こどもとIT

茨城県鹿嶋市、公立小学校で「マインクラフト」を活用したプログラミングの授業を実施

2020年4月から本格実施となった小学校のプログラミング教育。現場では、各自治体や学校が選んだプログラミング教材やツールを使って取り組みが進められている。

そうしたなか、人気ゲーム「Minecraft(マインクラフト)」をプログラミング教材に採用したのが茨城県鹿嶋市だ。同市は、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー(以下、鹿島アントラーズFC)と、全国の小中高生が通う塾や学校を対象にしたプログラミング事業を展開するキラメックス株式会社(以下、キラメックス)の協力を受け、市内のモデル校5校に対して、マインクラフトを活用したプログラミング授業を開始した。

公立小学校の授業の枠で、マインクラフトが活用されることは非常に珍しく、その公開授業が2020年10月26日に鹿嶋市立三笠小学校で実施されたので紹介しょう。

茨城県鹿島市では、iPadを使ってマインクラフトを活用したプログラミングの授業が実施された

マインクラフトのコマンド入力でプログラミングの初歩を経験

今回、鹿嶋市が実施したプログラミング授業は、同市と鹿島アントラーズFCの地方創生に関する包括連携協定の枠組みで実現したものだ。鹿島アントラーズFCは街づくりの一環として地元のIT人材育成に取り組んでおり、同社と協力関係にあるキラメックスがマインクラフトの学習環境を提供し、エンジニアの講師派遣など授業のサポートを担う。鹿嶋市では市内12校あるうち、初年度はモデル校の5校で取り組みを進める予定だ。

オンライン講師やマインクラフトの授業サポートを担当したのは、小中高生向けプログラミング教育サービス「TechAcademyジュニア」を運営するキラメックス株式会社

小学校のプログラミング教材として、同市がマインクラフトを選んだ理由は、子どもたちがプログラミングに対してむずかしいイメージを持たず、楽しく学べることだという。

鹿嶋市教育委員会 教育指導課 指導主事 神宮司 剛 氏

さらに同市教育委員会の神宮司 剛氏は「マインクラフトのコマンド入力はプログラミングの初歩として良い」と話す。鹿嶋市では、小学校低学年・中学年でScratchなどのビジュアルプログラミング言語を学習しており、高学年の子どもたちには、中学・高校のプログラミング学習を見据えて、テキストによるプログラミングの経験を与えたいようだ。神宮司氏は「一文字の入力ミスがあるとプログラムが実行しないなどの経験も含めて、コンピューターの操作に慣れながら楽しく学んでほしい」と述べた。

マインクラフトではブロックを積み上げたり、ワールド内を移動したり、さまざまな動作や作業を手動で行なうが、チャット画面にコマンドを入力すれば、それらを瞬時に制御できる

タイピングも、英語も、マインクラフトだから楽しく、根気強く取り組める

マインクラフトを活用したプログラミング学習は、鹿嶋市立三笠小学校の5年生4クラス、総合的な学習の時間に実施された。このプログラムは全20回の授業で構成され、子どもたちは、キーボードの基本的な操作やコマンド入力を駆使しながら、マインクラフトでプログラミングの基本を学び、最終的に鹿嶋市や鹿島アントラーズにちなんだ平面作品や立体作品づくりに挑戦する。

授業では最初、プログラミングを始める前に、マインクラフトの中に自分のワールドを作るところからスタートした。これは、学校共用のiPadにインストールされた「マインクラフト」を他のクラスの子どもと併用しているからで、ワールド名で各自のデータを判別する。子どもたちは、自分の好きな名前をワールド名に設定し、さらに講師の説明を聞きながら、マインクラフトのセッティングを進めていった。

鹿嶋市で導入されている学校共用のiPad。同市では、GIGAスクール構想の前は各学校にiPadを40台ずつ配備する計画を進めていた

クラスには当然、マインクラフトをやったことがない子どももいるが、セッティング部分では目立ったトラブルもなく、全員がスムーズにやり終えた。皆の集中力が高いのか、子どもたちが講師の説明を熱心に聞く姿に、この授業を楽しみにしていた様子が伺える。

ゲームは「クリエイティブモード」、難易度は「ピース」、チートの実行を「オン」にして、「常に昼間」に設定

続いては、マインクラフトの基本操作を学ぶ時間へ。ワールド内の移動の仕方、ジャンプや空を飛ぶ操作など、マインクラフトは広いワールド内に平面や立体の作品を作るため、こうした基本操作の習得は必須である。子どもたちの多くは普段、Nintendo Switchのマインクラフトに親しんでいるようで、iPadの操作には戸惑っている場面もあったが、すぐに慣れ、空を飛ぶときは、子どもたちから歓声もあがった。

その後は、すぐにコマンド入力に挑戦。まずはワールド内の天気を変えるお題からスタート。雨を降らせたい場合は、チャット画面に「/(スラッシュ)weather rain」とコマンドを入力すれば、ワールド内の天気が瞬時に雨に変わる。同様に「clear(晴れ)」「thunder(雷雨)」と入力すれば、指示した通りの天気になる。

