レビュー

二つ折りスマホの争い難い魅力 モトローラ「Razr 5G」

モトローラ・モビリティの「Razr 5G」。テストに使ったのはソフトバンク版

3月26日からSIMフリー版が、3月末から同じくソフトバンク版が発売になる、モトローラ・モビリティの「Razr 5G」の実機レビューをお届けする。

端末を縦折りできるのが最大の特徴で、フィーチャーフォンのような“二つ折り”が可能なスマートフォンだ。

市場に二つ折りスマホが登場してしばらく経つが、数はそこまで増えていない。Razrはモトローラの二つ折り携帯電話の元祖的存在であり、海外では4Gの時にスマホとして復活している。日本では5Gモデルからの投入となる。

フィーチャーフォン時代が少々懐かしくなる、でも今の時代にしかありえないスマホを日常的に使い、色々試してみた。

懐かしくも新しい、スマホ時代の二つ折り

「Razrはハイエンドスマホ。フォールダブルであることの価値を長く検討しており、このデザインはフレッシュで価値があると思う。他のスマートフォンがみんな同じような形で物足りない人には受け入れてもらえるだろう」

モトローラ・モビリティでプレミアム・フラグシップ製品担当ジェネラルマネージャーを勤めるジェフ・スノー氏は、日本記者向けに行なわれたラウンドテーブル取材でそう説明した。

確かに、持ってみると「他との違い」が強く感じられる。このスタイル(画面を縦方向に折りたたむ)の二つ折りはサムスンも作っているが、デザインのディテールはけっこう違う。シンプルに四角いデザインを折り畳んだサムスンと、「Razrの再現」にこだわったモトローラ、というところだろうか。ちょっとしたアイデンティティである「アゴ」もある。この、ちょっとアクのあるシルエットがRazrだ。スマホになっても味がある。

懐かしい「二つ折り」の感覚

といっても、昨今のスマホの大型化傾向を反映し、Razr 5Gの横幅はフィーチャーフォン時代のそれとはかなり違う。横幅が72.6mm、オープン時の縦の長さが169.2mmだから、今市場にあるスマホの中では「Xperia 1 II」に近い。「握れるサイズで縦長」というところだろうか。それが半分に折れてコンパクトになる。ポケットなどへの収まりは非常に良い。というか、ポケットに入っている時の「縦が余る感覚」が懐かしい。

開いてみると今時のスマホ。画面は6.2インチだ。
比較対象として「Xperia 1II」。実はサイズ感が非常に近い。

指紋センサーが本体裏面の「M」マークのところにある。海外で発売された4Gモデルでは「アゴ」に指紋センサーがあったのだが、使いやすさや安定性の問題から、5G版では今の場所に変わったそうだ。確かにこれだったらいい。

本体裏側。モトローラの「M」ロゴは指紋センサーになっている。
表の手前側はRazr伝統の「アゴ」のようなデザインになっている。アンテナが入ってるそうだ。USB Type-C端子とSIMカードスロットはここにある

ヒンジは「閉じる」か「開く」かのどちらかのみに対応していて、L字形にホールドすることはできない。ここはサムスンのGalaxy Flipシリーズとの違いと言える。一方で、Razrには外側にもディスプレイがある。

二つ折り機構は中央のヒンジとフレキシブルな有機ELディスプレイの組み合わせでできている。ヒンジはかなりがっちりしたもので、緩んで来そうな気配は感じられない。それでいて、手首を返して本体の上半分に勢いをつけて開く、ちょっと格好をつけたような開き方をしてもスッと開く。モトローラによれば、そういう勢いをつけた開き方でも問題が起きることはない、という。

ヒンジ部。かなりがっしりした作りで、多少のことでは傷みそうにない

このデザインと開く「感触」はなんとも魅力的だ。携帯電話では久しぶりに感じる「ギミックが手の中で動く手触り」といってもいい。この形と感触こそが最大の差別化点であるのは疑いない。

ディスプレイは軟質で、普通のスマホほど硬くはない。折りたたむ時にはディスプレイがちょっと歪むように広がり、曲がる部分へかかる力を逃す構造になっている。そのせいか、ディスプレイは完全に平面、というわけではない。もちろん気になる人はいるだろう。波打つ様は、完全にディスプレイが暗い時か閉じる瞬間くらいにしかわからないので、大きな問題ではあるまい。

