トピック

編集部員が読んだマンガ2021 カラーレス・正直不動産・明日カノ・ファ美肉おじさん

年末年始、自宅や帰省先でのんびりマンガでも読んで過ごしたい、という方々に向け、編集部員が今年読んだマンガからお勧めをピックアップします。話題の新作から過去の名作まで主観全開で選んでいます。

編集部:臼田

正直不動産

嘘は上等、口八丁で売り上げナンバー1の不動産営業マン・永瀬。しかし、土地の“たたり”で嘘が一切つけなくなってしまいます。

突然、嘘が付けなくなってすべてをぶっちゃけてしまう永瀬。やむを得ず、「正直」を武器に悪戦苦闘を繰り広げるが成績は当然どん底に。しかし、その「正直」と「カスタマーファースト」がモットーの“使えない”後輩 月下に影響されながら、海千山千の不動産業界を生き抜いていく……

家を売る人、買う人、繋ぐ人の闇と正義、言い分・言い訳ががぶつかる様子と、交渉の場の臨場感に引き込まれて、1巻から楽しく読んでいますが、13巻まで来てもネタが付きずに、全くパワーダウンしていないあたり、不動産業界の闇を感じなくもありません。ともあれ大金が動き、一般の人にとっては人生で最も大きな買い物となる“家”の話ですから、様々な人生模様が楽しめます。

4月には山下智久主演でドラマ化も予定されているそうなので、年末年始に“予習”するのも良さそうです。

編集部:太田

ノー・ガンズ・ライフ

頭部が大きな銃になっている“拡張者”と呼ばれる主人公。この姿でもうツカミは抜群ですが、雰囲気に違わぬSFハードボイルド作品です。頭は銃ですが意外にも(?)バトルは見応えのある格闘戦です。一連の拡張技術で都市を支配するにまで成長した大企業、都市の警察や省庁、拡張技術に反対する団体、ヤクザと、さまざまな背景や思惑を持つ組織が登場するほか、過去の大戦から帰還した人、組織を牛耳る思想団体、企業に駒として育てられる子供たち……と、舞台装置もキャラクターの思惑も、巻を追うごとに複雑で読み応えがある世界になっていきます。

主人公はそこそこの年齢で、もがいたり成長したりといった少年マンガ的要素は少ないですが、その代わりに、周囲にいる少年・少女、生き別れた兄弟といったキャラクター達は、粗野で雑多な都市の中で、必死に自分の居場所を見つけて生きていく姿が描かれます。主人公の周りに現れる、そうした儚いキャラクター達と企業・都市とのコントラストが、この作品の隠れたハイライトかもしれません。

作品を読み進める間、刊行の間が開くと複雑になった設定や背景を忘れてしまうので、自分で用語やキャラクターの特徴をまとめたテキストファイルを作るという、古代のファンサイトのテキストコンテンツみたいなことまでしていましたが、それも含めて楽しい経験でした。最近発売された13巻で完結しています。

銃夢火星戦記

私の人生に影響を与えた3つのマンガ作品のうちのひとつ、「銃夢」(ガンム)の最新シリーズです。既刊の「銃夢」「銃夢 Last Order」に続く3つめのシリーズが「銃夢火星戦記」で、時系列では「銃夢」より前の時代、主人公の幼少期が描かれています。

銃夢はハードなSF作品で、格闘・バトルアクションを軸にしながらも、荒廃した地球と上空の空中都市における人々の生き様が描かれます。体を交換したり改造したりできる世界では、必然的に“人とは何か”という問いから、作品もキャラクターも逃れられません。銃夢では丁寧に、時に大胆に、この問いに答えようと試みています。

以前の2つのシリーズでは、主人公・ガリィの「過去を探す旅」と「自身の成長」という2つの要素が同時に進行しますが、さまざまな窮地を切り抜け挫折も味わいながら、どうしてこれほどまでに前に向かって進めるのか、読者も周囲のキャラクター達も、そして当のガリィ自身も確固たる答えは得られないまま、話は進んでいきます。それでも、死闘を繰り広げた人たちからの問いかけ、絆を深めた人たちとの思い出によって、自分自身の“今の存在”を揺るぎないものにしていきます。

