こどもとIT

教育現場はChromebookが本命? 主体的な学びを実現するために、クラウドが欠かせない理由とは

――第10回 教育ITソリューション EXPO(EDIX)レポート④

2019年6月19日~21日に開催された「第10回 教育ITソリューションEXPO(以下、EDIX)」では、初出展のGoogleが圧倒的な存在感を見せつけた。会場の入り口付近に巨大ブースを設け、イベント期間中は多くの来場者が詰めかけた。Googleはどのような教育ビジョンを描き、どのようなソリューションを提供しているのか、今年のEDIX全体の様子を元にレポートしよう。

Googleブースのハンズオンセミナーの様子

先生の口コミで広がったChromebookの魅力

最初に、Google for Educationマーケティング統括部長 アジア太平洋地域 スチュアート・ミラー氏による講演の内容から紹介しよう。同氏は、「AI時代を生きる子供たちのこれからの教育とは~世界で採用されるGoogle for Educationの成功事例とともに考える~」というタイトルで、Googleが展開する教育事業やビジョンについて語った。同講演は、EDIX開催前から「満席」となり、来場者の関心も高かったセッションだ。

流暢な日本語を話すミラー氏は、アメリカのユタ州出身だ。小学校の頃から文章の作成や算数の問題演習などにコンピュータを活用する教育を受けて育ち、大学卒業後は来日して、静岡で英語教師として4年間務めた。その後、アメリカに戻ってMBAを取得し、Googleに入社。現在は、3人の子供を日本の公立小学校に通わせるなど、公私において日本の教育現場をよく知るエグゼクティブだ。

Google for Educationマーケティング統括部長 アジア太平洋地域 スチュアート・ミラー氏

そもそも、Googleは教育で何をめざしているのか。ミラー氏はこれについて、「自分たちは“学習に刺激を”をミッションに動いている」と述べた。学習をより楽しく、より良いものにするために、いつでも、どこでも、予算に合わせた教育環境の実現をめざしているという。具体的には、ハードとして「Chromebook」を、ソフトでは無料・無制限で使用できる「G-Suite for Education」を用意し、これら2つを合わせて、「Google for Education」と呼ばれるソリューションを教育分野で展開していると語る。

Chromebookユーザーは3,000万人を突破し、G Suite for Educationも8,000万人のユーザーがいるという

ミラー氏は、これから訪れるAI時代に必要な教育として、「子供たちがAIとは何か、その基本的な知識を理解することが重要だ」と述べた。なぜなら、AIは多くの社会問題を解決する可能性を秘めているからだと同氏は説明する。画像認識や自動翻訳、自然言語処理、音声認識など、すでにGoogleが提供するサービスにおいてもこうしたAIが使用され、多くの課題解決につながっている。AIはすでに我々の生活の身近なところに来ているのだ。

Googleでは、教育分野におけるひとつの取り組みとして、文科省・総務省・経産省の3省が実施する教育プログラム「未来の学び プログラミング教育推進月間」に、AIとプログラミングが学べるカリキュラムを提供している。学校の授業で教育者らがどのようにAIやプログラミングを教えるのがよいか、授業案や動画教材などを用意し、無料で公開しているのだ。

Googleは「未来の学び プログラミング教育推進月間」にAIとプログラミングが学べるカリキュラムを提供

またGoogleでは、2018年に日本の教育者や保護者に対しても意識調査を行っている。同調査は、アメリカの非営利教育団体「ISTE(International Society for Technology in Education)」が示すAI社会に必要な7つのスキルのうち、トップ3を尋ねたものだ。日本では「主体的に学ぶ力」「情報を活用する力」「創造的なコミュニケーション能力」の3つが上位を占めた。ミラー氏は、こうした能力を育成するために必要な環境として、①学習者が興味・関心を持って探求できる環境、②関心があるものを探求するための自由時間のある環境、③課題を解決する情報にアクセスできるインターネット環境、④生徒と一緒になって話し合い・考え・導く教師のいる環境、の4つを挙げた。

アメリカの非営利教育団体「ISTE」が示したAI社会に必要な7つのスキルのうち、日本の教師や保護者らが重要だと考えるスキルについてGoogleが独自に調査した結果

