こどもとIT

マインクラフトでeスポーツしたい! 中高生が好きなことで世界を広げる

――工学院大学附属中学校・高等学校主催「E-Sports x Minecraft」レポート

“マインクラフトでゲームを作って、みんなで遊びたい”、そんなことを想い描いてワクワクする気持ちは、マインクラフト(以下、マイクラ)のプレイヤーなら誰でも持つものだろう。自分のワールドにみんなで遊べる公園を作ったり、1つのワールドに集まって鬼ごっこをしたり、マイクラプレイヤーはさまざまな遊び方をゲームの世界でも創り出している。

そんなマイクラで、eスポーツのゲーム制作に挑戦したのが工学院大学附属中学校・高等学校(以下、工学院中高)の生徒たちだ。マイクラでeスポーツを作ったらどんなゲームが作れるか、マイクラをこよなく愛する生徒たちが創作に意欲を燃やした。2019年9月14日、生徒たちのゲームを披露する発表会「E-Sports × Minecraft」が日本マイクロソフト品川本社で開催。当日は一般にも公開され、子どもたちはもちろん大人まで多数のマイクラ好きが参加した。

「E-Sports × Minecraft」のポスターも工学院中高の星野圭祐さんによる作品

生徒による発案、“マイクラでゲームを作ったら面白そう”

マイクラは、ブロックで作られた仮想空間で、ものづくりや冒険を楽しむゲームだ。アイテムを手に入れながら“エンダードラゴン”と呼ばれる敵を倒したり、あらかじめ設定された実績を全て達成することを目指す、といったようにゲームとして楽しむことももちろんできるのだが、マイクラの醍醐味は“自分で世界を作れる”ことにある。プレイヤーは自由に世界を創作し、プログラミングやコマンドブロック(マイクラで使える特殊なブロック)を組み合わせることで、かなり高度な建造物や仕掛けを施したゲームを作ることもできるのだ。

今回、工学院中高の生徒たちは、こうしたマイクラの特性を活かして、自分たちで考えたeスポーツを創作した。事の発端は、生徒たちによる発案から。学校の校舎をマイクラで再現した際に、“今度は、eスポーツのゲームを作れば面白いのではないか”とアイデアが飛び出したという。以来、生徒たちは自分たちでゲームのアイデアを考え、構想を練り、約6ヶ月かけて6人の生徒が1人1つずつ作品を仕上げた。開発には教育版マインクラフト「Minecraft: Education Edition」が使用されている。

オープニングの様子(撮影:郷野翔太朗さん)

発表会の当日は、工学院中高の先生たちとともに生徒たちの取り組みを支援したマイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)など関係者による挨拶から始まり、生徒たち自ら来場者にそれぞれのeスポーツの内容を紹介。和やかな雰囲気で会は始まった。

高校生のアイデアとこだわりが詰まったeスポーツ6作品

それでは、今回の発表会で6人の生徒たちがマイクラで作ったeスポーツ作品を詳しく紹介しよう。

左上段から、鈴木駿弘さん(高2)、田中琉久さん(高2)、松本大輝さん(高2)、左下段から山川雄大さん(高2)、星野圭祐さん(高1)、秋田晴海さん(高2)

鉱石の採掘競争ゲーム「MINECRAFT」

まずは、マインクラフト本来の楽しさを追求した鉱石の採掘競争ゲーム「MINECRAFT」だ。制作者は高校2年の田中琉久さんで、開発サポートは中学2年の大江華蓮さんが担当した。マインクラフトの魅力はなんといっても、ブロックを堀り、鉱石を見つけることだと話す田中さん。ゲームの原点に立ち返り、鉱石を集めて、その得点を競い合う採掘競争ゲームを考案した。

このスタート地点以外は建物も山も森もない、マイクラの本来の楽しさである「採掘」を追求したゲームだ

ルールは簡単。制限時間内にひたすらブロックを掘り、鉄や金、ダイヤモンドなどの鉱石を集める。それぞれの鉱石には点数が割り当てられ、集めた鉱石の合計点数が高い者が勝ちとなる。ブロックを掘る時は、爆弾として使えるTNTブロックの使用も可能で、広範囲に設置して効率的に採掘するなど工夫を要するのが特徴。最後は、集めた鉱石を専用のチェストに入れれば、各チェストで採点される仕組みだ。個人戦とグループ戦の両方のモードを用意し、マインクラフト初心者でも楽しめるeスポーツだ。

鉱石を採掘している最中に周りが暗くなると、松明で明るくしながら掘り進めなければならない(撮影:郷野翔太朗さん)

