こどもとIT

出る杭を伸ばせ! プログラミングで頭角を現す小中高生クリエイターたち

~未踏ジュニア2017 最終成果報告会レポート~

突出した若い人材の発掘や育成をめざす一般社団法人未踏は2017年10月22日、「未踏ジュニア2017最終成果報告会」を開催した。当日は、未踏ジュニアに選ばれた11組の小中高生クリエイターが集結し、それぞれが開発したプロダクトを披露した。

未踏ジュニア2017に選ばれ、修了証書を受け取った小中高生の開発者たち

未踏ジュニアとは、天才クリエイターを発掘し育成する事業「未踏」のジュニア版で、17歳以下の小中高生や高専生を対象にした人材発掘・育成事業である。2016年にスタートし、独創的なアイデアや卓越した技術を持つ若手IT人材の育成をめざす。未踏ジュニアの志願者は公募形式で募り(グループも可)、第一次の書類審査、第二次のオンライン面接を経て選出される仕組みだ。もちろん審査では、志願者らが開発したプロダクトが評価対象となり、2017年度は応募総数41件の中から、11件のプロジェクトが選ばれた。

未踏ジュニアに選ばれると、未踏のOB・OG、専門家からメンタリングが受けられるほか、各グループに対して最大50万円の開発資金が援助される。これを元に、約5ヶ月間でプロダクトを開発し、最終成果報告会で披露しなければならない。当日の報告会は一般にも公開され、各グループに15分間のプレゼンと、10分間の質疑応答が設けられた。

未踏ジュニア2017最終成果報告会(主催:一般社団法人未踏、後援:経済産業省)は11組の小中高生が登壇。株式会社リクルートホールディングスアカデミアホール(東京都千代田区)にて

ちなみに、選ばれた11件のプロジェクトは全体的にみると、下記の3つに大別される。ゲームなどのエンターテイメントな作品をつくることでプログラミングスキルを伸ばす方法もあるなか、10代の小中高生に対して、テクノロジーの有効活用や可能性を問いかけているのが未踏ジュニアの特徴だといえる。

(1)身近な疑問や課題がきっかけで生まれたプロダクト
(2)こんなのが“あったらいいな”を形にしたプロダクト
(3)プログラミング学習や言語に関するプロダクト

では、これら3つのタイプ別に小中高生クリエイターが開発したプロダクトを紹介しよう。

身近な疑問や課題がきっかけで生まれたプロダクト

高校2年の佐々木雅斗さんと周藤光太郎さんのチームは、個人の経験に紐づいた楽曲を推薦するiOSアプリ『MUSIC REMINDER』を発表した。

iOSアプリ『MUSIC REMINDER』を発表した高校2年の佐々木雅斗さんはプログラミング歴3年、周藤光太郎はプログラミング歴5年の経歴

同アプリを開発したきっかけは、月額制音楽サービスの登場により、昔の曲を手軽に楽しめるようになったにもかかわらず、新曲を聞いている人が多いと気づいたことだ。自分たちも、以前より昔の曲を聞く機会が減ったという。2人はこの原因として、音楽のアプリは最近追加した曲が画面のトップに表示されることや、ヒットチャートを並べたプレイリストが多いからだと考えた。そこで、個人の思い出に基づいた楽曲をレコメンドする機能があれば、昔の曲がより再生されるのではないかと仮説を立てた。

思い出のある音楽とはどういうものか。2人がアンケートを実施したところ、映画やドラマの主題歌、カラオケで歌った歌などが、多くの人の思い出に影響していることが分かった。そのため「MUSIC REMINDER」では、Facebookに投稿した写真や映画の情報や、カラオケの履歴データなどから個人の経験を分析し、楽曲を勧めてくれる。具体的には「◯◯年前の今日、聞いていたであろう曲」という具合に、1日ごとにプレイリストを生成し、個人の思い出と一緒に昔の曲を楽しめるというのだ。

「MUSIC REMINDER」では、Facebookに投稿した写真や映画の情報やカラオケの履歴データを分析し、楽曲を推薦してくれる

開発した2人はMUSIC REMINDERの魅力について、カスタマイズした曲を推薦することで音楽業界は収益の向上が期待できること、またアーティストは昔の曲がさらに再生されるようになるため、長く愛される曲づくりができる点をアピールした。また未踏ジュニアに参加した感想として、「今までは自分ができるか、できないかで判断していたが、このプロジェクトをきっかけに新しい技術に挑戦できたことがよかった」(佐々木さん)、「年齢のちがう人と関わり、ものづくりを通して互いに切磋琢磨できたことがよかった」(周藤さん)と感想を述べた。

