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中学入試にマインクラフトを採用!聖徳学園中学・高等学校が考えるプログラミング入試の意義とは

“中学のプログラミング入試にマインクラフトを採用”、と聞いて驚く方は多いだろう。なぜ、マインクラフトなのか。試験問題はどのようなものか。そもそも、なぜプログラミング入試なのか。

そんな入試を実施しているのが、聖徳学園中学・高等学校(以下、聖徳学園)だ。同校では、2019年度より中学入試でプログラミングによる試験を開始。試験は、プログラミングロボットのSphero SPRK+を活用した「Sphero入試」と、教育版マインクラフトを活用した「Minecraft入試」の2種類で、受験生はどちらかを選択して受験する。今年度のプログラミング入試は2021年2月2日に実施され、試験当日に取材することができた。プログラミング入試とは、どのようなものか、レポートしよう。

マインクラフトが中学のプログラミング入試に

なぜ、プログラミング入試なのか

学校法人聖徳学園 最高情報セキュリティ責任者の横濱友一氏

聖徳学園(東京都武蔵野市)は、正解のない問いに挑戦できる発想力や思考力、創造力の育成を重視している学校だ。STEAM教育やグローバル教育に力を入れており、テクノロジーを活用しながら自らの強みを伸ばし、世界とつながり、新しい価値を生み出す人材育成をめざしている。

「プログラミング入試では、学力試験では測れない、ものづくりのプロセスで見られる多様な能力を評価したい」。そう話すのは、プログラミング入試の責任者であり、同校の最高情報セキュリティ責任者の横濱友一教諭だ。

コーディングやアルゴリズムなど、プログラミングの知識やスキルを評価するのではなく、与えられた課題に対して、自分でゴールを設定し、それに対してどのように取り組むのか。試行錯誤のプロセスや、問題にぶつかったときの課題解決、粘り強さ、デザインや工夫など、より良いものに仕上げていくマインドや能力を評価していきたいという。

さらにSphero入試も、Minecraft入試もプログラミングだけでなく、インタビューと作文が試験に含まれる。上手くできた点や工夫した点をアピールしたり、できなかった場合は、なぜ上手くできなかったのかを考えて原因を見つけたり、自分が取り組んだ内容について振り返りながら、自分の言葉で相手に伝わるよう記述する。学力試験のように100点というゴールがあるわけでもなく、大人でも客観的に自分の取り組みを振り返るのはむずかしい。そのため、たとえプログラミングが上手くできなかったとしても、自分の言葉で原因や課題を説明できていれば評価される。

「Minecraft入試」の当日のタイムテーブル。プログラミングの試験後にインタビューと作文の時間が設けられている

横濱氏はプログラミング入試について、「社会ではテクノロジーを活用して新たな価値を創造できる人材が求められており、こうした変化を受けて、小学校でもプログラミング教育が始まりました。しかし、小学生でプログラミングという新たな学びに挑戦しても、中学入試をきっかけに閉ざされてしまう子がいます。本校では、そんな子どもたちに機会を提供し、新しい価値を創造できる潜在能力を持つ生徒を広く募集したいと考えています」と想いを語る。

入試前には全3回のプログラミング教室を実施

プログラミング入試といっても、試験当日に行って、いきなり問題に向かうわけではない。聖徳学園では、プログラミング入試を考えている子どもや保護者に対して、通年で「プログラミング教室」を開催しており、まずはこの教室に参加することが最初の入り口となる。

2020年9月に開催された、マインクラフトのプログラミング教室の様子

プログラミング教室では、実際の試験で使用するスフィロやマインクラフトの基本操作を学ぶほか、入試で出題されるテーマに関するプログラムも学ぶ。たとえばマインクラフトの場合、「打ち上げ花火のショーをデザインしよう」がテーマであると告げられ、花火の打ち上げに必要なループや変数のプログラム、座標の概念、レ ッドストーンを用いたクロック回路の仕組みなどについて、入試までに3回の教室で学ぶという。

入試で使う操作やプログラム、テーマなどをプログラミング教室で先に学んでしまうことを意外に感じるかもしれないが、横濱氏は「そもそもプログラムを理解していないと、時間内には終わらない内容なのです。試験では取り組みに対する振り返りの作文もあり、たとえ、もし事前に入試問題がすべてわかっていても対策はむずかしいと考えています」と話す。

プログラミング教室に来ていた子どもたちは全員がマインクラフトの経験者。普段はSwitchでマインクラフトをやっている子も多く、プログラミング教室ではPCの操作も教えてもらえる
学校法人聖徳学園 情報システムセンター長の鶴岡裕一郎氏

