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動画自動編集や料理代行などパナソニックが目指す「未来のカデン」

パナソニックは22日、同社の新規事業創出活動である「ゲームチェンジャー・カタパルト」の取り組みについてオンラインにてセミナーを開催した。「ゲームチェンジャー・カタパルト」は2016年に、パナソニックの社内カンパニーであるアプライアンス社で新規事業の継続的な創出と、それをリードする人材の育成を目的に組織化された。これまでの5年間で、社会課題を解決するための沢山の事業アイディアが生まれ、発案した社員自らが主体となって「未来のカデン」(ハードウェア・コンテンツ・サービスを含めた価値提供)づくりに挑戦しているという。

「未来のカデン」で製造業の向こう側を目指す

パナソニック アプライアンス社 事業開発センター ゲームチェンジャー・カタパルト代表 深田昌則氏

パナソニック アプライアンス社 事業開発センター ゲームチェンジャー・カタパルト代表の深田昌則氏は「世の中がいま大きく変わろうとしている。パーソナライズ化、DX化、スマート化、産業アーキテクチャも変わろうとしており、共創も始まりビジネスの前提が変化している。そこに新型コロナウイルスが来て、生活、社会、経済そのほかに大きな変化が起きている」と語り、100年前のスペイン風邪パンデミックの時代を振り返った。当時の世界は第一世界大戦が起こり、日本でも米騒動など多くの問題が起きていた。そのときに政治・経済・社会・技術は大きく変わった。技術面では電力実用化や普及が始まった時期でもある。そして1918年はちょうど松下電器が創業された年でもある。

100年前のスペイン風邪当時の出来事
電力の本格活用が始まった時代でもあった

新型コロナウイルスによる社会変化は大きい。深田氏は、家庭内での自助の増加、共助、遠隔での共感・共有の解像度の向上、人よりもモノ、モノよりもデータの移動などを挙げ「様々な社会課題が表面化し、課題解決のニーズが急速に高まった」と述べ「つまり、これまでの考え方が成り立たない時代がやってきた」と続けた。

「ゲームチェンジャー・カタパルト」は、新しい価値を生み出し加速する「実行型イノベーションアクセラレーター」として5年前に設立された。目指しているのは「未来のカデン」を作ること。「カデン」とカタカナになっているのは、既存の電機メーカーから一歩進めてモノからことへのシフトを目指している気持ちが込められており、そのために社内外の多くの人々と共創する場作りを重視しているからだ。

目指す世界観は「Beyond Manufacturing」。データ解析によって様々な予測を行ない快適な生活を実現し、エンゲージメントを強化し、社会全体のウェルビーイングを向上させていく。

GCカタパルトの目指す世界観「Beyond Manufacturing」
新型コロナに対応できる技術アイデアも

5年間のあいだに、新型コロナウイルスに対しても適用できる技術はたくさん生まれていたという。やわらかな食材を調理する「Delisofter」や遠隔クリエイティブ教育の「DrawNet」、パーソナル空気清浄マスクの「AiryTail」などだ。様々なカデンと事業アイデアを生み出し、成長させるためのプロセスと仕組みに工夫があるという。

固定観念を捨てて共創する

パナソニック アプライアンス社 事業開発センター 総括担当 真鍋馨氏

「ゲームチェンジャー・カタパルト」の活動設計についてはパナソニック アプライアンス社 事業開発センター 総括担当の真鍋馨氏が解説した。活動は、事業アイディアの具体化、ビジネスモデルの磨き上げ、事業化の実現の3段階となっており、まず公募型のビジネスコンテストから始まる。募集テーマは、未来のゲームチェンジにつながる戦略的事業アイデアで、現状のアプライアンス社の事業にはとらわれていない。顧客と継続的につながるアイデアを重視しているという。また、「一人一人が『自分ごと』として解決したい課題を、強いパッションをもって提案すること」も重視している。

