こどもとIT
Nintendo SwitchでVRゲーム開発!? 進化したNintendo Labo VR KITに子どもたちが挑戦
――「Nintendo Labo Hackathon 2019 ~VRゲームを開発せよ~」レポート
2019年7月29日 06:00
Nintendo Switchを段ボール工作と専用ソフトで拡張して遊べるNintendo Laboに、今年の4月、新たにVR KITが加わった。このVR KITを使った子どもたちによるハッカソンイベント「Nintendo Labo Hackathon 2019 ~VRゲームを開発せよ~」が2019年6月29日と30日の2日にわたって行われた。
株式会社CA Tech Kidsの主催で、同社が運営する小学生向けプログラミングスクールTech Kids Schoolに通う子どもたちを対象に、任天堂株式会社の協力で実施された。2日間をかけて、4〜6年生が体験的なサンプル作り、オリジナルゲームの制作、発表に取り組む、というものだ。今回はその様子をレポートしよう。
Nintendo Labo VR KITで何ができる?
Nintendo Laboは、「Joy-Con」と呼ばれる各種センサーの内蔵されたコントローラーを段ボール工作と組み合わせ、さまざまなアクションと連動する「Toy-Con」を作り、ゲームプレイを楽しめるキットだ。VR KITは、これにレンズ付きの段ボールを組み上げて作る専用のVRゴーグルが付属。Switch本体を差し込むことで「VRゴーグルToy-Con」となり、VRゲームを楽しむことができる。
VRといってもバンドで頭に装着するような本格的なものではなく、手で持ってのぞき込む、いわゆる「スマホでVR」のようなスタイルだ。万が一、プレイ中に気分が悪くなってもVRゴーグルToy-Conを目から離すだけでよく、VR空間に没入しすぎてしまうことも少ないように感じ、親としては安心できる。ちなみにNintendo Labo VR KITの使用は7歳以上からとのこと。
VRゴーグルToy-Conだけで遊べるゲームもあれば、他の5つのVR KIT用のToy-Con(バズーカ、カメラ、ゾウ、トリ、風)と組み合わせて、より派手なアクションと連動させて楽しむこともできる。さらに、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「スーパーマリオ オデッセイ」「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」など、既存のゲームタイトルでVRゴーグルToy-Conに対応したものをプレイすることも可能だ。
と、ここまではゲームとして「遊ぶ」部分の話だが、VR KITの魅力は、ゲームを作れるところにある。VR KITが出る前から、Nintendo Laboでは、「Toy-Con」のカラクリをプログラムして自作の工作と組み合わせ、オリジナルの道具やゲームを作ることができた(詳細は『プログラミング+「外側」の設計・デザインを境目無く発想し、Nintendo Laboで自分だけの発明品を作る』を参照)。VR KITではそのプログラム制作機能が3DのVRゲーム作りに対応して一気にパワーアップしたのだ。
もともとSwitch好きの参加者も、今回初めてSwitchを触るという参加者もいたが、この日のSwitchはVRで遊ぶためのゲーム機であると同時にVRゲーム作りのプラットフォームとなるのだ。
「修行の書」でサンプル制作からスタート
1日目はまず、「修行の書」として示されたオリジナルテキストで、3つの基本サンプルを制作してみるところからスタート。ものをつかんで運ぶ、弾を発射する、車を操作する、という3つのサンプルを手順通りに作り、基本的な仕組みを把握していった。参加者は全員、普段からTech Kids Schoolに通ってプログラミングを学んでいることもあり、早い子は10分程度で最初のサンプルを作り上げていた。
Toy-Conのプログラミング方法は独特だ。Scratchのようにブロックを積むタイプのビジュアルプログラミングとも違えば、テキストでプログラムを書くわけでもない。「入力」と「出力」、さらにそれらを仲介する「中間」に分類された指示ブロックから必要なものを配置し、線でつないで関係性を作ることでプログラミングしていく。各ブロックにはそれぞれ様々な性質を設定することができ、さらにブロックによっては配置した場所が実際のゲーム画面中の設置箇所にもなる。これらの要素でゲームの仕組みを作っていくことができる。
プログラミングに慣れ親しんでいる子どもたちは、こうしてプログラミングの形式が変わっても、仕組みを作る勘が働きやすい。会場でサポートするスタッフ曰く、「理解のスピードが速い」と感じたそうだ。
なお、VRといっても画面を通常モードにしておけば画面上にはごく普通の3Dゲームとして表示される。今回のハッカソンでは、制作から発表まですべて通常画面で3Dゲームとして遊べるように作り、VR状態で確認したいときだけ画面をVRモードにしてVRゴーグルToy-Conにセットする、という手法を採っていた。
オリジナルVRゲームの開発スタート!
