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ワールドカップがABEMAにもたらしたもの 「価値は大きく向上」

決算を発表するサイバーエージェント藤田社長

サイバーエージェントは25日、2023年9月期第1四半期決算を発表した。ABEMAのワールドカップ中継で話題となった同社だが、藤田晋社長は「ABEMAはワールドカップで大きな飛躍を遂げた。日本代表のおかげだが、ユーザーの高い評価のほか、コンテンツホルダや出演者からも強い興味を持っていただき、広告主の関心も非常に高くなった。ABEMAの潜在的な価値は大きく向上した」と振り返った。

第1四半期の売上高は1,675億円で「ほぼ想定通り」だが、営業利益は藤田社長が「何年ぶりかわからないぐらいの四半期赤字」と語る通り、12億円の赤字となった。要因は、ワールドカップ関連の大きなコストをこの期に計上したため。

W杯の視聴者が「残存」 スポーツの新たな可能性とは?

ABEMAなどのメディア事業は売上高が334億円(前年同期比34%増)で、営業利益はマイナス93億円。ワールドカップ関連費用が「赤字の理由そのもの」だが、「金額については守秘義務があって何度聞かれても答えられない」とした。

ABEMAのダウンロード数は、ワールドカップで大幅増の9,200万。さらに週間アクティブユーザー(WAU)も過去最高の3,409万となった。

同社が重視していたワールドカップ以降も見続ける「残存」比率も想定より高く、ワールドカップ終了後のWAUが1.4倍で推移している。また、初めてABEMAを使った人が多く生まれたこともあり、「(ワールドカップは)サイバーエージェントグループ全体にとって非常に大きな出来事だった」(藤田社長)とした。

視聴者は若い男性が多く、男女比は73:27。注目されるのが視聴方法で「リアルタイム」が56%、「オンデマンド」が44%となり、半分近くがオンデマンドの“見逃し”視聴体験をしたことになる。

深夜の試合が多く、時差の関係から朝起きて追いかけ再生やハイライト再生などのオンデマンド再生が非常に多い。藤田社長も、「44%は画期的ではないか? あとから広告主に『こちら側に広告出したかった』という声も頂いた。スポーツ中継の新しい可能性になった」とした。

藤田社長によれば、ワールドカップの放映権取得の目的は、「ABEMAの便利さやクオリティの高さを伝えたかった」という。その点で、ハイライト再生や追っかけ再生、倍速などの機能を気づいてもらえ、これらの「便利さ」と「地デジなみの画質」の両方を伝えられたことが良かった点と振り返る。

その上でABEMAに対して、多くのメジャーなコンテンツホルダーが話を持ってくるようになり、大物が「出演したい」、広告主も出稿したいと、多くの人が価値を認めてくれるようになったという。「そういう意味でABEMAの価値が大きく向上した大会」と振り返る。

PPVが完全に定着。マネタイズ強化

ワールドカップ以降特に伸びているのが、スポーツやバラエティ、格闘技など、若い男性を中心とした「M1層」のコンテンツ。その中でもボクシングは、「ABEMAのような放送形態と親和性が高い」として、チャンネルを新設して強化していく。

もうひとつ、藤田社長がABEMAのマネタイズ展開で自信を見せるのがペイ・パー・ビュー(PPV)だ。ABEMAは広告付きの無料放送が中心だが、PPVは都度対価を支払ってライブやスポーツを見る配信形態。そのPPVが「ABEMAでは定着した」という。

大晦日の総合格闘技「RIZIN」では、想定以上の購入者が視聴したほか、将棋の「王将戦」はYouTubeで配信しているにも関わらず、ABEMAでPPVで見る人が非常に多かったという。

第1四半期のメディア事業の売上高は217億円(前年比1.4倍)。ABEMAの広告事業や月額課金のほか、馬券購入の「WINTICKET」による周辺事業が前年同期比1.7倍と強く成長している。WINTICKETもABEMAの中継と相性がよく、こうした周辺事業におけるマネタイズも強化していく。

ゲームは第2四半期に回復 ABEMAは収益化フェーズに

広告事業はおおむね順調で売上高が956億円、営業利益は50億円(前年比13%増)。大企業と連携したデータを活用した広告事業に力を入れていく。

ゲーム事業は「端境期」としており減収減益となった。売上高は409億円、営業利益が52億円。ゲームのリリースが1-3月に集中するためで、次の四半期は「ウマ娘2周年をはじめ目白押し。1月もすでにだいぶ数字は戻っている」とした。今後の期待タイトルとして「東京リベンジャーズぱずりべ!全国制覇への道」が好調なほか「呪術廻戦ファントムパレード」「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」などが控えており、第二四半期以降は大きく回復する見込み。

2023年9月期通期の業績予測は、売上高が前年比1.3%増の7,200億円、営業利益400~500億円。

サイバーエージェントの中長期戦略は「ずっと同じ」(藤田社長)で、ABEMAはメディア規模を拡大しながら、マネタイズを強化していく。広告はデジタルの強みを活かしてシェアを拡大、ゲーム事業は主力タイトルの運用強化と新規ヒットの創出を目指す。

同社では「ゲームと広告が調子いい間に、大きな投資でメディア事業を中長期の柱に育てる」という戦略を取っており、ABEMAは立ち上げからこれまでは投資フェーズだった。今回、黒字化の時期こそ明言していないものの、藤田社長は「花を開く、上向きの矢印の時期に移ってきた」と収益化フェーズに移る考えを示した。