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花王、人の手指にウイルスを減らす「バリア機能」発見。乳酸が寄与

寒天培地によるハンドスタンプ法による、大腸菌塗布直後と3分後の評価(大腸菌を緑色に発色させている)。

花王 パーソナルヘルスケア研究所、生物科学研究所、解析科学研究所は、ヒトの手指に、ウイルスを減少させるバリア機能が生まれつき備わっており、風邪やインフルエンザのかかりやすさに関連していることを世界で初めて明らかにした。バリア機能には個人差があり、手汗から分泌される乳酸が機能に寄与しているという。

従来の手洗いやアルコール消毒による菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的であることから、手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につなげるものとしている。

人間の手指は物を持つという運動機能のほかに、触ることで対象物を理解する知覚機能を持つため、接触感染では重要な意味を持っている。菌やウイルスと共存してきた人間の体内には免疫機能として「抗体」が備わっているが、花王は、ヒトと外界との界面、ヒトの表層の感染防止機構に着目。特に手指はヒトと外界の重要な接点であるため、菌やウイルスに対抗しうる力を獲得している可能性があると考え、研究に着手した。

予備的な試験として、感染症にかかりにくい意識のあるヒトと、かかりやすい意識のあるヒト数名を選別。手指に大腸菌を塗布して、直後と3分後の手指の菌の状態を調査した。その結果、かかりにくい意識のあるヒトの手指では3分後に菌が大幅に減少していた。

次に、6名のヒトの手指表面の成分を採取して、抗菌・抗ウイルス活性(菌やウイルスを減少させる効果)を評価したところ、手指表面の成分には、大腸菌だけでなく、黄色ブドウ球菌やインフルエンザウイルス(H3N2)を減少させる効果があることを確認した。また、この効果には個人差があり、いずれの菌・ウイルスに対しても高い効果を持つヒトや、その逆のヒトがいることもわかった。

手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性

さらに、10名のヒトを対象にした数日間の調査で、手指表面の成分の抗菌性の日内・日間変動を検証。抗菌性が高い5名と低い5名に分けたところ、その関係が維持されていることがわかった。

手指表面成分の抗菌性の日内・日間変動(黄色ブドウ球菌に対する評価)

これらの結果から、ヒトの手指には菌やウイルスを減少させる機能が備わっていて、その機能には個人差があり、その機能が恒常的に高いヒトがいるとの着想を得られたという。この機能を「手指バリア」と名づけ、さらに研究を進めた。

手指バリアの重要成分は「乳酸」

20~49歳の健常な男女から、感染症にかかりやすいヒト55名、かかりにくいヒト54名の計109名を選抜し、手指表面の成分を採取して、その抗菌活性を調査。その結果、評価に用いた大腸菌と黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、感染症にかかりにくいヒトの成分の抗菌活性が高く、手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることが強く示唆された。

なお、感染症にかかりやすいヒトとは、過去3年間にインフルエンザに2回以上かかり、過去1年間に風邪の発症が3回以上のヒト。かかりにくいヒトは、いずれも0回のヒトのこと。

感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係

さらに、20~40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルスを用いて抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い化合物の特定を調査した。その結果、その両方に対して相関がある複数の化合物の中でも特に、手汗から分泌される「乳酸」が重要であることが判明。

手指上での乳酸量と、手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係

乳酸水溶液を、手指に存在する範囲で乳酸量を変えて手指に塗布した実験では、乳酸量が多くなるほど抗菌活性が向上したという。

乳酸を塗布した際の手指上での抗菌活性の変化(大腸菌に対する評価)

今後は、手指の感染症に対するバリア機能をより深く研究し、新しい衛生習慣の提案を実現していく。