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ソニー、ラズベリーパイへ出資。エッジAI強化で協業

4月12日、ソニーセミコンダクタソリューションズ(ソニーSS)は、英Raspberry Pi Ltd.への出資を発表した。出資額は公開されていないが、「少数持分出資」(ソニーSS広報)とされている。

Raspberry Pii(ラズベリーパイ)は、小型のシングルボードコンピューター。低価格で入手性も良いため、教育や産業など幅広い分野で活用され、裾野の広い開発者コミュニティを有している。

Raspberry Pi 4 Model B

今回の出資にあわせ両社は戦略的な協業を行なう。目的は、ソニーSSのエッジAIソリューション「AITRIOS」とRaspberry Piの連携性を高めるためだ。

AITRIOSは、ソニーSSが開発した「インテリジェントビジョンセンサー」の特徴を活かしたエッジAIソリューション。2020年に発売された「IMX500」はイメージセンサーにDSPとメモリーを搭載しており、イメージセンサー内で画像処理をするのが特徴。画像だけでなく、認識した結果のメタデータを直接出力する。

IMX500の構造。イメージセンサー用の画素チップと処理用のロジックが直結されているのが特徴

一般的な画像認識はイメージセンサーの映像を後段にあるコンピュータに入力し、そこでAIを動かして画像認識を行なう。この場合、まず画像を転送しないといけないため、機器内でのデータ転送量が増え、処理時間が増える。また、画像自体が個人情報となる可能性が高く、管理の手間も必要になる。

一方でAITRIOSの場合、例えば犬が写った画像の認識を行なったなら、センサーからは「犬」というメタデータだけを出力できる。画像を記録する必要はない。そのため、機器内やネットワークを流れるデータの量が劇的に小さくなり、データ管理の課題も楽になる。

IMX500を使ったAITRIOSの場合、センサーから「認識した結果」だけを取り出すことも可能

ただしその性質上、AITRIOS内で使うAIモデルの開発や、AITRIOSから得られたメタデータを処理する必要もある。

以前よりソニーは、AITRIOSについてマイクロソフトと提携してエッジAIの開発促進に取り組んできた。また、「エンタープライズエディション」という企業導入実環境向けのサービスも提供している。

今回のRaspberry Piとの提携の狙いは、「より幅広いデベロッパーの取り組みにある」とソニーSS側は説明する。

ソニーSSもAITRIOSについて、すでに、小規模でカジュアルな開発向けに「デベロッパーエディション」というサービスを提供しているが、ソニーSSとしては「もっともっとカジュアルに使って欲しい」と考えているという。エッジAI搭載のセンサーをどのように使うべきかは、まだ定まっていないからだ。

デベロッパーコミュニティの開拓を進めてきたが、そうした活動にはどうしても時間がかかる。世界中に大きなデベロッパーコミュニティを持つRaspberry Piと提携・連携を進めることで、コミュニティへの浸透と開発者の開拓を加速できるのでは……というのが、ソニーSS側の考えである。

エッジAIの開発キットはいくつかあるが、その多くはまだ高い。IMX500は元々安価なセンサー。そこにRaspberry Piを組み合わせて使う形を広められれば、2~300ドルでエッジAIの開発が始められるようになる。

ソニーSS側からRaspberry Pi側へと話を持ちかけると、Raspberry Pi側ともすぐに合意し、今回の提携に至ったという。

両社の協業は現状のAITRIOSに使われているIMX500に限ったものではなく、将来的に登場する「新しいIMX製品」でも継続される。今回Raspberry Piへと出資に至ったのは、そうした強固な関係を構築するのが狙いだ。

以下、ニュースリリースに掲載された、両社トップのコメントを引用する。

両社トップのコメント
ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 社長 兼 CEO 清水 照士氏

弊社は、イメージセンサーを軸とした革新的なエッジAIセンシング技術を用いて、さまざまな産業に対する新たな価値提供や課題解決に貢献することをめざしています。エッジAIデバイスを活用したユニークで多様なソリューション開発を支援する我々の「AITRIOS」プラットフォームが、世界最大規模のデベロッパーコミュニティを持つRaspberry Pi Ltd.とのパートナーシップを築くことで、Raspberry Piユーザーと開発者コミュニティにユニークな開発体験を提供できることを大変喜ばしく思います。

Raspberry Pi Ltd. Eben Upton CEOのコメント

ソニーグループと弊社は、長期にわたる重要な戦略パートナーです。製造委託から、イメージセンサーおよびその他の半導体製品の取引にいたるまで、関係性を構築しております。今回の協業は私たちの関係をより拡充させ、ソニーセミコンダクタソリューションズのAI技術を用いた製品群をRaspberry Piのエコシステムに導入します。これにより、ユーザーがエッジにおいて、機械学習を活用した新しい魅力的なアプリケーションを構築できるよう支援します。