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ブレイク間近? エンドツーエンド暗号化に対応したオンラインストレージ3選

「Google ドライブ」などオンラインストレージにアップロードしたファイルが「違法性あり」と誤判定され、同じアカウントを使うサービスごと利用停止となるトラブルは、近年たびたび発生しています。誤解が解けて利用停止が解除されても、復旧には多大な労力を要するため、安心して利用するにあたっての大きな妨げになっています。オンラインストレージを利用する上での、隠れたリスクの一つと言えます。

こうした場合にユーザーが取りうる対策はいくつかありますが、おすすめなのは、エンドツーエンド(E2E)で暗号化されたオンラインストレージを使うことです。エンドツーエンドで暗号化されていれば、運営側もファイルの中身を見ることができず、健全なファイルが誤判定されること自体が起こりません。

こうしたエンドツーエンド暗号化に対応したオンラインストレージは、近年徐々にその数を増やしつつあります。コストや速度の問題もあって本格的な普及には至っていませんがブレイクするのも間近でしょう。今回はそうしたエンドツーエンドに対応したオンラインストレージの中から、3つのサービスをピックアップし、実際に試した上での特徴と使い勝手を紹介します。

E2E暗号化ドライブの新顔にして大本命「Proton Drive」

「Proton Drive」は、スイスProtonが運営するオンラインストレージサービス。エンドツーエンド暗号化に対応したメールサービス「ProtonMail」から派生し、両者の関係はGoogleド ライブとGmailのそれに近く、ストレージ領域を共有する点もそっくりです。

登場したのは2021年で、β版がようやく正式運用になったばかりです。

Proton Drive

Proton Drive

後述する2つのサービスと異なるのは、ドライブ内の特定の領域だけではなく、全領域がエンドツーエンドで暗号化されること。暗号化が必要なファイルとそうでないファイルを分けて保存する必要がないので、ローカルのファイル構造を変えることなくそのままアップロードできるのは利点です。

ブラウザからのアクセスとスマホアプリはひととおり揃っていますが、写真の自動アップロード機能はなく手動となります。またPCやMacとの同期ツールは用意されておらず、WebDAVで接続してドライブレターを割り当てる機能もありません。そのため、アップロードはブラウザへのドラッグ&ドロップとなり、自動的にローカルのファイルを同期させる使い方はできません。

他の2サービスにない特徴は、画像のサムネイル表示に対応することです。一般的に、暗号化された画像ファイルはオンラインでの閲覧時はサムネイルが表示されないのですが、Proton Driveは一覧画面でサムネイルが読み込まれるので、ローカルに完全にダウンロードせずに画像の内容を把握できます。キャッシュせずに毎回転送しているようですが、再読み込みも高速でストレスはありません。

もうひとつの利点は速度で、1GBのファイルのアップロードを試したところ約3分30秒で完了するなど、一般的なオンラインストレージサービスと比較しても遜色ありません。転送レートは4~6MB/秒で推移しており優秀です。

最大1GBという制限はあるとはいえ、無料プランの範囲でエンドツーエンド暗号化を試せるのは今回紹介している中ではProton Driveだけ。ただし、有料プランも上限は500GBで容量の追加ができず、テラバイト(TB)クラスの容量に対応する他の2サービスと比べた場合の弱点となっています。

ちなみに価格は500GBで月11.99ユーロ(約1,693円)で、1GB換算で約3.39円となっています。

有料プランはProton Drive単体ではなく、メールサービスなども含めた契約となるので、まずは無料で取得できるメールアドレスの利用から始め、必要に応じてドライブを契約するのがよいでしょう。多くのUIはすでに日本語対応しており、スマホアプリは生体認証でスムーズにログインできるなど、後発ならではの利便性もあり、将来有望なサービスです。

コスパが魅力、大容量&長期利用に向いた「Icedrive」

「Icedrive」は、イギリスがID Cloud Services運営するオンラインストレージサービス。サービスインは2019年と、前述の「Proton Drive」ほどではないですが、こちらも新顔のサービスです。

Icedrive

Icedrive

エンドツーエンド暗号化に対応するストレージ領域は、通常利用するストレージ領域とは別に用意されており、この領域を読み書きする時だけ、専用のパスフレーズを入力して復号化する仕組みです。それゆえアプリにログインした状態でも、暗号化フォルダの中にどのようなファイルが保存されているかは、パスフレーズを入力するまでは分かりません。

