こどもとIT

課題山積みでスタートしたGIGAスクール構想、学校現場は今どうなっているのか?

――「GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会」レポート(前編)

全国の小中学校では今、GIGAスクール構想で整備された1人1台環境の端末が、続々と子どもたちの手に渡り始めている。現場では、さまざまな試みが始まっている一方で、これまで直面したことがない課題も出てきているだろう。

学校現場は今、どのような課題を抱えているのか。今後、GIGAスクール構想はどのように進めていくべきか。一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は、教育ICT分野に取り組む現場の教員や管理職、行政担当者や有識者など豊富な知見を持つメンバーを集結し「覆面座談会」を開催。GIGAスクール構想が本格的に始まった今、現場で起きているリアルな声を拾いあげることで、これから必要な対応策などを3回にわたってお届けする。

ファシリテーターを務めた国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授(左上)、主催したJAPET&CEC 教育ICT課題対策部会長の砂岡克也氏(右下)、6名の教員や管理職、行政担当者、コーディネーターが座談会に参加

GIGA端末は来たけれど……。クラウドが使えない、使わせない?!

豊福氏: まずは、GIGAスクール端末が導入されたばかりの学校から、今の様子を聞かせてください。

F氏(中学校教諭): 私の学校は市内でも先行して端末が導入されました。Wi-Fi環境もどうにか開通して、Microsoft TeamsやOneDrive、授業支援システムなども一応入っています。

ところが、生徒は自分の端末にデータを保存できても、OneDriveにアクセスできません。本当はOneDriveにデータを置いて共同作業をやりたいのですが、今は、授業支援システム上で先生が許可したデータだけが共有できる仕組みになっています。授業支援システムも、必要な拡張機能を教育委員会に問い合わせしても、「調べてみます」という答えが返ってくるだけで進展しません。

他校の状況を聞くと、若い先生が前向きに利用し始めた学校がある一方、研修が間に合わず、活用ができない学校もあるようです。私の市では、全てのファイルが先生のところに集約されて、そこから共有作業が始まる仕組みになっているので、先生が授業支援システムを理解しないと何も始まらない。そのための研修時間が確保できずに困っているようです。

また、授業支援システムが大前提になると、持ち帰りの際にさまざまな問題が出るでしょう。コロナがさらに酷くなって自宅学習になったらどうするのか、そんな課題も明らかになってきました。

豊福氏: マイクロソフトのアカウントは、生徒1人ずつ配布されていますか?

F氏(中学校教諭): 配布されていますが、1人1アカウントのメリットが全く活かされていません。クラウドで共同作業もできないし、TeamsやOneDriveの使用に制限がかかっている状態で自由に使えないのです。

B氏(小学校教頭): 私の学校もクラウドの利用が問題になっています。その要因のひとつは、教育委員会の教育総務課と学校教育課の連携がうまくいっていないことだと感じています。

GIGAスクールの実施にあたっては、最初に教育総務課が補助金の申請や端末の整備、市長部局の調整などを頑張ってくれました。私たちの声も聞きながら、G Suiteの導入も実現し、“これでクラウドが使える”と喜んでいました。ところが、実際に端末を導入する段階で、学校教育課にはICT活用のビジョンがないことが分かり、色々な情報を集めながら活用方針などをまとめました。

そこから、学校教育課は保護者への周知などを行なうのですが、「クラウド使うと危険じゃないの?」「保護者にはどんな説明をしようか」という話が、この段階で蒸し返されて配布がストップしてしまっています。

つまり、教育総務課は端末の納品や環境整備までが自分たちの仕事、そこからどんな教育を作っていくかは現場と学校教育課の仕事と捉えているんですね。教育総務課と学校教育課、両者の連携をもっと上手くやってほしいと思います。

3年前から1人1台環境を実施した自治体のGIGAスクール事情は?

