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パナソニック、製造業の知見とDXで流通現場最適化

パナソニック コネクティッドソリューションズ社およびパナソニック システムソリューションズ ジャパンは、7月19日、「現場プロセスイノベーション」の新しいアプリケーションとして、SaaS型業務アプリケーション群「現場最適化ソリューション」を発表した。

「現場最適化ソリューション」は、造る(製造)、運ぶ(物流)、売る(流通)のサプライチェーン領域の課題を解決するアプリケーション群。サプライチェーン領域でシフト作成、入庫や仕分け、ピッキング、また在庫管理や品出し等の各工程の業務を効率的かつ無駄なく連携できるようサポートする。各々のアプリケーションを組み合わせて使うことで、最終的にはサプライチェーン現場のエンドトゥーエンドの工程を総合的に可視化、最適化できるアプリケーション群となっている。

国内の製造、物流、流通の現場に存在する多くの課題をネットワークカメラなどのエッジデバイスを通じてタイムリーに可視化し、コンサルタントが分析を行ない、業務プロセスの標準・基準値を決める。標準値に比べて長い作業時間、工数、滞留時間などのムダを割り出し、ギャップを取り除いた上でAIがアシストする新たな計画に基づき最適な業務プロセスを実行することで、現場の業務効率化を可能にする。月額利用料は登録人数、拠点数、カメラ台数、ライセンス数に応じた価格になる。

可視化と最適化のアプリケーションから構成される「現場最適化ソリューション」

「作る・運ぶ・売る」サプライチェーン領域の課題

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 上席副社長 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 代表取締役社長 片倉達夫氏

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 上席副社長で、パナソニック システムソリューションズ ジャパン 代表取締役社長 片倉達夫氏は記者会見で、製造・物流・流通領域のサプライチェーンに関する取り組みについて紹介した。

同社は2018年より現場プロセスイノベーションの提供を開始。2019年11月には今のBlue Yonder(当時 jda Software Group)と合弁会社を設立。2020年5月にはBlue Yonderの20%株式投資を行ない、2021年4月23日に残りの株式全てを取得することを発表した。

パナソニック「現場プロセスイノベーション」のこれまで

日本は少子高齢化や人手不足など、多くの社会課題を抱えている。さらに新型コロナによって大きな変化が起きている。その裏には需要の急激な変化に伴って、部品調達や納期回答ができないといったサプライチェーン側面での課題が非常に大きな影響を及ぼしている。海外からの物資調達がうまくいかないだけではない。同様のことは国内の流れでも起きている。そして「その問題を解決できるのが当社のソリューションだ」と片倉氏は述べた。

新型コロナ禍では身近なところでもトイレットペーパーやマスク、粉物食材等の品不足がかなり長い間、続いた。製造メーカーでは需要の変化に伴い、日常消耗品の発注が急増。工場の生産の調整、人のシフトを急に変更できず、需要に合わせて出荷が柔軟にできないなどの課題が発生した。また物流現場では消費行動の変化に伴い荷物量が変化。混乱が起きた。

片倉氏は「日本企業におけるDXの課題は、現場に暗黙知がたくさんあり、誰にでもわかる業務プロセスに落とし込めていないこと。また業務が個別最適されていて、ノウハウの共有がされておらず人の経験に依存していること。現場の基本プロセスが定義できておらず可視化できていないことに起因する」と指摘した。そして「パナソニックにはこれらの課題を解決するために、業務プロセスを定義し、誰がやっても同じ結果が生み出せるようサポートできるノウハウがある」と語った。

暗黙知が多いこと、個別最適化されており全体最適になっていないことが日本企業の課題

インダストリアルエンジニアリングとDXのかけあわせ

パナソニックの「現場プロセスイノベーション」はインダストリアルエンジニアリング(IE)とDXのかけあわせでサプライチェーンマネジメントの課題を解決できるという。

日々の現場業務には、複数名で同様の作業をしていても速度にばらつきがあり生産性に影響を与えている工程が必ず存在する。しかし現場のすべての業務課題を把握することは現実的にはできない。パナソニックは製造業の経験から、インダストリアルエンジニアリングの知見で、現場の状況をセンシング技術を活用して作業に潜む課題を把握し、仮説検証できるソリューションを持っている。

SCM現場では課題把握が難しい
センシング技術で実態把握

またSCMの現場には必ず、「待つ・迷う」時間が発生する。たとえば物流ではトラックが到着していても荷物仕分けが間に合ってないため数時間待機せざるをえない、品出しのために担当者が店頭とバックヤードを行き来する時間が何度も発生している。この「待つ・迷う」時間は全く価値を産まない時間だ。

