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鉄道・バス運行と連動した改札いらずのデジタルチケット。イタリアで日立が展開

日立製作所と鉄道システム事業を行なうグループ会社の日立レールSTS社は、イタリアにおいて、デジタルチケッティングの実証実験を2019年5月から開始。その内容を国内で初めてデモストレーションした。

デジタルチケッティングの実証実験の概要

日立製作所が、6月26日に、東京・国分寺の同社中央研究所 協創の森で開催した「研究開発インフォメーションミーティング(戦略・成果発表会)」において公開したもので、スマホを利用するだけで、改札ゲートなどを通過することなく、キャッシュレスで運賃の支払いや移動に関するサービスを受けられる。

実証実験は、イタリアの公共交通機関であるTrentino Trasporti(トレンティーノ・トラスポルティ)との協業により実施。イタリア北部の都市であるトレントを走るTrento-Male-Mezzana(トレント-マレ-メッツァーナ)鉄道と、同社が運営するバス路線を対象にしている。現時点では、日立およびトレンティーノ・トラスポルティの関係者だけに限定した実験となっており、一般客にまでは広げていないが、段階を追って実証実験の範囲を広げる考えも示す。

今回のデジタルチケッティングの実証実験は、スマートフォンをチケットとして活用。鉄道車両やバスなどの車体、また、駅やバス停などに設置した位置ビーコンなどによるセンシング情報と、鉄道やバスなどの運行情報を組み合わせることで、移動経路を推定し、運賃を自動的に計算。キャッシュレスで運賃を支払うことができる。鉄道やバスの利用においては、スマホにアプリさえ入れておけば、アプリを起動させる必要がない。また、移動に関わる各種情報をもとにしたサービスも提供できるという。

スマホのアプリで設定。自分と母親の2人分で設定
この情報を送信することを同意する

今回のデモストレーションでは、以下のような利用を想定し、実演してみせた。

現在いる場所から目的地までを入力すると、スマホに最寄りの駅までの経路が表示され、それをもとに駅に到着。すると駅構内の地図に切り替わり、ホームまでの行き方を指示してくれる。乗車する列車が来るとそれを知らせて、乗車を指示する。

たとえば、乗った列車の前を走る車両に不具合が見つかり、その先の運行に問題が発生した場合には、それを通知し、最適な代替ルートを提案する。このまま乗車しているとどれぐらいの時間がかかるのかといった到着予想時刻と、どの駅まで行って、どこでバスに乗り換えればいいのか、その際の到着予想時刻はどうなるのかといったことも表示される。

目的地までのルートをいくつか表示する
ルートを選ぶと地図で表示される
駅構内に入るとホームまでの経路を指示してくれる

代替ルートを選択した場合には、駅からバス停までのルートを表示。鉄道のときと同様に、乗車すべきバスが来ると乗車を促す。降りるべきバス停になるとそれを知らせ、目的地までの徒歩ルートも表示する。

列車の運行に問題が発生したことを表示
このまま乗車していた際と、代替ルートの所要時間を表示
代替ルートを地図上に表示する
代替ルートで選んだバスを降りると最寄りのバス停から目的地までの徒歩ルートを表示

鉄道やバスの乗車料金は、決済システムと連動しており、すべて自動的に決済される。

また、高齢者向けのシニア料金や子供料金などの割引にも対応しているほか、一人が複数人の交通費を支払うことも可能。スマホのアプリで、自分と母親と設定し、年齢なども設定しておけば、自分は正規料金で、高齢の母親はシニア割引で乗車し、一緒に支払いを行なうといった使い方も可能だ。

最後に費用を表示して自動決済。設定した2人分の費用が表示されている

同社では、「運行管理システムは、日立が得意とする分野であり、これを組み合わせることで、適切な運賃を自動的に計算できたり、サービスの向上につなげることができたりする。列車や駅のリアルタイム情報に基づいたダイナミックな最適経路検索により、利用者の利便性を向上させることも可能だ。乗客は紙のチケットやICカードなどを使用する必要がなくなり、シームレスでより快適な移動が可能になる。また、公共交通機関の事業者にとっては、券売機や改札機といった設備を減らすことで、設備投資コストやメンテナンスコストを削減できる」としている。

欧州の鉄道では、都市部においても、改札がなかったり、駅員がいなかったりという場合がよくある。車内を検札して、不正乗車を取り締まるといった具合だ。

その点では、日本のように、ICカード乗車券や自動改札が普及している国よりは、欧州国々のような地域の方が、デジタルチケッティングシステムの広がりが期待できるだろう。

今回、実証実験を行なっているTrentino Trasportiのトレント-マレ-メッツァーナ鉄道は、トレントの中心部と山間のスキーリゾートであるドロミテエリアを結んでおり、日立レールSTSでは、2002年に信号システムを導入した実績などを持つ。日立レールSTSは、日立が2015年に買収したアンサルドSTSが前身となっており、2019年4月から現社名に変更している。日立グループになって以降、日立が持つデジタル技術を活用したサービスを強化しており、今回の実証実験では、実用化の際には、チケット売上の一部を受領するレベニューシェア型のビジネスを展開する予定だという。

また、Trentino Trasportiでは、MITT(Mobilita Integrata Trasporti del Trentino)と呼ぶチケッティングシステムをすでに導入しており、紙チケット、ICカードのほか、QRコードを活用したスマホアプリの利用が可能となっている。今後、同システムとの統合も図り、独自のチケッティングシステムとして進化させる考えだという。

なお、発表会の会場となった「協創の森」は、同社が中央研究所内に、2019年4月に開設した新たな施設で、世界中から顧客やパートナーを招き、社会課題の解決に向けたビジョンを共有するとともに、アイデアソンやハッカソンなどを開催して新たな事業機会を生み出すための協創拠点となっている。

東京・国分寺にある日立製作所 中央研究所

中央研究所そのものが大きな森となっており、武蔵野を流れる一級河川の野川の源流となる湧水があるなど、多くの自然が残っている。

発表会の会場となった「協創の森」
協創の森がある中央研究所内には自然が多い
中央研究所内には、野川の源流となる湧水がある