こどもとIT

コロナ禍だからこそ体験と交流を!EDIXの教材展示で改めて考える学習体験のデザイン

――第11回教育総合展「EDIX東京」プログラミング教材レポート

第11回教育総合展「EDIX東京」(主催:リード エグジビション ジャパン株式会社)が2020年9月16日〜18日の3日間、幕張メッセで開催された。今年はコロナ禍で規模を縮小しての開催となったが、GIGAスクール構想、プログラミング教育、オンライン授業など、教育分野におけるICT活用はますます求められている。展示会場にもさまざまな製品が並び、ICTソリューションに関するレポートはこちらで紹介した通りだ。

本稿では、展示会場で見られたプログラミング教材を中心にレポートしよう。小学校のプログラミング教育も本格的にスタートした今年、どのようなプログラミング教材が新たに出てきただろうか。

万全な感染予防対策のもと開催されたコロナ禍のEDIX

例年であれば、EDIXは毎年6月の開催である。それが、オリンピックの関係もあって5月の予定になっていた。そこにコロナの影響もあってこの9月に延期となり、場所も国際展示場周辺から幕張メッセに変わった。毎年のこの時期のメッセといえばゲームショーなのだが、それはオンラインイベントになっている。まるで、どこかの異世界にでも飛ばされたような妙な違和感である。

筆者自身も、電車で遠出するのが約半年ぶり。まるで遠足気分のお出かけだ。久しぶりの電車の中は、それなりに混んでいるものの、ほとんどの人がマスクをしっかりつけている。これがニューノーマルへの適応というものなのだろうか。

EDIXの会場の入り口では、アルコール消毒、サーモグラフィーによる体温検査、マスク装着の確認をしっかりやっている。入り口付近には妙な注意書きまで貼ってあった。会場で飲酒する人がいるのだろうか。

入館時のチェックを受ける筆者、今後はこれがスタンダードなのだろうか
注意書きの張り紙、なぜ飲酒が

会場全体の様子を見ると、広さやブースの数は例年のEDIXの賑わいに比べるとだいぶコンパクト。このコロナ禍の中、海外メーカーを含む多くの教育ベンダーが出展を控えたため、いたしかたがない。逆に言えば、このタイミングで出展している各社には、並々ならぬ心意気があるのだろう。むしろ期待できるかもしれない。

豊富なラインアップで存在感を放つアーテック

会場でまず、目に止まったのは、ひときわ存在感を放っていたアーテックのブースだ。ロボットプログラミング教材の定番のひとつ「アーテックロボ」シリーズ、今年度の学習指導要領で加わった小学6年生の理科「電気の利用」に対応した実験教材に加え、中学生の技術、高校の情報向けの教材も展示されていた。

相談コーナーも併設された広いアーテックのブース
6年生の理科「電気の利用」に対応した実験
実験結果を自動的に記録する仕組みのデモ

来年2021年度からはじまる中学校の学習指導要領では、従来から技術の教科で行なわれていた「計測と制御」に加えて、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」がはじまる。現在、新しい内容の教科書が各社から公開されはじめた段階だ。

今回展示されたのは、2台のノートパソコンを使ってチャットプログラミングと連携してLEDが点灯する教材である。これは、チャットを体験するのではなく、自分たちでプログラミングして、チャットの仕組みを理解することが主な目的である。

とはいえ、チャットのメッセージが別のパソコンから飛んでくるだけでは、少々さびしい。そこで、メッセージを受け取ると、パソコンにつながったアーテックロボのLEDが点灯するプログラミングがデモされていた。これは、あくまで一例ではあるが、IoT的な機材の組合せで、より面白いプログラミング体験ができるかもしれない。この教材の重要な点は、校内のネットワークやセキュリティに依存せずに使えるところ。機材にWiFi機能が組み込まれており、お互いに接続する仕組みになっているそうだ。

2台のノートPCが並ぶ、双方向コンテンツのプログラミングのデモ

その隣に展示されていたのは、さらに再来年からはじまる高等学校の「情報Ⅰ」を想定したプログラミング教材だ。こちらはまだ参考という扱いであったが、Pythonを使った簡単なWebサーバーをパソコン上で動かして、接続されたIoT機材を制御するという仕組みだった。今回はPythonの例だが、JavaScriptも検討しているそうだ。

Pythonで記述されたWebサーバーのプログラムが実際に動いているノートパソコン

真面目なプログラミング教材のすぐ横には、遊び心を刺激するRaspberry Pi関連機材の展示もあった。まずは、Raspberry Piを接続することでノートパソコンのように使えるキーボートとディスプレイの「パソコンアクセサリーパック」。

