こどもとIT

禁止と制限では子どもたちの力は伸ばせない、日本の“デジタル教育”の弱さ

――DQ Institute COSI(Child Online Safety Index)レポート

文部科学省のGIGAスクール構想による小中学校1人1台のPC整備、そして小学校のプログラミング教育必修化がいよいよ今春からスタートする。だが、その当事者たる児童生徒の情報リテラシーやデジタルスキルの準備はできているだろうか? 2020年2月11日、DQ Instituteから世界中の子どもたちの「DQ(デジタルインテリジェンス)」に関する最新の調査結果が発表された。日本の子どもたちのデジタルスキルの“今”を、株式会社サイバーフェリックス Product Managerの深海陽和太氏にレポートいただく。

世界的に進展している教育のICT化は止まることを知らず、むしろ加速の一途をたどっている。そんな中、Internet Safer Dayである2020年2月11日に、DQ InstituteよりCOSI(Child Online Safety Index)が発表された。COSIとはリアルタイムで各国の子どもたちのオンライン上の安全性を可視化できる指標である。今回のCOSIのリリースは、DQ Instituteを筆頭に世界経済フォーラムやTwitterなど100社以上の企業の協力のもと行われた(DQについては「新世界基準DQ(デジタルインテリジェンス)、学校・保護者・子どもとの共通言語へ!」を参照)。

世界的に見ると、日本は「Average」(平均値)だが……

DQ Instituteの創業者であるYuhyun Park氏はCOSIについて次のように語る。「COSIは世界中の子どもが直面するオンライン上のリスクを軽減するための取り組みのきっかけとなる。現代の子どもたちは、無数のオンライン上のリスクと隣り合わせのサイバーパンデミックの時代を生きている。そのため、各種業界、教育機関、政府そして『保護者』といった全ての組織・個人がリスク軽減に向けての役割を担う必要があり、とりわけ幼少期のデジタル教育が極めて重要である。」

COSIを構成する「6つの柱」と算出方法とは

ここからは、DQ InstituteがリリースしたCOSIに関するレポートの詳細を追っていきたい。

先述した通り、COSIは世界初の国単位で子どものネットリスクを測る指標である。2020版 COSIでは2017年から2019年に実施された#DQEveryChild(※)を基準に計30カ国、14万5426人もの子どもたちのデータに基づき作成された。またこれはオンライン学習プラットフォームDQ Worldのデータベースと紐づいているため、各国の成績はリアルタイムで自動的に反映される仕組みになっている。

※#DQEveryChild:DQ Instituteによる、世界中の子どもたちにデジタルインテリジェンスを身に着けてもらうための取り組み

具体的な評価基準としては以下6つの柱に分かれる。

①「 Cyber Risks(サイバーリスク) 」ネットいじめや不適切なスマホの使用等のリスクがどれだけあるかを評価する
②「 Disciplined Digital Use(規律あるデジタル世界との接続) 」スマホ(ゲームアプリ、SNS、Youtubeなど)にどれだけ依存しているかを評価する
③「 Digital Competency(デジタルコンピテンシー) 」デジタルフットプリント(ネット上に投稿したものは一生消えない。デジタルタトゥーともいう)等の性質を理解した上でインターネット上に潜む危険を認識し、適切に使用できるかを評価する
④「 Guidance & Education(指導&教育) 」学校や保護者が適切なデジタル教育を子どもに施しているかを評価する
⑤「 Social Infrastructure(社会インフラ) 」サイバーリスクから子どもを守るための社会的、政治的体制が整っているかを評価する
⑥「 Connectivity(接続性) 」インターネットへのアクセスは迅速であり、不自由なく接続できるかを評価する

そしてこの6つの項目はさらに24の領域に細分化される。各項目の採点基準はこの24の領域に準拠した、DQ World学習中に選択形式で出題されるアンケートをもとに導き出している。

日本の子どもたちの弱点は「デジタル教育」そのものだった

COSIの世界ランクで「平均以上」と表記された国は六カ国におよび(スペイン、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、韓国、イタリア)次いで「平均」に部類された中ではトップに位置する日本がランクインしている。60を超えるスコアを持つ国が「平均以上」、30~59.9が「平均」に部類されることから日本の57.6は限りなく「平均以上」に近い。

COSIグローバルランキングで日本は7位に位置している

ただ、ここで留意しておきたいのは、このCOSIスコアは相対的だと言うことだ。ゆえにスペインは75.6%の安全性が担保されているということではなく、他国と比べてある程度の安全性が認められるということになる。すなわち世界的に見た、自国の立ち位置を把握するものであり、危険にさらされるリスクを直接百分率で反映しているものではない。

