なお、6月22日まではAmazonプライムデーで、Fire HD 10 Plusの64GBエッセンシャルセットが39%OFFの24,980円。単体のFire HD 10(32GB)が38%OFFの9,980円、Fire HD 10 Plus(32GB)が32%OFFの12,980円とセールになっています。Amazonデバイスは、大規模セール時に値下げすることが多いのでこうした機会に購入するのもよさそうです。

甲斐祐樹

Impress Watch記者から現在はフリーライターに。Watch時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。個人ブログは「カイ士伝