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オムロン、かしこく学ぶ・動く・繋ぐAIロボット実現へ

オムロンは研究子会社として「オムロン サイニックエックス」を2018年4月に開設している。設立から5年経った2023年10月13日、東京・本郷の拠点で同社が取り組んでいるAI、ロボティクス、IoT、センシングに関する研究テーマへの取り組みについてデモを交えながら紹介した。レシピから料理を作ったり、人混みのなかでもたくみに移動できるロボット開発などを行なっているという。

包丁できゅうりを切るデモを行なった料理ロボット

バックキャストで社会課題を解決して未来を創る

オムロン技術・知財本部長 兼 オムロン サイニックエックス代表取締役社長 諏訪正樹氏

オムロン サイニックエックスは、オムロンの考える「近未来デザイン」を創出する戦略拠点とされている。各研究員はオムロンが注力する「ファクトリーオートメーション(FA)」「ヘルスケア」「モビリティ」「エネルギーマネジメント」の4ドメインを中心に、課題を解決するための技術革新をベースに研究開発を行なっている。

オムロン技術・知財本部長 兼 オムロン サイニックエックス代表取締役社長の諏訪正樹氏は、オムロンの技術・知財本部の組織図から解説を始めた。研究拠点はけいはんな、東京、アメリカにある。オムロンの創業者は立石一真氏。ソーシャル・ニーズを解決するために未来を読み解き、そこからバックキャストして「いま何をしないといけないのか」という観点から事業を作ってきた。事業体は多岐にわたり、カーボンニュートラルの実現、デジタル化社会の実現、健康寿命の延伸の3つを実現するためには何が必要かという観点で技術開発を行なっている。

オムロンの各研究拠点
オムロンの考える社会課題

立石氏は1970年代に独自の「SINIC(サイニック)理論」を提唱したことで知られる。科学技術と社会はお互いに刺激を与えながら進化していくとした考え方だ。オムロンはこの技術と社会が相互進化するという考え方を今も前提として「人間の進歩志向的意欲」を重視して技術開発を行なっている。

オムロンの創業者・立石一真氏による「SINIC理論」

オムロンは機械が人間の作業を担う「代替」、機械が人と共に働く「協働」、そして人間らしさを引き出す「融和」というかたちにオートメーションは進化していき、技術も進化していくと考えている。

「代替」「協働」、そして「融和」へ

いま、生成AIに代表される新技術によって、人と機械の関係性がまた新しく変化しようとしている。ChatGPTは情報変換が得意で様々な問いに対応してくれるが、「自信満々の知ったかぶり」のように見える側面もある。

大規模言語モデルには「自信満々の知ったかぶり」のように見える側面も

立石氏は「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」という言葉を残している。この言葉からズレてきているものも中にはあって、それを修正するために人が活きるオートメーションのための技術が重要だと考えているという。

人が活きるオートメーションのための技術によって航路のズレを修正

前述のようにオムロンはバックキャスト型戦略と、フォアキャスト型のプランニングの両方を重視している。どうしても創業者が亡くなったあとフォアキャスト型にシフトしていくなかで、改めてバックキャスト型を重視して、ここ数年取り組んでいるという。

バックキャスト型を改めて重視

オムロンは「Sensing & Control + Think」技術をコアとしている。現場情報から情報を取り出し、人の知見を加えて現場に戻す。注力しているのはロボティクス、AI・データ解析、センシング、パワーエレクトロニクス。機械には五感、身体性が重要であり、エネルギー制御が重要だと考えて、これらはどれも欠かすことができない要素だと考えている。

コア技術は「Sensing & Control + Think」
ロボティクス、AI・データ解析、センシング、パワーエレクトロニクスに注力

今後、ロボットが家庭や社会に普及するためには、従来の産業用ロボットの延長上にはなく、新たな進化が必要だと考えて、取り組んでいるという。その一つが創薬研究における「ラボオートメーション」だ。AIロボットを使って様々な実験を自動化するもので、2023年秋から中外製薬の中外ライフサイエンスパーク横浜で実証実験を開始する。速く正確で力持ちなだけではなく、そこそこの力で人間に寄り添ってサポートしてくれるロボットであるべきだと考えて取り組んでいるという。