ほかにも、身近な疑問や課題がきっかけで生まれたプロダクトとして、高校生が開発した学校の情報やTo Doリストを共有するためのウェブアプリ「PAPA」、中学生が一人暮らしの祖父・祖母を見守るために開発した、Raspberry Piとカメラやセンサを用いたフォトスタンド。小学生が開発した、文字が読みづらい曽祖父ために作った新聞を読みやすくするアプリ「らくらく読み読み」などがあった。どのプロダクトも“誰かを喜ばせたい”“何かを良くしたい”という想いが込められていたのが印象的だった。

学校現場における情報共有やスケジューリングを支援するウェブアプリ「PAPA(Personal Assistance Parental Application)」を発表した高校生チーム(田中祐太朗さん、中原楊さん、中川茉奈美さん)。3人はプログラミングをやった経験がほとんどなかったという
見守りフォトスタンドを開発した中学生の矢野礼伊さん。カメラ及び各種センサを装備し、サーバーを介してWeb経由で介護者の様子をリアルタイムで知ることができる
視力低下などで文字を読むのが困難な人のためのアプリ「らくらく読み読み」を開発した小学生の大塚嶺さん。拡大機能、ユニバーサルデザインフォントの使用、マーカー機能、視線追跡機能などで文字を読みやすくする工夫を加えた
東京オリンピックに向けて、訪日外国人と日本人が英語で交流できる掲示板アプリ「Fall in Friends」を開発した霜田哲之介さん。英語が苦手な人でも翻訳機能を使うことで参加できるのが特徴。アプリ開発前に空港で外国人にインタビューしてニーズに関する調査も行ったという

こんなのが“あったらいいな”を形にしたプロダクト

中学2年生の菅野楓さんは、自然言語処理で映画脚本のテキスト分析を行い、登場人物の感情変化をもとにストーリーを評価するシステム「narratica(ナラティカ)~ストーリーコンサルタント~」を発表した。

「narratica(ナラティカ)~ストーリーコンサルタント~」を発表した中学2年生の菅野楓さん

菅野さんは、日本でヒットした映画の興行収入が、ハリウッド映画の約1/10にも満たないことを知り、世界中で受け入れられているわけではないことに気づいた。その原因のひとつとして、日本人の作るストーリーは世界の人々の共感が得られにくいと考え、学校の課題研究をきっかけに、ヒット作品のストーリー構造について調べたという。この時の研究がベースとなり、“コンピュータでストーリーを解析できたら、誰もが理論に基づいて面白い作品を作ることができるのでは?”、との考えからnarraticaの開発に着手した。

会場からは称賛の声が挙がるとともに、「翻訳の問題はどう考えているか?」「同じパターンのストーリーばかりが生まれる危険性はどうか?」など、高度な質問も投げかけられた

narraticaの特徴は、映画脚本のテキストを形態素解析し、感情極性対応表を用いて言葉が持つ感情を数値化したことだ。その結果を時系列でグラフに示し、映画全体を通して、キャラクターごとの感情の動きを可視化した。これにより、“バック・トゥ・ザ・フューチャーは、主人公の正負の感情がテンポよく入れ替わる”、また“ダイハードは、主人公が常に負の感情で困った状態が観客に受けている”などの傾向が読み取れるというのだ。菅野さんはこうした人気作品のストーリーを分析することで、「これまで一部の天才にしかできないと思われていた面白いストーリーを、誰もが作れるようになるのではないか」とアピールした。ちなみに、菅野さんは今回がサーバーを使った初めての開発で、PHPとMySQLの勉強に挑戦したという。「今後は、言葉だけでなく、キャラクターの特性も含めてストーリーを分析したい」と述べた。

ほかにも、こんなのが“あったらいいな”を形にしたプロダクトとしては、海外在住の中筋絢香さんが開発した、漢字を楽しく覚えるシステム「暗記クッキー」だ。同プロダクトは、オンラインの漢字テストで覚えた漢字をレーザーカッタでクッキーに焼くことで、漢字を楽しく覚えるモチベーションの向上をめざしたものだ。また中学生の根本真響さんは、音声認識機能を持つ「聞くキーボード」を開発した。自身が骨折して入力ができなくなった時に音声入力が役に立ったことから需要の可能性を感じたという。さらには、複雑なプログラミングをしなくてもIoTデバイスをカスタマイズできるシステム「SmileI/OT」という将来の可能性が広がるプロダクトも発表された。

