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福井に新幹線が!! 出身者4名の「福井に新幹線が来るということ」

福井駅にて開業のカウントダウンボードが設置されています(2023年12月撮影)

3月16日、北陸新幹線福井駅・敦賀駅が開業しました。これまで北陸新幹線は東京~金沢間を結んでいましたが、延伸し、小松駅、加賀温泉駅、芦原温泉駅、福井駅、越前たけふ駅、敦賀駅に停車するようになります。

これにより福井県に新幹線が通ることとなり、福井駅周辺も整備され、名物である恐竜のオブジェも年々増えていました。Impress Watchでは編集部員、ライターともに福井県出身者が多く、今回の北陸新幹線開業で移動はどのように変わるのか、福井移動の思い出などを4名に綴ってもらいました(編集部)

年々増えていた福井駅周辺の恐竜のオブジェ(2023年12月撮影)

中林暁(家電 Watch編集長・鯖江市出身)

実家に最寄りのJR鯖江駅(2022年撮影)

「実は新幹線は福井までなんて来ないのでは?」と、数年前まではずっと思っていました。

福井県鯖江市で育った私は、30年以上前の子供だったころ、駅かどこかで「新幹線反対!」という看板を見ても、どこかで「こんな田舎に新幹線が来るはずがない」とあきらめのような思いもずっとあって、開業が迫る今でもどこか現実味が湧いてこない部分があります。

東京に住んでいる今、鯖江に帰省するときは、東海道新幹線で東京駅から米原駅で乗り換え、JR西日本の特急しらさぎで鯖江駅、というのがいつものルート。北陸新幹線で金沢回りでも帰られますが、本数や大雪のリスクなど考えて東海道回りが多いです。自宅から鯖江駅までは4時間~4時間30分ほど。

北陸新幹線が福井県まで届いた後、私にとって便利で時短になるかというと、実は難しいところ。

実家はいま最寄りのJR鯖江駅または北鯖江駅からでもクルマなしでは帰りづらい距離にあり、新幹線の最寄り駅となる予定の「越前たけふ駅」から実家までは、クルマでもさらに時間がかかりそうだからです。

発表されている時刻表を見ると、東京駅から最寄りの越前たけふ駅までは、3時間~3時間30分。越前たけふ駅は通過することも多く、1駅奥の福井駅で各駅停車に乗り換えて鯖江駅まで戻る形になりそうです。その各停も、もともと本数が少ないため、高校生のころ電車で福井市の高校まで毎日通っていたあの経路を、特急ではなくまた各停で乗るのか……と思うと懐かしいというより、ちょっと面倒な気もしています。

もちろん越前たけふ駅の近くに住んでいる人なら、新幹線ですごく便利になりそうですし、これからこの駅が栄えて、停車する本数が増えたり、周辺の地域やバスなど交通が便利になっていくことを切に願っています。

ネガティブなことも書きましたが、やっぱり新幹線が来るのは元県民として楽しみ。これまで福井からは金沢や名古屋、大阪などへは行き来がしやすかった一方で「東京から1本で行ける」ようになるのは大きなことです。

チケットに関しても、東海道回りのルートだと、変更したい時に窓口へ並ぶ必要がでてきたり、乗り換えの待ち合わせトラブルなど、これまで帰省の電車ではいろんなことがありました。北陸新幹線で一本化されれば、このあたりもスムーズになるのではと期待しています。

もちろん地元の産業にとっても大きなチャンス。福井県は「人口あたりの社長数が多い県」ともいわれる通り中小企業が多く、地元にも伝統産業を県外や海外まで展開しようと奮闘する同級生や、公務員として地元と都心を行き来しながら産業を助けてきた幼なじみもいて、とても尊敬しています。

私は編集者・記者としてこれまで福井の力になれたとは思いませんが、これまでの仕事では、東京の展示会で「鯖江産のスマートグラス」を紹介する記事を書いたり、最近では「星空の美しさを守る大野市の照明」を取材する機会もありました。まだまだ外からは見えていない魅力がたくさんあると思っています。