障害物をクリアしながらゴールをめざすレースゲーム「トライアスロン」

続いては、障害物をクリアしながらゴールをめざすレースゲーム「トライアスロン」。制作者は高校2年の鈴木駿弘さんだ。同ゲームは、フィールドアスレチックのように、さまざまなアトラクションを木のブロックなどで再現し、プレイヤーはそれらをクリアしながらゴールをめざすというもの。木のブロックの上を走ったり、ジャンプしたり、よじ登ったりと、操作スキルを駆使しなければならないのが特徴だ。

アスレチックのように障害物をクリアしながらゴールをめざす

コースは「初心者~中級者向け」と「中級者~上級者向け」の2種類で、なかには、頭で考えなければクリアできないアトラクションも用意するなど、工夫が散りばめられている。またプレイヤーが途中で失敗しても、とある地点まで戻って再度挑戦できるのも嬉しい。クリアできそうで、できないアトラクションや、徐々に難易度が増すコース編成など、ゲームの細部に鈴木さんのこだわりも感じられた。子どもも、大人も、夢中になって何度もトライする姿が見られた。

水に落ちないよう上手く操作しなければならず、子どもたちも夢中になってトライしていた

エリトラを用いた空中レースゲーム「Flying the sky」

高校2年の松本大輝さんは、マインクラフトの中で空が飛べる装備「エリトラ」をつけて、ゴールまでを競い合う空中レースゲーム「Flying the sky」を制作した。空を飛びながら前へ進み、ゲートを通過する度に、鉱山ブロックを取ることができれば点数として加点される。ただ単に、エリトラを付けて飛ぶだけでは減速するため、手持ちのロケットを上手いタイミングで使用しながら、スピードを加速させてゴールをめざすのが、クリアのポイントとなる。

エリトラを付けて空中を飛びゴールをめざすのだが、途中のゲートには鉱石が用意され、ゲットすればゴール時に加点されるしかけだ

同ゲームでは、4人が同時にプレイできる。プレイヤーはエリトラを自分で装備し、感圧版を踏んでスタート地点に移動するわけだが、こうした細かな演出がゲームへのワクワク感を高めてくれる。またコースでは、減速してしまうと溶岩の川に落ちてしまうだが、この演出もマインクラフトの面白さを突いている。

どのゲームにおいても、高校生たちが最初にルールや操作方法を丁寧に説明してくれた

マイクラ版対戦型色塗りゲーム「Minecraft.IO」

インクを地面に塗り合うバトルゲーム「スプラトゥーン」をモチーフにしたのは、マイクラ版対戦型色塗りゲーム「Minecraft.IO」だ。制作したのは、高校1年の星野圭祐さん。同ゲームは4人で対戦し、制限時間内に一番多く色を塗りつぶしたプレイヤーが勝ちとなる。プレイヤーは正方形のマップフィールドを走るだけで、足元のブロックの色が変わる仕組みで、不定期に現れるスペシャルブロックをゲットすれば、一発逆転のチャンスが得られるように工夫を凝らした。

敷地内を走りながら、色を塗りつぶしていく(撮影:郷野翔太朗さん)

人気ゲームをモチーフにした「Minecraft.IO」は、再現性や完成度も高く、子どもたちや大人の食いつきもかなり良かった。対戦相手を攻撃して、塗りつぶしを邪魔することも可能なので、自然にプレイヤー同士の会話もはずむ。星野さんがオリジナルゲームの面白さを損なわず、再現性の高さにこだわって制作した想いが伝わってきた。

制限時間内に多くを塗りつぶしたプレイヤーが勝ちとなる(撮影:郷野翔太朗さん)

相手の城を破壊し、ビーコンを倒すゲーム「建築攻防戦」

マインクラフトには、ビームを空に放つ「ビーコン」と呼ばれるブロックがある。広いワールドの中で目印に使うなどが主な使用目的であるが、高校2年の山川雄大さんが制作した「建築攻防戦」では、このビーコンがゲームの要になった。同ゲームは、チームに分かれて闘う攻防戦。最初の20分で自分の敷地内にビーコンを守る城を建築し、その後、チームで協力しながら相手チームのビーコンを倒すというもの。どのブロックを用いても良いというルールで、マインクラフトの知識が多いほど有利だといえる。

まず最初に制限時間20分で、自チームのビーコンを守る城を建築する

プレイ時間が全50分にも及ぶ「建築攻防戦」は、頭を使うことだらけ。どうすれば自分のビーコンを守れるか、相手チームのビーコンを倒すためには、どう攻めるのがいいか。参加者たちはブロックを地下に掘ったり、溶岩ブロックで相手の行く手を阻んだりするなど協力しながら闘った。「建築」と「闘い」、マインクラフトにおける2つの面白さをひとつのゲームで表現しているのが特徴だ。

いざ、チームで協力して相手チームのビーコンを倒す闘いへ!

