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コロナ禍を経て5年ぶりの日本上陸「シルク・ドゥ・ソレイユ」の再出発を見た

世界的サーカス・エンターテインメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」の日本公演『ダイハツ アレグリア―新たなる光―』が2月8日から、東京・お台場ビッグトップで始まりました。

シルク・ドゥ・ソレイユといえば、いまや日本の誰もが知る一大エンターテインメントですが、コロナ禍のため日本上陸は5年ぶり。待ち望んでいたファンも多いことでしょう。

コロナ禍の困難を乗り越え、シルク・ドゥ・ソレイユはどのように進化したのか。公演秘話を、2月7日に東京・お台場ビッグトップで開催された公開リハーサルの様子とともにご紹介します。

5年ぶりとなる日本公演は、3度目となる『アレグリア』シリーズ。過去に上演したものから一新され、大きく進化しています

コロナ禍で一時は全員帰国。経営危機に

シルク・ドゥ・ソレイユ(以下シルク)は、1984年にカナダ・モントリオールで誕生したサーカス・エンターテインメント集団。世界トップクラスのダンサーやアーティストによる高度かつ芸術的なパフォーマンスが観客を魅了し、これまで世界70カ国、450都市以上で公演を行ない、のべ2億1,500万人を動員してきました。

日本には1992年に『ファシナシオン』で初上陸し、『アレグリア』をはじめ『サルティンバンコ』『オーヴォ』『トーテム』など全13作品で1,400万人以上を動員しました。

ところが2020年、世界中を襲った新型コロナウイルスがエンタメ業界を直撃。当時、世界各地で行なっていたシルク公演も中止を余儀なくされました。2020年6月に飛び込んできた、シルクの経営危機のニュースに驚いた人も多いのではないでしょうか。

当時の緊迫した状況について、シルク・ドゥ・ソレイユ代表取締役社長兼CEO・ステファン・ルフェーブル氏は次のように振り返ります。

「私たちは2020年2月、世界42カ所でショーを行なっていましたが、3月の第2週には休演し、ショーを解体せざるを得ませんでした。当時何より最優先だったのは、世界中から集まっているパフォーマーやスタッフを一刻も早く自国に帰国させること。次々に国境が封鎖されていく中、時間との戦いでしたが、なんとか全員を無事帰国させることができました」

一方でシルク本体は経営危機に陥りましたが、経営陣は再建を目指して奔走。そうした困難を経て、アメリカでワクチン接種が進み出した2021年6月にはラスベガスでの常設ショーが復活し、2022年7月に日本再上陸が発表されました。

2022年7月に日本再上陸を発表(Photos courtesy of Cirque du Soleil)

一時休止をしていた間も、パフォーマーやスタッフたちも再び公演できる日を待ち望みながら、技術や演出をひたすら磨き続けました。その結果、コロナ前より、さらに進化した『アレグリア―新たなる光―』が誕生したのです。

「アレグリア」はスペイン語で「歓喜」を意味し、「変化への渇望」「闇に対する光の勝利」を作品テーマにしています。世界的なパンデミックを経て、新たなる「歓喜」を届けたいという想いから、海外テント公演の再開演目に選ばれました。

30年で日本独自の進化を遂げたシルク・ドゥ・ソレイユ

東京公演が行なわれているのは、フジテレビを間近に控えるお台場ビッグトップ。会場に近づくと、シルクを象徴する黄色と青のテント「ビッグトップ」が見え、それだけで何かが始まりそうなワクワク感を感じさせます。しかも仮設とは思えないダイナミックさ。

実はこのビッグトップ、世界公演ではシルクが自前で用意しますが、日本公演だけは主催するフジテレビが日本独自の環境に合わせて設営・管理しています。日本は地震や台風が多いため、日本の耐震基準に耐えうる強度を持つテントが必要だったのです。

会場に近づき、青と黄色のカラーリングのテントを見ると「ついにシルクがやってきた」と実感します
ビッグトップは、日本公演だけは主催するフジテレビが制作

一方、海外公演で使用するビッグトップには会場内に4本の柱があるため視界を邪魔してしまいますが、日本のビッグトップは強度を備えつつも柱をなくし、どの席からもステージがよく見える設計になっています。

ちなみにこのテントは東京公演後、解体して大阪会場へと運ばれますが、大阪公演までの期間はわずか2週間強。そのため骨組みだけは2セット用意しておき、先に大阪会場に骨組みを立ててスタンバイ。東京からテントが着いたらすぐに設営が開始できるシステムになっているそうです。

会場内。日本のビッグトップは柱がないため、どの席からもステージがよく見える設計になっています
ビッグトップ建設風景

圧巻の舞台演出とパフォーマンスに時間を忘れて酔いしれた

『アレグリア』と聞くと、「アレグリア~♪」というフレーズが脳内再生されるという人もいるのではないでしょうか。それもそのはず、過去に日本で行なわれた13作品のうち、1996年に『アレグリア』、2004年には『アレグリア2』と2回行なわれており、今回で3回目となるのです。