プログラミング教室の講師を担当する聖徳学園 情報システムセンター長の鶴岡裕一郎氏は、「プログラミング入試は、自分の好きなことをやりたい子が多く集まる試験で、保護者もプログラミングに興味を持っている方が多い」と話す。3回の教室を通して、プログラミングに取り組む子どもの様子を保護者が見ることで新たな発見もあるようで、同入試に対する理解を深めてもらう場にもなっているようだ。

マインクラフトで打ち上げ花火のショーをデザインし、個性を発揮する受験生たち

2021年2月2日、いよいよプログラミング入試本番の日を迎えた。小学6年生の受験生たちが緊張した表情で校門をくぐり抜け、会場に向かっていく。

Minecraft入試は2回、Sphero入試は3回にわけて実施された

Minecraft入試は、事前のプログラミング教室で学んだ内容をもとに、「打ち上げ花火のデザイナーとして、夏祭りの花火ショーをつくろう」という課題に挑む。指定されたワールドで、プログラムを活用して30秒間の打ち上げ花火ショーをデザインし、終了後にインタビューと作文に取り組む、というものだ。

Minecraft入試本番の様子

どのような花火ショーを作るのか。単に花火を打ち上げるだけでなく、色や形、エフェクトや時間差を変えたり、いろんな場所からランダムに打ち上げたり。さらには、発射台を観客から見えない場所に配置するなど、工夫する点は盛り沢山だ。ただ、制作時間は50分しかないので、ゆっくり考えている時間はない。あらかじめ自分がイメージしていた世界をいかに表現できるか。時間配分に気をつけながら、進めなければならない。

ある受験生の作品。鳥居の両サイドに夏祭りの屋台を並べ、後ろに花火が打ちあがる

マインクラフトは教育版の「Minecraft:Education Edition」を使用し、「Microsoft MakeCode for Minecraft」を用いてプログラミングを行なう。受験生には、プログラミング教室のときに使用したテキストを用意することが許されており、花火を打ち上げる基本的なプログラムも確認できるようになっている。しかし、これらを見ながら作っていたのでは間に合わない。

試験はマインクラフトのワールドに入り、MakeCodeと連結するところからスタート。プログラミングの前段階も自分でセットアップする

まずは、打ち上げ花火の発射台を作るところから着手。レッドストーンコンパレーターを使って、クロック回路を仕掛けた発射台をプログラミングでいくつも自動生成し、その後に花火の打ち上げプログラムを組み立てる。花火の打ち上げには、ループや変数、3次元座標、減衰率などに関する理解が必要で、小学生にとって決して簡単なプログラムではないが、早い子は試験開始15分ほどで花火の打ち上げに成功していた。

発射台と花火を打ち上げるプログラムを組み立てる

開始20分を経過すると、ほとんどの子は花火の打ち上げに成功し、今度はワールドのデザインに取り組む。観客が花火を近くで見られるようにベンチを作ったり、キャンプ場を表現したり、さらにはピラミッドやダイヤモンドのブロックを積み上げて幻想的な世界を作り出したりと、それぞれの個性を発揮する。なかには、50分という短い制作時間にもかかわらず、コマンドブロックでテレポートのプログラムまで仕込み、地上と上空から花火を鑑賞できるようにした子もいた。

コマンドブロックでテレポートのプログラムを仕込み、上空から花火を鑑賞

子どもたちは建築が得意なので、作業はどんどん進んでいく。残り5分になると、松明でワールド全体の光を調整したり、花火が打ち上がるかどうかをもう一度確認したりと、入念に仕上げる様子が見られた。

最後に花火が上がるかどうかを、もう一度確認。制作中にトラブルがあっても、データはすべて保存されている

制作時間が終了すると、その場で試験監督と1対1のインタビューに移る。がんばったところ、工夫したところ、上手くできなかったところなど、自分の言葉で説明し、その後、別室に移動して、振り返りの作文に取り組んだ。

試験監督と1対1でインタビュー

数あるプログラミングツールの中で、聖徳学園はなぜマインクラフトを選んだのか。横濱氏はこれについて、「マインクラフトは現実の世界とつながっている部分があり、花火のように実在する具体物を作りながら、子どもたちが創造力を発揮できる点が魅力だ」と話す。

正解がひとつではない問題に向き合ったとき、子どもたちはどのような創造力を発揮するのか。マインクラフトであれば、プレイヤーの自由度が高いため、自分のアイデアをカタチにしやすく、これほど創造力を発揮できるプログラミングツールは、他にはないという。

