石野純也のモバイル通信SE

第43回

能登半島地震で応急復旧 4キャリアの対応強化と課題

能登半島地震では、4キャリアのネットワークも大きな被害を受けた。この応急復旧が完了した18日に、4社が合同で記者会見を開催している

1月1日に発生した能登半島地震では、4キャリアの通信網にも大きな影響を与えた。15日には、各社が立ち入り困難地域を除いて応急復旧を終えたが、現在も本復旧の目途は立っていない。電源喪失による基地局の停止や、基地局から通信を届けるための伝送路が地震によって途切れてしまったのが、その要因。一部は、地震でで倒壊してしまった基地局もあった。

「道路の寸断」と「光ケーブルの切断」

1月18日に4社合同で開催した記者会見では、その対応の難しさが浮き彫りになった。

一口に震災といっても、被害の内容は大きく異なる。能登半島地震でもっとも苦労したのは、復旧に向かう道路が寸断していたことだという。ドコモの常務執行役員 ネットワーク本部長の小林宏氏は、「道路が寸断して通れず、基地局に向かえない。道路が通ったとしても大雪が降ったりする。今まで地震や台風を経験しているが、これだけ被災した設備に行きづらかったのは初めてで今回の地震の特徴」だと語る。

KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルも、ほぼ同様の見解だ。

ソフトバンクの常務執行役員兼CMO(チーフ・ネットワーク・オフィサー)の関和智弘氏は、「道路が損壊したことに加え、被災地に多くの方が詰めかけて渋滞が起こった結果、復旧地区に行くのに3倍、4倍の時間がかかり初動が遅れた」と付け加える。「ここまで長い間、現地にたどり着けなかったのはほかの自然災害から見ても異例」(楽天モバイル 執行役員 副CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)兼モバイルネットワーク本部長 竹下紘氏)だった。

基地局と通信設備をつなぐ伝送路の損害が大きかったのが、今回の震災の特徴だという。そこへ向かための道も閉ざされており、復旧活動が難航した

直接的な被害で多かったのは、ケーブルの断線だ。土砂崩れなどが多数発生した結果、基地局とそれを集約する局舎をつなぐ回線が切断され、通信不能な状態に陥った。

KDDIの執行役員常務 技術統括本部 副統括本部長兼エンジニアリング推進本部長、山本弘和は「光ケーブルなどの回線が多く切れるというのが特徴的だった」と語る。基地局の倒壊や電源喪失もあったが、切断されてしまった光回線のケーブルがここまで多かったのは、過去になかったというわけだ。

震災で活きるスターリンク。船上基地局などで効果を確認

一方で、東日本大震災以降、大手キャリアは災害対応を強化してきた。移動基地局車を一気に投入できたり、バッテリー搭載によって地震発生直後は通信が継続しているエリアが多かったりしたのも、こうした対策が生きていたからだ。また、同震災以降、衛星の活用も進んでいる。ドコモは基地局のバックホールに取り付ける衛星エントランスを活用し、光ケーブルなどが断線した基地局を復旧していったという。

KDDIが2022年に導入を開始したスターリンク(Starlink)基地局も、震災対応で生かすことができた。これは、光回線の代わりにStarlinkを基地局のバックホールとして活用する仕組みで、離島などに導入されているほか、災害対策も想定されていた。

「過去にも静止衛星を用いた復旧活動は行なっているが、それと比べると非常にスループットが高く、かつ衛星の捕捉も短い時間でできる」(山本氏)のが特徴だ。市販されているものとアンテナのサイズも大きく変わらないため、「衛星アンテナを持って山の中を移動する際の復旧活動にとってもよかった」という。

復旧には衛星通信が活躍した。中でも、KDDIが運用するStarlink基地局は、キャパシティの大きさや取り回しのしやすさが評価されている

ユーザー視点だと、「スマートフォンでスループットが出るため、使い勝手がよかった」。逆に言えば、既存の静止衛星を使った応急復旧では、十分なデータ通信のスループットが出ないおそれもある。

