こどもとIT

家庭で学べるmicro:bitプログラミング教育コンテンツ「CODEPARK」がオープン!

micro:bit教育財団 CEO Gareth Stockdale氏も、日本でのさらなる活用を訴える

小学校のプログラミング教育必修化を受けて、保護者の間でもプログラミングに対する理解は広がってきた。しかし、子どもたちが家庭でプログラミングを学べるようにサポートしたり、PCを買い与えたりする保護者は、まだまだ少ない。

こうした現状に課題感を持つWDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)は2019年11月8日、micro:bit(マイクロビット)を使って家庭でも学べるプログラミング教育コンテンツ「CODEPARK」をオープンする。小学校におけるプログラミング教育が広がるなか、家庭でも同じようにプログラミングを学べる機会を提供するものだ。

同サイトのオープンに先立って、micro:bit教育財団CEO Gareth Stockdale(ギャレス・ストックデイル)氏と、WDLC会長の梅田成二氏の話を聞くことができた。micro:bitがなぜプログラミング教育に良いのか。CODEPARKはどのようなサイトなのか、インタビューの内容をレポートしよう。

写真左からmicro:bit教育財団CEO Gareth Stockdale氏と、WDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)会長 梅田成二氏

micro:bitの魅力は、ハードルの低いところから学び始められるところ

micro:bitについてはご存知の方も多いと思うが、おさらいをしておこう。

micro:bitとは、イギリスの公共放送局であるBBCが中心となり、プログラミング教育の普及をめざして開発された教育用のマイクロコンピュータのことである。教育機関で使用することを前提に作られているため、低価格で入手可能なうえ、ソフトウェアのインストールが不要、タブレットやスマートフォンからでも利用可能など、教育現場で扱いやすいのが特徴だ。プログラミング初心者が簡単に使えるほか、加速度センサや磁力センサなど、さまざまなセンサや機能が内蔵されているので拡張性も高い。

無線通信でmicro:bit間をつないだり、Bluetoothでタブレットやスマートフォンの制御も可能で、ウェブブラウザ上から「MakeCode for micro:bit」を使ってプログラミングができる

このmicro:bitと共に世界各地の教育機関に赴き、プログラミング教育の普及活動に尽力しているのが、micro:bit教育財団CEOのGareth Stockdale氏だ。同教育財団は、2015年にイギリスで設立され、今年で3年目を迎えた。Stockdale氏の話によると、micro:bitはこれまでに450万台製造され、世界2000万人にデジタルスキルを学ぶ機会を提供してきた。今やmicro:bitは60カ国で入手可能となり、33の国と地域でmicro:bitを用いた大規模プロジェクトが実施されているという。

なぜ、これほどmicro:bitが世界各地で使われているのか。Stockdale氏は「micro:bitが教育目線で作られたプログラミングツールであり、今までプログラミングをやったことがない子どもや大人でも、ハードルの低いところから始められるからだ」と述べた。

実際に、同教育財団がイギリスで行った調査によると、micro:bitを使ったプログラミング学習については、90%の子どもたちが“誰もがコーディングを出来ることがわかった”と回答したほか、87%の子どもたちが“micro:bitは新しいことを学ぶのに役に立った”と回答したという。こうしたポジティブな回答が得られた要因についてStockdale氏は、「micro:bitはLEDが光る、ボタンを押せば動くなど物理的にも分かりやすい。そのため子どもたちの間でコミュニケーションやコラボレーションが活性化しやすいのも影響しているだろう」と話す。

micro:bitを活用したプログラミング学習に対する生徒の感想では、90%の子どもたちが“誰もがコーディングを出来ることがわかった”とポジティブな意見を寄せた

またイギリスは、11歳から12歳の全ての児童に対して、micro:bitを配布するなどコンピュータサイエンスの教育に力を入れており、近年はその成果も出てきたようだ。もちろん、同国では2014年から小学校で「Computing」という教科も必修化されているので政策の効果もあるだろうが、全体の傾向として、「コーディングを学ぶ意欲は高まっている」とStockdale氏は話す。たとえば、GCSEと呼ばれるイギリスの16歳が受ける全国統一テストにおいては、コンピュータサイエンスを選択する生徒が7.6%伸びた。女子生徒に限っては14.5%も上昇したという。

micro:bitの配布以降、GCSE(イギリスの16歳が受ける全国統一テスト)において、コンピュータサイエンスを選択する生徒の人数が増加した

ほかにも、教師のプログラミング教育に対する意識も変わりつつあり、「52%の教師がmicro:bitを使うことで自信が持てるようになったと話している」とStockdale氏は述べた。

プログラミング教育に対して、52%の教師がmicro:bitを使うことで自信が持てるようなったと回答、そのうち70%の教師は過去に自信がないと答えていたという

他国に比べて、micro:bitの配布率が低い日本

micro:bitは世界各地で普及していると前述したが、各国ではどのような取り組みを実施しているのか。これについてもStockdale氏は内容を紹介した。

たとえばウルグアイでは、2018年から政府の資金援助を受けている団体とパートナーを組み、中学生に対して5万台のmicro:bitを配布した。同国ではプログラミング教育に対して、対面授業、遠隔授業、オンラインによる1to1の授業という具合に、3つのパターンで普及活動を推進しているという。またシンガポールも同じく、2017年から政府の援助を受けている組織と組み、教師のトレーニングに注力したプログラムを実施。子どもと親が一緒にプログラミングを学ぶ世代間学習にも力を入れ、「親が子どもたちに必要な未来のスキルについて考えるようになった」とStockdale氏は成果を述べた。