課題のコースをクリアしよう!「Sphero SPRK+」を活用したプログラミング入試

「Sphero SPRK+」を活用した試験は、制限時間内に決められたコースをスタート地点からゴールまで動かすプログラムを組み立てるものだ。

球体ロボット「Sphero SPRK+」を課題のコース通りに動かす

最初は、制限時間10分で設計図を書くところからスタート。課題のコース通りにスフィロを動かすためには、どのようなプログラムを組み立てればいいか、自分のイメージを設計図に書き込んでいく。

スフィロを動かす設計図を書く

その後、場所を変えて、実際にスフィロを動かすテストに取り組む。iPadとスフィロをつなぎ、自分が考えた設計図を見ながら、スフィロのアプリでプログラムを組み立てる。プログラミングの時間は15分しかなく、実際にスフィロを動かして試行錯誤する時間をどれだけ多く取れるか、時間配分も重要だ。

スフィロのアプリでプログラムを組み立てる

プログラムを組み立てた後は、実際にコースで動かしてみる。設計図ではプログラムができたと思っても、動かしてみるとコースアウトしたり、スフィロのスピードが予想以上に早かったりと、ゴールにたどり着くまでには修正が必要だ。また、コースのターンがむずかしいのか、3回目のターンまでは上手く曲がれても、4回目でコースアウトしてしまい苦戦する様子も見られた。

3回目のターンまでは上手くいくが、4回目を曲がるのがむずかしいようだ

残り時間4分を切ってもまだゴールに辿り着かず、何度も微調整を繰り返す受験生たち。しかし、そうこうしているうちに、ゴールまでは届くようになったが、今度はゴールの端に辿り着いてしまう事態に。きちんと「ゴール」と書かれたテープの上でスフィロがピタッと止まるためにはどうすればいいか。スタートから何度もやり直して原因を探っていく。そして、試験時間の最後までトライし、見事、ゴールの真ん中で止まるプログラムを完成させた。

ゴールの端ではなく、「ゴール」と書かれたテープの上でスフィロが止まるよう、粘り強く試行錯誤

ちなみに、スフィロのようなハードを扱うプログラミングは、機材トラブルなど不具合が心配だ。しかし、この試験には受験生1人に対して、試験監督が1人つき、プログラミングの内容は質問できないが、機材のトラブルや上手く操作できない部分などについて試験監督に質問できるという。実際、取材中もスフィロの接続が上手くいかず、試験監督に質問している受験生がいた。この時間は試験時間にカウントされず、その分を延長してもらえる。

試験監督にスフィロの動きについて質問する受験生。その分の時間は延長される。

この後は、Minecraft入試と同様に、試験監督と5分間のインタビューが行なわれ、がんばったところや工夫したところなどを自分の言葉で説明する。そして、場所を移動して作文に取り組み、内容を振り返る。

プログラミングの後は、その場で5分間のインタビュー

プログラミング入試にチャレンジしたマインドを評価したい

このように、Minecraft入試とSphero入試をという、2種類のプログラミング入試を実施している聖徳学園であるが、受験生をどのように評価しているのか。

これについて横濱氏は、独自のルーブリックを作成していると話す。Minecraft入試では、主に「どのようなデザインを行なうのか、集中創造力とコミュニケーション能力」に重きを置いて評価し、Sphero入試では「思考力・判断力・コミュニケーション力、プログラミングを楽しむ力」などを評価していると話す。いずれの試験も減点方式ではなく加点方式であり、子どもたちの良いところを見つめて評価することを大事にしている。

また試験であるがゆえ、こうした評価基準を設けているものの、評価に対する根本的な考えとしては、「プログラミング入試を選んでくれたこと自体、高く評価したい」と横濱氏は述べた。STEAM教育やグローバル教育など、新しい学びに挑戦し続ける聖徳学園では、プログラミング入試にチャレンジした子どもたちのマインドに可能性を感じており、新たな価値を創造するための潜在能力があると考えているようだ。

プログラミング入試を選んだこと自体、高く評価したい

学力試験が当たり前の中学入試において、プログラミング入試を実施している学校は現時点ではかなり少なく、またそれを選ぶ子も少数派だ。いくらプログラミングが好きだとしても、人生の岐路となる入試で、人と違う選択肢を選ぶのは、子どもも保護者も勇気がいるに違いない。聖徳学園のプログラミング入試に挑戦した受験生や保護者も、この決断に辿り着くまで、このような入試とどう向き合うか、さまざまな考えを巡らし、葛藤もあっただろう。

しかし、社会や教育は確実に変化しており、多様な能力を持つ子どもたちを学力評価ひとつで見るのは、そろそろ限界に来ている。聖徳学園のプログラミング入試で、人生の選択肢が広がった子どもたちがいるように、多くの学校で多様な入り口ができることを願っている。

神谷加代

こどもとIT副編集長。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。