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「自在化」で現場作業をリモート化 東大発のジザイエ

リアルタイム遠隔就労プラットフォーム「JIZAIPAD」の開発を行なう東大発スタートアップのジザイエは、自在化身体技術の社会実装および自在化社会の構築を推進するために建設機械の製造・販売を行なうコベルコ建機、Human Augmentation(人間拡張)を投資テーマとしているベンチャーキャピタルの15th Rock Fund、山本正喜氏らから第三者割当増資により総額1.5億円を資金調達したと発表した。出資比率は非開示。またコベルコ建機と遠隔技術分野における業務提携を行なった。

ジザイエは2022年11月創業。リアルタイム遠隔就労プラットフォーム「JIZAIPAD(ジザイパッド)」の開発・運営および関連サービスの提供を事業内容としている。

身体をデジタルトランスフォーメーションさせる「自在化技術」

ジザイエ Founder 兼 Chairman、東京大学 先端科学技術研究センター教授、総長特任補佐・先端科学技術研究センター 副所長 稲見昌彦氏

会見ではまずジザイエ Founder 兼 Chairmanであり、東京大学 先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏が「今までは人の能力を活用するためにロボットやVRを使って様々な研究を行なってきた。特にいま力を入れている研究が自在化だ」と挨拶した。

そして「コロナ禍を経て『身体のデジタルトランスフォーメーション』の考え方が重要になった。ポスト身体社会では心の位置と身体の位置が別々に設計できるかもしれない。心はここ、でも身体は建機やロボットでもいい。そうすればいつでもどこでも様々な働き方ができるようになる」と語った。

今後は「ポスト身体社会」が来るという

稲見氏は、自在化技術は遠隔ロボット技術の一種だが「間に情報通信のレイヤーが入ることが重要だ」と続けた。情報通信技術を使うことで、身体を使った動作が記録される。「ChatGPTは身体の動かし方は教えてくれない。我々の技術を使うことで身体動作の記録・再生・伝達が可能になる。ジザイエはそこに着目した」と紹介し、2017年から行なわれた科学技術振興機構(JST)の「稲見自在化身体プロジェクト」のプロモーション動画を改めて披露した。

稲見氏のいう「自在化」とは「自動化」と違って、より自分がやりたいことをアシストしてくれる技術のこと。プロジェクトで解明したかったことは2つ。非人型機械を人間がどれだけ自在に扱えるのかを探ること。もう一つは遠隔操作している人が主体感を持って操作できるインターフェイスのあり方、人機一体になるにはどうすればいいのか。その2つを探ることだったという。

合体や変身など様々なアプローチを通して自在化技術を研究した

コベルコ建機と稲見氏の出会いもこの一環で、建機をどうすれば自在に扱えるようになるのか、2017年から探ってきた。またプロジェクトの出口として社会実装のありようも探ってきたと述べた。従来ならば大学の知財はTLOを経由して企業に使ってもらう形が一般的だった。だがシステムインテグレーションが必要となる分野ではTLOモデルはなかなか機能しない。また新たなアウトリーチのありようを探るなかでスタートアップ立ち上げとなったという。稲見氏は「大学の研究と企業による社会実装を両輪として進めていきたい」と語った。

コベルコ建機と東大・稲見教授との共同研究

「主体感」を持って遠隔操作できるプラットフォーム「JIZAIPAD」

ジザイエ代表取締役 CEO 中川純希氏

続いてジザイエ代表取締役 CEOの中川純希氏が登壇。起業と今回の提携の背景を紹介した。中川氏は「知財の取り扱いも含め、『ジザイエという箱』をうまく使ってもらえる座組みができないかと考えている」と述べた。

そしてサービスを通して展開しなければ売れないことから「JIZAIPAD」というサービスに落としこんだと語り、現場映像を臨場感を持って低遅延でリアルタイム転送できる技術をベースとして、遠隔にある機械やロボットを自分の身体の延長として操作できるインターフェイスなどに注力して開発を行なっていると紹介した。

JIZAIPADを使って様々な業種のリアルタイム遠隔就労を目指す

「JIZAIPAD」は、様々なデバイスを「主体感」を持って滑らかに遠隔操作可能にするためのツールキットのようなものだという。今後は、様々な技術からなる複合的な自在化身体技術を「JIZAIPAD」に実装。エッセンシャルワーカーやブルーカラーワーカーでも使うことができ、働けるようにする遠隔就労ソリューションの開発を目指す。最終的には「遠隔就労のジョブマッチングも備えたサービスとしたいと考えている」と述べた。

あらゆる現場の「自在化」を目指す

人間拡張技術は、より身近な分野にも

15th Rock Founder & General Partner 中島徹氏

もともとは東芝の研究者で、今は投資会社15th Rock Founder & General Partnerの中島徹氏は、映画の「アイアンマン」をイメージしたという同社のキービジュアルを紹介。ヒューマン・オーギュメンテーション(HA)は脳、身体能力、存在、五感それぞれの拡張だと考えて、それぞれの事業に投資を進めている。最初は医療や介護が多かったが、今は徐々にコベルコ建機のような領域にも拡大していると述べた。

15th Rockのキービジュアルは「アイアンマン」のような自在をイメージ
HAのアプリケーションが広がりつつあるという

建機の遠隔操作技術を他業態にも展開

コベルコ建機 取締役 常務執行役員 企画本部長 細見浩之氏

油圧ショベルやクローラクレーンを開発・販売する建機メーカーのコベルコ建機 取締役 常務執行役員 細見浩之氏は、同社の「KOBELCO DXソリューション」、そして2022年12月5日にサービス提供を開始した現場改善ソリューション「K-DIVE」を簡単に紹介。人手不足を受けて建機メーカーにとってもデータ活用やDXは重要になっていると述べた。

コベルコでもDXに取り組んでいる

同社は2017年4月〜2023年3月にかけて稲見教授と建機の遠隔操作におけるインターフェイスについて共同研究を実施。ジザイエはその出口として捉えており、今回の出資・業務提携に至った。

今後は、共同研究で培った視点や思考の活用のほか、ジザイエに対しては建機の遠隔操作技術やノウハウだけでなく、それが他業種への展開も可能な知財技術として発展活用されていくこと、そして回り回ってコベルコへのフィードバックを大いに期待していると述べた。ジザイエに対しては様々な業種への展開を期待しているが、コベルコ自体が建機以外の業種に進出することを目指すものではないという。

コベルコからジザイエへの期待