小寺信良のシティ・カントリー・シティ

第49回

「地元」が置いていかれた宮崎知事選、メディアはこれでいいのか

年も押し迫った12月25日、任期満了に伴う宮崎県知事選挙が行なわれ、現職の河野氏が連続4期となる当選を決めた。

12月8日の公示前までは、候補者は現職の河野俊嗣氏、16年前に知事を務めた東国原英夫氏、プロゴルファー横峯さくらの父で、参議院議員経験のある横峰良郎氏、戸田市議会選挙で当選するも、居住実態なしとして無効となったスーパークレイジー君氏の4人とされていた。だが公示2日前に、持病が悪化したとして横峰良郎氏が出馬断念。現職と元職、新人の3人の選挙戦となった。

公示前には話題性のある選挙として全国区でも報道されたため、ご存じの方もあるかもしれない。しかし実際に選挙戦が始まると、細かいところまでは追えないとして、全国区での報道はほとんどなくなった。選挙報道の場合、候補者を均等に報道しなければならないので、どうしても尺が長くなる。全国レベルで見れば、そこまで時間が割けるわけではないのは理解できる。

地元メディアではもちろん大きな話なのでそれなりに報道はされていたが、多くは戦況の話、すなわち誰がどこで演説したとかいった話題ばかりで、それぞれが掲げている政策の分析や比較の話まで切り込んで行く報道は少なかった。NHKは元々全国の選挙を押さえた「NHK選挙WEB」があり、放送されていない情報も積極的に載せているが、政策分析までには至っていない。

政策のアピールはそれぞれの候補者が自力で、というのは基本ではあるが、選挙カーでは具体的な政策を語ることはできず、候補者の連呼しかない。辻説法も、聴ける人数は限られる。

国会議員選挙の場合は、政党比較という側面もあるので、マスメディアも含め多くのサイトで政策の比較検証が行なわれたり、投票すべき人を選ぶガイダンス的なサイトが立ちあがったりする。だがこうした地方選挙では、そこまでのメディアパワーが期待できない。

特に今回の知事選候補者の3人は全員無所属なので、政党比較から選ぶ事もできず、各個人の主張がキーとなるはずだったが、地元の多くの人からは「決められない」という声を多く聴いた。

盛り上がりは選挙後?

話題性は確かにあった。東国原氏はタレントやコメンテーターとしての知名度があり、スーパークレイジー君氏も戸田市議会選挙時には、市選管事務局長が個人的に氏を呼び出し、議員を辞職するよう迫ったことで停職1カ月の懲戒処分になるといった事件もあり、名前は確実に浸透している。

4年前の知事選の投票率は過去最低を記録しており、33.90%であった。一方今回は56.69%に跳ね上がっている。投票率が急に1.67倍も上昇するなど、通常の選挙ではまず考えられない事である。

だが12月25日、開票速報のテレビ放送は、県民の期待には応えられなかった。まあクリスマスの夜8時から延々と選挙報道をやっても、視聴率なんか取れないという事だろう。NHKは、総合テレビで開票開始直前の19時58分から19分の枠を確保し、速報を行なった。さらに20時55分にも5分間ではあるが、開票速報を行なった。

もし大差を付けての当選であれば早めに当確が出るのだろうが、今回は接戦という事もあり、NHKの独自調査による当確が出たのは、23時2分の事であった。

NHKで当選確実と報じられたのは、23時2分であった

一方民放の宮崎放送では、22時48分から12分間、開票速報を行なった。当確が出るまであと少しだったが、放送時間内に当確を報道することはできなかった。

もう1つの民放、テレビ宮崎は、11時25分からおよそ30分、選挙特番を報じた。すでに結果が確定しており、河野氏の選挙事務所から中継で当選の弁を報じた。またスタジオゲストの政治ジャーナリストと政策について語るなど、タイムリーな放送であった。

選挙が終わると、全国紙でも結果とともに政策の分析記事などが大量に放出された。東国原氏は元タレントということで取材しやすいのか、全国区のテレビ番組も含め、当選した河野氏の弁よりも多く取り上げられたのには、なんだか奇異な感じがした。スーパークレイジー君氏の報道はそれほど多くはなかったが、名前とは裏腹にまじめな選挙戦の様子や、政治家を諦めない姿勢などが新聞紙面で詳しく報じられた。だがそうした情報は、むしろ選挙前に知りたかった話である。終わってから知らされても……と思った人は多いだろう。

今回の選挙の争点は、河野氏で現状維持か、東国原氏で勝負に出るかという選択肢だったと思われる。またスーパークレイジー君氏の出馬は、10代から20代の投票率を大きく押し上げた。

地方の選挙報道は、結果分析には多くの時間を裂くが、それ以前の有権者が候補者を選ぶための材料を提供するという役割を果たせていない。ただでさえ地方には有力なローカルメディアが少ないと言うのに、一番大事な有権者の選択時にメディア力が発揮されず情報不足というのでは、選挙では何も変わらないとあきらめ顔で言う人が増えてしまうのもある意味当然ではないかと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。