一方で、ソフトバンクは一部エリアでドローンを活用。これも、「結論から言えば役に立った」(関和氏)という。“上空”を活用した復旧が全面的に取り入れられ、きちんと機能している点は、ここ数年で対応が進んだポイントと言えそうだ。

ソフトバンクは衛星に加え、ドローンも導入してエリアの復旧に当たった

船上基地局も投入された。導入されたのは、ドコモグループのNTTワールドエンジニアリングマリンが運用する海底ケーブル敷設船の「きずな」。平時は、NTTコミュニケーションズの海底ケーブルを敷設、修理する際に利用されている。この船を沿岸に止め、石川県輪島市の沿岸エリアを復旧した。

きずな

同船舶にはKDDIのスタッフも乗り、2社で復旧作業を行っている。こうした船舶はKDDIも保有しており、18年の北海道胆振東部地震などで出動実績はあるが、「停泊場所やタイミングも含めてNTTの船に乗った」(山本氏)という。

NTTとKDDIは、2020年に災害時の物資運搬などに関する相互協力の連携協定を結んでおり、お互いが保有する船舶の活用に合意していた。主目的は被災地への災害対応物資運搬だが、船上基地局の運用としてこの提携が功を奏した格好だ。このような対応ができたことも、複数の災害を経て、その都度対策を強化してきた成果の1つと言えるだろう。

ドコモとKDDIは、船上基地局の運用も行なった。共同運用ができたのは、あらかじめ連携協定を結んでいたからだ

将来課題はスマホと衛星の直接通信やローミング協力

ただ、結果として応急復旧の完了に2週間程度の時間を要したのも事実だ。この期間をさらに縮めるには、やはりNTN(非地上系ネットワーク)の活用が不可欠になりそうだ。

KDDIは24年内にStarlinkとスマホの直接通信を導入する予定。楽天モバイルも、同社親会社の出資するASTスペースモバイルの低軌道衛星を使い、スマホでのサービスを提供しようとしている。2社の衛星は、地上局の補正など、独自の仕組みを使うことで、現行のスマホを直接利用できるのがメリットだ。この早期導入が期待される。

4社とも応急復旧は完了したが、初動には時間がかかった。ここをどう解決していくかが、今後の課題と言えそうだ

現在、総務省で導入に向けた技術検討などが進んでいる事業者間ローミングも、応急的な復旧を早める一助になるかもしれない。特に能登半島地震のように基地局への物理的なアクセスが難しくなっているときに、4社それぞれが現場へ向かうのは効率が悪い。事業者間ローミングが可能であれば、復旧する地点を分散し、1社が復旧を優先させて他社のユーザーを救済するという方法を取ることも不可能ではないはずだ。

能登半島地震による停波はコアネットワークの障害ではなく、光回線の断線や基地局倒壊などが主な要因。事業者間ローミングが有効に生きるシーンと言える。現在の議論は、被災事業者と救済事業者に分かれたケースが中心に想定されているが、あえて復旧するキャリアを1社に絞ってローミングでそれをシェアすることで、最低限の通信網を回復する時間を短くできる場合もあるだろう。

総務省では、現在、大手キャリア間で事業者間ローミングの実現に向けた協議が進んでいる。これが実現した際には、復旧の役割分担なども検討する価値がありそうだ

能登半島地震では、上記のようにドコモとKDDIが船上基地局の運用で協力したほか、KDDIとソフトバンクがベースキャンプで給油の連携を行なった事例もあった。KDDIのエリア復旧に伴い、楽天モバイルのパートナー回線エリアで通信が可能になったエピソードも、事業者間ローミングを活用した連携の参考になりそうだ。

もちろん、事前の4社で協定を締結するなど、相応の準備は必要になるものの、検討の価値はあるはずだ。4社そろって開催した記者会見に参加し、改めてキャリアの垣根を超えた連携を深めていく必要性があるように感じた。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya