こどもとIT

動画やマイクラが学びにつながり、問いを深める! GIGAスクール時代の実践を現場の教育者が語る

――「Microsoft Education Day 2021」レポート(前編)

1人1台時代に突入した今、2040年に活躍し社会を担う今の子どもたちのために、どのような教育をデザインすればいいのか。教育関係者同士で議論し合い、実践を共有し、体験できる場として、教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2021」(主催:株式会社バザール 共催:日本マイクロソフト株式会社 企画協力:MIEE Talks@Admin.、Atelier Funipo)が2021年2月27日に開催された。

マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)の教育者有志が毎年開催している本イベントだが、コロナ禍の今年は初のオンライン開催となった。コンセプトは『GIGAスクールに向けた学びを共有し明日からの実践につなげる一日』。多彩なワークショップやセミナー、カンファレンスが開催され、多くの参加者がオンライン上で交流した。

本稿では、動画配信やPBL(Project Based Lerning)、教育版マインクラフトなど、ICTで広がる学びの実践報告を中心にお届けする。

「Microsoft Education Day 2021」で開催されたワークショップやセミナー、カンファレンスなど。さまざまなICT教育を楽しめる一日となった

Chromebookで動画編集をしたいときは?青山学院中等部 安藤氏と静岡県立掛川西高 吉川教諭のセミナー

「これからの教育に動画は必須!ゲームはただの娯楽ではなく、最新の学びだ」という、斬新なタイトルのセミナーに登壇したのは、青山学院中等部講師の安藤昇氏とと静岡県立掛川西高校の吉川牧人教諭だ。同セッションは佐賀県多久市教育委員会 ICT支援員 福島学氏がモデレーターを務め、教育版マインクラフトなどのゲームや動画配信など、両教諭が持つ得意分野や取り組みが語られた。

写真左から)静岡県立掛川西高校 研修課長/ICT推進委員長 吉川牧人教諭、佐賀県多久市教育委員会 ICT支援員 福島学氏、青山学院中等部講師 安藤昇氏

セミナーは、安藤氏によるタワーディフェンスゲーム「クラッシュ・ロワイヤル」のプレイ実況からスタート。参加者からは早々に、「教育フェスでゲームやってる!すごくおもしろい」というコメントが寄せられた。

安藤教諭は同ゲームが高校生向けeスポーツ大会の種目に採用されている例や、「eFootball ウイニングイレブン2020」、「グランツーリスモSPORT」、「ぷよぷよeスポーツ」といったゲームが、国体の文化プログラムにて行なわれる全国都道府県対抗eスポーツ選手権の種目であることを紹介。生徒たちも出場できる大会であると述べ、「ゲームは単なる娯楽ではなく、課外活動や部活動として多くの学びや体験を得られる手段である」と語った。

吉川教諭は、次男が教育版マインクラフトを使ったデジタルものづくりコンテスト「Minecraftカップ 2020全国大会」の小学生低学年部門に応募し、コロコロコミック賞を受賞したエピソードを取り上げた。

「Minecraftカップ 2020全国大会」でコロコロコミック賞を受賞した、吉川岳人さんの作品「天空の学校 西洋のお城と日本のお城」

吉川教諭は「制作過程では、世界のお城についてネットで調べたり、実際に掛川城を見に行ったりと、ゲームだけど学ぶことが多かった」と当時の様子を振り返った。同大会に参加した子どもたちは、どの子も“未来の学校”というテーマに対して、環境問題などについてリサーチし、作品を仕上げていたと吉川教諭。マインクラフトは、学びにつながるゲームであることを示した。

安藤氏は、「マインクラフトでは、作品を完成させて応募すること自体がすごい。完成までたどり着けない子どもたちもたくさんいる」と述べた。青山学院中等部でも教育版マインクラフトを活用した授業を行なっており、「マインクラフトは子どもたちの創造力を養う。規制している学校は多いが、iPadやChromebookでも使えるので授業で活用してほしい」と学校現場の理解を求めた。

続いては、安藤教諭の得意分野である動画配信について。自らYouTuberとして動画編集のテクニックやオンライン授業のノウハウを発信する同氏は、自身が作った配信専用スタジオの設備を紹介。