そこから話は、「Chromebook」と共同編集ツール「G-Suite for Education」に移った。Chromebookについては、2010年にアメリカで発売した後、2014年には同国の教育分野でトップシェアになったと紹介。ミラー氏は、「教育分野でChromebookが広がったのは、先生の口コミによるもの。使ってくれた先生が“こういうデバイスを使いたかった”と言ってくれた」と述べた。

またG-Suite for Educationについて同氏は、「クラウドだからこそ、主体的で対話的な学びが実現すると考えている」と言及。生徒同士が共同編集で作業を進めたり、ひとつの情報を共有しながら意見を交わしたりと、クラウドの活用は、新たなコミュニケーションやコラボレーションが生まれやすいというのだ。また、“データ容量がいっぱいになることもない”、“OSは自動アップデート”、“オフラインでも使用可能“といったG-Suite for Educationのメリットとともに、授業で活用することにハードルの高さを感じる教員もいることから、「教員研修の体制も整えている」と紹介した。

複数人が同時にアクセスし共同編集できるGoogleドキュメント
クイズやアンケート、小テストなどに使用できるGoogleフォームは、解答結果がすぐに集計・自動採点されるので、終わった瞬間に点数や誤答も分かる。検索のAIが動いており、小テストの場合は問題の内容を把握して、生徒がミスしそうな選択肢も表示してくれるという
表やグラフを提案してくれる機能もあるGoogleスプレッドシート
Googleで画像検索した画像をそのまま扱えるGoogleスライドは、再使用が許可された画像のみ検索結果として表示されるなど、著作権にも配慮されている
Googleが提供する教員サポートリソース

共同編集ツール「G-Suite for Education」と「Chromebook」を合わせた教育ソリューション「Google for Education」を使うメリットについて、ミラー氏は“簡単”“手頃な価格”“高い汎用性”“高い効果”の4つを挙げる。

特に、Chromebookに関しては、使いやすくて頑丈であることや、開いて8秒以内に立ち上がる起動の早さ、3万~7万円台の手頃な価格帯で購入できる点を強調した。また、Chromebookは端末管理についても簡単であると紹介し、クラウド型管理コンソール「Chrome Education ライセンス」によって、何百台、何千台もの端末を1台で簡単に管理できると述べた。実際に、学校全体の時間削減、コスト削減にもつながっているという。

Chromebookはクラウド型管理コンソール「Chrome Education ライセンス」を活用することで、端末管理に費やす時間を大幅に削減
Chrome Education ライセンスは、端末あたり4,200円の永続ライセンスでランニングコストが発生しないため、他のタブレットと比較してTCO(Total Cost of Ownership)を大幅に削減できる

最後にミラー氏は、「Google for Education」の導入事例として、埼玉県と東京都町田市の取り組みを紹介した。これら2つの自治体とも、Chromebook導入の背景は異なるが、結果として学校全体の時間的、コスト的な削減につながっている。また同氏は、埼玉県と町田市の動画も紹介し、その中で子供たちが話す“学習が楽しくなった”、“自分のペースで進められるのが良い”といったコメントは、極めて重要であり、Google for Educationは学習に刺激を与えていると講演を締めくくった。各自治体の詳細については、下記の動画を参考にされたい。

埼玉県が取り組む協調学習では、紙ベースの教材の配布や回収、意見共有が課題となっていたが、ChromebookとG-Suite for Educationの活用でこれらのリアルタイムの意見共有をスムーズにし、生徒同士の対話が増える学習につなげている
東京都町田市はChromebookをLTE接続で利用、働き方改革として教師全員に一人1台の端末を配備し、いつでも、どこでも、効率的に時間を活用できる環境を実現することにより、教師の退勤時間が平均で1時間早くなったという

ハンズオンセミナー、プレゼン、Chromebookの展示、大盛況のGoogleブース

会場の入り口付近に設けられた巨大Googleブースは、イベント期間中、大勢の来場者で賑わった。ブース内では、「デモシアター」と「プレゼンテーションシアター」の2つのセクションに分けられ、一日を通してさまざまなプログラムが用意された。デモシアターでは、主に「Google Classroom」や「Google Earth Education」のハンズオンセミナーや、Googleのパートナー企業によるプログラミングや授業支援ツールのソリューション紹介、また教育系YouTuberとも呼ぶべき、YouTubeで活躍する教育クリエイターらもセッションに登壇し、一際、来場者らの目を引いた。

