こどもとIT

AIデジタルドリル×家庭学習、学校外で基礎学⼒の定着は可能か︖

――東京学芸⼤・津⼭市教委・モノグサ「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」レポート

中学生が家庭学習でデジタルドリル教材「Monoxer」を活用。その効果は?

1人1台端末とあわせて、多くの自治体がデジタルドリル教材を導入し、その活用が進んでいる。スタディログを蓄積し、一人ひとりの習熟度や学習ペースに合わせて取り組むことができるこれらの教材は、GIGAスクール構想がめざす「個別最適化された学び」を実現するうえで、有効な手段のひとつだ。

本稿では、デジタルドリル教材のひとつ、「Monoxer(モノグサ)」を活用した事例を紹介しよう。同教材は、知識の定着に特化した学習アプリで、AIが出題する個人に最適な問題をくり返し解くことで、基礎的な知識を記憶として定着させる。今回、東京学芸大学と岡山県津山市教育委員会は連携して、Monoxerを活用した「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」の実証事業に取り組んだ。

AIが個別最適化した問題を解くことで学力は変わるのか、1人1台時代に基礎知識の定着はどのように取り組むべきか。2021年9月30日に開催された成果発表の様子をお届けしよう。

どれくらい憶えて、どれくらい忘れていくかを可視化する「Monoxer」

Monoxerのコンセプトは「解いて憶える記憶アプリ」。学習者がどれくらいの知識を憶えて、どれくらいで忘れていくか、習熟度や忘却度をAIで測定し、個別最適化された問題をくり返し解くことで、基礎的な知識を記憶として定着させる。これまで全国の学習塾や私立校で導入されており、2021年度から公教育向けに本格的な展開が始まっている。

AI技術を搭載した、解いて憶える記憶アプリ「Monoxer」

Monoxerは、生徒の記憶状態に合わせて、同じ問題でも出題される形式が変わる。たとえば、語彙を覚える問題であれば、最初は選択問題から始まり、記憶が定着するにつれて自由入力になる、という具合。ヒントの量を最適化することで、個人の難易度に合わせた問題が出題される仕組みだ。

また生徒に憶えさせたい内容について、教員が自由に問題を作成することもできる。問題のテンプレートは、単語を習得する問題、画像や数式が使える問題など、8種類用意されている。また生徒が取り組んだ問題は自動採点され、学習状況と記憶状況をグラフで可視化。生徒と共有することも可能だ。

Monoxerで利用できる問題のテンプレート

ほかにもMonoxerには、小テストが用意されているのも教員にとってありがたい機能の一つだろう。教員は小テストの印刷、採点にかかる時間を削減できるうえ、一人ひとりの学習状況に合わせた細やかな指導を行なうことができる。

Monoxerで実証を行なった大阪府羽曳野市では学力向上の結果も出ているという。モノグサ株式会社の水野浩之氏は、Monoxerによって効率的な定着方法を生徒全員が実行でき、「ICTの活用により、教員と児童生徒が、それぞれの得意に集中できる学習環境が実現します」と述べた。

羽曳野市の中学校で、10分の朝学習にMonoxerで英単語を学習した成果。対象は中1、中2で、2週間活用した。成績は事前テスト、事後テスト、抜き打ちテストの3回で測定。タブレット端末の持ち帰りも行なっておらず、朝学習の利用だけでも効果的な学習が可能だと水野氏

基礎学力の定着・向上は、個人の努力に帰するものなのか

東京学芸大学副学長 松田恵示氏

津山市と東京学芸大学は、Monoxerを活用して「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」という実証事業に取り組んだ。これは、公教育の改革を目指す「未来の学校 みんなで創ろう。プロジェクト」の一環で、今まで学校が担ってきた基礎学力の定着・向上という役割を、家庭や地域に広げる仕組みづくりを検証する。

同事業について東京学芸大学副学長 松田恵示氏は「ICTで学習履歴を共有すれば、子どもたちを指導する環境が大きく変わる。これまでの基礎学力は個人の努力に帰するものと考えられているが、地域社会や家庭の学習環境も影響している。学校以外の社会がその責任を担うことで、教育格差の是正にもつながるのではないか」と新たな視点を示した。

「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」が掲げる、学校と地域・塾、家庭が三位一体となって進める基礎学力の定着を実現するためのスキーム。学習者本人と家庭を中心に、学習ログを活用した社会の連携を目指す
津山市教育委員会の梶並公人氏