動画配信専用のスタジオから、画面共有で機材を紹介する安藤氏

かつて佐野日本大学中等教育学校・高等学校放送部の顧問として大会14連覇を成し遂げた経験から、「動画編集や配信では、カメラよりもマイクにこだわるべき」と強調。値段が安くて良いものもあると断った上で、コストをかけられるならマイクは「Sennheiser MKE200」が、PCはGTX1050以上のグラフィックボードを搭載したものがおすすめだと語った。

さらに安藤氏は、Chromebookでも活用しやすい動画編集アプリとして「WeVideo」を紹介。同アプリはWebブラウザーのみで動画編集できるのが特徴で、動画ソースもGoogle Driveなどのオンラインストレージから直接読み込める。授業中に動画編集をする場合、完成した動画を授業終了時に一気にクラウドへ保存すると回線がパンク状態になり、時間内に保存が終わらない問題が発生してしまう。例えば、動画ソースはあらかじめ各自が個別にGoogle Driveにアップロードしておき、それをWeVideoで読み込んで編集、そのままクラウド上に保存すれば、授業中の回線負荷を軽減できるだろう。

子どもたちの「問い」を上手く引き出すためには?立命館小 正頭教諭のセミナー

立命館小学校 正頭英和教諭

続いては、「問いの創り方~PBLとICTが切り開く未来の教育~」と題したセミナーを紹介しよう。登壇したのは、ICTや教育版マインクラフトを活用したPBL(Project Based Learning)の授業に取り組む立命館小学校の正頭英和教諭だ。

問題発見力や課題解決力を伸ばす教育が求められている今、授業でPBLを取り入れる教員は多いが、どのように取り組むべきか。正頭教諭は「子どもたちが問いを持って、それに対してアイデアを出し、アイデアを実現するためにがんばって行動する」という3つのプロセスがPBLでは重要だと話す。

PBLでは、そもそも子どもたちに投げかける「問い」がむずかしい。たとえばSDGsをテーマにしたPBLは、一見相性が良いように思われがちだが、問いの投げかけ方によっては答えの方向性が定まってしまい、自由な発想が広がらないというのだ。

よくあるのは、フードロスをテーマにすると、多くの子どもたちが「食べ残しを減らす」という答えにたどり着いてしまう、という具合。「PBLの良いところは、子どもたちが夢中になって取り組み、発想が広がること。そのためには自分の手で何かを作ったり、体験が伴う問いが望ましい」と正頭教諭は述べた。

正頭教諭はPBLの実践例として、教育版マインクラフトを活用した授業を紹介。世界遺産をマインクラフトで再現し、ワールド内を英語で紹介する観光ガイドロボットをプログラミングするという活動に取り組んだ。

その際、児童から「どんなふうに観光ガイドをしたらいいか分からない」という声が挙がり、京都を訪れた留学生を相手に観光ガイドを体験するプロセスを追加したという。すると、留学生は手水舎に関心があるなど、児童たちはリアルな体験からさまざまな気づきを得て、作品の幅を広げることができた。見つけた問いに対して、モチベーションが行動に変わり、それによって生まれた問題をさらに改善していくという、PBLの理想的なサイクルを生み出せたようだ。

正頭教諭が担当するICT科で児童たちがプログラミングした、観光ガイドロボット
留学生を相手に観光ガイドを行い、外国の観光客が求める情報について体験を通して学んだ

では、子どもたちの問いを上手く引き出すためにはどうすればいいか。正頭教諭は3つのポイントがあると話す。1つ目は、子どもが持っている知識より少しだけ外の情報を提示すること。2つ目は子どもが口にした何気ない疑問を、大人の力で問いに変換してあげること。3つ目は子どもが何かに興味を示したとき、大人がそれ以上のテンションで話を広げること。

これらの要素は、もちろん正頭教諭の日々の教育活動に活かされている。以前、「メガロドン(史上最大の古代サメ)は今も生きていると思う」と口にした児童の言葉を受け、スマホで検索をした正頭教諭。絶滅したらしいという情報を教えても生存説を主張する児童のために、サメの研究者に依頼をし、Zoomで話を聞く機会を作った。その結果、児童は「将来はサメの研究者になる」という夢を抱き、それ以降も生存説を証明するための方法を調べ続けているという。

