レビュー

スワイプ操作とノイズキャンセルが楽しい。Google新イヤフォン「Pixel Buds Pro」

Pixel Buds Pro

完全ワイヤレスイヤフォンはその利便性から近年利用者が爆発的に増加中ですが、また1台、注目のモデルが登場しました。Googleが7月28日に販売を開始した「Pixel Buds Pro」です。お値段は23,800円(Googleストア販売価格)とやや高価ですが、いわゆる「ANC(アクティブノイズキャンセリング)」に対応。使用感は従来モデルから大きく変わったとみられます。どのような点がパワーアップしているのか? ANCって実際どうなの?という観点から、使用感をチェックしてみました。

いきなりだが「スワイプでの音量調整」について語っておきたい

完全ワイヤレスイヤフォン普及の嚆矢となった「AirPods」(アップル)の第1世代モデルが発売したのは2016年10月のことでした。それからすでに5年半近くが経過し、音響機器メーカーから数多くの競合製品が市場投入されています。

個人的な話になりますが、筆者が初めて購入した完全ワイヤレスイヤフォンは、サムスンが2018年11月に発売した「Galaxy Gear IconX」でした。Galaxyスマートフォンの公式アクセサリー的な位置付けの製品で、内蔵メモリーに音楽ファイルを保存してローカル再生できたり、ランニング・歩行ペースを音声でガイダンスしてくれたりと、かなり意欲的な製品でした。

いきなり横道からスタートしますが、これが「Galaxy Gear IconX」
操作は物理ボタンではなくセンサー式。その上で、タップとスワイプ両方に対応しているのが魅力でした

そのGear IconXにおいて筆者が最も気に入っていたのが、スワイプによる操作をサポートしていることでした。完全ワイヤレスイヤフォンの多くは、本体内蔵のボタンやセンサーを1回押すと再生/一時停止、2回押すと次曲へスキップ、3回押しで前曲戻し……といった操作が割り当てられています。それに対してGear IconXの操作部は「タッチパッド」と名付けられていて、タッチだけでなく、上下スワイプにも操作が割り当てられていました。具体的には、上へスワイプすれば音量アップ、下へスワイプすれば音量ダウンとなります。

筆者はこの「スワイプによる音量調整」は、あって当たり前、どんな完全ワイヤレスイヤフォンにも標準で付いてくる機能と思い込んでいたのですが、実態は違いました。筆者の印象として、市価1万円前後の完全ワイヤレスイヤフォンはことごとく非搭載。Gear IconXの後継と言えよう「Galaxy Buds」(2019年5月発売)でも非対応なのには驚きましたし、ソニーの“穴あき”型完全ワイヤレス「LinkBuds」(2022年2月発売)でもスワイプ操作はできませんでした。

もちろん、ほとんどの完全ワイヤレスイヤフォンは単体で音量調整できます。ただ設定次第というのも間違いなく、大抵は長押し操作に音量調整を割り当てることになります。右イヤフォン長押しで音量アップ、左イヤフォン長押しで音量ダウンといった操作になりますが、対してスワイプによる音量操作はとにかく直感的で扱いやすい。電車の椅子に座っている時など身動きしづらい場面でも圧倒的に役立つのです。

「Galaxy Buds」はセンサー式操作なのですが、スワイプには非対応

Pixel Buds Proでスワイプ対応が復活

だいぶ前置きが長くなりましたが、このPixel Buds Proは、スワイプによる音量調整をしっかりサポートしています。スワイプの方向こそ「前(装着した状態で視線正面側)で音量アップ」「後で音量ダウン」となっていますが、これも十分直感的です。

実際のところ、Pixel Budsシリーズ製品では2020年8月発売の「Pixel Buds」(区別の為、本稿では以後『無印版』と記述)で同様のスワイプ操作に対応しています。当時、記事を読んでいて「スワイプでの音量調整に対応」している旨を発見して即、購入を決断。筆者にはそれから今に至るまで、外出時にほぼ常時持ち歩く“メインの完全ワイヤレス”の座であり続けています。すでに2年が経ちますが、それでもなおスワイプ操作の有り難みを実感する日々です。あぁ、1つ多めに操作系があるだけでなんと便利なんだ、と。

Pixel Buds Proのイヤフォン
別方向からみたところ
充電ケースにイヤフォンを装着した状態

なお2021年8月に発売された「Pixel Buds A-Series」は廉価版的な位置付けなためか、スワイプ操作には非対応です。無印版Pixel Budsは終売となっているため、Pixel Buds Proは久々に復活した“スワイプ対応Pixel Budsシリーズ”となるのです。この1点だけとっても、Pixel Buds Proの存在意義は大きいと思います。