一方で、津山市も基礎学力については課題を抱えている。津山市教育委員会の梶並公人氏は「岡山県独自の学力調査から、小学校の中学年以降の基礎学力の定着と、家庭での学習時間が不十分であるという課題が明らかになった。なかでも、小学校高学年から中学校の数学で積み残しがある」と話す。

実証事業は2021年7月30日から8月20日まで、津山西中学校の3年生の希望者10名に対して、数学「平方根」の単元で行なわれた。検証された学習モデルは、Monoxerの小テスト機能を利用して各生徒の苦手分野を分析した後、生徒はMonoxerで自分の苦手分野に絞られた問題に取り組む。その後、学習サポーターとして参加した東京学芸大学の学生とオンライン授業でつながり、学習のフィードバックを受け、家庭でもMonoxerを活用して自宅学習に取り組む、という流れ。

オンライン授業は全5回に渡って実施され、授業の最終回には初回と同様に「平方根の計算」全体に関する小テストを受け、どれだけ知識が定着したのかを効果測定する。

津山西中学校で行われた「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」実施の流れ。中学生2名と大学生1名がチームを組み、数学の「平方根」の問題を解いて苦手部分にアプローチした

今回の実証では、知識の定着に関してはMonoxerに任せ、生徒たちはタブレット端末を持ち帰って家庭学習で取り組んだ。小テストの採点や学習の分析もMonoxerで行ない、その結果を生徒と学習サポーターが共有。フィードバックの際はモチベーションを維持するための声かけに重視し、苦手分野についてもディスカッションを行なったという。

「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」で活用されたMonoxerの実際の利用画面。小テストの採点や学習の分析はMonoxerで行ない、その結果を生徒と学習サポーターが画面共有

10人中、ほぼ全員が小テストの正答率を伸ばす

津山市教育委員会の歴舎 潤氏

今回の実証について、津山市教育委員会の歴舎 潤氏は「大学生が中学生を指導するという特色を生かし、声かけによるモチベーション維持や、一緒に学習を続ける“伴走者”としての役割を重視した」と話す。たとえば、初回に参加者が打ち解けるられるよう、アイスブレイクの時間を重要視するなど関係づくりを重んじた。

歴舎氏は「アプリがどんなに有能でも、生徒が前向きに取り組まなければ学力は上がらない。自宅で黙々とアプリに向き合って取り組むことを完結とせず、大学生とコミュニケーションを取りながら、自分の苦手分野に気づくことを重視した」と語る。

その意図は、実証後に生徒に行なったアンケートでも表れている。生徒からは「学習サポーターとのコミュニケーションを通して、自分の苦手部分がハッキリした」「モチベーションの維持につながった」という声が挙がった。数値的にも、最終のテストを実施したところ10人中ほぼ全員がテストの正答数を伸ばすことができたという。

「基礎学力育成社会システム開発プロジェクト」における津山西中学校の実証結果。初回テストと最終テストの正答数を比較すると、参加生徒の9名が正当数を伸ばしたことがわかる

生徒の前向きな変化については、学習サポーターとして参加した大学生の存在が大きかったようだ。梶並氏は「短時間の実証で、学生たちに高度なコーチングスキルを求めるのはむずかしい。しかし、“理解したい”という生徒と“分かるようにしてあげたい”という学生の相乗効果が回を重ねるごとに高まり、Zoonを介したコミュニケーションや教え方がどんどんブラッシュアップされていった」とコメント。大学生側にも、学習サポーターとしての望ましい在り方を主体的に模索する姿が見られたと振り返った。

また歴舎氏は今回の実証を経て、「PCの操作や回線など物理的な課題もあったが、地域の人材を活用するなど、実施しやすい形にカスタマイズしながら今後も横展開していきたい」と、小学校での展開も視野にいれていることを語った。

今回の実証事業のように、学校外における基礎学力の向上は理想的で、10年先の学びを考えていくうえで有益な取り組みだといえるだろう。しかし、学校外の学びが増えることは、家庭では親の負担が、地域では学習サポーターを担う人材の確保や費用が課題となり、こうした負担や責任については新たな議論が生まれる。学校はどのように変わろうとしているのか、この問いに向き合うことも大切だ。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは2人の男子を育てるママ。幼稚園児&小学校低学年の子どもを持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。