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コロナ禍でも応援上映は健在。映画『リョーマ!』が無発声で盛り上がるワケ

映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』の“無発声”応援上映に行ってきました(会場:新宿バルト9)

映画館で映画を観ながら、掛け声をしたりペンライトを振ったりする「応援上映」。近年さまざまな映画で導入されていましたが、コロナ禍で発声が厳しくなってからは行なわれなくなっていました。

このまま応援上映という文化はなくなってしまうのか、と思っていたのですが先日新しい形の応援上映に参加する機会がありました。映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』の“無発声”応援上映です。

無発声なので上映中にできることは、拍手、手拍子、ペンライトを振ること。私自身、掛け声や声援を送ることが応援上映の醍醐味だと思っていましたが、実際に参加してみてわかったのは、無発声だからこその良さもあるということでした。

無発声でも劇場をペンライトが彩り、盛り上がっていました

ライブのように盛り上がれる『キンプリ』の応援上映

「応援上映」という言葉は色々なタイプがあり、『シン・ゴジラ』や『ボヘミアン・ラプソディ』などの大型作品で、上映中に観客が自由に声を出して登場人物の応援やセリフを言ったりする企画として楽しまれているものもあります。

ここで取り上げるのは、それらとは別に、応援を“前提”に製作された作品です。

無発声応援上映について話す前に、そもそもの応援上映文化についてまず紹介したいと思います。起源は諸説ありますが、近年では2016年に上映されたアニメ映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(通称キンプリ)が火付け役となりました。

キンプリは、歌って踊る「プリズムスタァ」を題材とした作品で、応援上映ありきで作られているのが特徴。作中にテロップが出て観客がアフレコできるほか、声援を送りやすいようにセリフに一定の間が置かれるなどの工夫がされています。

例えば主人公の一条シンが「みんなに、言いたいことがありま~す」と言えば、観客は一斉に「な~に~?」と応答。このほかにも、後輩キャラの香賀美タイガが先輩のライバルに向かって「カヅキ先輩がおめぇに負けるわけねぇだろ!」と言えば、観客は「そうだそうだ!」と同調します。

応援上映ブームの火付け役となった『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(C)T-ARTS/syn Sophia/キングオブプリズム製作委員会

この応援上映スタイルと、歌ありダンスありツッコミどころありの作品内容が相まって話題を呼び、最終的に興行収入は約8億円を記録しました。

応援上映の魅力は、観客がその場にいる人と空気を共有できること。盛り上がるシーンで一緒に声援を送ったり、スクリーンに映るキャラクターのテーマカラーに合わせてペンライトの色を変更したりと会場に一体感が生まれ、本当にアイドルのコンサートに行っているような気分になれるのです。

キンプリ続編で発売された応援上映グッズの修羅場うちわ。作中でも出てきます

一般映画にも広まった応援上映。トラブルも

話題が話題を呼び、その後応援上映はさまざまな映画で導入されました。大型作品では、公開から数週間後に応援上映イベントが開催されるということが度々あったのも記憶しています。

私もいくつか参加したことがあり、もちろん盛り上がる作品もあったのですが問題点もありました。発声可能ということで暴言を吐く人がいたり、応援上映と知らずにチケットを購入した人と声援を送る人で揉めるなどのトラブルが多々あったのです。

反対に、応援上映と思って来たはいいものの、どこで声援を送ったらいいかわからずイマイチ盛り上がらなかったということもありました。

そうした側面を持ちながら、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い多くの映画館が休業状態に。応援上映以前に、映画そのものが上映されない事態になりました。

2021年9月現在、ほとんどの映画館は1席空けでチケットを販売して営業しています。延期になっていた作品も公開されるなど、コロナ以前とは違う姿ではありますが徐々に活気を取り戻しています。

2021年9月現在、ほとんどの映画館は1席空けでチケットを販売しています

劇中歌8曲に人気曲メドレー。無発声でも盛り上がる映画『リョーマ!』

上述の映画『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』も9月3日に公開され、シリーズ初のフル3DCGアニメであることや、劇中歌が8曲あることなど、さまざまな取り組みで話題を集めています。また一部シーンが2タイプに分かれており、<Decide>と<Glory>の2つを同時上映するという方式も注目されました

ここで先ほど紹介した“無発声”応援上映の話に戻るのですが、『リョーマ!』は公開3週目から無発声応援上映が行なわれています。声援を送ることが醍醐味の応援上映で、無発声とは……? と思われるかもしれません。

