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ロボットが目的の品を次々運んでくる。J&Jの「ロボット倉庫」を見学(動画あり)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、東京・羽田の物流センターにおいて「ロボット倉庫」を導入し、10月下旬より本格稼働を開始した。ロボット倉庫の導入は、世界規模で展開する同社グループとしても初の試み。11月12日には、報道関係者向けの説明会を開催し、61台の小型ロボットによる商品ピッキングの様子を披露した。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのロボット倉庫。「AutoStore」という製品が使われているという

積み上げた荷物を天井のロボットが持ち上げ、出荷担当者の手元へお届け

今回公開されたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの羽田ディストリビューションセンター。羽田空港にほど近い物流施設「羽田クロノゲート」(ヤマトグループ)内にて運営されている。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの物流センターがある「羽田クロノゲート」。ちなみに、羽田クロノゲートには一般消費者向けの見学コースも用意されている

ジョンソン・エンド・ジョンソンの物流拠点は全国5カ所にあるが、中でも羽田は「ハブ倉庫」に位置付けられる主要施設。おもに整形外科関連の製品を出荷しているという。

ロボット倉庫と一口にいっても様々なレイヤーがあるが、今回のジョンソン・エンド・ジョンソンの例では、倉庫内の在庫の中から出荷先に応じて製品を選り集める、いわゆる「ピッキング」が部分的にロボット化された。

このロボット倉庫では、高さ約23cmほどの「ビン(Bin)」と呼ばれる小型コンテナで在庫を管理している。ビンは最大16段まで積み上げ可能。その際に、人や台車を移動させるための通路をわざわざ用意する必要もない。

こうやって集積されたビンの上空側、つまり天井部分には、格子状にレールが張り巡らされており、ここをロボットが縦横に動き回る。ロボット自体は小さな箱形で、目的のビンの上に辿り着くと、最も上に積まれたビンを1つだけ持ち上げ、所定の場所へと移動してくれる。16段積まれたビンのうち、最下段にあるビンを取り出したいときは、ロボットが15回荷物を持ち上げて別の場所へ置き直さなければならない。

「ピッキング」をロボット化

もちろん、出荷量の多い製品は、なるべく上段に積むといった制御は行なわれている。なにより、通路が基本的にいらないため、倉庫容積あたりの保管効率は従来の約4倍に向上したという。

よく見ると、赤い小型ロボットが「ビン」と呼ばれる灰色のコンテナを運んでいるのがわかる。またレールの下には、そのビンが最小限の隙間でギッシリ積まれている
ロボット倉庫の模式図。ゲームセンターのクレーン式景品取り機ではないが、荷物を上から掴んで運ぶ
容積効率は4倍に向上

ピッキングはコンテナから取り出すだけ

こうしてビンはロボットが動かしてくれる。ピッキングの担当者は倉庫を歩き回る必要はなく、手元に届くのを待てばいい。そしてビンから目的の製品を取り出して出荷用のカゴへ移した後は、またロボットがビンそのものを別の位置へ戻してくれる。「人間が在庫を取りに行く」のではなく、「在庫が人間に寄ってくる」のが、このシステムの肝だろう。

作業者のデスク。穴があいていて、そこへ次々とビンが届く
上の写真と比べると、ビンに入っているものが違う。つまり、ビンを人力で運ぶような行程はない。ビンは自動で移動し、人間は中から製品を取り出すだけ

ジョンソン・エンド・ジョンソンの設備では、全部で5つのピッキング作業口がある。担当者はここに立ち、出荷作業書のバーコードを端末に読み込ませれば、次々と目的の品が届く。ロボットは全61台が並行稼働していて、当日のデモを見る限りは「次のビンが届くまでの待ち時間」などはほとんど感じられなかった。

出荷作業書のバーコードを端末に読み込ませれば、次々と目的の品が届く

なお、1つのビンは大抵間仕切りされていて、複数の製品がひとまとめに保存されている。そのため、目的の品がどの間仕切りの中にあるか、ライトの当たり具合によって指示してくれる機能もある。

作業者の頭上にはロボットが並ぶ
製品を取り終えた後などには、こちらのタッチパネルを操作する。多言語化を考慮し、あえて英語表示(ただし平易なもの)にしているのだとか

こうして作業を繰り返し、ピッキング作業は終了。配送のための梱包過程へと移っていく。なお、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは出荷物の最終確認については、目視にて実施しているという。

このほか、現地では「サポートジャケット」のデモも行なわれた。肩・背中・腰・膝にかけて着込み、面ファスナーで止めるだけという手軽さが特徴ながら、正しい姿勢作りをサポートし、疲労の蓄積などを軽減する。また荷物を持ち上げる際に、膝の屈伸力を補助する効果もあるとしている。

まもなく導入予定の「サポートジャケット」。ほとんどが布・繊維で作られていて、軽い
実際に装着して作業している状態。背骨部分にサポート用の構造物がある

ロボット倉庫導入の狙い

記者説明会に先立って、ジョンソン・エンド・ジョンソンの岩屋孝彦氏(メディカル カンパニー デビューシンセス事業本部 バイスプレジデント)からはロボット倉庫導入の狙いなどが説明された。

岩屋孝彦氏

ジョンソン・エンド・ジョンソンといえば、バンドエイドや綿棒、赤ちゃん向けスキンケア製品で著名だが、医療機器(コンタクトレンズ含む)の販売規模も非常に大きい。全世界の売上構成比をみると、医療機器分野は35%。これは一般消費者向けヘルスケア分野の18%と比べて倍近い。

医療機器の中でも、特に今回ロボット倉庫の導入に至った整形外科関連は、利用者の体格や事情に合わせて製品が事細かく分かれている。無数ともいえる商品群の中から、より的確に、そして素早く患者の元へ届けたいというニーズは底堅く、その実現に向けてロボット倉庫は重要なステップだと岩屋氏は指摘する。

また荒川朋子氏(ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 日本カスタマーロジスティクスサービス シニアディレクター)は、全社で「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」に取り組んでいることを紹介した。性別・宗教・障害の有無などを問わず、より多様な人材を社会や企業がインクルージョン(包摂)することは、ビジネスを成長させる上でも近年非常に重要だと捉えられているという。

荒川氏は物流の現場においてもD&Iの考えは非常に重要だと強調。人・ロボット・テクノロジーの3つをうまく組み合わせ、人手不足などの問題に対応していくとした。

荒川朋子氏