イヤフォン本体はちょっと大ぶりに

ここからはPixel Buds Proの外観や仕様をチェックしていきます。まず、イヤフォン本体を収納しておく充電ケースは外形寸法が25×50×63.2mm、重量は62.4g(イヤフォン2個を含む)。無印版Pixel Budsのそれと比較してやや大きくなりましたが、重量はわずかに軽くなっています。

充電ケースのサイズ比較。左のPixel Buds Proのほうが、右のPixel Budsよりやや横に長い

イヤフォン本体の見た目は大きく変わりました。無印版Pixel Budsは、小型のイヤフォンから飛び出るゴム製アーチが耳のくぼみに引っかかることで抜け落ちを防ぐ構造でしたが、Pixel Buds Proはノイズキャンセリング用マイクなどを搭載した都合でしょう、全体的にボリュームがアップし、ゴム製アーチはなくなりました。なお、スペック上のサイズ(片側単体)は22.33×22.03×23.72mm、重量6.2g(中サイズのイヤーチップ使用時)です。

カラーバリエーションはFog、Charcoal、Lemongrass、Coralの4種類。本稿執筆にあたっては、白系にあたるFogのモデルをGoogleからお借りしています。

Pixel Buds Proを装着してみると、耳穴に埋まっているような感覚はほぼなく、耳から飛び出している部分が相応に目立つ印象です。ただ個人的な傾向として、筆者は左耳側のイヤフォンがメーカーに関係なく外れやすく(顔面に対する耳穴の角度がやや急?)、イヤーチップ交換でもフォローしきれないケースが大半なのですが、Pixel Buds Proではその現象がほとんど発生していません。このあたり、個人差により部分は大きいと思いますが、念のため書き記しておきます。

無印版Pixel Budsのイヤフォン
イヤフォンの比較。左がPixel Buds Proで、右が無印版Pixel Buds
無印版Pixel Budsを装着したところ
こちらはGalaxy Buds Proを耳に装着したところ

フル機能の利用にはAndroidアプリ「Pixel Buds」が必須

無線通信の仕様はBluetooth 5.0に対応。規格上はBluetooth 4.0以降に対応するスマートフォンやPCで幅広く利用できます。充電ケースの蓋を開き、イヤフォンを収納したままでケース下面のボタンを長押しすると、ペアリングが実行されます。ペアリング簡略化技術が近年発達していますが、とはいえ多くの端末でPixel Buds Proを利用する以上は「ケースのボタン長押し」の重要性を頭にたたき込んでおいたほうが良いです。

ペアリングボタンと充電端子(USB Type-C)
当然ながらWindows 10ともペアリング可能

ペアリングできる台数は最大8台までとのこと。イヤフォンの電源をオフにして再度オンにした場合は、直近に接続していた機器に再接続します

Pixel Buds Proの機能をフルに利用するには、専用のAndroidアプリ「Pixel Buds(アプリ)」が必携です。操作のカスタマイズ、ANC機能の有効化/無効化、ファームウェア更新などを行なうにはアプリが欠かせません。そしてiOS版アプリがリリースれていない点には十分留意しましょう。

Pixel Budsアプリのメイン画面
この「前方にスワイプ」「後方にスワイプ」をサポートしていることがPixel Buds Pro(と無印版Pixel Buds)のアイデンティティーだ!……と確信する次第です

アプリからセットアップすれば、音声アシスタント機能「Google アシスタント」をハンズフリーで利用することもできます。公共の場所での利用は少々気恥ずかしいですが、例えば周りに誰もいないタイミングならば「OK、Google。今日は雨降る?」といった音声(入力)検索ができます。Androidスマートフォン単体でもハンズフリーの音声検索はできますが、また違った利用感が味わえます。

イヤフォンのセンサー部を長押しした場合の機能は、原則として「Google アシスタントの起動」「ANC機能の切り替え」の2つのうちどちらかを選ぶ方式です。さらにANC機能を選択した場合は「有効化」「オフ」「外部音取込」のうち2つ~3つを選択し、長押しする度に切り替えられます。

長押しでGoogle アシスタントを起動し、発話しないままボタンを放すと、時刻に続いてプッシュ通知内容を読み上げてくれます。通知をSMSやLINEなどに絞っている方なら、例えば電車の吊革に掴まったまま、スマートフォンをポケットから取り出すことなく内容を確認できるので、意外に便利かもしれません。

「OK、Google」と喋るだけでGoogle アシスタントを起動可能
操作系でカスタマイズできるのは、基本的に長押し関連のみ。左右別々に設定できます

エアコンの稼働音がここまで消えるとは…… 驚きのANC能力

さて、Pixel Buds Proで最も注目すべき部分はANCでしょう。「Silent Seal」テクノロジーと銘打って、カスタムプロセッサー、カスタムアルゴリズムによるノイズキャンセリングを実現しています。