一方で、これから福井県の露出が増えていけば、東京の人々から見た時に、もしかすると、まだ洗練されていない一面が見えてきたり、ちょっと浮かれた行動や発言をする人が出てきたりするかもしれません。

私が東京へ出てきた数十年前は「同年代でも、なんて大人で、考え方や立ち振る舞いのスマートな人が多いんだろう」と圧倒された経験が多かったのを覚えています。

新幹線による今の盛り上がりムードがうまく地元の発展につながることを期待しながらも、東京など都会のみなさんに対しては「最近上京してきた人」を見守るように、どうか温かい気持ちで福井を見てもらえたらと思っています。

福井の冬のソウルフード「水ようかん」
夏に帰省した時に涼める「一乗滝」(福井市)。剣豪・佐々木小次郎がこの場所で「燕返し」を編み出したとの説も

蜂谷あす美(旅の文筆家・福井市出身)

東海道新幹線ひかり号で米原(滋賀県米原市)へ、北陸本線の特急しらさぎ号に乗り継ぎ福井で下車。これは私が上京以来、何度も繰り返してきた帰省路です。決して広いとはいえない米原の乗り換え改札は毎度混雑します。

東海道新幹線ひかり号
米原で特急しらさぎ号に乗り換えます

「帰りの米原の乗り換えが寂しい」

福井から出張や旅行で東京に出掛けた人たちから、この言葉を聞いたのは一度や二度ではありません。復路といえば時間帯も夕方~夜になりがちで、米原駅の在来線ホームは、新幹線ホームにくらべると少し薄暗く、それが寂しさに拍車をかけていたのかもしれません。

ある人は「どうしても我慢できなくて」と東京出張を飛行機に切り替えたことを打ち明けました。けれども私にとっては、この在来線ホームがふるさとの入り口に思え、親しみを感じていました。

しらさぎ号は米原駅を発車後、滋賀福井県境を越え、敦賀駅を過ぎ、北陸トンネルに入ります。所要およそ7分のトンネルではスマホの電波は入らず、窓に反射する己と向き合うように過ごすのが常でした。そして、身になじんだ「いつもの行程」を経ることは私にとって帰省の秩序、作法のようなものであり、景色の変化とともに少しずつ自分が福井の人間に戻っていくような気がしていました。

3月16日以降、私の帰省路は北陸新幹線へと移ります。記憶を重ねるように続けてきた米原経由の福井行き、それに幼少期から親しんできた特急列車たちに、ありがとうとさよならのメッセージを送ります。

西田宗千佳(ライター・丸岡町出身)

筆者は福井県丸岡町(現・坂井市丸岡町)出身である。

2022年10月現在で約76万人と人口の少ない県の割に、IT関連業界では、妙に福井県出身の人々に会うことが多いような気がしている。正確に統計をとったわけではないから「そんな気がする」だけで、実際にはそこまで偏りはないのかもしれないが。

とはいえ、某大手企業のトップと取材後の雑談中に、

「福井、戻りました?」
「一応先週。秋吉と8番食べてきたんで、思い残すところはないです」

と、福井出身者にしか通じない冗談を交わすくらいには関係者がいろんなところにいる……とだけ言っておこう。

郷土愛はそれなりにあるつもりだが、正直大学までは、東京に出たくてしょうがなかった。今も東京に出てきたことには一切の後悔はない。

1990年代までの福井は、書店の数も少なく、映画館も今のようにシネコンではない。ミニシアター系映画など、見る方法もほとんどなかった。同好の人々が集まるにも制限が多い。バイクも車も使えない年齢の学生には、単に窮屈で面倒な土地だ。今だって、民放は2局しかない。

この辺の感覚は、別に福井に限ったことではなく、他の地域でも同じような感じだったのではないだろうか。ネットとそれを活用するサービスが定着するまで、都会との格差は圧倒的で、憧れや閉塞感を感じていた人は多いはずだ。

今は環境も変わり、地方から都会を見る目も全く違う。特に30代以下の人々と話すと、地方と都市の関係を捉える意識に大きなギャップを感じることは多い。その世代から見た「都会と地方」論は色々興味深い話もあるのだが、本論ではないので、また機会があれば。