「暗記クッキー」を開発した中筋絢香さん。「海外にいると漢字を学ぶモチベーションを保ちにくい」という自身の経験から楽しく語学学習に取り組めるアイデアを形にした
中学生の根本真響さんは、音声認識機能を持つ「聞くキーボード」をRaspberry Piを用いて開発した。日本語、英語、中国語に対応しているという
高校生チーム(山田陽大さん、足立素音さん、田島融樹さん、出川大和さん)が開発した「SmileI/OT」は、プログラミング不要でIoTデバイスをカスタマイズできるシステム。Raspberry Piの上でWebサービスを動かし、さまざまなセンサの入力をTweetで行う設定ができる

プログラミング学習や言語に関するプロダクト

高校3年生の大野智葵さんと高校2年生の鈴木颯介さんの2人は、FRPの概念に触れられるビジュアルプログラミング言語「vamboo(https://vamboo.net/)」を開発した。FRP(Functional Reactive Programming)とは、大まかにいうと、ひとつの値が変われば、それと連動して他の値も自動的に変わるプログラミングの手法。例えば、エクセルの自動集計のように、ひとつのセルの値が変われば、連動する他のセルの値も変わるような仕組みを実現しやすいのが特徴だ。

「vamboo」を開発した高校3年生の大野智葵さんはプログラミング歴9年、高校2年生の鈴木颯介さんプログラミング歴3年の経歴

vambooを開発したきっかけは、大野さんの小学校時代の体験にある。当時通っていたプログラミングスクールの講師から「画面にマウスの座標を表示するプログラムを書いて」と投げられたものの、当時の大野さんは正しいコードを書くことができなかった。一方で、講師から教えてもらった正解のコードに対しても、どこか納得できず疑問が残ったというのだ。「教えてもらったコードは、マウスが動いた値を、その都度自分が管理しなければならなかった。当時の自分は、そんなことは機械が勝手にやってくれよと思った」と大野さんは語る。

「画面にマウスの座標を表示するプログラムを書いて」という問いに対して、左写真は小学生の頃の大野さんの思考。右写真は、講師から教えてもらった正解。この正解を見て、マウスが動いた値はコンピュータが勝手に計算してくれればいいのにと思った大野さん。その後、FRPに興味を持つきっかけになった

その後、中学3年でFRPに出会った大野さんは、小学生の頃に感じた疑問は、このプログラミングの手法で解決できるのではないかと感じた。「小学生でもFRPを理解する手段はないかと考えて、ビジュアルプログラミングならばその概念を理解しやすいのではないかと思った」と大野さんは語った。こうして開発されたのがvambooなのだ。

vambooのインターフェース。オープンソースなので誰でもアクセス可能。英語表記にこだわり、世界の人々に使ってもらえるようにした

ほかにも、プログラミング学習や言語に関するプロダクトとしては、中学生の加藤周さんが開発した「DrawCode」(https://drawcode.net/#/)があった。加藤さんは小学4年生の頃からプログラミングを始めたが、自身の経験を踏まえ、ビジュアルプログラミングからテキストプログラミングへの移行をスムーズに行えるプログラミングツールを開発した。ユーザーテストも行い、チュートリアルの画面を設けるなど工夫を凝らしたという。

中学生の加藤周さんは、ブロックをつなぐことでHTMLを書くことができる「DrawCode」を開発した。プログラミングの学習で挫折する人をなくしたいとの思いから同プロダクトを作ったという

6名が「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定

今回の最終成果報告会で発表した11組の中から、より優秀なクリエイターは「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定された。下記の6名がそうだ。

・菅野 楓(narratica~ストーリーコンサルタント~)
・矢野 礼伊(見守りフォトスタンド)
・加藤 周(DrawCode~ブロックをつなげて自由にHTMLを描こう~)
・大野 智葵(FRPの概念に触れられるビジュアルプログラミング言語の開発)
・鈴木 颯介(FRPの概念に触れられるビジュアルプログラミング言語の開発)
・大塚 嶺(らくらく読み読み)

未踏ジュニアのクリエイターたちが発表したプロダクトは、どれも個性的で、アイデアにあふれたものばかりだった。10代の開発者といえど、大人と同じ問題意識を持ち、そこにテクノロジーを活用して課題を解決したり、新しい価値観を提供したりする発想を持っていることが印象的だった。誰かのために、何かのために、テクノロジーを活用するというアイデアをこの歳で持っていることは、これからの人生の可能性を大いに広げてくれるはずだ。出る杭になることを恐れず、この先も尖った人材に成長してほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。