活動設計は3層
自分ごととして解決したい課題であることを重視しているという

第6期の2021年もビジネスコンテストは募集中フェーズにある。通過すると、社員は業務としてプロトタイプ開発などを行なうことができ、本当に社会から必要とされているのか直接フィードバックを受けることができる。これまでに累計220のテーマ応募があった。

アイデアのなかには既存の事業部で事業化を目指すものもあれば、新規事業開発部門で事業化を目指すものもある。また2018年3月に、パナソニックはINCJ、米国ベンチャーキャピタル「スクラムベンチャーズ」と合弁でイノベーションを加速するための事業開発支援会社BeeEdgeを設立している。BeeEdgheの支援を受けて社外で成長を目指すものもあり、これまでに3会社が立ち上げられている。ホットチョコレートドリンクマシン「INFINI MIX」を展開するミツバチプロダクツ、介護向けに食材を柔らかくする調理器「DeliSofter」のギフモ、アプライアンス社の技術を使った歩行トレーニング機器の事業化を目指す、ことほだ。

一部は事業開発支援会社BeeEdgeで支援して事業化
ホットチョコレートドリンクのミツバチプロダクツ
食材を柔らかくする調理器「DeliSofter」のギフモ
歩行トレーニング機器のことほ

行動指針は「Unlearn & Hack」。今までやってきたことや固定概念を捨てて生活者や社会ニーズに寄り添うこと、そして事業実現のために殻を破り、様々な人たちとの共創にこだわることを心がけているという。続けて、2つの事業化検討中のアイデアが紹介された。

ジュニアスポーツ映像の自動編集「Spodit」

ジュニアスポーツ映像の自動編集・共有プラットフォーム「Spodit」

Spodit(スポディット)」は、子供のスポーツプレイ映像を自動編集・共有するためのプラットフォームだ。パナソニックコンシューマーマーケティング VE社 第一営業部 第一営業課の杉岡将伍氏は、小学生のサッカー大会の様子を示し「撮影に保護者は夢中になってしまう。保護者は我が子の成長をサポートしたい、成長を残しておきたいと考えて毎試合撮影しているが、試合の流れがわからなくなる、応援に集中できない、編集は難しいといった課題を抱えている。本来楽しいはずの観戦が、できればしたくないものになってしまっている」と現状を紹介。

さらに新型コロナウイルス禍によってジュニアスポーツも中止または無観客になっている。そのためにジュニアスポーツの大会でも試合映像の配信が始まっているが人手・予算・知識などの不足課題が表面化している。「Spodit」はそれを解決するためのソリューションとして提案されたもので、映像の自動編集や共有ができる。現在、サッカースクールと調整中で、5月に実証実験を目指す。なおサブスクでの提供を考えており、自動編集はパナソニックが持つ技術を使って実行する予定だという。

スマホで頼めるつくりおき料理代行プラットフォーム「minacena」

つくりおき料理代行プラットフォーム「minacena」

minacena(ミナセナ)」は平日夕食のつくりおき料理代行プラットフォーム。子供を持つ共働き家庭(DEWKs)の家事と育児を楽にすることを目的としている。パナソニック アプライアンス社 キッチン空間事業部 調理機器BU 事業企画部 事業企画課 主務の豊岡英里子氏が、仕事も家庭も自分のことも全部を諦めたくない人がもっともペインを感じるタスクが「平日の夕食準備」だと考えて、ミールキット、休日の作り置き、家事代行の良いとこ取りをしたワンストップサービスとして発想した。

こちらもスキルシェアサービスを展開する企業と連携し、5月から実証実験を行なう予定。

「OniRobot」は軌道修正中

なお、ゲームチェンジャーカタパルト2017年度のビジネスコンテスト発のおにぎり店運営支援サービス「OniRobot(オニロボ)」プロジェクトについては、2020年2月に「ONIGIRI GO」浜松町店をオープン。しかしその後の新型コロナウイルス禍を経て、2020年の8月まで営業していたものの、現在は休業している。環境変化が大きく、当初のアイデアのままでは事業性の検証ができなくなったため、今後は家中を含めてしっかり伸びるような領域へとテーマの軌道修正を行なっているとのことだった。