様々な作業を柔軟にこなせるロボット技術の開発
中外製薬とオムロンによる次世代ラボオートメーションへの取り組み

オムロンの卓球ロボット「フォルフェウス」も「人と機械の融和」の象徴として開発されている。人のスキルをセンシングし、その人に応じたラリーをコントロールすることを通じて、人に卓球プレイの楽しさを感じさせる。

卓球ロボット「フォルフェウス」も「人と機械の融和」の象徴

ではなぜコア技術を研究する研究所が既にあるのに、なお「サイニックエックス」を作った理由はなんなのか。オムロンにはいない尖った人材・オープン技術を効率的に取り組み、より大きな技術革新を目指すためだという。研究者は全て社外から集めた。諏訪氏は革新技術を創出するところにフォーカスして設計された会社になっていると語った。

オープンイノベーションを目指すサイニックエックス
トップ人材を外部から登用

成果の出力先はオムロンだけではなく、場合によっては他社にも提供したり、起業でもいいという。成果はトップカンファレンスに発表されている。欧州議会対日交流議員団とも意見交換を行なった。

しがらみは徹底排除
トップ研究者をリファラル採用
中長期の研究テーマを先行実施
トップカンファレンスで研究発表

かしこく学ぶ、動く、繋ぐ

オムロン サイニックエックス リサーチオーガナイザー兼プリンシパルインベスティゲーター 牛久祥孝氏

研究の詳細についてはオムロン サイニックエックス リサーチオーガナイザー兼プリンシパルインベスティゲーターの牛久祥孝氏らが解説した。「かしこく学ぶ」「かしこく動く」「かしこく繋ぐ」というのが人と機械の融和を実現するための3つのキーワードだという。機械自身が人の作業や指示を学び、賢く助け、そして現場同士を賢く繋ぐ。

「かしこく学ぶ」「かしこく動く」「かしこく繋ぐ」

まず「かしこく学ぶ」とはどういうことか。創造性を発揮しながら何かを作る作業、もっとも身近なものづくりとして「料理」に着目。調理の手順やコツを人間から学べるロボットの開発を行なっている。調理作業と言語指示を理解したエンジニアレスロボット技術、そして、全固体電池の材料開発の研究などを進めている。

もっとも身近なものづくりとして料理に着目
自然言語による指示を理解できるロボットや全固体電池の材料開発の研究を実施中

クックパッドのレシピサイトを見ると、写真や材料が表記されている。人間は各々のステップで何をすればいいのか学ぶことができる。牛久氏はレシピ画像を見て、作業記録と材料リストから、どういう作業をしたのかを記述できる、つまりマニュアルを自動生成できる技術を紹介した。料理動画を与え、どこが重要な区間なのかを把握して、作業内容を言語化できる。これをロボットにわかるかたちに変換すると、ロボットが自動クッキングや手伝いをしてくれることを期待している。

材料リストと写真列からレシピを自動生成
料理動画から自動的にレシピを作ることも

「かしこく動く」ことについては、現在の産業用ロボットのように高剛性・高性能なモーターによる固い位置制御ではなく、人のように雑に動かしながら多種多様な感覚も使いながら動作するロボットを目指す。ソフトメカニクス、多感覚学習、接触の活用などの研究を進めている。あえて手首が柔らかいロボットを作り、柔らかさを制御しながら、うまくプレートのなかに空いている棒を指せるようにする。

柔らかく多様な感覚を使いこなすロボットへ
手首がフニャフニャのロボットで穴に棒を入れる
実際のロボット。手先はバネで繋がれていて、本当にブランブランしている

同時に応用として、エアホッケーを人と一緒に行なえるロボットの開発を行なっている。安価で低出力なロボットを使って人間がエアホッケーを楽しめるようにする。またモバイル卓球ロボットの開発も進めている。