文明を育てるサバイバルクラフトゲーム「One Hour One Life」のマイクラ版「OHOL」

文明を育てるサバイバルクラフトゲーム「One Hour One Life」が大好きだと話す高校2年の秋田晴海さんは、同ゲームをモチーフにしたマイクラ版「OHOL」の再現に挑戦した。OHOLとマイクラは、どちらも原始的な世界から文明を作りあげていく点が類似しており、親和性が高い。そこに着眼して、マイクラ版「OHOL」でも同様に、20秒で1歳年を取り、60歳になるとゲームオーバーになるシステムを作った。

マイクラ版「One Hour One Life」で作成した豆腐の家

「OHOL」のゲーム自体は、60歳になるまでに、どれだけマインクラフトの世界で文明を築くことができるかにチームで挑戦する。サバイバルモードの最初から始まるので、ベッドを作り、松明をつくりといった基本的な部分から積み上げていかなければならないが、年齢ごとに出来る作業が限られているのが特徴。例えば、赤ちゃんの頃はブロックを掘ることができないなど、随所に施された仕掛けが細かく、秋田さんのプログラミングスキルの高さも感じた。

大人も子どもたちも協力しながら、文明の発展に挑む

好きなことを通して、自分の成長を実感できる場を与えたい

以上が、生徒たちがマインクラフトで作成したeスポーツである。どれも生徒個人のこだわりやアイデアが散りばめられていて、“好きだからこそ夢中になって作った”という制作プロセスを感じることができた。

発表会では、今回のゲームづくりに挑戦した感想を聞くことができた。「OHOL」を作成した秋田さんは「アイデアをどんどん出していく大切さが分かった。やりたいことを実現する力が必要だと思った」と実感のこもった話を聞かせてくれた。また「Minecraft.IO」を作成した星野さんは、「自分の作ったゲームで遊んでもらえたことがよかった。その中でフィードバックをもらえたり、改善点が新たに見つかったりして勉強になった」と話してくれた。

昨年度まで工学院中高で生徒達を支え、現在は大阪市立水都国際中学校・高等学校(以下、水都国際中高)で教鞭を執る芦部洋一郎教諭は、「自分たちのアイデアをカタチにし、完成させるには試行錯誤の連続で大変だったと思うが、最後まで頑張って仕上げることができた。生徒たちが一生懸命作った作品を発表できる機会にも恵まれ、達成感を得ることができたと思う」と述べた。

生徒たちの取り組みを支えた水都国際中高の芦部洋一郎教諭(撮影:郷野翔太朗さん)

またクロージングでは、Minecraft公式プロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏が登壇。同氏は「取り組みを始めたときは、ここまでレベルが高いゲームを作れるとは思っていなかった。それぞれにオリジナリティがあり、自分も参考になった。面白いと思う気持ちを大切に、今後もスキルを磨いてほしい」と生徒たちを評価した。

ちなみに今回の発表会は、eスポーツの開発以外も工学院中高の生徒たちが運営に協力するなど、手作り感を感じる温かいイベントとなった。お気づきかもしれないが、本記事に写真を提供してくれたのは、高校2年の郷野翔太朗さん。将来、カメラの道に進みたいと発表会の様子を写真に撮ってくれた。未来ある高校生の想いと行動力にリスペクトし、記事の中でいくつか使用させて頂いた。

また、子どもたちや来場者がさらにeスポーツを楽しめるようにと、スタンプラリーを企画してくれたのは、中学2年の大江華蓮さん。彼女も自分の特技を活かし、手作りのスタンプで発表会に貢献してくれた。小さなことでも、自分に出来ることを見つけ、相手を喜ばせようと頑張る行動を、ここで称えたい。

写真左から、当日の写真を担当してくれた郷野翔太朗さんと、スタンプラリーを作ってくれた大江華蓮さん

マインクラフトは生徒たちの個性を引き出し、さまざまな可能性を見せてくれるゲームだと筆者は思っている。今回の工学院中高の取り組みにおいても、生徒たちそれぞれの個性が表現され、好きなことに夢中になる学びの素晴らしさを感じた。こうした場を他の学校でも実践してほしいと願うとともに、工学院中高の生徒たちは、これからも大いに活躍してほしい。

“マイクラでeスポーツ”を形にするために集まった関係者たち。左上段から工学院中高 ICT支援員 柳川和歌子氏、CoderDojo武蔵村山 川上尚司氏、星野圭祐さん、松本大輝さん、鈴木駿弘さん、水都国際中高 芦部洋一郎教諭、プロマインクラフター タツナミシュウイチ氏、左下段から秋田晴海さん、大江華蓮さん、田中琉久さん、山川雄大さん(撮影:郷野翔太朗さん)

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。