銃夢はシリーズを通して大胆に哲学の領域に踏み込むほか、人の業、“夢の代償”といったテーマが重厚な舞台とともに描かれ、その圧倒的な格闘シーンの描写の中ですら“体を駆動する心の存在”に迫っていきます。連載時期は長期に渡るため「銃夢 Last Order」では過去の地球での戦いや格闘大会などにも多くのページが割かれ、ガリィが自分のルーツを知る唯一のよすがである武術を通じて、新たな境地に進もうと突き進みます。

この魅力的な、血の通ったキャラクター達の世界に感情移入し、自分がそこいると錯覚した時、ライバルが言う「ここが世界だ! ガリィ!」といった一見するとよく分からないセリフも、なぜこんなことを言うのかがありありと理解できて、ドンッと胸に響くようになります。

銃夢火星戦記は、「銃夢」では抜け殻から始まったガリィがまだ幼かったころの、ガリィの本質がどこにあるのかを(読者が)見極められる旅路のお話です。純真で泣き虫なあまりに脆弱なガリィと行動を共にするのは、複雑な背景を抱えながらもおてんばに振る舞うエーリカ。鮮やかすぎるコントラストですが、エーリカも(成長した後に)重要なキャラクターとして登場しているので、火星世界や大人たちに翻弄されながらもなんとか生きのびていく様子から目が離せません。ガリィが「銃夢」で唯一過去から持ち越していた“火星古武術”と呼ばれる、強力な戦闘格闘術が全盛を極めていた時代の話でもあり、その描写の出番は少なくなっているものの、格闘シーンへの期待値も相変わらず高いままです。

カラーレス

色が失われてしまい、人の顔が異形になってしまった世界で、色を取り戻すべく奮闘するSFガンアクション作品。色の力で勢力を拡大する「教団」との戦いが描かれます。物語としては序~中盤でしょうか? まだ全貌が分からない段階です。

基本はモノクロのマンガですが、カラーページといった分け方はせずに、コマの中で、作品世界で貴重な“色”の部分だけがカラーで表示されます。モノクロが基本のマンガを逆手に取ったような設定や内容ですが、作中で色が強い力の源にもなっているので、見た目にも作品世界を盛り上げてくれます。

編集部:西村

明日、私は誰かのカノジョ

少女漫画版ウシジマくんとも言われている本作。第1章がレンタル彼女の話だったのでこのタイトルですが、第2章はパパ活、第3章は整形依存症、第4章はホスト狂い(いわゆるホス狂)と、現代女性が陥りやすい闇が取り上げられています。

ウシジマくんのように借金の話ではありませんが、ハマってはいけない沼にズブズブ進んでいく描写がウシジマくんのようにとてもリアルです。リアルなんですが絵がキレイなので不快感なく読み進められます。

例えば4章のホス狂の話では、被り(同じホストを指名するライバル客)とTwitter上でお互いの悪口をエアリプするシーンがあります。2人は相互フォローじゃないけど、お互いアカウントは認知しているという状況です。

私の友人もホストにハマってまったく同じことをしていたので、取材力の半端なさを感じました。何かと話題のトー横キッズ(新宿歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿横にたむろする若者)も出てきます。

現在9巻まで発売されていますが、最新話は毎週金曜日0時に「サイコミ」で読めます。0時の更新を待っている読者が多く、コメント欄もかなり盛況で最新話とともに読者と感想を共有する楽しさもあります。コメント欄は若者言葉が頻繁に出てきており、私はここで「しごでき(仕事ができる人)」、「チュンカ(iTunesカード)」という略称を覚えました。

Thisコミュニケーション

ジャンプ主人公史上イチの悪人といっても過言ではない「デルウハ」が魅力的です。荒廃した世界で、人間によって不死身の体に改造された少女たちが怪物と戦うのが主なストーリー。

怪物と戦うためにデルウハが軍事的な指揮を執るのですが、不死身の体の少女たちは自分の力を誇示したく協調性がありません。デルウハは彼女たちをまとめあげるためにさまざまな策を練ります。

不死身の少女たちは「仮死状態になると約1時間前の状態で復活する」という特性があるのですが、デルウハはそれを利用して彼女たちの記憶を消去して統率します。人間関係のトラブルを、一度仮死状態にさせてなかったことにするところが興味深いポイントです。

あまり書くとネタバレになってしまうので控えたいですが、よくありそうな設定かと思いきや今まで読んだことのない展開に進んでいきます。主人公が悪人タイプの漫画を読みたい人にオススメ。5巻まで出ています。