PBLでは、「問い」→「モチベーション」→「行動」→「問題発見」のサイクルで回るのが理想と正頭教諭

このような自身の経験をもとに、正頭教諭は問いを突き詰めた子どもたちの行動は大きく3パターンに分かれると語った。知識を追求する研究者肌と、自分の手で作ろうとするクリエイター肌、自分が考えたことに対して社会から、どのような反応があるのかを試してみたい派だという。

PBLでは、テーマについて調べた内容をプレゼンすることがゴールになりがちであるが、子どもたちのタイプに合わせて、学びを突き詰められる環境がこれからは求められるのではないだろうか。

リアリティを追求する再現建築は、さまざまな学びにつながる! アジア初プロマインクラフター タツナミ氏のセミナー

アジア初のプロのマインクラフター タツナミシュウイチ氏

最後は、アジア初のプロのマインクラフターとして活躍するタツナミシュウイチ氏が登壇したセミナー「マイクラ×教育!再現建築のいろは教えます」を紹介しよう。

「マインクラフトは学びにつながる素晴らしいプラットフォームだ」と主張するタツナミ氏。同氏は、アンコールワットやお城など歴史建造物をマインクラフトで再現建築したり、学校や地域の教育者と連携して教育版マインクラフトを活用した新しい学びに挑戦している。

「授業の中でマインクラフトの再現建築に挑戦したいときは、何から始めたらいいか」という質問に対して、タツナミ氏は「自分たちの学校や、住んでいる街にある名所や重要文化財を作ってみるのが良い」とアドバイスした。そして、その時に大事になるのは、現地に足を運んで調べるフィールドワークだと強調。実際に建物を自分の目で見て構造を観察したり、どのような材料が使われているかを確かめたりと、新たな発見や学びにつながるという。「マインクラフトで成果物を作り上げる以上に、実際にあるものを見て吸収することが、体験としても、教育としても良い活動ではないか」とタツナミ氏は語った。

再現建築で重要なのは「資料と図面だ」とタツナミ氏。図書館で世界遺産の辞典や写真集を借りたりしながら、自分の手で資料を集める作業も良い学びの機会となる。また資料としては、観光ガイドや旅の雑誌なども有効だという。旅の冊子には、見栄えの良い写真が掲載されており、マインクラフトで作品を作るときは、どのように見えるのが良いか、見せ方の参考になるというのだ。

続いてタツナミ氏は、アンコールワットの再現建築を例にあげて、どのようにマインクラフトで作るのか、テクニックを披露。同氏はカンボジアに行ったことがないが、さまざまな資料を集めて、まずは設計図を作るという。

アンコールワットの図面を元に、Photoshopで解像度を変更するとマインクラフトで再現建築する際の設計図が作れる

設計図の元になるのは、アンコールワットの写真集に掲載された三面図。それをスキャンし、Photoshopで比率を変える。マインクラフトでは1ブロックを1メートルとし、0から50メートルまでのピクセル数にならって図面を縮小するのだが、ここには算数の知識が応用されている。タツナミ氏は「再現建築でリアリティを追及することは、教科の学びにつながる」と述べた。ほかにも、コマンドブロックの操作を通して、英語のスペルを自然に覚えたりと、マインクラフトは多くの学びにつながっているようだ。

タツナミ氏は、「どういうことを学び、どんな生徒像を目指すのか見極めたうえで授業設計が上手くできると、ものすごく効果的にマイクラを使える」とコメント。学校によってはマインクラフトを規制しているケースもあるが、これから教育版マインクラフトを授業に取り入れる教員に向けてエールを送った。

教育現場にICTが入ったことで、これまで無理とされてきた体験や既存の価値観を変えるような授業が実現可能となった。本稿では、動画教材とPBLとマインクラフトの実践を紹介したように、子どもたちの目の前には、創造性豊かな自由な学びが広がっている。先生方には、この新しい変化を恐れず、子どもたちに寄り添い、共に楽しみ、手が届く範囲から実践していっていただきたい。そういった取り組みの中から、子どもたちのユニークな問いが多く生まれ、たくさんのアウトプットにつながるだろう。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは6歳と2歳の男の子を育てるママ。来年小学校入学を控えた子を持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。