パナソニックには現場の各業務が同期できるように開発した様々なソリューションがあるという。たとえば流通の店の棚を可視化できるサービスがある。棚の全てを可視化し、どのエリアに何をおくと売れゆきがいいか把握できる。そのためバックヤードの店員が迷ったり待ったりすることがなくなる。物流においては、トラック運転手のスマホアプリから届く輸送・配送の記録情報から、いつ、どのトラックが到着できるか把握できるようになり、それによりピッキングに必要な作業人数が事前に予測できるようになる。

待ち時間の発生もSCM現場の課題
待ち・迷う時間の短縮

現場の業務において標準や基準値がないことが現場をさらに混乱させている。作業がどのように、どのくらいの時間で行なわれているのか定量化することで、実施するときの標準時間が見えてくる。作業を正しく分解し、所要時間を見積もることで、作業完了のために今の人数で足りるのか、各自の作業時間のギャップをどうしたら短縮できるのか、実態を把握し、業務プロセスを最適化できるようになる。

製造業の世界では必ず標準・基準値を設定した上で業務作業を行なう。パナソニックではセンシング技術を搭載したカメラを使って、広く現場を可視化し、直感的に理解しやすいグラフなどに変換できるインダストリアルエンジニアリングの技術がある。たとえば一つのラインで10名が作業しているとして、各自の作業にどの程度の差があるのかを一定時間後にすぐにグラフ化して見せることができる。さらに一人一人の作業の実績値と、標準値を比較することでギャップが明確になる。片倉氏は、エッジデバイスから入ってきた情報をもとに定量的に現場を把握することができ、コンサルタントが標準値を策定し実態を把握する様子を動画で示した。

業務プロセスに標準や基準値がないことが多い
標準値とのギャップから課題を特定、改善へ

そして「日本でDXを導入する際によくあるのが現場の業務プロセスの定義や標準値を策定しないまま、デジタルだけを導入するパターン。これでは真の経営課題を把握できてない。そのままデジタル化してもシステム導入の効果が明確にならず、現場の改善も期待できない」と述べた。

パナソニックでは業務プロセス標準化でアナログな現場の課題を明確化し、それからシステム化する。そこに荷物や人の数などを加え、デマンドに応じた人員計画を作ることができるという。「複雑な現場をデジタルで計測可能にすることで、現場の解決を課題とすることが『現場プロセスイノベーション』」なのだという。

可視化に用いられるカメラ

IEの知見、可視化、最適化が強み

パナソニックがいう「現場プロセスイノベーション」の強みは3つ。製造業によるノウハウとインダストリアルエンジニアリング(IE)、画像認識・センシングによるプロセスの可視化、現場の最適化を支えるソフトウェアだ。

インダストリアルエンジニアリングではカメラを使って可視化し、標準を決める。実績を測る。標準と実績のギャップから課題を抽出する。そこから改善された標準に従って実行する。これを繰り返す。そして待つ・迷うに代表されるような非付加価値作業をなくしていく。

継続的な改善サイクルを回す

現場プロセスイノベーションはコンサルティング、サービス提供、運用の各工程で成り立っている。コンサルティングのフェーズでは現場情報を可視化。そのデータを元に標準値を算出する。標準値とともに新たに業務プロセスを定義し、導入する。新たな業務プロセスで運用し、標準値の改善を繰り返すことで、各業務プロセスが最適化され、他のプロセスにも良い影響を与えるようになる。

現場プロセスイノベーションのビジネスプロセス

パナソニックでは製造業で長年把握している業務プロセスを定義し、それを教師データとしてAIに学ばせている。これらのデータを学習させることでアプリケーション側のAIが自動でカメラ映像から何の作業なのかを読み取り、人間に理解されやすい情報に変換できるようになる。これもパナソニック特有の技術だ。

AIに業務プロセスを学習させることで可視化を容易に

片倉氏は複数の事例を紹介した。パナソニックの彩都パーツセンターでは現場プロセスイノベーションを導入している。8万品番以上の在庫を持ち、毎月26,000件の出荷に対応している。ピッキング工数は3年間の平均で25%アップ。コストは10.8%削減。分析工数は2016年では600分かかっていたが、15分に削減できているという。

パナソニック物流の電材厚木物流センターでは1日に1.9万件の出荷に効率的に対応。立ち上げ直後から生産性目標の72%で運用を開始でき、その結果、ピッキング作業は人に比べると1.5倍の生産性を達成。棚卸し工数は10%削減した。

また、ヤマト運輸にも2018年からコンサルティングを開始、導入されており、高く評価されているという。

彩都パーツセンターではピッキング工数が3年間平均で25%アップ
電材厚木物流センターは1.5倍の生産性を達成
ヤマト運輸でも活用されている

今後はリカーリングを強化

片倉氏は「画像認識・センシング技術により現場プロセスを可視化し、人やモノの動きをデジタル化できるのがパナソニックの強み。顧客の課題解決のために提供してきたソフトウェアに、本日新たに「現場最適化ソリューション」が加わったと紹介。これはSCMの課題に特化して開発されたAIを組み込んだソフトウェアで、顧客に新たな価値を提供していくという。