ほかにも、リトアニアでは27,000人の小学5年生全員に対して、micro:bitを配布。こちらは、市民から寄付金を使ってプロジェクトを進めたそうだ。またカナダでは、二酸化炭素と酸素、湿度が計測できるmicro:bitをカナダ全国の小学校に配布し、学校ごとに観測したデータをアップロードして、全国の小学校で比較できる環境を構築した。Stockdale氏は上記に挙げた国のほか、デンマーク、西バルカン諸国、国連での取り組みなども紹介した。

一方で同氏は、「他国に比べると、日本でのmicro:bitの配布率は少ない」と指摘。多くの国がプログラミング教育への取り組みを強化させるなかで、日本においてもmicro:bitがもっと広がってほしいと述べた。

micro:bitの配布率を示したもの。黄色い部分が日本

プログラミング教育の裾野をさらに広げるために、家庭向けの支援を

続いては、WDLCの会長である梅田成二氏より、同コンソーシアムがこれまで教育分野で取り組んできたプロジェクトや課題感について語られた。WDLCは2007年に設立した業界団体で、業界の横断的な課題解決に挑戦。この数年は、デジタルスキルの育成などに力を入れている。プログラミング教育の普及においても、2018年6月から学校のプログラミング教育を支援するプログラム「MakeCode×micro:bit 200プロジェクト」を推進し、参加校200校に対して、micro:bitを20台ずつ配布するなど尽力している。

梅田氏は、プログラミング教育にせよ、ICTの活用にせよ、「日本の教育ICT分野における課題は、学校も保護者もコンピュータの活用に対する意識が高まらないことだ」と述べた。一例として同氏は、OECDが発表した資料を提示しながら、学校でのICTの活用頻度は、加盟国の中でも最下位レベルにあることを指摘した。

一方で家庭におけるICT環境はというと、PCを与えている家庭が少ないと梅田氏は話す。内閣府が発表した「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、13歳~15歳のノートパソコン所有率は22.1%と他国に比べて低く、15歳の家庭パソコン利用率も47カ国中46位と低い。梅田氏は「日本の子どもたちは、コンテンツを見たり、ゲームをしたりと、消費することにしかデバイスを使っていない」と述べた。

日本の家庭のICT環境の現状

こうした日本の状況は、やはり変えていかなければならない。そのひとつの要因として梅田氏が挙げたのは、OECDが2021年のPISAテストから導入するというコンピュータ的思考を問う例題だ。つまり、時代の流れを見ても、グローバルな動向を見ても、もはやICTの活用やプログラミング的思考が求められているのだ。当然、日本においても、こうした動きを無視することはできず、未来を生きる子どもたちのために、必要なスキルが身につく学習を提供していかなければならない。

2021年からPISAテストに導入されるコンピュータ的思考を問う例題

そこでWDLCでは、プログラミング教育の裾野をさらに広げるために、家庭向けの支援を充実させていく考えだ。そのひとつとして、子どもたちがモチベーションを持って、家庭でも楽しくプログラミングを学べるようコンテンツを掲載したウェブサイト「CODEPARK」を立ち上げるという。

お家で楽しくプログラミングが学べるサイト「CODEPARK」

「CODEPARK」は、micro:bitを活用したプログラミングの学習コンテンツを掲載したウェブサイト。東大卒クイズ王の伊沢拓司氏をアンバサダーに任命し、親子で一緒にチャレンジできるプログラミングのコンテンツを紹介。たとえば、蓋を開けると音楽が鳴るプレゼントボックスや、エアーピンポンなど、サンプルコードや解説動画を用意して、自宅で取り組めるようにデザインされている。

さらには、家電量販店ヨドバシカメラと協力し、「MakeCode×micro:bit体験会」も開催予定だ。梅田氏は、「プログラミングを教えられないと思っている保護者を、できる限りサポートしていきたい」と想いを語る。

ちなみに、まだまだ家庭でプログラミングを行うには、自宅にコンピュータがなくて困っているという保護者もいるだろう。また「CODEPARK」をやってみたくても、そもそもmicro:bitの購入が分からないという方もいるはずだ。そういうご家庭に対しては、レノボ社が発表したバンドルPCも選択肢のひとつだ。「レノボD330 My First PCモデル」の購入者にはmicro:bitアドバンスセット(通常は7000円程度)が、無料になるクーボンも配布されるというのでチェックしてみてほしい。

プログラミング教育は、多くの保護者にとって“よく分からないもの”であり、“なぜ、学ぶのか分からない”ものかもしれない。しかし、子どもと一緒に体験することで、「なるほど!プログラミングって、こういうことだったのか」と気づくに違いない。まずは、子どもたちと一緒にやりながらプログラミングに触れ、そこから、どのような力が求められているのかを考えてほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。