ダークギャザリング

悪霊版ポケモンです。霊媒体質の主人公が家庭教師のバイトで小学生の夜宵ちゃんを教えることになるのですが、彼女もまた霊媒体質。夜宵ちゃんは両親を事故で亡くしており、その時に悪霊に連れ去られたお母さんの霊を取り戻すために主人公と心霊スポットを巡ります。

本作のポイントは、悪霊をただ成敗するのではなく、夜宵ちゃんがえげつない方法で手懐けて仲間にしていくところ。手持ちポケモンならぬ手持ち悪霊です。

悪霊たちは新たな悪霊と戦ったり、夜宵ちゃんの部屋でぬいぐるみに入れられて保管されたりするのですが、仲間だと思っていた悪霊が主人公を襲うこともあり一筋縄ではいきません。

ホラー描写は結構怖いのですがコメディとのバランスが絶妙で、ホラーがあまり得意ではない私でも引き込まれました。8巻まで出ており、ジャンプスクエアで連載中です。

編集部:清宮

異世界美少女受肉おじさんと

タイトルの読みは「ファンタジー美少女受肉おじさん」で、略して「ファ美肉」。VRで男性が女性のアバターを使って遊ぶ「バ美肉」から来ています。察しが良い人はこれでピンとくるかと思いますが、この物語は、異世界で金髪美少女に転生させられた冴えない32歳のおじさん「橘 日向」と、その幼なじみで生まれつき「完璧超人」かつ“カタブツ”の「神宮寺 司」による、おじさん同士のラブコメです。しかし、いわゆるBL作品ではなく、どこをどう切っても一般向けのコメディ作品になっています。

二人は子供の頃からの幼なじみで親友です。橘を女性にしたのは異世界の「愛の女神」ですが、橘が「こんなに女性にモテないのなら金髪美少女になっていっそ男にちやほやされたい」と酔った勢いで言った冗談を女神が真に受けて、橘を金髪美少女にしました。女神からしたら「願いを叶えてあげた」のですが、2人は納得できず罵詈雑言をあびせます。それに怒った女神は二人にある呪いをかけるのですが、呪いの正体は明かしません。ただ、二人がすぐに気づいたのは、気を抜くと「お互いを異性として見てしまう」ことです。呪いとは、お互いを好きになってしまう呪いなのでは? と互いに口には出さずとも察した2人は、「魔王を倒せば呪いは解ける」という女神の捨て台詞を頼りに、魔王を倒す旅に出ます。ただし、本当にそんな呪いがかかっているのかはわかりません。

また、異世界物と言えばチートスキルで無双ですが、この作品で橘は「絶世の美貌」以外、ろくなスキルはありません。「絶世の美貌」は、「ありえん美しさでみんながメロメロになりすぎる」とう能力で、出会う男ほぼ全員に求婚されるという面倒くさいスキルです(神宮寺は強靱な精神力で耐えています)。どうやらレベルが上がっても身体が成長せず、物理的に強くなる見込みもありません。その反面、「俺に出来ないことは無い」と豪語する完璧超人の神宮寺はさらに完璧度を増し、素手でモンスターを倒せる最強レベルの強さを備えて転生しており、「この世界でも神宮寺に助けられるのか」と割と真面目に葛藤したりもしますが、基本はギャグマンガです。

作画レベルも高く丁寧で、金髪美少女化してしまった“おじさん”を「あっ、かわいい」と思わせる画力があり、この作品を楽しめるかどうかはそこがスタートかもしれません。現在は全5巻まで発売され、2022年にはアニメ化も予定されています。

ザ・ファブル The second contact

昨年、22巻で第一部が完結した「ザ・ファブル」の続編です。ザ・ファブルの第一部では、最強の殺し屋である「ファブル」こと「佐藤」と、その仕事上のパートナーである「ヨウコ」が、殺し屋から足を洗うために一年間、人を殺さずに一般社会で過ごせるか試される、というストーリーでした。佐藤はいかにもマンガ的な「殺し屋」というイメージではないのですが、いざ戦いとなると、他の殺し屋とは格が違い、ほぼワンパンで倒します。勝負になりません。