65万人近くの登録者を誇るYouTubeチャンネル『とある男が授業をしてみた』から、YouTubeクリエイター 葉一さんが登壇

プレゼンテーションシアターでは、前出の埼玉県や東京都町田市など「Google for Education」を導入した自治体や私立学校の関係者らが、活用事例などを紹介するセッションが実施された。

なかでも興味深いのは、八千代松陰中学校・高等学校の井上勝氏によるプレゼンテーションだ。同氏は同校の取り組みを紹介する中で、プログラミング学習として、ChromebookでPythonを利用する方法を紹介した。一般的に、Chromebookではプログラミング教育がむずかしいと考える教育関係者は多いが、簡単な設定変更や専用ツールを使うことでChromebookでもPythonを扱うことができる。

八千代松陰中学校・高等学校の井上勝氏
Chromebook(※注)の設定画面で「Linux(ベータ版)」を「オン」にするとLinuxアプリをインストールする画面になる
Linuxターミナルで「python3」と入力すると、インタラクティブシェルが起動する
さらに簡単にPythonを扱える方法として無料の「Google Colaboratory」も紹介、ブラウザ上で利用するためインストールの必要もない

※注:Googleは2019年5月に開催した開発者会議「Google I/O 2019」において、2019年発売のChromebookは全てLinuxが使えるようになる、と発表している。Linuxの利用を検討する場合は、事前に対象機種かを確認されたい。

もちろん、Googleのブースでは各メーカーが提供するChromebookも展示され、来場者らは実際に触って使用感を試していた。ブースに立ち寄った来場者にChromebookについて話を聞いたところ、「キーボードがついている」「低価格」「端末管理がしやすい」という点で興味を持っている関係者が多かった。昨今の傾向としては、タブレット端末よりもキーボード付きのPCを選択する関係者が増えているが、これには大学入試改革や英検で導入されるCBT(Computer Based Testing)が影響しているのは間違いないだろう。

Acerはスタイラスペン付属のタブレット「Acer Chromebook Tab 10」を展示
Dellは3モデルの教育機関向けChromebookを展示
ASUSは豊富なラインナップに加え、2019年6月に発売されたばかりのスタイラスペン付属のタブレット「Chromebook Tablet CT100PA」を展示
Lenovoは11.6 型回転型マルチモード2 in1の「300e Chromebook」(写真左)と「500e Chromebook」(写真右)を展示

LenovoはChromebookの導入からサポートまでの定額プランを提供

教育関係者らがChromebookに興味を持つのは、低価格や簡単な端末管理に魅力を感じているからであるが、そもそもの背景として、「限られた予算内で、一台でも多く端末を導入したい」という想いや課題感を持っている。新学習指導要領ではプログラミング教育や情報活用能力の育成など、ICTを活用した学習が多く求められており、教育関係者らは、多くの学校やクラスで、子供たちが同時に使える環境を実現したいと考えているからだ。

そうした教育関係者には、Chromebookの導入からサポートまで定額プランで利用できるLenovoの教育ITパッケージ「ICT Goodstart」がひとつの選択肢として有効だろう。同パッケージでは、Lenovoが提供するChromebookを使い、教育クラウドプラットフォーム「まなびポケット」内のサービスが使いたい放題。まなびポケットには、学習ドリルや授業支援ツール、学習ポータルなどさまざまな教育サービスがシングルサインオンで利用できる。また「ICT Goodstart」では、Chromebookの故障や破損、ICTの困りごとなど、導入後のサポートについても追加料金なしでサービスを受けることができる。保守・サポートの予算を削減できる分、端末の追加導入に充てられるのではないだろうか。もちろん、Chromebookなので、G-Suite for Educationも利用できる。

Chromebookの導入からサポートまで定額プランで利用できるLenovoの教育ITパッケージ「ICT Goodstart」、ブースの担当者によるとChromebookのプランは1セットにつき5,000円/月とのこと
「ICT Goodstart」は、シングルサインオンで各種教育クラウドサービスが利用可能な「まなびポケット」が使いたい放題なほか、導入後の困りごとも追加料金ナシで相談できる

以上が、EDIX 2019におけるGoogle関連のレポートだ。2020年度の新学習指導要領実施まで残りわずかとなる中、今すぐICT環境整備に着手しなければ教育格差の拡大も起こりかねない。日本の子どもたちがより良い環境で学べるよう、今後もICT整備を急速に進めてほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。