そんな背景もあり、今後さらに年を重ねても、筆者にとって郷里が「生活の場」に戻ることはないと思う。

だが、「桜」と聞いて思い出すのは、自分が通った小学校から毎日見上げていた、丸岡城を取り囲む桜並木だ。どんな桜を見てもあれを超えることはない。

どんなお城かは、名作映画『戦国自衛隊』(1979年版)をご覧いただきたい。現存する天守でかなり無茶な撮影をしているのがお楽しみいただける。以下の予告編動画で、チラッと映るシーンを頭出ししておいた。

福井は意外と遠「かった」

隣の街にあるならともかく、遠くにある実家に行く機会は減っていくもの。自分の生活圏が出来上がった年齢になれば、数年に一度しか帰らない人も多い。筆者は半年・1年に一回は必ず帰るので、まあそこそこまめな方ではある。

とはいえ、「大変だな」と思うこともある。

その1つが「帰郷にかかる時間」だ。

地図の上で言えば、東京からはそんなに遠く見えない。だが、結局ぐるりと回らないといけないので意外と時間がかかる。

以下の動画は、2015年にYahoo! JAPANが「Yahoo!ビッグデータレポート」として公開した動画だ。

「東京駅」を「平日午前7時」に出発、「徒歩」「車」「電車」「新幹線」「バス」「フェリー」「飛行機」を使って何時に到着するかを動画化したもので、本来はリニア中央新幹線開通後の変化を調べるためのものだ。

だがこれを見ると、北陸、特に福井は当時、東京からの直線距離の割に「到達までの時間が長い」場所だったことがわかる。

前掲の動画より抜粋。赤丸の部分が福井県北部だが、到達までには結構かかる

「これまで」は東海道新幹線で米原や名古屋まで移動して乗り継いでいくのが基本。米原経由で最短だと、3時間24分程度らしい。

福井県には民間旅客機が降りられる空港はないので、飛行機だと石川県・小松空港経由。フライトの所要時間自体は1時間10分程度なので長くはないが、そこから高速バスに乗り継いでプラス1時間。飛行機の搭乗待ちやバスの待ち時間を考えると、さらにプラス1時間は考えるべきだから、時間で言えば電車と大差はない。体がちょっと楽、というところだろうか。

コロナ禍で飛行機が減便されてからは、小松空港から福井への高速バスも大幅に減らされ、いまや朝夕4便しかない。電車への乗り継ぎを考えるか、バスの便を考えた上で飛行機を選ぶか……という選択肢を迫られる。

実家は坂井市丸岡町にあり、駅などからもそれなりに時間がかかる。というわけで、帰省にはまあまあ時間がかかったのだ。

もっと時間がかかる方から見れば「そのくらいで済むならまし」って話だとは思う。だがそれでも、乗り換え含めて「長いしめんどくさい」移動であるのは間違いなかった。

来ない新幹線が「やっときた」が……

一方で、福井人が北陸新幹線を「微妙な思い」で見ていたのも事実だ。

1980年代(すなわち筆者の子供時代)には一応ルートが公表されたものの、着工・開業までには時間がかかった。2015年に金沢駅までつながったものの、福井県民はさらに9年待つ必要があった。

諸々の事情があったのはわかっているが、まあ、あまり便利だと思ったことはなかったわけだ。金沢で乗り換える必要があるし、時間もそんなに変わらない。慣れた南回り(米原・名古屋経由)か、乗り換えありで北回り(金沢経由・北陸新幹線)か、飛行機か……の微妙な3択が続くのだろうと思っていた。

それが、コロナ禍を過ぎて急激に変わった。

北陸新幹線が停まる駅は劇的に周囲が変わり、昔の面影はどこにもない。数年ぶりに田舎に戻ると、田んぼの真ん中に見慣れない立派な高架も出来上がっている。

「新幹線など来ない」とどこか非現実的な印象があったのだが、こうなると、「ああ、やっぱり作ってたんだ」と改めて感じてしまった。

では北陸新幹線が延伸されるとどのくらい変わるのか?