その隣には、Raspberry Piを使ったパッド風のタッチディスプレイ付き学習用コンピューター「eduコン」である。USBのコネクタも用意されており、キーボードとマウスを接続してタッチタイピングやプログラミングもすぐに楽しめそうだ。1人1台のICT端末が文房具的に広がる一方で、さらに加えていろいろなコンピューターに触れる機会をつくることは今後重要になってくるかもしれないと思った。近日発売とのことなので、現物を早く手にしてみたいものだ。

Raspberry Pi4が接続されたアクセサリーパック
eduコンでは、Scratch1.4他がデモされていた
eduコン向けには、バンダイ制作の学習マンガ教材が提供される予定

くもん出版が初出展、丁寧な教材づくりに共感

今回初めてEDIXに出展され、関係者の注目を集めていたのは、公文式でお馴染みのKUMONグループの「くもん出版」である。展示されていたのは、コンパクトなシングルボード子どもパソコンIchigoJamのバリエーションのひとつ、IchigoDakeとドッキングステーションIchigoDyhook。さらにプログラミング言語IchigoJam Basicを用いたプログラミング書籍。

同書では、プログラミングの基礎からいろいろなゲーム制作を網羅しているが、現在最終校了の段階だったそうで、完成した書籍ではなくゲラ(編集中の原稿を印刷した物)が置かれていた。会場には、出版業界の方もちらほら姿があったので、こっそり涙を流して見ていたという噂も(苦笑)。全2巻が予定されているそうで、1巻目が入門向けの内容、2巻目はかなり豊富なプログラムの例が掲載されるようだ。IchigoJam Basicの書籍としては、かなり充実した内容なので、実際に手に取る日が楽しみだ。今後この教材を活用した教室やワークショップなども検討されているという。

くもん出版の「くもんのプログラミングワーク」と、ドッキングステーションIchigoDyhookに接続したIchigoDake
ゲラの段階で並ぶ目次の項目の多さに、唖然とした人も多かった様子

会場では、関連機材の他にIchigoJam Basicをパソコンのブラウザーでも体験できるIchigoJam Webも展示されていた。ちょうど筆者が居たときには、基本のひとつ「LED1」(LEDがつく命令)が、実行されたままになっていた(IchigoJam Webでは、外枠が赤く表示されるようになっている)。大きなお世話だと思いつつ、「LED0」で消しておきました。

会場でプログラミング?をなぜかしてしまう筆者

もうひとつ、文字がまだよく読めない幼児期から楽しめるロボットプログラミング教材「matatalab(マタタラボ)」も展示されていた。この種の教材は、過去にもいろいろなベンダーから提供されていたが、マタタラボは40ヶ国以上で利用されている教材だけあって、細かい作りが丁寧で、良い感じに面白いツボを押さえている。

例えば,バレリーナの絵が描かれたブロックは数字のブロックと組み合わせることで、ロボットがダンスのような動きをしてくれる。これに、乱数を発生するサイコロのブロックを組み合わせると,プログラムを動かすたびに違うダンスをしてくれるようになる。他にもメロディを慣らす音符のブロックなどもあり、楽しくてしばらくその場で遊んでしまった。

愛くるしいマタタロボをプログラミングして動かす。ペンを差して図形を描くこともできる
動かすごとに違うダンスをするプログラム。サイコロのアイコンが乱数のブロック

こだわりのモノ作り機材や、堂々たる無人展示も

STEAM教材といえば、子どもたちが自分事としてモノ作りが楽しめることが大切だ。次世代商品開発研究所のブースで見かけたのは、自宅でスプラウトなど野菜を育てることができる「やさい工場」を作る教材「ミニやさい工場キット DR-1V1」。展示されていたのは完成品だが、基板やトランジスタやICチップがキット化されており、半田付けをして「やさい工場」を完成させ、種を植えて栽培できるとか。点灯させるLEDの組合せは、野菜の育成に最適なようにプログラミングされているという。工場を作って野菜を栽培し収穫する、という一連のプロセスを考えるPBL的な学習にも取り入れられそうだ。

ミニやさい工場キット、下の部分に種を入れて家庭でスプラウトを栽培することができる

筆者にとっても初めて見るモジュール型の教材も発見した。こちらは、株式会社VIVITAが開発した「VIVIWARE Cell」という教材。ハードウェアとソフトウェアのセットになっており、セルそのものも透明になっていて、中の仕組みも覗けるようになっている。

VIVIWARE Cellの豊富なモジュールとプログラミング環境

会場内をうろうろしていて、見つけたのが不思議な一角。あえて説明員を置かず、電子回路むき出しのプログラミング教材だけが並んでいる教育用ロボットプログラミングキットの老舗、ダイセン電子工業ブースだった。壁に貼られていた社長からのメッセージの潔さに感動。