豊福氏: 以前からすでに1人1台環境を実施している自治体では、GIGAスクール構想はどのように進んでいるのでしょうか。

C氏(小学校教諭): 私がいる自治体は3年前から1人1台を実施し、今回のGIGAスクールで新しい機種にリプレースしました。リプレース前は端末のスペックが低くてフリーズも多く、ネットワーク環境も脆弱だったので、やりたいことをやるのが厳しかったですね。最初は前向きに使っていこうとした教員も現実に打ちのめされ、やる気を失って使わなくなったそうです。

私がその自治体に異動したのは、1人1台を実施して1年半ごろで、2020年にリプレースされました。リプレース後は、端末のスペックが上がったので使用頻度が上がりましたね。児童が必要なサイトにアクセスする時間も圧倒的に短くなりましたし、起動にも時間がかからず、使いたい時に使えるようになりました。ネットワーク回線もWi-Fiを引き直したので、各教室でネットが使えるようになり、ストレスがなくなりました。

学習ツールはOffice 365 Educationが入りました。汎用ツールは子どもが使うには操作が難しいという声もありますが、使い進めるうちにすっかり操作に慣れ、子どもの方からMicrosoft Formsを使いたい、OneNoteを使いたいと言い出すようになっています。逆に教育専門ツールの方がアクセスするうちにサーバーに負荷がかかり、動作速度が遅くなるトラブルも起きていますから、個人的にはOffice 365を使う方がいいと思っています。

豊福氏: C先生のところはリプレースなので、GIGAスクールで新たに端末が来て大騒ぎになりませんでしたか? また研修などはどのように進められたのですか?

C氏(小学校教諭): リプレース導入よりも、コロナ禍の一斉休校の方が混乱がありました。あの時は突然、「オンライン会議ツールを来週から使ってください」という話が学校に降りてきて、保護者にもメールや通知でインストールをお願いし、教員側の研修は1日単位で実施する必要がありました。自治体側でもマニュアルや、オンライン授業の手引きを作ってくれたのですが、取り組みには学校ごとで差があったようです。私のところは、トップが柔軟に対応してくれる人で、教員に自由にやらせてもらえたので乗り切ることができました。

リプレースの際に課題になったのは、ストレージくらいでしょうか。なぜか、教員が利用できるストレージスペースが限られていたので、どのファイルを残すのか、取捨選択が必要でした。これは多くの教員が悩んだ問題のようで、他の学校の教員から私のところに問い合わせもありましたね。

ネットワーク環境、管理者権限の譲渡、年次処理……。現場の負担とやる気に配慮を

豊福氏: E先生のところは、先行導入を検討したものの準備が整わなかったと聞きましたが?

E氏(小学校校長): 私の自治体では、数年前からいち早く子どもたちに1人1アカウント環境を作って活用準備を進めていましたが、ほぼ使われていませんでした。教員のアカウントは使い続けていましたが、オンライン会議ツールは管理職以外ほぼ使われていない状態でした。そこで取り急ぎ、自分の学校ではオンライン会議ツールを教員が使う環境を整えました。

そのおかげで、緊急事態宣言も教員は乗り越えられましたが、困ったのは児童生徒です。小学校の高学年だけではありますが、なんとかChromebookを借りることができ、3月から1人1台配布して朝の会などで使えるようにしました。結局、10月までその端末を借り続け、10月に自治体の端末を先行導入してもらって引き継ぎをしました。

私の自治体ではChromebookを採用しました。管理コンソールでの端末の管理がしやすい点や、余計なアプリを入れなくても一通りのことができることが決め手となりました。

課題としては、ネットワークの想定の甘さです。私の学校の児童数であればまだ大丈夫ですが、うちより児童数が多い学校は恐らく悲惨な状態になることが想定されます。環境を構築するために、議員にも訴えかけながら、きちんと予算をとることが必要だと思っています。