エアホッケーロボ
モバイル卓球ロボット

料理のデモでは食材の把持に注目。乱暴につかんでしまうと壊れてしまうバナナのような食材に対し、専用ハンドではなく汎用のハンドを使って柔軟な食材を掴ませることを目指す。指に触覚センサーをつけ、色々な食材を持たせ、そのなかで得られる触覚パターンを学習する。すると掴めるが潰れない力で持てるようになる。

状況からプランを自動生成できるロボット実現を目指す
脆弱な物体を把持できるロボットへ

ただ、それだけでは学習のたびに食材を破壊してしまうので、発展として、転移学習のしくみも作っている。寒天を学習できると、他の豆腐のような似たようなものもうまく掴めるようになる。食材ではないピンポン玉がつかめるようになるとトマトが持てるようになる。

転移学習も研究中

「かしこく繋ぐ」については、移動ロボットを使って多数の複数メーカーロボットを雑踏のなかで協調させること、具体的にいうと「渋谷のスクランブル交差点のなかでもピザを配送できるロボット」の実現を目指す。人のあいだを抜けていくのか、人に道をゆずってもらうのか。今はまず、人にアクティブに働きかけ、ちょっと人によけてもらう研究を進めている。人が動いているほうにはぶつからないよう一定の距離を保つと、遠回りしつつ、あまり目的地に近づけない。いっぽう、人に対してビープ音を出すようにすると、うまく目的地に到達できるようになる。これには強化学習が用いられている。

自律協調する移動ロボット
渋谷のスクランブル交差点のなかでもピザ配送できるロボットの実現を目指す

シミュレーションだけではなく実世界での研究も行なっている。人がたくさん歩いていると、その先が見えず、自分がどこにいるかもわかりにくい。そこで「動いてる人そのもの」を目印にし、鳥瞰視点で、それぞれの人と自分がどこにいるかを推定する。

周辺を歩く人自体を目印にして、自分がどこにいるかを推定する技術

将来はAIロボットと人間の科学者が協働し、2050年までにノーベル賞レベルの研究を行なうことをJSTのムーンショットで進めている。具体的には材料研究分野で進めており、結晶構造とシミュレーションした計測データを用いた表現学習によって、物性が未知の材料を含めたマテリアルマップを獲得することができている。未知の材料についてロボットが自動で作る。今は知られていない超伝導材料などが見つかる可能性もあるという。そのために創薬を手伝うロボットの基礎研究を進めている。このような研究は「AIロボット駆動科学」と呼ばれている。

表現学習によるマテリアルマップの獲得
実験を自動化するためのロボットの実現へ

多様な研究者が、より賢い機械の実現を目指す

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャー 橋本敦史氏

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャーの橋本敦史氏は物体とのインタラクション、映像からレシピテキストを出すなど「作業をつなぐ」ための研究を行なっている。慶應義塾大学理工学研究科特任講師として「ブラック・ジャック」の新作を作る「TEZUKA2023」にも参加している。

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャー 濵屋政志氏

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャーの濵屋政志氏は、一見簡単だがロボットには難しい作業を実現させる研究を行なっている。柔軟な身体や触覚を活用することで、ロボットが従来は操作が難しかったものを組み立てるようにする。今回はロボットによるキュウリカットを紹介した。

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャー 吉田成朗氏

オムロン サイニックエックス シニアリサーチャーの吉田成朗氏は、ヒューマンコンピューターインタラクションの研究者で、人の感情や認識、表現の拡張技術などの研究を行なってきた。オムロンサイニックエックスでも人理解の観点から研究を行なっている。

目指す近未来デザインは人と機械の融和

今後は自然言語を理解して動くロボットなどを発表予定

今後は、大規模言語モデルを使って自然言語や人の意図を理解して動けるロボットや、既存の産業用ロボットとは全く異なる新たなロボットの開発を進めていく。樹脂を使い腱駆動で動くロボットの開発などを行なっているという。「人と機械の融和」を掲げ、「人間の五感」やエネルギーを考えたロボットの開発を進めている。社会実装のイメージを重視しているという。