ニュース

東京メトロ、異常事態想定の総合訓練。乗客がドア操作で脱出

東京メトロは、「異常事態総合想定訓練」の様子を公開した。警察や消防の協力をうけ、列車内で発生した異常事態に対応する訓練。今回は6月に副都心線新宿駅で発生した車内トラブルを参考にしたシナリオで訓練が行なわれた。なお、実際に起きた事件とは内容が異なる。

訓練が行なわれたのは、新木場にある東京メトロ 総合研修訓練センター。センター内には実際の駅と同様の設備が整えられ、列車の運行も可能。本番さながらの訓練が行なえる。

東京メトロ 総合研修訓練センター
実物の券売機なども
実際の駅と変わらない設備を完備

訓練は、駅を出発した直後の車内で異常事態が発生したという想定。駅出発後に車内の複数箇所で非常通報機が鳴動したため、運転士が駅から10mほど進行した場所で列車を緊急停止させるところから始まった。

非常通報機が鳴動し、運転士が乗客に状況を問いかけるが、乗客からは応答がなく、同時に複数の通報機が鳴っていることから運転士は緊急事態と判断して列車を停止させている。車内では不審者が刃物を振り回しながら乗客を威嚇し、乗客は脱出路を求めて車内を逃げ回る状況となった。

列車がホームを出た直後に停止

このとき乗務員は、総合指令所へ異常事態の発生を連絡し、警察・消防へ通報。乗客へは、座席の下にある車両の非常用ドアコックや、ホームドア開閉ボタンを操作して車外へ脱出するよう促す放送をし、乗客は自らこれらを操作してドアから次々と脱出する。

乗客は案内放送を聞き、自らドアコックを操作して脱出
シートの下にある非常用ドアコック
ホームドアの非常用ボタン

駅員は乗客の避難誘導を行ない、開いていない車両ドアやホームドアがあればこれらを全開にして避難を促す。乗客の誘導と平行して現場では現地対策本部を設置。到着した警察・消防へ状況を説明する。

空いていない車両ドアやホームドアを解放する駅員

現場には「さすまた」を装備した駅員が現場へ急行して犯人を包囲。犯人はなお暴れるが、そこへ警棒、さすまた、盾をそれぞれ装備した3人の警察官が到着。盾を持った隊員が犯人を受け止め、その隙にさすまたで犯人を取り押さえて連行した。

駅員がさすまたをもって急行
不審者と対峙する駅員。なお、不審者役を熱演したのは、東京メトロの社員。昨年と2年連続で演じる「常習犯」として迫力の演技
警官が登場して一気に制圧
不審者を確保

犯人が確保されると、消防隊員が車両に残されていた負傷者を救護。歩行可能な負傷者は救護場所まで誘導し、重症者は担架によって運び出した。その後は車両の安全確認を行なって列車を回送として移動させるところで訓練は終了した。

犯人確保後は負傷者の救護を開始
消防隊員らが救助を開始
警察と連携しながら安全を確認
列車が回送して訓練が終了

東京メトロでは、昨今、列車で多発している殺傷事件を題材としてこれまで訓練や対応方法を検討してきた。今回の訓練は、昨年発生した小田急や京王線の事件などもふまえた集大成として行なったという。異常事態への対応は普段から教育は行なっているが、いつも同じパターンとは限らない。臨機に応じた客や社員の安全を保ちながら原則的なルールと、臨機応変な判断力も養うことを目的としている。

今回の訓練では、非常時に客が自分自身で車両のドアコックやホームドアを操作して避難するよう放送で呼びかけているが、今後も、非常事態には乗客自身が操作できるよう周知に努める方針。国交省では非常用ドアコックなどの場所や操作方法を明示化する表示方法のガイドラインを定めており、今後はこれに乗っ取った表示を行なっていく。各車両へのセキュリティカメラの整備もすすめていく。

東京メトロでは、乗客がトラブルにあった場合、まずしてほしいことは、ためらわずに非常通報装置を使って乗務員に状況を知らせてほしいという。その上で乗務員が状況に応じて車外への脱出方法を判断することになる。列車がホームにきちんと止まっていればすべてのドアを開けることができるが、今回の訓練のようにホームから列車がはみでている状況では、ホームのあるドアだけを開けて避難することになる。やむをえず、ホームがない線路上で停車した場合は、周辺の列車が停止したことを確認してからの避難になる。

東京メトロの安全・技術部次長 木暮敏昭氏は、「列車からむやみに降りるのは危険だが、車内には差し迫った危険がある、という状況で画一的な答えは難しいが、基本的なルールは定めた」とし、その上で状況を見極めながら判断をしていくしかないとした。