二つ折りにする時にはディスプレイが歪み、曲がるところに負担がかかないようになっている

むしろ個人的に気になったのは「輝度の低さ」だ。室内ではキレイに見えるが、屋外の直射日光下では、ディスプレイの明るさが足りず、表示がみづらい。スマホに採用が始まった頃の有機ELディスプレイのようだ。この点は覚悟した方がいい。ただ、室内や夜ならもちろん、発色も良く問題ない。

意外となんでも可能、外側のサブディスプレイ

二つ折りに関連するもう一つの特徴は、すでに述べたように、外部ディプレイを搭載していることである。こちらは2.7インチで小さめだが、タッチ機能もあり、小さい以外はメインディスプレイと変わりない。

外部のサブディスプレイ。時計などの表示だけでなく、アプリも動作する。

サブディスプレイには電話や電卓など「いかにも」という機能はもちろん、通知や曲送りなどにも使えるし、アプリを動かすことも可能だ。

サブディスプレイでは曲送りや通知表示の他、アプリを動かすこともできる。

アプリはサブディスプレイに特化して開発する必要はなく、どんなアプリでもある程度動作する。ただし、メインディスプレイとサブディスプレイの両方で使えるよう、許諾設定を行なう必要があるが。許諾設定と同時に、「閉じた場合にはそのままサブディスプレイで動かす」ようにすることもできる。

だから、メールを書いたり動画を見たりすることだって可能だ。それだけでなく、決済用のPayPayも動いた。バーコードを、本体を開かずに表示するのはちょっと便利だ。

アプリをサブディスプレイで動かすには許可を出す必要がある。
PayPayもちゃんと動作する

正直、狭すぎてアプリをしっかり使うのは難しいが、情報のチェックや動画視聴なら問題ない。YouTubeなどを軽く見る場合、あえて片手で持って見られる……というのはなかなか良い。

カメラは十分な性能、「Motoアクション」が便利

カメラは折り畳み時にはセルフィー用、開いた時はメインカメラとして使う。開いた時用に、内側にはセルフィー用カメラもある。

開いた時の上側にはセルフィー用のカメラがある

メインカメラは4,800万画素で単眼、光学式手振れ補正を備えている。iPhone 12 Pro MaxやXperia 1 IIに比べ、ちょっと色乗りが弱い気がするが、解像感などは悪くない。

【Razr 5G】
【iPhone 12 Pro Max】
【Xperia 1 II】

カメラについては、モトローラのスマホが搭載している「Motoアクション」が便利だ。カメラを使う時には2回ひねる、フラッシュをつける時には2回振る、というモーションが使えるのだが、これとの相性が良い。

個人的には、決済アプリなどにモーションを割り当てたいところだが、それはできないのが残念だ。

性能は最高ではないがデザインは独特。FeliCaが欲しい

Razr 5Gはとても満足度の高いスマホだ。持った瞬間にそれはわかるし、そのことが最大の価値だ。本体を収納するケースもなかなか手が込んでいて、一般的なスマホとは一線を画する。

Razr 5Gの箱。スタンドになるようになっていて、セットされたケーブルやヘッドホンも専用ケーブに収納されている

ハイエンドだけに価格も178,000円弱と高い。一方、性能だけでいえば、プロセッサーにしてもカメラにしても、最高級ではない。折り畳みの小型ボディに性能を詰め込む必要があり、さらに二つ折りディスプレイやヒンジなどの構造にお金がかかっていることもあってのことだろう。これで大きな不満が出ることはないと思うが、価格を性能だけで諮るなら、もっと別の選択肢がある。

個人的には、このデザインでFeliCaにも対応してほしかった。18万円を払うなら、やはりメインのスマホとして使いたくなるのが人情。メインのスマホとして使うなら、モバイルSuicaなどの交通系IC決済も使いたい。まあ、日本向けだけにカスタマイズしていないわけだからしょうがない。Razr 5Gが日本でたくさん売れて、「日本向けにFeliCa搭載モデルを作ろう」とモトローラが考えるようになるといいのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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