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キヤノンとニコンの新機種は新時代の幕開けか。ミラーレスの10年を振り返る

この秋、キヤノンとニコンからフルサイズミラーレスカメラが発売され、カメラ業界は盛り上がりを見せている。しかし、「フルサイズ」「ミラーレス」のそれぞれの意味を理解していなければ、なぜ盛り上がっているのか、何がすごいのかサッパリという感じだろう。そこで、この記事では、満10歳を迎えたミラーレスカメラの変遷を、センサーサイズを軸に振り返ることで、いまカメラ業界で起きていることを理解できるよう紹介する。

左上:キヤノン EOS R、右上:ニコン Z 7、下:ソニー α7 III

ミラーレスカメラの登場

ミラーレスカメラが登場する前、レンズ交換式カメラといえばデジタル一眼レフカメラ(以下、一眼レフ)であった。

一眼レフにおいて、主流となっていたセンサーサイズは3種類。センサーサイズが大きい順に「35mm判フルサイズ(以下、フルサイズ)」「APS-C」「フォーサーズ」だ。過去も現在も、そのほかのセンサーサイズが存在するが、今回はこの3つに絞って話を進める。

一般的にセンサーサイズが大きいほうが、面積が広い分、高画素化などの点においてアドバンテージがある。半面、センサーサイズが大きい分、ボディが大きくなると同時に、装着するレンズも大きく、重くなる。

つまり、センサーサイズの小さなフォーサーズは、ボディとレンズを小さく、軽くできるというメリットがある。その特徴を活かして開発されたのが、それまでの一眼レフでは実現できなかったコンパクトサイズのレンズ交換式デジタルカメラ、いわゆるミラーレスカメラだ。

2008年8月に、フォーサーズ規格の一眼レフやレンズを採用していたパナソニックとオリンパスが、「マイクロフォーサーズ規格」を共同発表。システム(カメラとレンズ)全体の薄型化・小型化を追求することをアピールした。

その後、同年10月にパナソニックから「LUMIX DMC-G1」が、2009年7月にオリンパスから「OLYMPUS PEN E-P1」が発売される。いずれもミラーを廃することによる薄型化や、センサーサイズが小さいことを活かしたシステム全体の小型軽量化を実現していた。

パナソニック LUMIX DMC-G1(2008年)
OLYMPUS PEN E-P1(2009年)

ミラーレスカメラの、一眼レフとの大きな違いは、その名のとおり「ミラー」が「レス」、ミラーがない構造になっている点だ。ミラーの主な役割は、レンズを通過した像(被写体)を反射させてファインダー(光学ファインダー)に届けること。一眼レフではミラーおよびファインダーまわりの機構が必要な分、大きく、重くなる。

ミラーレスカメラでは、レンズを通過した像を直接センサーなどで処理をして、映像を背面液晶モニターやファインダー(電子ビューファインダー)に表示。その映像を見ながら撮影をする。

ミラーレスカメラは、1台だけで使用するカメラとしてだけではなく、一眼レフをメイン機とするユーザーが2台目のサブ機として使用するという用途でも親しまれた。

その後オリンパスが一眼レフ「E-5」を発売した以外は、2社ともにマイクロフォーサーズ規格準拠のミラーレスカメラを発売し続けた。この流れもあったからであろうか、もちろんレンズ交換式カメラのシェア争いという点で各社がしのぎを削りあい、ミラーレスも一眼レフも、高画質化や小型化、操作性の向上などの進化をしつつも、ミラーレスの領域はフォーサーズ(マイクロフォーサーズ)、一眼レフの領域はAPS-Cとフルサイズという、誰が決めたわけでもない境界線が、なんとなく引かれていた。

ソニーが挑戦的デザインのAPS-Cミラーレスを発売

2010年6月、ソニーがAPS-Cセンサー搭載のミラーレス2機種を発売した。「NEX-5」と「NEX-3」。特にNEX-5は、デザインも挑戦的だった。実際、カメラの知識がまったくない筆者の知り合いがNEX-5を購入したのだが、購入動機は「なんかかっこよかったから」と言っていた。そんな人は彼一人だけ、ということはなかろう。

ソニー NEX-5(2010年)

「APS-Cセンサー搭載のミラーレス」というフレーズはカメラの知識がある人にしか通用しない。デザインが、その外側を巻き込んだ。ソニーのNEXシリーズは、ミラーレス陣営にとっても、一眼レフ陣営にとってもライバルとしての存在感を増していった。

もしNEXがコケていたら……そんな“たられば”は無粋だろうか。

その後、APS-Cセンサー搭載ミラーレスは、現在も続くシリーズとしては、富士フイルムが2012年2月にXシリーズの「FUJIFILM X-Pro1」を、キヤノンが同年9月にEOS Mシリーズの「EOS M」を、シグマが2016年7月に「sd Quattro」を発売している。

FUJIFILM X-Pro1(2012年)
キヤノン EOS M(2012年)

FUJIFILM X-Pro1は中上級者、NEX-5/3とEOS Mはエントリーをメインターゲットとした仕様だったが、いずれもその後、ラインナップを拡充している。

