トピック

ベビーカーを駅で借りる「ベビカル」が支持されるワケ

駅でベビーカーをレンタルできる「ベビカル」(JR東日本 大宮駅 みどりの窓口内)

シェアリングサービスが増えています。カーシェアリングやシェアサイクルなど、MaaS(Mobility as a Service)の利便性を享受した人も多いのではないでしょうか。

そんななか、子育てにもシェアリングサービスが進んでいます。ジェイアール東日本企画が運営する「ベビカル」は、駅や駅周辺のホテル・商業施設・レジャー施設等でベビーカーをレンタルできるサービスです。「子育て世帯の移動をもっと身軽に!」をコンセプトに2021年4月に始まりました。

ベビーカーのレンタルサービスといえば、月~年単位などの長期利用や商業施設内で利用ができるものが一般的です。ベビカルは、Webサイトから予約ができ、貸出場所までは身軽に移動し、外出先で必要なときに利用・返却するという特長があり、子育て世帯の移動の課題を解決するサービスです

サービス開始時の設置拠点は18カ所でしたが、2024年4月5日時点では206箇所
まで拡大。設置場所も1都3県から、1道1都2府29県の33都道府県に増えています。

なぜベビカルは誕生したのか、どんな利用が多いのかなど、ベビカルを担当するジェイアール東日本企画 谷井俊輝氏にお話を伺いました。

ジェイアール東日本企画 谷井俊輝氏

“家からベビーカー”以外の選択肢を

ベビカルは、JR東日本の社内新事業創造プログラム「ON1000(オンセン)」に応募されたアイディアから創設された事業です。現在ベビカルの統括を務めるジェイアール東日本企画の森 祐介氏が「駅でベビーカーをレンタルする」アイディアを提出し、1,000件を超える応募の中から採択されました。

「鉄道に限らず、公共交通機関はベビーカーを持ち込みづらい環境です。心理的なハードルもあります。交通事業者は専用スペースを設けるなどの設備面での整備を行なったり、子育て世帯向け車両やベビーカーの利用にご理解をいただるようなご案内を行なったりしているのですが、SNS等でお客さまの声をみるとまだご不安を抱えていらっしゃる方は多いですね。外出を控える方もいらっしやいます。

私やアイディア提案者の森も同じ体験をしています。そこで、『子育て世帯の移動をもっと身軽にしたい』という思いと、子育て世帯に『駅を起点した駅周辺の散策やお買い物を気軽に楽しんでいただくひとつの選択肢』にベビカルをご利用いただきたい、という思いでサービスを運営しています」(谷井氏)

ベビーカーは自前のものを自宅から持ってくるのが一般的だと思われますが、外出先でのレンタルには一定の需要があるそうです。

「家から駅までが遠くバスや自転車を使って移動されるお客さまにとっては、駅周辺でベビーカーを借りられれば自宅からは身軽に移動できるというメリットがあります。また、サービス開始前の実証実験時にはいろいろな施設を回遊したい、お子さまが大きくなってきてベビーカーなしで出かけたもののお出かけ先で疲れたり眠ったりしてしまう時に利用したいという声がありました」と谷井氏は話します。

ベビカルがサービスを開始したのが2021年4月22日。当初は東京駅、新宿駅、川崎駅、横浜駅、舞浜駅、立川駅、浦和駅など、首都圏主要駅を中心とした18カ所での貸し出しでした。

駅からベビーカーに乗るという提案

ベビカルでベビーカーを借りるには、Webサイトで会員登録し、利用場所を選択、利用開始/終了日時を指定し予約します。利用にはクレジットカードが必要です。

有人貸出では二次元バーコードを係員に提示、無人貸出では二次元バーコードを貸出機の読み取り部分にかざして借ります。

ベビーカーを返却すると利用終了となり、登録したクレジットカードで決済されます。料金は、一部の貸出場所を除いて最初の1時間が250円、以降30分ごとに100円が加算され、12時間の最大料金は1,500円です。予約時間は、1時間から最大7日間まで対応しています(いずれも2024年4月時点)。

サービスが始まった2021年は新型コロナウイルスの緊急事態宣言下で、外出を控える人が多かった時期です。近場へのお出かけで少しずつ街に人が増えるにつれ利用も増えていき、全国旅行支援と水際対策緩和によりさらにお出かけや旅行者が増えたことで、2022年10月以降は利用が激増しました。

無人店舗での利用方法

全体の75%が日常使いとして利用

旅行や観光の際に利用する人も多いようですが、実は日常使いの方が多いと谷井さんは話します。

「観光需要はもちろんあり、新幹線や飛行機にベビーカーを持ち運びたくないという方が、旅先でベビカルを数日に渡って使うという例があります。2022年11月頃から、旅行支援などで外出しようというムードが高まって利用は増えましたが、観光や旅行のための利用は全体で見ると約15%です。

2024年現在、観光時の利用は約25%と増えましたが、約75%は近くへのお出かけやショッピング、通院、保育園の送迎などの日常使いでご利用いただいています。

お客様アンケートによると、ベビーカーを購入されている方が約75%。自宅にはあるけれど持って出るのは大変、買い物中にぐずってしまった、途中で寝てしまったときなどにベビカルが役に立っているのかな、と私も経験者として想像しています。月に10~20回ほどご利用いただくお客さまもいらっしゃり、こちらは想定外でした」(谷井さん)

