こどもとIT

Google作成の指導案で、小学生がTensorFlowのAI画像認識プログラミング授業実践

――町田第三小学校「AI x プログラミング 公開授業」レポート

2019年7月18日、東京都町田市立町田第三小学校(以下、町田第三小)でプログラミングの授業が行われた。プログラミングの授業実践自体はもはや珍しくないが、今回特別だったのは「Googleの協力でAIを活用したプログラミングをする」という点だ。5年生の教室を訪れると、子どもたちは皆、ぬいぐるみやフィギュア、カード類など普段は学校に持ってこられないようなアイテムを机の上に出していて、ちょっとソワソワしている様子だ。

町田第三小の5年生がChromebookでAI画像認識プログラミングに取り組んだ

小学生でもAIと機械学習に取り組みやすい教材を用意

授業が行われたのは5年生の「総合的な学習の時間」で、普段の教室でパソコンを1人1台使って授業がスタートした。町田第三小では、これまでパソコン室でPepperを使ったプログラミング活動などもしてきたが、昨年9月にパソコン室のPCとは別にLTE接続のChromebookを40台導入、モバイル環境が整って用途が広がったという。これは、町田市が全市立小中学校を対象に導入を進めているものだ。

子どもたちがこの日チャレンジしたのは、AIによる画像認識。たとえば、ぬいぐるみAとぬいぐるみBを端末のカメラで撮影してAIに機械学習させ、その上で「カメラがぬいぐるみAを認識したら○○をする/ぬいぐるみBを認識したら××をする」というプログラムを組むのだ。プログラミング自体はScratchを用いており、作業が難しいわけではない。だが、裏で動いているのは、Googleがオープンソースで提供している機械学習プラットフォーム「TensorFlow(テンサーフロー)」。これを子どもたちが手軽に使えるように、株式会社グルーヴノーツが運営するテックパークがGoogleの協力を得て開発した画像のトレーニングツールと、Scratchで使える拡張ブロック「AIブロック」を活用したカリキュラムだ。AIブロックはテックパークのサイトでも公開されており、誰でも試すことができる。

子どもたちはこの日までに、実際にAIを活用した事例の動画を見るなどしてイメージをつかんできている。動画には、きゅうり農家がきゅうりの等級の選別のためにTensorFlowを使ってプログラムを組んでシステム化した例などが登場する。一見すると、技術とは遠いところにありそうな業務が効率化された例としてとてもわかりやすい。

Grow with Google Japanが公開している動画「AIってなんだろう」

今回の授業では、あらかじめ用意された素材ではなく、各自が持参したリアルな素材を学習させ、うまく認識されるようにプログラムを自分なりに工夫するという課題が与えられている。果たして、うまく認識されるだろうか。

アイテムをカメラで学習させ、Scratchでプログラミング

まずは各自が持ってきたアイテムをAIに機械学習させることから始める。テックパークのサイトのトレーニングツールを使って、アイテムをカメラで撮影して登録する。カメラは連写されるため、1つのアイテムの少しずつ異なる画像が登録され、それをアップロードすることで「カギ」と呼ばれる数字が発行される。そのカギの数字をScratch側で入力すれば、カメラで撮影してAIに機械学習させたデータを活用できる仕組みだ。

子どもたちは、用意された写真ではなく立体物をAIに機械学習させるのは、この日が初めて。アイテムの背景をすっきりさせるために白い厚紙が用意されていた。自分が写り込んでしまったり、大きなものは画面に入りきらなかったりする中、工夫しながらどんどんアイテムを登録していく。自分の顔を写して、自分を認識させようとする子どもたちもちらほら見受けられた。

子どもたちが持参したアイテムをカメラを使って登録していくが、大きなものや縦長のものなどは工夫が必要になる

登録ができた人からScratchでプログラムを組んでいくのだが、今回はAIの機能を使うため、テックパークによる独自の拡張機能を読み込めるようにアレンジがされたScratchにアクセスする。今回組むプログラムは既に前の授業で学んでいるので、プログラム自体に大きく迷うことはなさそうだ。

プログラムの仕組みは、まず画像のトレーニングツールで取得したカギの数字を入力して呼び出し、カメラ機能をオンにする。カメラがどのアイテムを認識したかに応じて、Scratchユーザーにはおなじみのネコに各自が自由に考えたセリフを喋らせる、というものだ。

画面をタッチで操作しながらプログラムを組んでいく

プログラムが組めた人から、プログラムのテストを行う。自分の持ってきたアイテムをカメラにかざして、ネコが予定通りのセリフを喋ってくれるかを確認している。最初からうまくいく人ばかりではなく、何かしらうまくいかない様子の人も多い。あるアイテムは認識されても別のアイテムは認識されなかったり、どれも反応しなかったりと、それぞれが何度もトライアルアンドエラーを繰り返して試していく。