ANCのモードはアプリから変更できます

結果から先に述べると、Pixel Buds ProのANCは相当優秀だと言えるでしょう。装着したその瞬間、「あれ?」と違和感を覚えたのですが、この状態ですでにANCが有効化されていて、周辺がとにかく静かになります。ただ、イヤフォンはある意味で耳栓のような作りですから、多少の遮音効果はあるはず。しかし、そこからさらにPixel BudsアプリでANC機能のオン/オフを切り替えてみると、その効果に驚きました。

特に顕著だったのが、エアコンの作動音です。季節柄、熱中症対策でエアコンがフル稼働していたのですが、まったくといっていいほど聞こえなくなるのです。元々エアコンの作動音を気にする性格ではないのですが、しかしそれでも効果がありすぎる。逆説的に「エアコンって、こんなにうるさかったっけ?」と感じてしまうほどです。たまたま私有している「Galaxy Buds2」でもANCの効果は実感していたのですが、Pixel Buds Proのエアコン動作音低減効果は圧倒的でした。

我が家のエアコン作動音の聞こえ方が、イヤフォン1つでここまで変わるとは……

遠方から聞こえる自動車の走行音も、効果を実感する部分です。エアコンのような周期性の高い音源と比べて、クラクションだったり加速時の機械動作音だったり、不連続な要素が組み入っているから効果が低いだろうと思っていましたが、なかなかどうして。音源からの遠近も関わってくるでしょうが、大きく低減されていると感じます。

一方で、テレビから聞こえる人間の肉声・会話音などは、低音が抜けたようなシャリシャリとした音になり、音量そのものが若干小さくなる印象です。また飲食店は、店内BGM、従業員の方々の作業音、客同士の会話などさまざまな音が入り乱れていますが、ここでもPixel Buds Proは効果てきめん。むしろイヤフォンを外すと、あまりの周囲の音の大きさに逆に驚いてしまうことがありました。

テレビや周囲から聞こえる会話音・BGMなどを抑える効果も相当なものです

これらを総合すると、重低音をキャンセリングする精度がPixel Buds Proは非常に高いのだと思います。こうした状態でコンテンツを再生すれば、よりスッキリと音楽・音声が楽しめますし、無音時には自分1人の世界に没入できる感すらあります。オフィス・図書館などで一時的に集中したい場合、Pixel Buds Proを装着だけして音楽は鳴らさないといった利用法も、十分あり得るでしょう。

ANCって楽しい! スワイプ操作が便利でなお楽しい!

音声の再生品質についても十分だと感じます。これまた個人的な話になりますが、最近は外出先でもYouTubeを利用するようになり、中でもトークショーのライブ配信など「人の会話音をイヤフォンで聞く」シーンが増えました。Pixel Buds Proではこうした会話音の聞こえは自然ですし、もちろん音楽の聴取においても違和感はありません。

Google発の完全ワイヤレスイヤフォン、筆者は大いに評価しています

以上、Pixel Buds Proの利用感をお伝えしました。率直に言って、Pixel Buds ProのANCは使っていて楽しいです。特にそのノイズ低減効果は、高すぎてちょっと笑ってしまうほどでした。いつも行く喫茶店、毎日の電車通勤の車内などの様相がガラっと変わる体験ができるでしょう。

また製品名に「Pro」のブランドを冠しているとおり、ANC対応、スワイプ操作対応以外にも、充電ケースのワイヤレス充電、無印版Pixel Budsと比較して長いバッテリー動作時間(イヤフォン単体の連続音楽再生時間が無印版は5時間なのに対し、ProはANCをオンにしても最長7時間)など、強化点が多くあります。現在販売中のPixel Buds A-Seriesが11,900円、Pixel Buds Proは倍の23,800円と、かなりの価格差がありますが、ANC、そしてPixel Buds Proにはそれだけの価値はあると考えます。

そしてしつこいですが、スワイプ操作! これはもう個人的に推しておきたいと思います。最近は家電店に完全ワイヤレスイヤフォンの試着コーナーもありますし、機会があれば是非一度利用感を試してみてください。スマートフォンで1回プレイリストを選んだら、あとは画面を見ずともほぼすべての操作が耳元で完結、音量の微調整も思いのまま……。この利便性、きっとヤミツキになる(はず)!

森田秀一

1976年埼玉県生まれ。学生時代から趣味でパソコンに親しむ。大学卒業後の1999年に文具メーカーへ就職。営業職を経験した後、インプレスのウェブニュースサイトで記者職に従事した。2003年ごろからフリーランスライターとしての活動を本格化。おもな取材分野は携帯電話、動画配信、デジタルマーケティング。「INTERNET Watch」「ケータイ Watch」「AV Watch」「Web担当者Forum」などで取材レポートを執筆する。近著は「動画配信ビジネス調査報告書 2021」(インプレス総合研究所)、「BtoB-EC市場の現状と販売チャネルEC化の手引2020」(共著、インプレス総合研究所)。