西田宗千佳のイマトミライ

第33回

ドン・キホーテはなぜ「チューナーのないテレビ」を作ったのか

12月17日、ドン・キホーテは、同社のプライベートブランド「情熱価格」の新製品として、32型で1万9,800円と格安で、かつ「テレビチューナーの内蔵されていない」テレビを発売した。

ドン・キホーテ、32型で19,800円の“チューナー省いたテレビ”

チューナーがない、ってそれを「テレビ」と言っていいのか、というツッコミはもちろんあるだろう。だがそもそも、「テレビ」の定義とはなんだろうか? 今回はそんなところから解説してみたい。

「チューナーがないテレビ」を求める理由

最初にいっておくが、筆者はこの製品をあまりお勧めしない。確かに安い。32型とそこそこ大きい。だが、解像度は低いし端子類や機能のバランスも良くない。サイズは若干小さくなるが、画質的にも機能的にも、今時のPC用ディスプレイを選んだ方が満足度は高いのではないか、と思う。製品を見たわけではないので画質は云々できないが、今の製品として32型とはいえ、解像度がフルHDでないのはどうか、と思うし、その時点で画質を期待できる製品ではなかろう、と思う。

一方で、こうした製品を彼らが企画した理由もわかる。一般の人が思う「テレビ」の条件を、PC用ディスプレイは満たしていない場合が多いからだ。

ここでいう「一般の人が思うテレビの条件」とは、スピーカー内蔵で別につなぐ必要がないこと、リモコンを備えていること、というところだろう。そういう意味では、この製品が「チューナーのない安いテレビ」という、わかりやすさを重視した製品になっているのは間違いなく、狙いもそこにあるのだろう。

技術的にみれば、内部で扱う色がIT機器基準のRGBベースなのか、テレビ基準のYUVベースなのか、という話があったり、使っているパネルの素性がPC向けに作られたものかテレビ向けに作られたものかであったり、というのが「テレビかどうか」を分ける上ではポイントなのだが、今は機器の側も多様化しているし、ディスプレイ側での扱いも色々ある。それを外部から判別するのは難しいし、ちゃんとしたディスプレイなら、テレビ的な利用も想定するようになっている。逆に、テレビ側でもディスプレイ的な、チューナーを使わない使い方も想定している。そこよりも、前述のような「一般の人が思うテレビの条件」の方が重要なシーンはあるだろう。

またなにより、この製品が企画されているのは、「安く、大きなリビング向けとまではいえないサイズのディスプレイ」としてPC用ディスプレイを想定しない、そうした売り場に行かない人々を想定しているからだろう。ドン・キホーテやホームセンターには足を運んでも、家電量販店のPC売り場に行くことは考えたことがない、という人々がいる。そして、そうした人々に、「別にスピーカーが必要になる場合がある」「リモコンがない製品がほとんど」ということを理解した上で製品を組み合わせるよりも、こうした製品の方がわかりやすい。

といっても、たくさん売れるわけではないだろう。だが、製品は販路と扱い数量で決まるもの。ドン・キホーテのように集客力があり、一定の店舗数もある販路なら相応の数量になるため、ちょっとニッチに思えるこうした製品でも十分調達して販売する価値がある、というところではないだろうか。

じわりと広がる「PC用ディスプレイ」市場

一方で、こうした製品が出てくるのは、低価格かつ小型のテレビ市場が厳しく、大手メーカーからあまり出てこなくなっているから、という部分がある。

以前に本連載でも挙げた資料だが、2011年以降、個室向け小型テレビの販売数量は減っている。これは、収益性に問題を抱えているテレビメーカーが、低価格で販売数量が少ない小型のテレビを売りたがらず、結果的にJEITAの統計には出てきづらくなった、という部分がある。双方の相乗効果で販売数量が下がっていると考えるべきだろう。

JEITAの資料より筆者が作成。2011年から2017年までのテレビの国内出荷台数をグラフにしたもの。青が29型以下の小型テレビ、オレンジが37型以上のテレビ。大型テレビの需要は回復しているが、小型テレビについては今に至るまで需要が回復していない

とはいえ、小さくなってはいるものの、個室向けテレビのニーズがなくなっているわけではない。特に、ゲーム機向けのディスプレイとしての利用は無視できない。そうしたニーズを、PC用ディスプレイ市場が満たしている部分があるのは間違いない。

流通関係者の話によれば、アマゾンでのPC用ディスプレイの扱い量が、この数年増大しているという。ハイエンドのものからそうでないものまで、ラインナップは充実している。大手家電量店でも、PCディスプレイの扱い量は増えているという。

もちろん、低価格製品は、AV Watchで扱われるハイエンドテレビに比べると、どれも画質で劣る。使い勝手の面でも同様だ。だが、ハイエンドPCゲーミングを指向したディスププレイも増えている。こちらはゲームをする限り、テレビよりもハイスペックになっている。

PCディスプレイは、シンプルなものなら1万円台で十分なものが買える。43型・4K・HDR対応で4万円台のものもある。リモコン・スピーカー対応という「一般の人が考えるテレビの条件」を備えたものも多い。

ドン・キホーテの製品が、こうした動きを知らないはずがない。今回の製品も、そうしたニーズや、EMS企業からの製品供給の状況を知った上で企画されたものである。

ストリーミング・サービスの増加や家庭用ゲーム機の再評価が、「個室向けのディスプレイ」のニーズを掘り起こしている。一方でその時、「価格を抑えたいならチューナー機能はいらない」と言われているのだ。

本当にチューナーが不要になっているわけでなく、「レコーダーを買えばテレビにチューナーがなくてもなんとかなる」という事情を加味する必要はある。だが、個室でのエンターテインメントとして、「放送としてのテレビ」のプライオリティが下がっているからこそ、こういう市場が成立しうるのである。

そう考えると、なかなか味わい深いニュースに見えてこないだろうか?

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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