プラットフォームは多岐にわたっており、ブラウザアクセスやスマホアプリはもちろんのこと、フォルダの自動同期に対応したWindows用ツールや、USBメモリから起動できるポータブル版も用意されています。ちなみにWebDAVでの接続にも対応しており、エンドツーエンド暗号化対応の領域も(毎回ロック解除する必要はあるものの)ドライブとしてマウント可能です。

容量は150GB、1TB、5TBで、1TBは月4.99ドル(648円)と、1GB換算で0.65円と大台を割っています。5TBは月17.99ドル(2,336円)で、1GB換算で0.47円。年払いや買い切りではさらに安くなるなど、リーズナブルさは同種サービスの中では突出しています。一方で150GBは月払いは対応しておらず年払い以上になるなど、小容量かつ短期間の利用よりも、大容量を長期間使ったほうが強みが活きてきます。

速度はProton Driveほどではないもののそこそこ速く、1GBのファイルのアップロードを試したところ約4分48秒で完了しました。計算上の転送レートは3MB/秒となります。ちなみにエンドツーエンド暗号化されていない領域へのアップロードは約3分47秒で終了したので、暗号化によって多少の時間はかかっているものの、後述するpCloudのようなE2E暗号化の有無による極端な速度差はみられません。

バージョン履歴も使えるなど、オンラインストレージとしての機能も一通り揃っていますが、他のサービスと比べてネックになるのは、ホーム画面に当たるダッシュボードおよびアプリが日本語化されていないこと。Icedriveにしかない特殊な機能はないので、一般的なオンラインストレージに慣れていれば操作方法は把握できるはずですが、初心者はやや戸惑うかもしれません。

オプションでE2E暗号化が利用できる「pCloud」

pCloudは、スイス発のオンラインストレージサービス。サービスインは2013年ということで、エンドツーエンド暗号化機能に対応したしたオンラインストレージとしてはかなりの老舗です。2022年にはホームページやアプリが日本語化されるなど、日本のユーザの取り込みにも積極的です。

pCloud

pCloud

エンドツーエンド暗号化を利用するには、ストレージそのものの容量とは別に、月4.99ドル(約648円)の暗号化プランの契約が必要になります。これにより、エンドツーエンド暗号化されたストレージ内の専用領域(pCloud Crypto)が利用可能になる仕組みです。

容量は無料で10GB、有料では最大2TBまでのプランが用意され、このうち任意の容量を暗号化に割り当てられます。暗号化プランには14日の無料トライアルも用意されています。

プラットフォームは多岐にわたり、ブラウザアクセスやスマホアプリはもちろんのこと、フォルダのバックアップに対応したWindows/MacOS/Linux用ツールや、ブラウザ用の拡張機能も用意されています。APKファイルも配布されているので、Amazonの「Fire」のようにGoogle Playストアに対応しないAndroidベースの端末でも利用できるのは強みです。

さらにWebDAVでの接続にも対応しており、WindowsのPドライブとしてマウントできます(ドライブレターの変更は不可)。この場合、暗号化領域はPドライブ内の1フォルダとして利用できます。Windows用ユーティリティを使用することで、起動時に自動的にアンロックしたり、PCがスリープに入る時に自動的にロックするなどの設定も可能です。

ユニークなのはDropboxやGoogle Drive、OneDriveなど他のオンラインストレージのバックアップ機能を備えていることで、これらを有効にしておけば、データを定期的にpCloudへと吸い上げることができます。保存先は暗号化領域ではなく通常フォルダとなりますが、pCloudを利用するのであれば試してみたい機能の一つです。

ちなみにスマホからの写真自動アップロードにも対応しますが、その場合もアップロード先は通常フォルダとなります。

使っていて気になるのは、アップロード速度が決して高速ではないこと。1GBのファイルのアップロード完了までの所要時間が約17分、転送レートは700~1,200kb/秒で、今回紹介している他サービスの3~4倍の時間がかかります。ちなみにエンドツーエンド暗号化されていない通常フォルダへのアップロードだと約4分10秒で完了するので、暗号化が速度に大きな影響を及ぼしていることになります。

このほか、200MBを超えるファイルはブラウザ上でアップロードはできてもダウンロードはできないなど、ファイルサイズにまつわる細かな制限が見られます。アップロードが決して高速でないことを考えると、写真などファイルサイズが小さなデータの保管場所としての利用に、より向いていると言えそうです。

山口真弘