西田宗千佳のイマトミライ

第63回

次期iPhoneやPixel 5が起爆剤? 日本の5Gはどうなるのか

日本で5Gのサービスが開始してから、すでに4カ月が経過している。しかし、利用状況や端末の販売状況は芳しくない。それは5Gの価値を貶めるものではないが、日本での「5Gのブレイク」には、状況の変化が必要であることを示してもいる。

今回は、最近の携帯電話事業者の決算や端末の発表状況から、「今年後半以降の5G」について考えてみたい。

Pixel 4aと同時に告知された「次機種」と「5G版」

8月4日、Googleは新スマートフォン「Pixel 4a」を8月20日より発売する、と発表した。

Pixel 4a

Google Pixel 4a発売。42,900円

Googleはこのところ、秋にフラッグシップ製品を発表し、春にその廉価版を発売してきた。「Pixel 3」も廉価版の「Pixel 3a」が発売されていた。そのため、昨年発売の「Pixel 4」についても「4aがあるだろう」ことは噂されていた。

Pixel 4aは、Pixel 3と3aよりもさらに差異が小さい印象がある。「望遠」側のカメラがなく、非接触操作用のSoliレーダーがなく、カラーバリエーションもサイズバリエーションもない。動作速度も4より遅い。とはいうものの、操作感としては4に近く、手に入りやすい価格の製品として、よく出来たものだと思う。

4aの発表を見て、筆者は驚いた。だが、それは4aに関してではない。Googleが、4aと次期フラッグシップ「Pixel 5」の5G版の存在についても告知したからだ。

GoogleはPixel 4aの発表と同時に、同機種の5G版と、次期フラッグシップモデル「Pixel 5」の5G版を予告した

半年・一年後に出るのなら告知はいらない。普通に考えれば、数カ月以内に5G版が登場するからこそ、このタイミングで告知したのだろう。価格重視の「4a」と価格が上がる5G版では、購入顧客は必ずしもバッティングしない。しかし、5Gを求める顧客を逃さないように、ちゃんと「予告」しておきたい……。Googleの狙いはそんなところではないだろうか。

今年の後半からは「5G祭り」が始まる?!

Pixel 4aが発表された翌日には、サムスンが「Galaxy Note20」シリーズを発表した。人気ハイエンド機種であり、当然5G対応だ。Googleが「5Gの事前告知」したのは、翌日に大手が発表を控えていた……ということと無縁ではないのかもしれない。Galaxy Note20シリーズは日本でも発売されると見られ、秋以降に人気機種の一角となるのは間違いない。

Galaxy Note20

サムスン、「Galaxy Note20」「Galaxy Note20 Ultra」発表

だが、ハイエンドスマホとして考えた場合、巨大なライバルは他にもある。例年秋に発売される「iPhone」の存在だ。次世代モデルは5G対応になると予想される。噂は数あれと、発表前だからどのような端末になるかわかっていないし、価格帯もわからない。だが、注目されるであろうことだけは疑いない。

ソフトバンクの宮内謙社長は、8月4日に開催された、同社の2021年3月期 第1四半期 決算説明会で「晩秋から来年にかけて、5G祭りが始まる」と語った。これは、5Gのインフラ増強が加速することと、人気が出るであろう5G対応機種が多数登場することで、状況に変化が生まれる可能性を示してのものだろう。

ソフトバンク宮内社長、「晩秋~来年に5G祭りが始まる」

ソフトバンクの2021年3月期 第1四半期 決算説明資料より。5G比率を高め、2023年には6割に持ってくことを目標としている、という

ハイエンドスマホに減速の兆し

とはいうものの、インフラの課題はしばらく続く。すぐに5Gが4Gと同じように「どこでも5Gで繋がる」状況になると考えるのは難しい。5Gが上期に厳しい状況であったのは、5G対応端末がどれも高価であったためだ。5Gで接続できることが少なくて高価な端末である上に、新型コロナウィルス感染症の影響により、店頭を中心とした積極的な販売促進活動もできない。上期の販売が厳しいものになるのは、ある意味必然だ。

だから下期に出る人気機種に期待……というのは当然なのだが、「高価なハイエンド機種が売れづらい」という点に変化があるわけではない。景気減退や価格が上昇したハイエンドモデルの差別化が難しくなっていることもあって、世界的にハイエンド機種販売は伸びていない。

特に、新型コロナウィルス感染症による景気への影響は、今後さらにはっきりと現れる可能性がある。

ソニーの十時裕樹副社長兼CFOは、8月4日に開催された2020年度第1四半期の連結業績説明会で、今後の見通しとして、「コロナ後の、ハイエンドスマートフォンの売れ行き鈍化が目立つ」と語った。そのため、同社のイメージセンサー関連事業は、営業利益が1四半期に49%(241億円)もの大幅減益となり、2020年通期の予想も、約45%(1,056億円)の減益となる、1,300億円にとどまる見通しだ。

ソニー・2020年度第1四半期の連結業績説明資料より。イメージセンサー関連事業は、ハイエンドスマートフォンの減速により大幅減益が予想されている

「ミドルクラス5G」が増えていく。5Gの普及は端末先行

ただ、ハイエンド市場の減速が、イコール「5G端末普及の阻害」と言えるかというと、「そうではない」と筆者は考えている。

というのは、他国の状況、特に中国系メーカーの動きを見ると、5G対応端末の「ミドルへの移行」が、今年春以降急速に進んでいるからだ。

ハイエンドスマホ向けのパーツの中でも、カメラ向けのイメージセンサー関連の需要は減速しているが、5Gを実現するために必要なアンテナなどの周辺部材を扱うメーカーの業績は減速していない。QualcommやMediaTekなどのスマートフォン向けSoCベンダーも、ハイエンドだけでなく「5G対応のミドルクラス」向け製品のプロモーションを加速している。ということは、5Gスマホは増えても、ハイエンドのカメラや距離センサーを搭載したスマホの数は減る……という予想が成り立つ。

携帯電話事業者としても、いかに5Gを使う人を増やすかがポイントだ。人気のあるハイエンド5G機種は重要だが、同様に、いかにミドルクラスの5Gモデルを導入するかが重要になる。回線より先に5G端末が普及し、次第に5Gが使える範囲が広がっていく……というシナリオが、携帯電話事業者にとってはありがたい世界だろう。大容量の5G契約が増え、客単価が上がるからだ。利用者にとっては、「データ通信量のことをあまり考えなくてもいい」状態になるが、通信料金は上がる可能性がある。その辺のバランスがどうなるか、難しいところがある。その辺のテコ入れは、おそらく今年ではなく来年になるのでないか、と予想しているのだが。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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