搭載しているセンサーの種類、数によって異なるモデルのロボット教材が整然と並んでいる。基板むき出しの余計な飾りがないロボットたとにも好感が持てた。こういう展示の仕方もあるのだなあと感心した。

「対面での商品説明を自粛します」という文言に衝撃を受けたダイセン電子工業のブースとロボットたち

体験して交流する場と、あらためて気づいた時間の価値

Kano PCを展示されていたリンクスインターナショナルのブースでは、未販売の専用WebカメラとマウスとKano PCが展示されていた。Webカメラはフレキシブルなアームでかなり自由に向きを変えることが可能で、書画カメラのような使い方もできるのが面白い。マクロ撮影用の切り替えレンスもついているそうだ。

未発売のWebカメラとマウスがつながったKano PC
iPad用のJIS配列キーボードも展示されていた

実は先日、個人でKano PCを購入して実際に組み立ててみたものの、しっかりはまった透明なカバー部分を後からはずせないだろうかという素朴な疑問があったのだが、ブースで質問ができてよかった。誰にも聞けずに困っていたのである。

「いやー、それ私も同じ疑問があったんで聞いてみたんですよね。口で説明するのが難しいんですけど、要するに恐れずに力を入れて開ければ大丈夫です。そう作ってあるそうです」との立ち話的ご回答をいただけた。これで安心して開けることができそうです。

また、しれっと展示されていたのがiPadとLightningケーブルで接続できる「JIS配列」のキーボード。それがなに?という人も多いかもしれないが、実は一般的なJIS配列のキーボードをiPadに接続しても、なぜかUS配列として認識されてしまうのだという。しかし、同社はその問題を技術的に解決し、JIS配列として認識させることを実現したという希有な存在。個人的にもちょっと欲しくなってしまったのは内緒である。

ユカイ工学のブースでは、「ユカイな生きものロボットキット」と「ココロキット」が展示されていた。実は筆者、この2つを入手していたのだが未開封であった。ロボットキットの方はともかくとして別パッケージの「ココロキット」ってなんだろうと、ついそのままにしていたのだ。説明員の方のお話でようやく腑に落ちた。ハードとしてのロボットに"ココロ"、つまりプログラミングをできるようにするためのオプションだったのだ。その場で「だからココロなんだー」と叫んでしまった。Bluetoothで接続し、PCで独自拡張したScratch3環境を使ってプログラミングできるそうである。

ゆかいな生きものロボットたちとココロを与えるココロキット

体験という点では、本田技研のブースは従来のEDIXでは見かけない展示だった。なんとも可愛いミニロボット「ropot」君である。マスコットのようなこのロボット端末をランドセルにとりつけることで、子どもたちに交通安全のナビをしてくれるというもの。

ランドセルに装着するミニロボット端末ropot

ブース内では、ランドセルをしょって実際に体験できるようになっていた。自動車に扮した担当者が接近してくるとそれを察知して振動して知らせてくれるという楽しいデモ。いい年こいたおじさんが、童心に返って(苦笑)体験させて貰ったのだが、最初何が起こっているかよくわからず(振動はしっかりしていた)、後を振り向くと車が来ているというありさま。最近は音が静かな車も増えているので、こういうことは実際にあるのだろうなと思った。

ブースの都合上、比較的至近距離での反応だったが、実際の道路ではもっと離れている段階で反応するそうだ。ココロキットのように、このロボットに個性を与えるプログラムを子どもたちが取り組んでみたら面白いと思った。例えば、振動する代わりに、持ち主の名前を叫ぶとか。

いい年こいたおじさんも体験してみた

実際に話をして体験していると、いろいろと考えが浮かぶものである。本来イベントの意味とはこういうことなのかもしれない。

今回のEDIXは、コンパクトになった分、ブース単位での体験や担当者との話をゆっくりすることができて、個人的にはむしろよかった。来年以降どうなるのか予想するのは難しいが、ひとつのモデルケースにはなるのではなかろうか。

これから小中学校の現場では、いよいよGIGAスクール構想の実施が進み、1人1台のICT端末のさらにその先の、個別に最適化された新しい学習システムの構築へと向かっていく。児童生徒たちがのめり込む学習体験をICT環境やSTEAM教材を組み合わせて、どうデザインしていくか。役者はすでに出そろってきた。ここからが、先生たちの腕の見せ所になってくる。

しかし、その研鑽のためには、今回のEDIXのように体験や交流が可能な場と、先生たちが自由に使える時間が必要だと筆者は思う。子どもたちとあわせて、先生自身の学習と働き方を見直すよい機会なのではないだろうか。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。