マイクロフォーサーズはミラーレス、フルサイズは一眼レフという流れは変わらなかったが、APS-Cはミラーレスと一眼レフで選べる時代となる。

フルサイズミラーレスの登場

お待たせいたしました。ようやくフルサイズミラーレスが登場します。パナソニックがミラーレスを発売してから約5年。説明をコンパクトにしようにも限界があるのです。

レンズ交換式ではないが、ソニーが2012年11月に、フルサイズセンサー搭載のコンパクトデジタルカメラ「Cyber-shot DSC-RX1」を発売した。この時、何かを予感していた人は少なくなかったかもしれない。

2013年11月、「α7」「α7R」発売。フルサイズミラーレスの登場である。ミラーを廃しているので、一眼レフに比べればボディは確かに小さい。しかしレンズである。冒頭にもあるとおり、フルサイズセンサーの場合、レンズをコンパクトにしようにも限界がある。

ソニー α7(2013年)

同時に発表された標準ズームレンズのうち、比較的小型軽量の「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」でも最大径×長さが72.5×83mm、重さが295g。NEX-5のキットレンズの「E 18-55mm F3.5-5.6 OSS」は、62×60mm、194g。当時のオリンパスエントリーモデルのキットレンズ「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R」は、56.5×50mm、113g。望遠レンズとなれば、さらにその差は大きくなる。

このサイズ感、重量感、受け入れられるのであろうか? 受け入れられた。撮影対象となる被写体ジャンルにより異なると思われるが、ボディが小さいだけでも負担が小さくなったというユーザーの声も聞く。

α7シリーズは代を重ねるごとに性能、操作性とも向上していき、シェアを確実に伸ばしていく。さらにはα7シリーズにはない高速性能を備えた「α9」も登場し、ラインナップも拡充していった。

ソニーのフルサイズが売れることで割を食ったのが、フルサイズ一眼レフのシェアをほぼ独占していた、キヤノンとニコンである。この両社のカメラから、ソニーに乗り換えるというユーザーもいた。メイン機のポジションを奪い始めたのだ。

ちなみにカメラメーカーを乗り換える際、レンズもあわせて買い換えなければならないという経済的な面や、操作性が変わる点、そして愛着という面で、そのハードルは決して低くはない。

もちろん、使い続けている愛着のあるメーカーから、さらに魅力のあるカメラが出ることを期待するユーザーもいたし、実際魅力のある一眼レフは登場しており、そういった機種が発売されるたびに話題にもなった。それでも、ソニーのシェアが伸びたことも事実だった。

なお、NEXのラインは、α7発売以降、αシリーズに統合されている。

α7発売から約5年、キヤノンとニコンからフルサイズミラーレスが

この秋、キヤノンから「EOS R」、ニコンから「Z 7」「Z 6」という、フルサイズミラーレスが発売される。Z 7は9月に、EOS Rは10月25日に発売されており、Z 6は11月下旬に発売となる。

キヤノン EOS R
ニコン Z 7

α7発売後の、ユーザーのフルサイズミラーレスに対するニーズを把握した上で、ボディとレンズを開発できるアドバンテージは大きい。

EOS RもZも、小型軽量なシステムとは言えないが、一方で自社のミラーレスのシステムについてキヤノンもニコンも、レンズ設計の自由度の高さをアピールしている。キヤノンから発売されるズーム全域開放F2の「RF28-70mm F2L USM」、ニコンが開発発表している「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」は、その自由度が実現したレンズであろう。

ソニーも、キヤノンとニコンの動きを見て、また新しい挑戦によって、ユーザーを驚かせてくれるに違いない。

ソニー α7 III

他のメーカーに目を向ければ、パナソニックからは9月にフルサイズミラーレス「S1R」「S1」の開発発表があった。すでに発売されているオリンパスの「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」は、マイクロフォーサーズ用としては大きいが、高いレベルでの利便性と性能の両立が図られている。富士フイルムは、フルサイズよりもさらに大きなセンサーを搭載した「GFXシリーズ」を展開している。

また、ミラーレスよりも一眼レフのほうが有利な被写体ジャンルも数多くあり、光学ファインダーであることの魅力とあわせて、引き続き多くのユーザーが一眼レフを愛用している。

さらに、小型軽量のミラーレスを求めるユーザーがいなくなったということはなく、普段使いの1台として、なくてはならない存在である。

フルサイズミラーレスの話に戻すと、複数のメーカー、ラインナップの中から選べるようになった。これを機会に今まで使っていたメーカーやシステムから、別のものへ乗り換えるという選択肢が生まれやすい状況ともいえるだろう。カメラに限った話ではなく、どれにしようか迷うということは、楽しみのひとつ。フルサイズミラーレスでも、ようやくそれができる状況になったことが、カメラ業界が盛り上がっている理由のひとつである。

α7が登場してから早5年。キヤノンとニコンのフルサイズミラーレスは、「待望の」というにはいささか長いようにも思えるが、奇しくもミラーレスが満10歳を迎えた年の登場となったことを考えると、ミラーレスカメラの次の10年という新しい時代の幕開けの象徴といえるのかもしれない。