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パナとベネッセが「快便センサー」 要介護者のQOLを向上

パナソニック ホールディングスとパナソニック くらしアプライアンス社は1月19日、排泄記録の自動化を通じて見守り業務の負荷軽減と、入居者のQOL向上を実現する「排泄センサー」を発表した。

介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」のオプションとして提供する。価格はオープンで、月額使用料金は1,000円。2023年度の導入台数は数千台で、2027年までの目標は2万台。

介護職員の負荷を軽減

パナソニック くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 トワレ・電気暖房事業 総括担当 島津貴夫氏

排泄センサーの概要紹介は、パナソニック くらしアプライアンス社 ランドリー・クリーナー事業部 トワレ・電気暖房事業 総括担当の島津貴夫氏が行なった。

介護サービス利用者は増加中、しかし人手は不足

高齢化社会の到来により介護サービス利用者は増加し、いっぽう、少子化により労働人口は不足しており、大きな社会課題となっている。「排泄センサー」は介護施設におけるサービス品質の向上と職員負担軽減の両立の要望から生まれたもので、排泄情報を自動記録し、介護職員の負荷を軽減。同時に精度の高い排泄記録・一元管理を実現することで、入居者のQOLを向上させる。

排泄センサー概要。3つのユニットから構成され、電源はひとつ

商品は3つのユニットで構成される。着座および排泄を検知し画像を撮影するセンサーヘッド、入室を検知しクラウドと連携するエッジコンピュータ、取り付けプレートである。便座に腰を下ろすと記録が始まるしくみ。エッジコンピュータが便の画像から独自のアルゴリズムで体積や重量をおおよそ75%の正確さで推定する。

画像を撮影するセンサーヘッド
センサーヘッドは脱着容易
エッジコンピュータ。画像処理を行ないクラウドと連携
取り付けユニットを上げたところ

特徴は3つ。IoTを活用した排泄記録業務の効率化、入居者のQOL向上、使用環境に配慮したデザイン設計である。トイレの入退出時刻、着座時間、排便・排尿回数、便の量・形状のデータを自動記録できる。

排泄センサーの特徴

従来は、自立でトイレができる入居者の記録に関しては自己申告に頼ることが多く、実態がつかみづらい課題があった。これによりトイレを記録するごとに自動記録されるので、介護職員の負担が軽減すると同時に、日常の行動変化やいつもとの違いを把握できる。

排泄記録業務を効率化する

なお入居者以外が使用する場合は、記録を一時停止する機能がある。またほとんどの便器に取り付け可能だという。凹凸も少なく、掃除も楽で、すみずみまで拭けるとしている。

排泄センサーで取得した情報はパナソニックの「ライフレンズ」サーバーに送信される。そのデータを参照し、USBメモリを使うことで必要であれば高精細な排泄画像も参照できる。

システム構成

介護業務支援プラットフォーム「ライフレンズ」

パナソニック ホールディングス 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト総括担当 山岡勝氏

「ライフレンズ」については、パナソニック ホールディングス 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト総括担当の山岡勝氏が紹介した。「ライフレンズ」はWi-Fiで接続できるシート型センサーと「Vieuerka(ビューレカ)」というAI内蔵IPカメラを使った映像センシングで、居室の状況を把握できる見守りシステム。

見守りシステム「ライフレンズ」の概要

アイコンとカメラ映像により、職員が部屋を訪れることなく画面を見るだけで、入居者の部屋での状況や生活リズムのズレをリアルタイムに把握することができ、夜間巡視負担を軽減する。より客観的なデータを参照することでアセスメントにも活用できる。

画面を見るだけで居室の状況がリアルタイムにわかる
人の目だけでは難しい客観データを把握可能

導入したHITOWAケアサービス施設では導入前は2時間に一度巡視していたが、夜間巡視時間を91%削減。夜間に突発的に発生するケアニーズに迅速に対応できるようになり、より直接的なケアに時間を割けるようになったことから介護職員の心理的負担も下がった。また人員配置の適正化やサービス品質や安心感も向上し、施設の価値向上や高稼働維持にもつながっているという。

夜間巡視時間を減らすことで職員の負担を軽減

見守りサービスの提供開始は2016年からで、2020年から「ライフレンズ」というサービス名になった。これまでに150施設以上で利用されている。自治体の介護ロボット導入補助事業にも採択されている。

実際の利用イメージ

パナソニックではライフレンズを現場課題を解決するサービスの連携/統合・データの一元化を実現する介護業務支援プラットフォームへと拡張させており、特定の機器やサービスだけではなく、他社システムと連携が可能で、オープンな介護業務支援システムの構築が可能なサービスだとしている。

業務支援プラットフォームとして拡張、データを一元化

たとえば、健康異常は早期に発見することが望ましい。バイタル、生活リズム、食事量や服薬などから機械学習モデルを構築し、異常スコアを見出すシステムを開発している。たとえば肺炎の場合は入院4日前からスコア値の大きな上昇が見られるという。こういうシステムをデータドリブンで構築できる。

取得データから早期発見の機械学習モデルも構築

今回のアップデートで従来の睡眠・在床状況、ベッド上バイタルに加えて、新たにトイレ利用状況が「お部屋パネル」でわかるようになった。排泄状況も一覧できる。より詳細な分析や他のシステムとの連携のためにデータダウンロードもできるようになった。

新たに排泄レポート機能が追加

山岡氏は「便は文字通り体の中からのお便り。高度なケアにつなげていきたい」と語った。客観データから次世代の介護を導いていきたいという。

『マジ神』の思考を取り込んだ介護DXを進めるベネッセ

ベネッセスタイルケア 執行役員 サービス推進本部長 祝田 健氏

排泄センサーを2022年3月にオープンした介護付き有料老人ホーム「グランダ四谷」で先行導入しているベネッセスタイルケア 執行役員 サービス推進本部長の祝田 健氏は、ライフレンズ、そして排泄センサーの活用について紹介した。ベネッセは入居型介護サービス事業のほかさまざまなサービスを展開している。首都圏を中心に13都道府県で高齢者向けホームを350施設運営している。

ベネッセの入居介護事業の概要

ベネッセが介護事業を展開しはじめて28年経っている。理念と行動を結びつけるためにメソッド化を進め、近年では記録のデジタル化など介護DXにも取り組んでいる。

ベネッセでは「認知症ケア」「安全管理と事故の再発防止」「介護技術」の3つの分野で高い専門性と実践力を認定された人材を介護の匠「マジ神」と名づけている。いま、200名近くの「マジ神」がいる。だが人だけでは限界がある。そこで「マジ神AI」開発が始まり、2年間、ソリューションの開発に取り組んでいる。現在、認知症周辺行動(BPSD)の要因分析を行なうためのツールと、いつもとの違いを検知する予兆検知ツールを開発し、介護職員がソリューションを体感することで育てていきたいと考えているという。

介護の匠「マジ神」
「マジ神」のノウハウやインサイトを学習した「マジ神AI」を開発

既に2021年度からいくつかのホームで導入を進めており、入居者の睡眠時間が増えたり身体機能が改善するなどの結果が見られているという。さらに記録データの活用とセンサー活用を加えることで、人だけでは見える化できないデータを新たに加えていこうとしており、ベネッセでは第一号のセンシングホームとしている「グランダ四谷」では全ての部屋に排泄センサーを置いた。

ベネッセ版介護DX=マジ神AIソリューションを開発中
介護付き有料老人ホーム「グランダ四谷」で活用中

祝田氏は「快眠と快便は生活指標のひとつ。センサーでデータを見ながら『マジ神』の思考を取り込んだ介護を行なっていきたい」と語った。