こどもとIT

小中高生がユーザーテストを回し、独自の視点と技術力で“未踏”の課題解決に取り組む

――未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート(中編)

小中高生の開発者を支援するプログラム「未踏ジュニア」。本稿では前編に引き続き、特に顕著な成果が認められた8件10名の2020年度「未踏ジュニアスーパークリエータ」から4組の課題解決型のプロジェクトを紹介していこう。

・森谷安寿さん:Flight Fit VR - 「飛行」をテーマに仮想空間で身体を鍛えるVR作品
・三宅慧さん:Spaghetian - 電気と電磁石だけでCPUを自作する!
・黒川陸さん:MER - 多機能電子リコーダー
・山口裕弥さん:Levo - 全く新しい近未来的デザインのエアソフトガン
平川晴茄さん:ぶらっしゅとーく - 小さな子どものための筆談アプリ
五十嵐涼さん:Visible - Webアクセシビリティー診断 & 修正提案ツール
安藤春香さん/大木康平さん:Skimer - 宿題管理アプリ
伊藤祐聖さん/井上陽介さん:critica - 手軽で直感的なリアクション回収ツール
※前半4組は前編で紹介

平川晴茄さん(小学6年生):ぶらっしゅとーく - 小さな子どものための筆談アプリ

「ぶらっしゅとーく」を開発した平川晴茄さん

小学6年生の平川晴茄さんは、幼い頃に祖父が脳梗塞の後遺症でしゃべれなくなったとき、大人同士は筆談ができても、自分はそれができずにコミュニケーションできなかったことを心残りに思っていたという。そこで、幼い子どもでもひらがなの画面をタッチすることで筆談ができるアプリ「ぶらっしゅとーく」を開発した。平川さんは2年前にScratchでプログラミングを始め、今回は2020年に勉強し始めたばかりのJavaScriptを使い、Vue.jsでウェブアプリとして開発。すでに公開している。

タブレットでの使用を想定したUIの「ぶらっしゅとーく」

基本機能は、画面の五十音表をタッチして文章を作り「よみあげ」ボタンを押すと機械音声が読み上げてくれるというもの。向かい合って座ったときに、ひとつのタブレットの両側で操作できるモードもある。また、文字がわからない小さな子でもイラストを押すだけで気持ちを伝えられるように、スタンプモードも用意。さらに、コロナ禍で入院中の祖母と会えなくなった経験や、高齢者施設で面会が制限されていることなどから、対面だけでなくビデオ通話と文字盤でのチャットができる機能を追加することを決断。NTTコミュニケーションズが提供するビデオ通話APIサービス「SkyWay」を利用して、ビデオ通話の機能も実装した。

「ぶらっしゅとーく」の技術構成

アクセシビリティ、ユーザビリティを意識してデザインし、一般的なひらがな入力装置の五十音の並び順も参考にした。保育園でのユーザーテストも行なうなど、徹底して利用者のリアルな声を参考にしている。アプリが完成してからは、祖母と「ぶらっしゅとーく」でおしゃべりをしているそうだ。

【最終成果報告会での「ぶらっしゅとーく」発表動画】

五十嵐涼さん(高校3年生):Visible - Webアクセシビリティー診断&修正提案ツール

「Visible」を開発した五十嵐涼さん

高校3年生の五十嵐涼さんは、Togetter社でアルバイトとしてウェブフロントエンドの開発も行なっている。世の中の多くのウェブサイトがアクセシビリティに問題のある作りになっていることを憂い、既存のウェブサイトのアクセシビリティを診断するツールを開発した。

「Visible」の技術構成

ウェブサイトのアクセシビリティというのは、そのウェブサイトにアクセスした誰もが情報を得られるように配慮すること。例えば、目の不自由な人などが利用するスクリーンリーダーが正しく内容を読み上げ、サイトのリンクなどの機能を把握できるようにするには、そのウェブサイトが構造的なプログラムコードで記述されている必要がある。

開発した「Visible」は既存のウェブサイトのURLを入れて「診断」ボタンを押すだけで、コードの問題を自動で探し出し、重要度の判定と改善提案まで行なってくれる。アクセシビリティについて詳しくない開発者に、正しい知識を得てもらいたいというのも開発理由のひとつだ。すでにプレビュー版が公開されている。

公開されている「Visible」の画面

五十嵐さんはアクセシビリティに対して厳しく完璧さを求めているのではなく、開発者がより自覚的になり勉強するきっかけにして欲しいと考えている。「アクセシビリティを良くすることは障害の当事者だけでなく、ユーザー全体にメリットがあります。プロダクトの可能性が広がるので、開発プロセスに組みこんで欲しいと思います」と話した。