3つのサンプルで出来そうなことをつかんだら、いよいよオリジナルVRゲームの開発に入る。
1日目の午後からは、自分なりの思いを広げて、アイディアシートと設計シートを書き、プログラミングをスタート。ただなんとなく作り始めるのではなく、まずアイディアと計画を立てるのがTech Kids Schoolの流儀だ。ここからは随時メンターの助言も受けながら、個別にVRゲームプログラム作成の作業を進めた。全く同じ3つのサンプルをスタートラインにしたものの、参加者が作りたいVRゲームは様々で、アイディアに詰まることもない様子だ。
発想が広がりすぎて時間内に完成しないということでは困るので、そこはチェックを受けるものの、自由に各自で作業を進めて1日目が終了。2日目も午前中いっぱい制作を進めた。
2日目の午後から、いよいよ発表の準備だ。プレゼンテーションは、ゲーム動画を見せながら行うので、各自で自分のVRゲームをプレイして、ここぞというタイミングでキャプチャーを撮る。プログラムの画面は静止画でキャプチャーするが、VRゲームのプレイ動画はボタンを長押しすることで30秒遡って動画を記録することができる。最後に発表シートにポイントを記入し、グループごとにプレゼンテーションの練習をしてから発表会を迎えた。
自由な発想で作られたVRゲームの数々
発表はひとりずつ前に出て短いスピーチを行う。これも恥ずかしがることなく全員が自分の作品を紹介できた。どんな作品が出てきたのか、いくつか紹介しよう。
ぼうそう!鉄球カー
鉄球がついた車を運転して、建物などを破壊するゲーム。弾やビームを飛ばしたり、体当たりしたりするのではなく、引っ張る鉄球で壊すところが独特。車に鉄球をつないでみたら意外な動きをして面白かったので採用したそうだ。
マグロカート
車を走らせるようにマグロが走り抜けるゲーム。3DやVRでも視点が俯瞰のゲームが多い中、主人公のマグロにカメラが追随する視点になっているのが目立っていた。障害物のサイズがランダムで変わるなどの工夫でコースを難しくしたという。
参加者のバックグラウンドは様々。「マグロカート」の作者は6年生で、3年生のときからスクールに通っており、現在はコンテストに向けてオリジナルのアプリ制作に取り組んでいる。「イレーサーリベンジ」の作者も6年生だが、テレビのScratch学習番組を見たのをきっかけに独学でScratchによるプログラミングを始め、5年生からスクールに入り「Unityプログラミングコース」に通っているという。スクールでの学ぶ期間の長短やきっかけの違いはあっても、皆、プログラミングで何かを作ることが楽しい、と思って取り組んでいる様子が伝わってきた。
プレイヤーの目線から、遊びの延長上にあるゲーム作り
Tech Kids Schoolは、1年目は基礎固め、2年目以降「iPhoneアプリ開発コース」と「Unityプログラミングコース」に分かれるカリキュラム。全員ゲーム作りの基礎を経験しており、「Unityプログラミングコース」では3Dゲーム作りにも取り組んでいる。そんな彼らからも、最後の振り返りで「こんなに簡単にゲームが作れてびっくりした」という声が上がった。それだけNintendo Labo VR KITでのプログラミング手法がゲーム作りに特化して扱いやすく、操作性も直感的に作られているということだろう。
VR KITが発売される前のNintendo Laboは、Joy-Conのセンサーや振動などをうまく利用し、オリジナルの段ボール工作と組み合わせて新たなカラクリを作ることに力点が置かれていた。今回のVR KITでは、その点は追求せずに、画面内で3Dのゲーム作りをすることにフォーカスしている。
プログラミングに興味を持つ子どもにはゲーム好きが多く、プレイヤーの立場でゲームを見ることに慣れている。好きなゲームをプレイして、その延長でゲーム作りも楽しんで欲しい、というプレイヤー寄りの思いがNintendo Laboのプログラミング機能には感じられる。例えばVR KITには手軽に遊べる64個ものサンプルゲームが収録されていて、それらのプログラムを改造することもできる。まずは遊んでみて、ちょっとキャラクターを変えたり障害物を変えたりする改造を楽しむことから始めてもいいだろう。手軽に3Dのゲームが作れる子ども向けのツールはないので、ゲームプレイがプログラミングの興味の入り口になっている子どもたちにとっては、特に魅力的なツールだと言えそうだ。