現場プロセスイノベーションの国内戦略については、まずは成長戦略について紹介した。このソリューションは顧客にカスタマイズして提供するエンタープライズソリューション、様々なシステムをモジュール化して提供するスタンダードソリューション、さらに幅広くパートナーとも連携して提供するパートナー連携ソリューションがある。ここに新たに「現場最適化ソリューション」が追加される。これにより、リカーリングの販売も成長させていけると考えているという。なおこの数字にはBlue Yonderとの連携効果は入っていない。

現場プロセスイノベーションの提供形態
国内推進体制を強化

推進体制も強化する。2019年は総勢470名だったが、約6倍の3,000人体制とする。リカーリング事業については、2021年度は販売比率で2割、利益比率で4割だが、2030年度には販売で3割、全体利益の6割までリカーリング比率を拡大することを目指す。片倉氏は「SCM領域の事業の拡大と事業基盤構築によって、顧客のクリティカルな課題を解決できるようになり、事業のさらなる成長を加速できると考えている」と語った。

リカーリング比率の拡大を目指す

SCM現場の各工程を可視化・効率化する「現場最適化ソリューション」

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 パナソニック システムソリューションズ ジャパン 取締役 執行役員副社長の山中雅恵氏

今回発表されたSaaS型業務アプリケーション「現場最適化ソリューション」の詳細は、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務で、パナソニック システムソリューションズ ジャパン 取締役 執行役員副社長の山中雅恵氏が紹介した。

「現場最適化ソリューション」は、製造・物流・流通のサプライチェーン領域で、シフト作成、入庫や仕分け、ピッキング、在庫管理や品出しなどの各工程業務を、効率的に無駄なく連携できるようにサポートするためのアプリケーション。各々のアプリケーションを組み合わせて使うことで、サプライチェーンマネジメント現場の各工程を可視化・効率化できるという。

SaaS型業務アプリケーション「現場最適化ソリューション」

倉庫内では入庫から出庫まで様々な作業がある。だがそれぞれの作業の完了タイミングがバラバラで同期が取れておらず、非効率になっている。その結果、人やモノの滞留、トラック待ち時間が発生している。

同期が取れないことから起こる物流現場の課題

これらの問題を解決するために荷物の輸配送最適化アプリケーションで荷物量の予測と、それに即した最適な輸送配送計画を策定する。その情報をシフト最適化アプリケーションにインプット。荷物量に合わせたシフト計画を立て、倉庫内の各作業を最適化する。また、積み込み後は情報を共有し、到着時間の把握を行なうことも可能になる。可視化アプリケーションと最適化アプリケーションで入荷・出荷・到着までのオペレーションを最適化することが可能になる。

全体を最適化する
可視化と最適化アプリで全体最適化が可能に

流通現場でも同様に現場の状況が把握されていないことで様々な課題が発生している。店舗の在庫状況が把握されていないために、廃棄ロスや過剰在庫、機会損失が起きている。それらの課題への対応から店舗スタッフの負担も増えている。

流通現場の課題

「現場最適化ソリューション」ではバックルームの在庫状況、棚の状況、スタッフの作業状況を可視化することでシフト計画の精度をあげ、適切なタイミングで作業指示を行なうことを可能にする。流通でも可視化アプリケーションと最適化アプリケーションで、店頭とバックルームのオペレーションの最適化を実現する。

流通現場の最適化
流通現場の最適化ソリューション

「現場最適化ソリューション」は可視化アプリケーション群と最適化アプリケーション群で構成され、物流で7つ、流通で8つのアプリケーションを単独あるいは組み合わせて使うことができるという。

物流で7つ、流通で8つのアプリケーションを組み合わせて使える

Blue Yonderで上流でも最適化、自律継続的に最適な現場を実現

Blue Yonderとパナソニックのビジネス

Blue Yonderとパナソニックが目指す姿についても簡単に紹介された。現場を最適化するためには上流プロセスとの連携も必要だ。Blue Yonderソリューションと連携することで、さらに有用になるという。たとえば画像認識センシング技術で店舗の棚を可視化して欠品状況を把握、POSとも連動して需要予測の精度を向上させることで最適発注につなげる。

Blue Yonderとパナソニックが一緒に事業を推進していくにあたり現在パナソニックでは、フィジカルな現場情報をデジタル情報として捉え、サイバー空間で分析し、また現場にフィードバックすることで、改善し続ける姿を思い描いていると述べた。

山中氏は「現場の課題を改善し、最適な現場を継続的に実現するためにも、現場と関連する上流プロセスの最適化を担うBlue Yonderはベストパートナー」だと述べた。

Blue Yonderと連携することによるメリット
最適な現場を自律継続的に実現するサプライチェーンを目指す