こどもとIT

今から考えておくべき、GIGAスクール構想を成功させるポイントとは

――「GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会」レポート(後編)

GIGAスクール構想によって整備された1人1台環境を活かしていくためには、教員も児童生徒もまずは使ってみることが重要だ。当然、そこには課題も発生するが、今こそ情報活用能力の育成をめざして、教育の在り方を変えていかねばならない。

一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は、教育ICT分野に取り組む現場の教員や管理職、行政担当者や有識者など豊富な知見を持つメンバーを集結し、GIGAスクール構想の課題やこれからを語る「覆面座談会」を開催。前編ではGIGA端末が導入された学校の状況を中心に、中編ではICT環境や保守サポートについてレポートした。後編では、GIGAスクール構想を成功させるポイントなどについて語っていく。

ファシリテーターを務めた国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授(左上)、主催したJAPET&CEC 教育ICT課題対策部会長の砂岡克也氏(右下)、6名の教員や管理職、行政担当者、コーディネーターが座談会に参加

ICT活用は、やってみないとわからない。体験から得られるアイデアやノウハウが重要

豊福氏: コロナやGIGAスクールで、今まで以上にICT 活用が求められています。学校現場は変わってきているのでしょうか。

C氏(小学校教諭): 休校期間は研修もできず、職員も在宅でオンライン会議ツールを使わざるを得ない状況だったので、まずは教員全員が使えるようにオンライン朝会を始めました。これがきっかけになり、オンライン学活にも挑戦し「ここはこうしたらいいんじゃないか」「もっとこんなことができないか」など、教員全員の意見を積み上げて作り上げていきました。

その後、教員側にも自信が出てきて「オンライン授業もできるかもしれない」という声があがり、先行事例を参考にしながら、色々なパターンでオンライン授業を模索していきましたね。

こうした取り組みの中で私が良かったと思うことは、トップがうるさいことを一切言わなかったことです。「オンライン教育とはこうあるべき」といった口出しがなく、教員同士がお互い意見を出し合って活用が進みましたし、ハイブリッド授業を進める教員もいたりと、チャレンジが生まれました。本校については研修より先に、“何かやってみる”という流れができあがったのはよかったと思います。

校長が結構、無茶ぶりをしてくるんですよ(笑)。たとえば、展覧会の作品の隣にQRコードを付けて、その作品の制作過程を記録した動画を出せないかとか。閉じられた環境であれば実現可能なのでやってみると、保護者から「こんなことができるんですね!」と前向きな意見が学校に寄せられるようになり、学校広報にも、使っているツールを周知しています。校長の要望は大変なこともあるのですが、私たちの学校では前向きに受け取られていますね。

E氏(小学校校長): 先ほどの話題にもありましたが、5年後はおそらく補助金はアテにならないので、今後なくなるものとして計画を立てていく必要があります。次は保護者負担という話も、私の周りでも出ています。そうなると、保護者に納得してもらう成果を示すために、この1、2年が勝負となるでしょう。

さらに3年目頃になると、バッテリー問題も出てくるでしょう。Chromebookの場合、構造的に簡単にバッテリー交換ができないので、その費用は相当かかると覚悟しています。すでにモバイルバッテリーを使って乗り切る試算も行なっていますから。またBYODへの移行措置として、新入生には自分で購入したChromebookを使うのか、学校のお古を使うのか選択してもらうことも考えていますね。

活用面では私も管理職なので、先生方には「小さいことから始めてみましょう」と言っています。そして時々、全学年共通で「これをやりなさい」といったお願いを放り込むと、先生方は相談を始め、「ちょっと試してみようか」と自発的な研修を行なう先生も出てきます。ワイワイ雑談が続いていくんですね。

ある先生が、3年生にチャットの使い方を教えたことがあります。子どもたちはすぐにハマって、クラス内で色々なグループがあっという間に乱立しました。ログを見ると、授業時間までチャットでやり取りしていることも明らかになって(笑)。

当然、こうなることは想定の範囲内だったので、ちょうど人権週間のタイミングで、人権に絡めながら「デジタルシチズンシップ」の必要性について説明しました。それを聞いた子どもたちは、独自にルールを決めると言い出しています。バランス良く作ろうとか、学習に関係のないチャットは止めようといった独自のルールを作ろうと言い出しています。教員からの押しつけではなく、子どもたちも使うことで自主的に考えられるようになっていきます。