しかし、素人に絡まれれば、わざとやられるフリをしてやりすごしたりもします。佐藤は「プロ」という言葉にこだわりがあり、ことある毎に「プロとして」が口癖。相手のパンチにわざと額を当てて相手の指を折り、キックに肘を当てて相手のすねを打撲させつつ、自分はやられた“フリ”をするシーンでは、相手に反撃していることを気取られずに、ダメージを与えます。わざと鼻を殴らせ鼻血をだし、泣きながら許しを請う自分の演技に心の中で「まさにプロ!」と悦に入るのです。

ただ、感情表現は乏しく、子供のようなところもあります。それが様々な人々と出会うことでいろいろなことを学びつつ、成長していく物語で、笑いとシリアスのバランスが絶妙です。一般生活を送りながらも佐藤は「ファブル」であることから様々なトラブルに巻き込まれ、プロとして、仲間を守りながら切り抜けていきます。

22巻の最後では、次の舞台はこれまでとガラッとかわり、全国を旅しながら「人助けをする」ようなストーリーになることが示唆されていたのですが、プロットが変更され、また元の舞台に戻ってきました。劇中でも「新型コロナ」が蔓延したという設定になり、あまり全国をうろうろできなくなったから、という理由です。

プロットが変更されたということで若干不安はあったのですが、読んでみればいつもの「ザ・ファブル」です。舞台が元通りということで、これまで出てきた登場人物が再登場するのも、それはそれでワクワクします。

約束の一年が終わったその後を描く新シリーズ。これからどんな展開になるのか期待したいところです。第一部未読の方はまずはそちらをお勧めします。

姫様“拷問”の時間です

まず、表紙からみて明らかですが、別に拷問のマンガではありません。残虐シーンは一切ありません。王女にして国王軍第三騎士団“騎士団長”の「姫様」が捕虜になったところから始まる、「食レポコメディ」です。

国王軍と魔王軍は長い戦いを繰り広げており、姫様はそうした中、意思を持つ聖剣「エクス」とともに魔王軍の捕虜となりました。尋問官は国王軍の避密を聞き出そうと、姫様に拷問をしかけるのですが……。拷問方法は「食欲」です。おいしい食べ物を見せつけて、姫様の食欲を煽ることで国王軍の秘密を聞き出そうという作戦です。そんなわけあるか、と思いますが、姫様は毎回、決死の思いで食欲に抵抗し、最後には屈して国王軍の避密をしゃべり、拷問官たちと一緒に美味しい食事を楽しみます。

焼き立てのトーストやたこやき、カップラーメンなど、ただ食べるのではなく、拷問官は毎回「意外な一工夫」を加えてきます。姫様は毎回そうした不意打ちに屈していきます。時にはゲームにも屈します。かわいい動物にも屈します。何にでも屈してよく喋ります。欲望に弱く親近感がわきます。そういえば、残虐シーンはないと最初に書きましたが、カップラーメンを食べたいという食欲にあらがうため、舌をかみ切って血を流すシーンはありました。別の意味で怖いですね。

しかし、秘密を喋っても、魔王軍はそれを活かせません。なぜなら魔王軍の「魔王」は、人の弱みになどつけ込まない、“人格者”だからです。見かけは怖いけれど実はいい人的な魔王、という設定はよくある感じはしますが、本作の魔王は徹底して顔以外は完全無欠の「善人」です。魔王軍の配下へのケアも抜かりなく、家族を大事にするカリスマ溢れる魔王です。しかも、本気を出すと結構強い、ということも明らかになりました。勿論、姫様にも分け隔て無く家族ぐるみで接します。ここまでくると実は悪いのは国王軍の人間なのでは!? という疑念も涌いてきます。

これまで、国王軍最強の武器や家宝の在処などいろいろと姫様は喋っていますが、魔王はコワモテの表情一つ動かさないまま「最強の武器など怖くて使えない」「家宝取ったらかわいそうだろ」と言って、秘密はあっさり無駄になりました。

ストーリーが進むと食レポ(拷問)意外の要素も増えてきて、結局のところ「姫様と魔王軍のゆかいな仲間達」というストーリーなのですが、登場人物全員が「良い意味で」ヌケていて明るく、悪い人が出てこない至って平和なコメディ作品になっています。年末年始ほっこりしたい方は是非どうぞ。現在全7巻で、1月には8巻が発売予定です。

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