期待したセリフが表示されるか確認中

最後に数名が自分の作品を発表した。プログラムの構造自体をアレンジしているわけではないが、セリフの内容を工夫することで、子どもたちのアイディアがそれぞれに発揮された。よく似たキャラクターを判別するツールとしてキャラクターの名前がセリフになっている作品、値段を表示させることを想定して「○○ 500円」というセリフが表示される作品、国旗を認識させて日本との時差をセリフにしてある作品など、さまざまだ。

こうして限定された範囲内とはいえ、AIによる画像認識とプログラムを組み合わせるとどんなことに使えるかを、自分なりにそれぞれが考えたり、自分の好きなもので工夫をするというのは大切なステップだ。

発表者の作品例

今回の授業で、問題が解決した人もいれば、思うように動かなかった人もいる。うまく動かなかった理由は、プログラムの組み間違い、カギの転記ミス、画像トレーニング時認識のさせ方の問題、テスト時の認識環境など、いくつかのケースがありうる。「映すものが白っぽいものだとうまく反応しないのでは?」という気づきの声が上がるなどもしたが、個別に原因は違うので、動かないプログラムの解決は次回以降の持ち越しとなったケースも多い。

うまくいかなかった、という経験とともに、問題の切り分けもされることはとても重要だ。エラーの原因が切り分けができていない状態で、「AIってちゃんと認識してくれない」「AIが間違えた」という印象をもってしまっては、それはとても残念なことだからだ。体験的な学習であっても、そうした問題の切り分けができるかどうかで、技術に対する捉え方が変わってしまう。

とはいえ、AIを実際に使ってみて自分なりのアイディアをふくらませることが重要であり、こうした技術を手軽に使えたことは、それだけでも貴重な体験のできる授業であったことは間違いない。また、大人数の一斉授業ではできることに限りがある中、混乱もなく担任の先生が進行できていたことは、この時間までの積み重ねと無理のない授業ボリュームの見定めがあったからだろう。

企業が提供するプログラミングの指導案が豊富な「みらプロ」

今回、町田第三小ではGoogleの支援を受けてこの授業が実現したわけだが、これは、文部科学省、総務省、経済産業省の3省が設定した「未来の学び プログラミング教育推進月間」(以下、「みらプロ」)の取り組みの一環だ。2019年9月を推進月間とし、各学校がプログラミング授業に取り組むよう呼びかける動きで、ウェブサイト上では「総合的な学習の時間」(以下、「総合」)を使って実施できるプログラミングの指導案が複数公開されている。もちろん、このGoogleによるAI活用の指導案も公開されている。

未来の学び プログラミング教育推進月間のウェブサイト

指導案は全て企業発のアイディアであることが特徴で、指導案ごとに講師派遣(現在は受付終了)や教材提供の申し込み(指導案によって継続中)を受け付けていた。町⽥市は、これを通じてGoogleの支援を受け、9月の「みらプロ」に先んじて町田第三小が授業を実施したという経緯だ。

「みらプロ」上の指導案は、いずれも「総合」の年間全70時間のうち35時間使う設計になっている。町田第三小では、全7時間の指導案に組み直し、今回その3時間目が公開された形だ。この指導案は短縮したものの、町田第三小の5年生は「総合」の14時間をプログラミングに、13時間はネットの使い方などの情報関連の学びに設定して、合計27時間を充当している。それに加え、通常教科の中でもプログラミング等に積極的に取り入れている。

子どもたちが楽しく成功体験を重ねられるよう、担任だけでなく、市が派遣するICT支援員と学年ペアの担任が相互にサポートに入るなど、なるべく複数で授業にあたれるようにしている。子どもたちは、授業を楽しみにしていて、新しいことができるようになっていくのがうれしい様子だという。機器や支援員の配置などは市が一斉に進めるからこそ実現することであり、教育委員会と学校の両方が力を尽くしてこそ、新しい分野の学びが成立することがよくわかる。

左から、町田第三小学校 野末直美校長、町田市教育委員会 学校教育部指導課指導室長 金木圭一氏

説明にあたった町田第三小学校の野末直美校長は、「技術を教えるのではなく、子どもたちが活用してみて自ら発見する試行錯誤が大切だと考えています」と語り、情報関連の学びを発達段階にあった形で体系的に組もうとしていることが随所で伝わってきた。特に今回の指導案は、実生活に根ざしたより身近なイメージを持てる点がとてもいい学びになっていると感じているということだ。確かに、今の子どもたちにとっては、ロボットを意図した指示通りに動かすよりも、AIの画像認識を使ってどんなことをしたいかと考えることの方が、よほど身近なことなのかもしれない。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。