福井・東京間の所要時間は2時間51分になるそうで、確かに30分くらい短縮される。

ただ重要なのは、時間が短くなることではない。乗り換えが不要になり、楽に移動可能になるのが大きい。飛行機と異なり、便をがっつり調べて移動する必要も減る。気軽さという点では大きく変わるのがありがたい。

……とはいうものの、これは筆者の実家が、福井県でも北側に位置しているからメリットが大きい、という話でもある。南側(嶺南地区)だと、時間的なメリットは小さくなり、コスト的にも従来通り南回りの方が有利になってくる。

また、福井から東京へ移動する人には有利でも、大阪・名古屋方面への移動は不利になる。特急「サンダーバード」の金沢-敦賀間運行が廃止になるので、敦賀での乗り継ぎが増えてしまう。

この辺も含め、福井への人流は、良くも悪くも大きく変わっていくだろう。それが地域にどう影響を与えるのか、本当のところは地域に住む人々にしかわからないとは思うが、実は時間以上に「いかに楽に移動できるか」の方がインパクトは大きいのではないか、と感じてしまう。

なお丸岡城では、3月23日から「丸岡城桜まつり」が開かれる。桜が満開になるのは4月に入ってからだが、ぜひ、満開の頃にどうぞ。北陸新幹線で降りてから、さらにバスで1時間くらいかかるので、あまりお手軽とは言えないのだが……。

丸岡城桜まつり

西村夢音(Impress Watch編集部・鯖江市出身)

なんといっても乗り換えがなくなるのが最高です。北陸新幹線福井・敦賀開業、本当におめでとうございます。めでたい。

東京でも福井でもさまざまな場所で見かけたカウントダウンボード(2023年11月撮影)

私は東京育ちですが、鯖江の病院で生まれ、鯖江に祖父母が住んでいたので、夏休みや冬休みなど、長期休みは必ず鯖江に帰省していました。大人になって子供が生まれた今も同じペースで帰省しています。

東海道新幹線のひかり号で米原まで行き、北陸本線の特急しらさぎに乗り換えて鯖江駅で降りるのが鉄板のルートです。東京-米原は2時間強、米原-鯖江は1時間、乗り換え時間を入れると所要時間は3時間20分くらいです。

1人で乗っていたときはひかりで富士山が見える席を予約し、乗り換え後は段々雪景色になる滋賀~福井を車窓から眺めるなどそれなりに楽しんでいましたが、子連れ帰省だとなかなかそうはいきません。

3歳児に3時間以上の電車移動はハードルが高く、途中で絶対に飽きます。できるだけ昼寝のタイミングに合わせ、移動時間に寝てもらうようにしていますが、米原での乗り換えで絶対に起きます。鯖江までの残りの1時間は塗り絵やシールなどでなんとか過ごす、というのが定番でした。

乗り換えがなければこのまま寝てもらえるのに……と何度思ったことでしょう。それが3月からは乗り換えなしで!!! 福井に行ける!!!!! 東京-福井の所要時間は2時間51分になるので、お昼寝を2時間くらいしてくれれば、あとの50分は乗車と降車のなんやらで過ごせる算段です。そんなにうまくいくかはわかりませんが期待します。ありがとう北陸新幹線。

ひかりで1時間ほど寝て、米原乗り換えで起きるのが3歳児の定番。米原~鯖江の1時間は寝起きで元気いっぱいなので飽きないよう色んなものを用意していました

福井駅は既に新幹線開業でお祭りモード。新たにカフェや商業施設、恐竜のオブジェもたくさんできています。電車と恐竜のオブジェが一度に見られるということで、息子のお気に入りスポットになっています。

開業前にできたスカイデッキからは新幹線ホームもチラっと見えるのですが、いざ目の当たりにすると結構感動します。それまではあまり自分事に思えていなかったのですが、新幹線用のホームに「福井」と書かれた行先表示板を見たら一気に実感が沸きました。

残念ながらずっと使っていた鯖江駅は新幹線停車駅にはなりませんでしたが、祖父母宅からは福井駅もそこまで遠くないのでこれからは新幹線開通の恩恵に与ろうと思います。

スカイデッキにも恐竜
スカイデッキからは新幹線用のホームもちらっと見えます(2023年12月撮影)
編集部