日本の総合点は58であり、グローバル平均である42と比べてもまだ子どもへのネットリスクが限定的であることが伺える。しかし、各領域に目を向けると日本固有の特徴が見て取れ、今後我が国が解決せねばならない課題が浮かび上がってくる。

世界7位の日本だが、各柱ごとに見てみるとそのいびつな特徴が浮かび上がる

「サイバーリスク」「規律あるデジタル世界との接続」で世界トップの裏側

まず特徴的なのが、「Cyber Risks(サイバーリスク)」と「Disciplined Digital Use(規律あるデジタル世界との接続)」が世界トップということだ。これに関しては喜んで良いし、日本の子どもたちの情報リテラシーは高いと言えるかもしれない。しかし、この結果にはいくつかの推測されうる原因もある。

①ICT教育に感度の高いアーリーアダプターの学校が主なサンプルとなっている
②物理的なデバイス接触との回避

ICT教育に感度の高い学校や塾はアーリーアダプターとしてDQをカリキュラムを導入しており、こういった教育機関の先生方と話していると、ICT教育に対して熱い情熱を持ち、非常に感度が高いことが伺える。そして、その熱意は授業内容にも如実に表れ、生徒にも伝達していた。そのためDQを実施した学校は、前提としてDQの高い生徒が多く在籍していたことが考えられる。

また、それとは対照的に保護者の悩みの種であるのが「いつスマホを持たせるか」という問題である。他国より平均的に遅く、多くの子どもが中学生になると同時に携帯を与えられること。また持ち始めた頃はフィルタリング等による機能制限が施されることから、物理的にリスクを回避していることが多い。学校側も携帯の持ち込み禁止を掲げるところが多く、リスクを軽減するために指導するよりかは、物理的にリスクを切り離す傾向が根強い。

これが後述する「Guidance & Education(指導&教育)」とも大きく関わってくるが、日本のCOSIスコアを考察する上ではこの2つの要因は無視することはできない。

日本の各項目の評価を見ると、一目で特徴を捉えられるほど極端に「Cyber Risks(サイバーリスク)」と「Disciplined Digital Use(規律あるデジタル世界との接続)」が高く、逆に「Guidance & Education(指導&教育)」が著しく低い結果であることがわかる

子どもたちに必要なのは「禁止」ではなく「指導」だ

もう一つの日本の特徴、「Guidance & Education(指導&教育)」の低さを詳しく見ていくことにしよう。この柱は「Parental Guidance」(親からの指導)と、「Online Safety Education」(学校からの指導)の2つの領域に分けられる。具体的なアンケートの問いは以下が挙げられる。

・保護者と携帯を使える時間等のルールを設定している。
・保護者は数あるウェブサイトの中で適切なもの・不適切なものを、理由を持って説明してくれる。
・学校の先生からパソコンやインターネットの使い方を教わる。

これらを生徒たちに「1:一度もない」「2:滅多にない」「3:たまに」「4:定期的に」「5:いつも」の5項目で回答してもらい、点数化している。

DQ Worldを進めていくと、このようなアンケート形式の質問が度々出題される

このスコアが世界平均52の中たったの8、30カ国中26位であり、中国(24位)や韓国(25位)よりも低い。つまり、子どもたちはこれらの指導や教育を受けたことが滅多にない、という回答が想像できる。本来は保護者・学校の両方からデジタル教育を受けるべきはずの日本の子どもたちは、指導や教育をされず、代わりに規制や禁止によりリスク回避させられている、ということに他ならない。これは、デジタル世界との遮断であり、リスク回避と同時にチャンスの喪失をも意味する。

このユビキタス社会において必要なのは、テクノロジーを上手く使いこなすことであり、これを疎かにしてしまっては、日本はグローバルな競争で勝つことはできない。2020年度からは小中学校での1人1台学習用コンピュータの整備が始まる。これまでのように「規制と禁止」でリスクを回避するのではなく、積極的に新しいものを取り入れ、正しく使っていく。今が時代の転換期と言えるだろう。

石山 将

DQ Institute DQアンバサダー / 株式会社CyberFelix代表取締役。2017年4月よりDQアンバサダーとして#DQEveryChildを日本に持ち込み、2年間で3000人以上にリーチ実績。同時にDQ学習ツール「DQ World」の日本語版を2年間かけて作成。2019年3月、日本での#DQEveryChild ムーブメント拡大を目的に、DQ Instituteを戦略的パートナーとする株式会社CyberFelixを創設。

深海陽和太

慶應義塾大学3年/株式会社CyberFelix Product Managerとして、本部(DQ Institute)と連携しプロダクトの改良や日本におけるDQ普及のための活動に従事。2019年9月より一年間ニューヨークに留学。現地ではアカウンティング専攻。