豊福氏: チャットで荒れたり、使い方に問題があっても、途中で禁止するのではなく、我慢された成果ですね(笑)。

E氏(小学校校長): 子どもたちが教員に隠れて何か始めてしまうと、状況を把握するのが難しくなってしまいます。しかし、学校であれば幸い、こちらで見守ることができるので、様子を把握できて面白いんです。

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター): 最初から、制限や禁止だらけのガチガチのポリシーを作ってしまうと、なぜポリシーが必要なのかを実感できない、実態と合わないものになりがちです。そこで半期、できれば2か月に1度くらい、セキュリティポリシーを見直しながらやっていくのが良いかと思います。先ほど、E先生のお話にあった「ログを見せる」というのは、最高の抑止力になるので、すごく良い方法だと思います。

気をつけたいのは、技術力のある学校外の人が「サポートしますよ」と善意で言ってくれた時です。今までお話してきたような、情報活用能力を伸ばす視点や、学校文化や教育の理解がないままアドバイスしてくれたことが、先生の気持ちを変に刺激することがあります。現在、ICT活用教育アドバイザーを外部から募集し、9000人のアドバイザーが配置されますが、きちんと認識しておいた方がいいことだと思います。

まずは教員がICTやクラウドのメリットを実感することが大事

F氏(中学校教諭): 当校は、これから導入が本格化します。導入を現場で担当するのは若手教員ですが、この前、先進的な自治体の担当者にお願いをして、若手職員に色々なアドバイスをしてもらいました。

本校では、できないことが色々あって、その担当者はかなりめげていましたが、アドバイスを聞いて、俄然、元気になりましたね。できないことや制限は多いですが、端末は導入されるから前向きに考えようよと。導入された端末をどんどん使いこなそうよと、アドバイスしたところ、若手教員ですからすぐに前向きに受け取り、行動するようになりました。

教育委員会の担当者も、理解がある人、現状がわかっていない人、色々いるわけですが、現場で先生方が頑張っている姿を伝えることが重要だと思います。子どもたちや保護者にも端末を導入したことで、できるようになった成果を伝えることが一番大事ではないでしょうか。その積み重ねの中で、制限も変えながら前に進もうよと言っています。

豊福氏: そうですね。周りに伝えていくことは大切ですね。またトラブルはきっと起こるよと事前に予告しておく方が、気持ちが楽になるかもしれません。

B氏(小学校教頭): 1人1台の端末を道具として使うためには、特に小学校の場合、担任次第です。だから、教員がチャットやSNS、クラウドに慣れているのが望ましいですが、ほとんどの教員はスマホを持っていても、こういうサービスを使い慣れていません。学校で利用するクラウドのアカウントを配布しても、スマホで一切利用しない人が多いです。

そういう教員が、子どもたちにクラウドの利便性を説明することは難しいので、まずは教員が慣れようと、クラウドで学校カレンダーの共有から始めたんです。さらに、先生方のスマホからも見ることができますと説明したところ、「どこからでもカレンダーを見れるのは便利だ」という声があがるようになってきました。

また児童の欠席連絡も、これまでは電話を受けた人が担任にメモを届けていましたが、これをチャットに変えて、スプレッドシートに情報をまとめて、担任は学級からその情報にアクセスできるようにしたところ、利便性の高さを先生たちも実感するようになったようです。

そういう経験を経て、情報共有やクラウドのメリットを先生方自身が理解できるようになりましたね。授業支援システムの機能を紹介しても、「これは便利だね」といった声があがるようになり、1人1アカウントを持ってクラウドサービスを使うことの利便性も分かってもらいやすくなりました。「スマートフォンを使う利便性を初めて感じました」という声もあり、先生自身が、利便性を体験することは本当に大事だと感じています。

豊福氏: 確かに、「こういうことができます」と機能を知らせるだけでは不十分で、体験してもらうことは大切ですね。どんな感じで進めるのがよいでしょうか?