【最終成果報告会での「Visible」発表動画】

安藤春香さん/大木康平さん(ともに高校2年生):Skimer - 宿題管理アプリ

(写真左から)「Skimer」を開発した大木康平さんと安藤春香さんは、アプリのロゴをプリントしたそろいのトレーナーで登場

高校2年生の2人グループによる「Skimer」は、学校から出される宿題情報を共有して管理するアプリ。安藤春香さんと大木康平さんが通う高校では、コロナ禍の長期休校の際に大手の学習管理アプリが導入された。宿題の情報整理や締め切り管理が便利になったことを実感したものの、休校があけると紙の宿題とアナログな情報管理に戻ってしまった。そこで、学校からのアナログな宿題情報を管理するアプリとして「Skimer」を開発したという。

「Skimer」は、個人ではなくクラスなどグループ共同で宿題のタスク管理を行うのが特徴。タスク処理数のランキングを表示するなど、モチベーションの維持になる機能も実装している。高校生が、日常的にグループLINEなどで宿題情報の共有や励まし合いをすることに着想を得ている。

アプリの開発はフロントエンドを安藤春香さん、バックエンドを大木康平さんが担当し、GitHubでデータ管理。ユーザーテストはiOS版、Android版アプリを50人の同級生にベータ版テスト用ツールで配布しフィードバックを得た。これをもとに、宿題の絞り込みの機能追加やUIの改善などを行なっている。

方針や機能変更に対応しやすい構成。アプリはクロスプラットフォームに対応するためにFlutterで開発

ユーザーテストで予想外に苦労したのは、宿題タスクの登録、タスク終了のチェックを入れるなどの行動が少ないこと。それを受けて、開発者側でタスクを積極的に登録したり、ランキングを公開ではなく自分しか見られない仕様にして恥ずかしさをなくす、といった対策を行なったということだ。

ユーザーテストを経て行ったUIの改善

学校のデジタル化の遅れが生徒側での独自アプリ開発につながったという皮肉な状況もあり、先生側と連携する機能は備えておらず、今後の検討事項となりそうだ。最終成果報告会後もアプリはさらなる機能追加を行ない、12月末に正式リリースされた。ユーザーの動向を掴みやすく改善を迅速にできることや、ユーザーの利便性を考慮して、LINEのウェブアプリプラットフォーム「LIFF(LINE Front-end Framework)」での開発に切り替え、LINEで使えるサービスとなっている。

【最終成果報告会での「Skimer」発表動画】

伊藤祐聖さん/井上陽介さん(ともに高校3年生):critica - 手軽で直感的なリアクション回収ツール

(写真左から)「critica」を開発した井上陽介さんと伊藤祐聖さん

高校3年生の伊藤祐聖さんと井上陽介さんは、個人や学校でさまざまな発表をする際に、もっとリアルな反応を得られるとうれしいと考え、シンプルなフォームを作成して気軽にリアクションを得られるツール「critica」を開発した。

既存のフォームサービスと異なるのは、フォームの作成者も回答者も会員登録が必要ないこと。作成と回答の履歴はブラウザ単位で管理し、手軽であることを重視した。設問はリアクション1つのみで、感想を書き添えることができるスタイル。オープンな考え方で、寄せられたリアクションの集計結果は作成者だけでなく回答者も閲覧できる。

ユーザーテストを経て応答性の改善にシステム構成を変更

開発初期から最低限の機能でユーザーテストを頻繁に行い、まずは動作を安定させることを目指し、システム構成を改善。その後、さらにユーザーテストやユーザーインタビューを実施し、機能追加やUIの改善などを行なった。特に、普通のフォームにはない機能として、リアクション送信後にチャットができるディスカッション機能を実装。コロナ禍でリアルな場での交流が難しいため、展示や発表などを見た後に軽く会話をする感覚で、ゆるくつながれる場を機能として設けた。完成までに全15回のユーザーテストを行なった。現在、ウェブ上のサービスとしてすでに公開されている。

公開されている「critica」のサービス画面
【最終成果報告会での「critica」発表動画】

ここまでが2020年度「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定された8組のプロジェクトだ。後編(1/27公開)では、惜しくも認定は逃したが、長期の開発に取り組み成果を出した2020年度採択メンバーたちのプロジェクトを紹介していく。

未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート

【前編】300個のリレーでCPUを自作!? 小中高生が自分の「好き」を極めた“未踏”なプロジェクトたち(1/25公開)
・【中編】小中高生がユーザーテストを回し、独自の視点と技術力で“未踏”の課題解決に取り組む(1/26公開)
【後編】小中高生の多様な好奇心が集う、“未踏”なプロジェクトの数々(1/27公開)

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。