しかし今回の『アレグリア―新たなる光―』には、過去2公演と大きく異なることがあります。それは前述のように、コロナ禍による活動休止に大きくブラッシュアップされたこと。舞台演出から技術、観客を飽きさせないようにテンポまで工夫されているのです。過去公演を観たことがある人たちも「今まででの中で、一番素晴らしい!」と口を揃えます。

ジャーマン・ホイール。巨大な車輪を体重だけで回転させます(Photos: Cirque du Soleil 2021 / Costumes: Dominique Lemieux)
棒高跳びで使うポールの上でバランスを取るアクロ・ポール

実際、初めて観た筆者もオープニング早々、物語のような幻想的な世界に一気に引き込まれました。ミュージカルのような美しい動きの中に息を呑むアクロバティックなパフォーマンスが織り交ぜられ、ひとときも目が離せない状態に。

さらに2人のシンガーの圧倒的な歌声が会場内に響くとパフォーマンスが一気にドラマチックに、より幻想的に感じられます。

対となる存在として黒の衣装と白の衣装をまとった2人のシンガー。力強い歌声が会場を包み込みます

ちなみに公演は、ストーリーが分からなくても楽しめますが、事前にホームページなどでストーリーや登場人物を把握しておくと、アレグリアが伝えたい希望に満ちたメッセージをよりハッキリと感じられるかもしれません。

STORY

王を失くし、かつての輝きを失った王国。保守的な古い秩序と変化・希望を求める若い世代との間で勢力争いに揺れ動いている。かつて王に仕えていた道化師が不器用ながらにも王位を継承したかのように振舞う。力のバランスを変えようと若者たちが街の中から立ち上がり、やがて彼らの国に光と調和をもたらす。

宮廷の愚か者ミスター・フルールと貴族たち
暗く沈んだ世界に僅かな光をもたらすブロンクス。まるで絵画のように美しい跳躍姿に視線は釘付けです
アレグリアのテーマ曲の中、ブロンクスとエンジェルが空中で美しく神秘的なパフォーマンスを繰り広げます
公演のクライマックスであるフライング・トラピスでは、歓声が絶えず湧き上がりました

充実したグッズ販売にフードコーナー

公演以外の部分でも楽しめる要素を多数用意しているのが、日本公演の特徴。テントの中に一歩足を踏み入れると、すぐに舞台があるのではなく、ミステリアスな雰囲気のロビーに辿り着きます。ここにはフードコーナーがあるほか、100点近くのアレグリアグッズが販売されており、実はこれらのグッズの多くは日本が独自にプロデュースしたもの。

海外では、観客が自分のためにグッズを買うことが多いため、傘やTシャツなど数点しか用意されません。ですが日本では、お土産として購入する文化が根強く、グッズを求める人が多いそうです。

グッズショップにはミニタオルやアイマスク、キーホルダーなど、オリジナルアイテムが豊富。数百円から用意されています
劇場に来たら欲しくなるオリジナル・ポップコーンバケットは、塩味とキャラメルコーン味の2種類。ほか「アレ栗(グリ)アンパイ」「アレグリア アマグリアむいちゃいました」など、ユニークなオリジナルアイテムが購入できま
フードコーナーではドリンクやアルコール、軽食などを用意。事前にモバイルオーダーをしておくと、並ばなくても購入できるのでおすすめです

さらにありがたかったのは、トイレの数が充実していたことで、その数合計約100室以上。これだけあれば、トイレに並んでいる間に休憩時間が終わってしまい、お土産が見られなかった、ということはなさそうです。休憩時間も30分と長めに設定されています。

このように会場内にいる時間を丸ごと楽しめる工夫が凝らされているのも、フジテレビがシルク公演を30年にわたって手がけてきたからこそ。さまざまな試行錯誤を重ね続けてきたことで、この会場が出来上がっているのだと感じました。

仮設とは思えないほどトイレの数も充実。休憩時間も30分あるので安心です

今回、シルク史上最高ともいえる公演を観るチャンスが得られ、自分の中のサーカスの固定概念が大きく変えられました。コロナ禍の苦難を乗り越え、大きくバージョンアップしたという背景を思うと、その動きひとつひとつや力強い歌声にいっそうの感動を覚えます。

今までサーカスを観たことがない人、サーカスに興味がなかった人も、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

公演概要

東京公演:2月8日~6月25日 お台場ビッグトップ
大阪公演:7月14日~10月10日 森ノ宮ビッグトップ

田中 真紀子

家電を生活者目線で分析、執筆やメディア出演を行なう白物・美容家電ライター。日常生活でも常に最新家電を使用し、そのレビューを発信している。専門家として取材やメーカーのコンサルタントに応じることも多数。夫、息子(高校生)、犬(チワプ―)の3人と1匹暮らし。