無発声応援上映では、拍手や手拍子、ペンライトを振ることができます

しかし本作は劇中歌が8曲もあり、上映中にペンライトを振る機会が多いため、発声ができなくてもかなり楽しめるのです。

冒頭3分半の映像が公開されていますがこちらを見てもわかる通り、本編開始30秒で歌って踊っています。ちなみにこのシーンは原作『テニスの王子様』(以下『テニプリ』)の最終回と同じ場面。主人公の越前リョーマが、全国大会決勝戦で立海大附属中学校の部長・幸村精市と試合をするシーンです。

原作の最終回では、この回のために用意された新曲「Dear Prince~テニスの王子様達へ~」の歌詞が5ページに渡り掲載されています。映画『リョーマ!』冒頭3分半で歌われているのが、この「Dear Prince」なのです。

本編の冒頭3分半が公開されています

冒頭に名曲を持ってくることで見る人の心を鷲掴みにし、その後もテニスをしながら、歌とダンスのシーンが要所要所に出てきます。

「Dear Prince」以外の劇中歌は本作オリジナルで、作詞作曲はすべて原作者の許斐剛氏が担当。いずれも一度聞いたら忘れられないキャッチーなものばかりで、ペンライトを振る手が止まりません。

またスクリーンに映るキャラクターにあわせて、そのキャラにちなんだ色にペンライトの色を変えるのも、劇場に一体感が生まれる理由の1つといえるでしょう。

主人公の越前リョーマが歌っているときは、青春学園の学校カラーの青色に
終盤、柳生比呂士のソロパートでは所属する立海大附属中の学校カラーの黄色一色に。劇場に一体感が生まれていました

さらに本作で特筆すべきなのは、本編終了後にこれまでの『テニプリ』のキャラクターソングの人気曲メドレーを、原作のイラストで映像化した「シアター☆テニフェスpetit!(プチ)」が上映されること。

『テニプリ』はキャラクターソングが900曲以上あり、2タイプに分かれて上映される本編<Decide>と<Glory>それぞれソロ曲中心とユニット曲中心の構成で、各8~9曲が用意されています。

採用されているキャラソンはいずれも人気曲なので、テニプリファンなら一度は聞いたことがあるものがほとんど。本編同様に「シアター☆テニフェスpetit!」でも、劇場のペンライトは盛んに揺れていました。

終わった後は自然に拍手が起き、本物のコンサートに来ているような感覚になりました。コロナ禍でコンサートなどが満足に開催できない今、こうしたイベントがあるのはファンとしてはとても嬉しいことです。

劇場には「シアター☆テニフェスpetit!(プチ)」のセットリストも。この日は<Glory>の応援上映が行なわれました
木手永四郎のキャラソンのときは比嘉中カラーの紫に
四天宝寺オールスターのキャラソンでは黄緑に

無発声に活路。声を出すのが苦手という人でも楽しめる

なお本作は応援上映を想定して作られていたことが、監督の神志那弘志氏と原作者の許斐剛氏により明かされています。ダンスシーンの振り付けを、劇場で真似しやすく隣の人に迷惑がかからないようにと縦の動きが多いものにしたそうです。

無発声でも十分楽しめましたが、応援上映ありきで制作されたと思うと、やはり情勢が落ち着いたときには発声可能な応援上映も開催してほしいと思いました。

とはいえ無発声にもメリットはあり、声を出すのが苦手という人も気軽に楽しめるという側面があります。自分の行った回が盛り上がるか不安、ということも無発声だと気にする必要がないのも良いですね。

特に本作のように応援上映ありきで作られている作品は、声が出せなくても拍手とペンライトの光で盛り上がれるということがわかりました。

跡部景吾のキャラソン「チャームポイントは泣きボクロ」のときは、氷帝学園の学校カラーの水色に。曲中に「A・T・O・B・E」の掛け声がありますが、発声ができないので「T」の部分を2つのペンライトで表現する人もいました

現在は『リョーマ!』以外にも、歌謡コーラス・グループ「純烈」の映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』が無発声応援上映を行なっています。こちらも音楽ありの作品なので、無発声でも盛り上がれる仕様になっているようです。

発声可能になるのはしばらく先だと思いますが、今は無発声でも成り立つ作品が応援上映文化を牽引してくれるでしょう。

『リョーマ!』の無発声応援上映は今後、10月4日に<Glory>タイプ、10月7日に<Decide>タイプが開催されます。時間は異なりますが、上映中の劇場であればどこでも行なわれますので、応援上映が気になった方はぜひ一度足を運んでみてください。

(C)許斐 剛/集英社
(C)新生劇場版テニスの王子様製作委員会