豊福氏: 先ほど、総務部門と教育部門の連携がうまくできていないという指摘もありました。Aさんの教育委員会はいかがですか。

A氏(教育委員会関係者): うちの自治体は、行政も教育委員会も縦割りになりやすいところがあります。そのためGIGAスクール事業は、施設管理を担当する総務系ではなく、運用を担当する学校教育系の方で引き取りました。

基本的に近隣の自治体も、担当は1人しかいないと思います。さらに、今年度は担当の入れ替えが多かったりと、タイミングが悪いときにあたってしまっているようです。

私の自治体は学校教育系だけではなく市長部局系とのネットワークの関係もあり、そのすりあわせが難しい。「学校に管理者権限を渡すとは何事だ」と市長部局系のシステム側から言われた経緯があり、全ての管理は教育委員会がするということになりました。これは学校からかなり不満はでており、障害になっています。

豊福氏: 学校の外からアドバイスを行なっているDさんは、今の状況をどんな風に見ていますか。

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター): 誰がいい、悪いという話ではなく、それぞれの立場の利害が異なることで生じている混乱だと思います。「教育委員会は端末を導入すれば成功、でも学校側は活用がうまくいって初めて成功」と考えていたり、「何かトラブルが起こった時に、社会から責任を問われるのは学校だから、急に導入しないでほしい」など、それぞれの立場でさまざまな意見や考えがあります。これは、本来行なわれるべき意見のすり合わせや調整が上手くできていないから起きる混乱だと思っています。

仕組みをよく理解されている先生からは、「1人1アカウントが必要だよね」という声や、「現場にはこんな仕組みがいるんじゃない?」という声が上がってきました。しかし、全く仕組みを知らない先生にとっては、端末といって思い浮かぶのは教務で使っているパソコンです。そうなると、できることとして想像できるものも限られたものになりがちです。1人1アカウントが配布されても、クラウドを活用するためのG SuiteやOffice 365のアカウントではなく、「××ドリルで使っているアカウントでしょ?」といった発想になりがちです。

そんな状況の中で、「3月、4月の年次更新を考えていますか?」という点はとても不安です。正直なところ、導入コンサル側の提案は端末導入するところまでしか考えていないことがほとんどだと思います。4.5万円の補助金では、そこまでしか対応できなかったからです。業者側としては、もっと詳細な提案をしたかったと思いますが、そんな提案書では競合に勝てるわけがない。現場から見ると、不適切な運用の提案内容が、予算などを理由に通ってしまっているのが現状だと思います。

先ほど話題になった管理者権限についても、「管理」とは何を指すのか、きちんとコンセンサスが取れていない結果だと思います。「管理」という言葉を聞いて、行政側が想像するのは、現場が好き勝手にやって、行政側が責任だけを持つというイメージなのでしょう。

しかしこの3月、学校には「子どもたちのアカウント管理は、現場できちんと行ないなさい」という指令が降りてくるのは間違いないでしょう。転入、転出もあるので、自治体や教育委員会側で全部設定するなんてあり得ない。だから、ユーザー登録だけは、現場管理者の監督のもと各学校がやることになるでしょう。

こういう事実を考えていくと、「管理とは何か」「現場の裁量とは何か」、つまりポリシーがきちんと決まっていないと困ることが多くあります。しかし、GIGAスクールはこの管理ポリシー、運用ポリシーが、めざす教育のもと、どのように実施されるのかを整理されないまま始まってしまった。その中で、先生たちが“こんな教育が実現できるのではないか”と考えても、現場には裁量がないことが多い。その結果、現場のやる気が低下する、という悪いスパイラルができあがってしまうと危惧しています。

(中編に続く)

GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会 レポート

・【前編】課題山積みでスタートしたGIGAスクール構想、学校現場は今どうなっているのか?(2/15公開)
【中編】GIGAスクール端末、ちゃんと使えてる? ICT環境整備と保守サポートを現場が赤裸々に語る(2/16公開)
【後編】今から考えておくべき、GIGAスクール構想を成功させるポイントとは(2/17公開)

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。