A氏(教育委員会関係者): 端末導入に関して、喜ぶ校長先生もいれば、明らかに暗い表情になった校長先生もいるなど、人によって温度差があります。現場の先生とも話をしてみたのですが、うちの自治体は学校現場と教育委員会のコミュニケーションが上手くいっており意見が集まりやすい反面、意見が多すぎてまとめる際には苦労しているようです。

今までやってきたコンピューター整備は、現場の声を聞きながら進めてきたのですが、実現したものの教員全員がメリットに感じているのではなく、1人の先生だけの意見で、導入したものの翌年には使われないといった失敗もありました。そこで今回は、現場の話を聞きつつ、基本的な線を教育委員会側で引いて実施していくつもりです。

これは私の勝手な経験則ですが、先生方に新しいことを始めてもらうと、馴染むまでにほぼ3年かかります。馴染むまでの期間、色々とアドバイスもしながら進める必要がありますし、その3年の間に教育委員会が怠けてしまうとGIGAスクール構想も失敗してしまうと思っています。

GIGAスクール構想を成功させるポイントは何か。考えておきたい3つのコミュニケーション

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター): 重要なところは、マイルストーンを考えることですね。評価のロードマップを作らないと、授業がうまくいっているのか、いないのか、それを測ることもできません。

現在はタブレットPCをためらいなく操作できる「ICT活用能力」が「情報活用能力」と同じだと勘違いされています。実は、両者には違いがあり、ICT活用能力はスキルではありますが、コンピテンシーではありません。学習指導要領がめざしているものは、情報活用能力の育成であり、それを高めていくためにどのような方向性で使っていくのかを考え、牽引していかないと、3年後に成果を出すことは難しくなるでしょう。

GIGAスクール構想のポイントは、コミュニケーションだと思います。コミュニケーションといっても、「知とのコミュニケーション」と、対話的な学びといった「他とのコミュニケーション」、ポートフォリオを含む「自己とのコミュニケーション」があります。

今後、さらに学校現場で活用が進んでいけば、「知とのコミュニケーション」の差が大きくなるでしょう。自分で調べ、考えることができる子と、丁寧に説明してもらわないと理解できない子の差が大きく開くことになります。その時に、先生はどちらの子の立ち位置で授業を行なうのか。自分自身でどんどん課題を見つけ、調べる力がある子に対して「教えていないことは調べてはいけない」という授業をするのでしょうか。

先生は、1年を通して教えないとフィードバックを与えられないと思いがちですが、情報活用能力を教えることに関しては、1年という時間軸は合致しないのではないかと思います。そのためマイルストーンで評価点を決めたうえで、授業を新しい学び方にイノベーションする必要があると思います。

細かい問題点は色々あります。OSも3種類ありますが、どれを使っていたとしても、コミュニケーションの3種類とゴールを見据えていれば、確実に成果を上げることはできるでしょう。アプリケーションに依存しすぎると、制約も大きくなってしまうしバランスも崩れます。早く学校ごとの課題に基づいた、GIGAスクール構想をきちんと考え、実施していく必要がありますが、そのためには現場の先生だけでなく、管理職が考えることも重要になってくると思います。

豊福氏: お話にあった通り、コミュニケーションは重要な鍵で、そこから変わっていくのが、本当のところだと思います。

砂岡氏: 目からうろこの話がたくさんあり、内容の濃い座談会ができました。ICT活用ではなく、情報活用能力を磨くべきだという話はもっともですが、学校現場はその前段階にあるという声は多くあります。

先生方にクラウド利用、情報共有の利便性を実感してもらう機会を作り、ICTの敷居を下げることが最初のハードルになりそうですが、先生には端末は自分が使うもの、便利なものという認識を持っていただくことも必要でしょう。そのうえで、情報活用能力をどう磨いていくのか、という方向に進んでいくように思います。

GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会 レポート

【前編】課題山積みでスタートしたGIGAスクール構想、学校現場は今どうなっているのか?(2/15公開)
【中編】GIGAスクール端末、ちゃんと使えてる? ICT環境整備と保守サポートを現場が赤裸々に語る(2/16公開)
・【後編】今から考えておくべき、GIGAスクール構想を成功させるポイントとは(2/17公開)

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。