観光需要はありますが、割合としては日常使いの方が高いそう

子育て支援に協力的な加盟店によって設置拡大

206箇所の設置拠点で特にご利用が多い場所は、東京駅と駅たびコンシェルジュ仙台、舞浜駅、大阪駅、京都駅、葛西臨海公園駅などとのこと。

なかでも駅たびコンシェルジュ仙台は、首都圏からのユーザーと東北からのユーザーが半々くらいで、旅行と地元利用がマッチした貸出場所。ガラス張りの店舗にベビーカーを並べているため、よく目に付くことも好評の理由ではないかと谷井さんは分析します。

ヘビーユーザーが多い拠点となると、池袋駅、所沢駅、さいたま新都心駅などが浮上。家から駅までにバスを使う層などの利用が多く、日常使いとしてリピーターが多くなるとのことです。

仙台駅の駅たびコンシェルジュ

海外からの観光客による利用も増えています。大きなスーツケースを抱えて来日されるため、ベビーカーは現地で借りたいと思う人が多くいます。もっとも多いのは台湾からの観光客で、宿泊先である台東区、新宿区、港区、千代田区の貸出場所での利用が多いそうです。

ベビカルの貸出場所は、観光の着地点や年間の出生数が多い地域から、導入のための営業をしているそうですが、導入には「加盟店様のお力(理解)が大きい」と谷井氏は言います。

手荷物預かり所や観光案内所、ホテル等の観光・サービス業は既存サービスの提供で大忙し。加盟店方式をとっているベビカルは、加盟店候補がベビカルの導入を決定しないとサービス開始できません。

有人貸出の場合は、、導入費用やランニング費用はかからず、投資なしで導入可能。ただ、観光業が盛り上がっている今、他の業務が忙しい、省人化したいという声もあります。

「ベビカルを導入しても、大きな収益に繋がることはまだありません。駅や商業施設にスペースがあるなら、自動販売機やロッカーを置いた方が稼ぎますよね。それでも、加盟店さまの貴重なスペースや有人対応時間にベビカルを選択いただける。子育て世帯をサポートしたい、という優しい気持ちで手を貸していただける加盟店さまがいらっしゃることで206箇所まで拡大しました。なかには、『すぐに導入したいんです』と加盟店さま側からお問い合わせいただくこともあります」(谷井氏)

今後、エリアを拡大していくことで、ユーザーがもっと便利に使えるようにしたいと谷井さんは話します。ユーザーにとってお得に利用できる料金体系なども検討していくとのことです。

都営地下鉄大江戸線 上野御徒町駅「こどもスマイルスポット」

「E5系はやぶさ」ベビーカーは子鉄・ママ鉄から熱視線

利用が次第に増えていくなか、オリジナルベビーカーを作るアイディアが持ち上がりました。2020年頃「こんなベビーカーあったらいいな」とチームで話していたアイディアです。ベビー用品メーカーのコンビに企画を提案し、子供が乗りたくなるベビーカーとして、「新幹線E5系はやぶさ」をイメージしたベビーカーが生まれます。

「お子さまから人気の高いはやぶさをモデルに、東京駅、仙台駅、上野駅というはやぶさの停車駅でレンタルを開始しました。2023年7月のことです。とても好評だったので、2024年3月に「E7系かがやき」ベビーカーを制作、北陸新幹線金沢~敦賀間開業と同じ3月16日より、北陸・上越新幹線の停車駅など10カ所でレンタルを開始しました。SNSに投稿したところ、リポストといいねを多くいただきました。現在でも大人気です。コンビさんの安心感と社内突破、鉄道コンテンツが掛け合わさって良いものができました」(谷井氏)

「はやぶさ、かがやきがデザインされてても0才の子にはわからないのでは?」とコメントいただくこともあるそうですが、谷井氏は「鉄分補給。絶対わかるから乗せてみてください!」と答えているのだそうです。

北陸新幹線敦賀延伸と合わせてサービスを開始した「E7系かがやき」モデルベビーカー
はやぶさモデル(左)、かがやきモデル(右)

「オリジナルベビーカーはご旅行の思い出にご利用いただきたいです。ご利用が増えて駅で目にするようになると、駅員さんや電車の乗務員さんもうれしい気分になると思うんです。お子さまが小さな頃から鉄道コンテンツを愛していただけるというのは、うれしいですよ。駅でサービスを展開しているひとつの意味だと思っています」と谷井氏。

現在はレンタルのみですが、今後販売も予定しています。「オリジナルベビーカーを通じて、普段鉄道をご利用にならないお客さまにも、認知いただけたらと思っています。お子さまが小さい頃から鉄道コンテンツのファンになってもらうきっかけにもなります」(谷井氏)

JR東日本グループが取り組む“親・子” 向けサービス

ベビカルのほか、JR東日本グループの子育て支援事業「HAPPY CHILD PROJECT」 は、ベビカル以外にも、子供が改札を通過するときに親のスマホに通知を送る「まもレール」や駅型保育園を始めとした子育て支援施設があります。

また、社内新事業創造プログラム「ON1000(オンセン)」から事業化された小学生向けのお仕事体験の販売「ことむすび」、ワーキングマザー同士が会いたい人を探して、1on1で相談ができる企業向けキャリア形成支援サービス「PeerCross」など、働く子育て世帯を対象とするサービスを展開しています。

今後、子育て世帯を応援するJR東日本グループ内・外の企業や公共団体が連携することにより、ベビカルや“親・子”向けサービスの輪が広がっていきそうです。

鈴木 朋子

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー 身近なITサービスやスマホの使い方に関連する記事を多く手がける。SNSを中心に、10代が生み出すデジタルカルチャーに詳しい。子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。