チャット画面を出し、「/weather thunder」とコマンド入力すれば、ワールド内が雷雨になる

子どもたちは配付されたテキストを見ながら、一文字ずつコマンドを入力していくが、「/(スラッシュ)」の入力方法や、スペルの入力ミスで苦労する場面もあった。また、何か間違っている時はエラーが表示されるが、何が違うのか、子どもたちが根気よく原因を探していたのが印象的だ。

コマンドが間違っている場合は、赤字でエラーが表示される

次はブロックの置き方を練習した後、「summon(召喚)」のコマンドを使って、好きな動物を呼び出すお題に挑戦した。マインクラフトには、「cow(牛)」や「pig(豚)」、「fox(キツネ)」「bee(ハチ)」など、さまざまな動物が生息しており、子どもたちは動物の英語名を調べたり、聞いたりしながら、「/summon」のコマンドでワールドに好きな動物を呼び出した。その後、ブロックで動物の小屋を作り、その中にも動物を呼び出して増やしていく。

「/summon fox」のコマンドでキツネを呼び出した
動物の小屋を作成中

続いては、中級レベルに移行し、先ほど作った小屋の中にいる動物たちをジャンプさせるコマンドに挑戦した。実際に入力するコマンドは「/effect @e jump_boost 10 100」と、さっきよりも少し長め。「@(アットマーク)」や「_(アンダーバー)」の入力方法にも苦労していたが、子どもたち同士で教え合ってクリアする場面が、あちこちで見られた。

分からない部分は、子どもたち同士で教え合う場面も

最後は、自由制作の時間へ。子どもたちはさまざまなブロックを使って、各自で家や好きな建造物を作成し、どんなものを作ったのか、皆の前で簡単に発表し合った。自由制作は短時間であったが、子どもたちの「こだわり」が感じられる作品が多く、改めて、マインクラフトの面白さを感じた場面であった。

自由制作の時間に作った作品を発表

子どもたちのアイデアを具体的に表現できるマインクラフト

授業終了後、数名の子どもたちに話を聞くことができた。

普段はNintendo Switchのマインクラフトで遊んでいるという大原 綾真さんは、「動物を出すのが楽しかった。キーボードは使ったことがあったけど、操作がむずかしかった」と率直な感想を話してくれた。慣れないキーボード操作には苦労したようだが、授業の内容は簡単に感じたという。

また普段はiPadのマインクラフトで遊んでいると話す大川 璃子さんと田中 雄万さんは、「学校でマインクラフトをやると聞いてびっくりした」と語った。大川さんはマインクラフトのプログラミングについて「コマンド入力は、文字の打ち間違いが多くて諦めそうになったけど頑張れた。プログラミングはむずかしいと思っていたけど、やってみたら楽しかった」とポジティブな感想を聞かせてくれた。田中さんも「プロの人は、(コードを)長く書けるのですごいと思う」と変わった視点の意見も。2人とも「マインクラフトは自由に作れるのが楽しい」と語っており、わくわくして授業に取り組んだ様子が伝わってきた。

マインクラフトは「サバイバルモードで、お城を作るのが楽しい」と大原 綾真さん
写真左より)大川 璃子さんと田中 雄万さん。2人ともiPadのマインクラフトは経験者

5年生を受け持つ上田裕介 教諭は、マインクラフトを活用したプログラミングの授業について、「子どもたちの反応が良く、楽しく取り組めた」と語った。本日は初めての授業であったため、様子見のところもあったようだが、今後は1学期に学んだ環境問題に絡めながら、理科や社会とも横断して、環境にやさしいスタジアムをマインクラフトで作る学習を検討しているようだ。「自分のアイデアをスライドにまとめるのもいいが、マインクラフトであれば立体で表現できる面白さがある。具体物を見られる点が良い」と同教諭は語る。

鹿嶋市立三笠小学校 上田裕介 教諭

またコマンド入力については、子どもたちは操作を覚えるのも早いが、キーボード入力に慣れていない子にとって、最初はハードルが高いかもしれないと同教諭。「学校でもキーボードの練習をしているが、目的意識を持たせにくい。マインクラフトであれば、入力したプログラムがどうなるか明確であり、子どもたちもモチベーションを持って取り組めるだろう」と語ってくれた。

一方で、マインクラフトは保護者から見れば、まだまだゲームの域を超えておらず、学校で使うことに対して抵抗感を持つ者もいるだろう。それについて同教諭は「数年前からプログラミング研修で、マインクラフトの名前は聞いていた。特にゲーム性が強いとも思わなかった」と語る。また鹿嶋市教委の神宮司氏も「クリエイティブモードであれば、今回のコマンド入力のように学習でも活かせると考えている」と語る。市内の別の小学校では、マインクラフトの授業をきっかけに不登校の子どもが学校に登校した例もあり、子どもたちを感化する材料になっているようだ。

筆者は過去に、マインクラフトを活用したプログラミングの授業を何度も取材しているが、どこの学校に行っても共通しているのは、子どもたちが本当に楽しく、夢中になって取り組んでいることだ。今回の三笠小学校も授業が始まる前から「早く始めてほしい!」と子どもたちが話していて、わくわく感が伝わってきた。毎日通う学校に、楽しみにしている授業があることは、リアルな学びの価値を高める。これからも市内の全校でこうした学びが実現できるよう、取り組みを進めてほしい。

神谷加代

こどもとIT編集記者。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。