こどもとIT

デジタルネイティブ世代によるRPAとAI活用の未来が始まる

――「UiPath ネイティブズ @ AI Expo」レポート

RPA(Robotic Process Automation)のリーディングカンパニーであるUiPath(ユーアイパス)は2019年7月30日、RPA×AIのイベント「UiPath AI EXPO ロボットにAI♡を込めて」を開催した。しかし、AIと連携したRPAの世界に可能性を感じるビジネスパーソンや経営者ら2,000名が詰めかける中、中高生対象のRPA教育プログラム「UiPath ネイティブズ @ AI Expo」が実施されていたのをご存じだろうか?

生まれながらにIT技術に親しむ世代を「デジタルネイティブ」と呼んで久しい。その中高生(ネイティブズ)たちをイベントに招き、RPAとAIを通して新たなテクノロジーの世界を知ってもらおうという同プログラムはどのような内容なのか、当日の様子をレポートする。

「UiPath ネイティブズ @ AI Expo」の教育プログラムの参加者たち

RPAとAIの最前線で活躍する世界のエグゼクティブと中高生が交流

中高生たちをRPA×AIのイベントに招待したのは、この分野で急成長を続けるUiPath。そもそもRPAとはなにか、改めて確認しよう。RPAとは、Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略で、人間がコンピュータで処理していた定型作業を、ソフトウェア型のロボットで自動化する技術を指す。近年、日本では多くの企業が働き方改革や人手不足の課題を抱えており、RPAはそれらの課題解決につながるツールの1つとして、急速に注目を集めているテクノロジーだ。そのRPAで成功を収め、さらにAIを連携させて、新たな価値の提供をめざしているのがUiPathだ。

そのような同社が中高生を対象に提供した教育プログラム「UiPath ネイティブズ @ AI Expo」は、Society 5.0やAI社会を担う中高生たちに、RPAとAIを通して新たなテクノロジーの世界を知ってもらうことが目的だ。読者の中には、“RPA×AIのイベントに中高生が参加”と聞いて、驚く方もいるかもしれない。子ども向けプログラミングイベントならまだしも、ビジネスパーソン向けのRPA×AIの領域に中高生が関心を持ち、イベントに足を運ぶとは興味深い。

UiPathのエグゼクティブらと中高生の交流会

当日は、“参加している株と投信のコンテストのテーマがRPAなので学びに来た”、“AIとRPAの可能性についてもっと知りたい”、“中2の頃からAIを勉強しているのでイベントに参加した”、“将来やりたいことを見つけたい”と話す感度の高い中高生たちが集まり、UiPathのエグゼクティブらを囲んだカジュアルな交流会から始まった。

交流会に先立ち、UiPath代表取締役CEO 長谷川康一氏は、参加した中高生に向けて、「今、デジタルの世界がどんどんやってきていて、それを支えるのはデジタルネイティブの皆さんです。これから新しいデジタルの世界を作る皆さんを、私たちは応援していきたいと思っています。今日学んだことをぜひ将来に役立ててください」と語りかけた。

UiPath代表取締役CEO 長谷川康一氏は、デジタルネイティブ世代への期待と惜しみない支援の気持ちを伝えた
UiPath AI製品 統括責任者 Prabhdeep Singh氏

交流会では、参加者から「ロボットはどうやって作るのですか」と素朴な質問が飛び出した。これについてUiPath AI製品 統括責任者 Prabhdeep Singh氏は、「ロボットを作ることはとても簡単で、物語を書くのと似ています。ロボットにしてもらいたいことを考え、1・2・3とステップを書いていけばできあがりです」とシンプルな言葉で説明した。またAIのプロダクトマーケティング シニアマネージャーのErik Goelz氏は、「ロボットを作ることは複雑だと思われがちですが、まずはやってみることが大事です。トライしてみれば、簡単に作れることがわかるでしょう」と中高生たちにアドバイスを送った。

また、プログラミングを学んでいる生徒からは、プロのサイエンティストになるための心構えについて質問があった。これについて、機械学習のプロダクトマネージャー Jeremy Tederry氏が「まずは、その仕事が好きであることが一番です。それに加えて、さまざまな専門領域の人と仕事をするので、仲間を作ることも大切になります。また、常に新しい情報や技術が出てくる世界なので、学び続ける力も必要になってきます」と述べた。

モデレーターを務めたUiPathプロダクトマーケティングヘッド 原田英典氏は、AIの技術者や企業と中高生との交流の機会を作りたいと述べた
UiPath AIプロダクトマーケティング シニアマネージャー Erik Goelz氏
UiPath 機械学習プロダクトマネージャー Jeremy Tederry氏

交流会は短い時間ではあったが、中高生たちは第一線で活躍するエグゼクティブらの話に熱心に耳を傾けていたのが印象的だった。

RPA×AIの最先端企業が実現した新しいテクノロジーの世界を知る中高生たち

続いて、中高生たちはRPA×AIの世界を知るべく、UiPathの展示ブースや、同社と協業するAIベンダーのブースを見て廻るツアーに参加。RPAによる自動化やAIの活用が、どのような形で製品化されているのか。実際にデモを見たり、担当者から説明を聞いたりしながら、中高生たちは新しいテクノロジーの世界を学んだ。

UiPathのブースでは、同社が提供するRPA開発ツール「UiPath Studio」を用いて、実際の作業がどのように自動化されるのかを実演。レコーディング機能を使ってプログラミングなしで自動化するデモでは、担当者が3つの異なるアプリを扱い、その動きをレコーディングであっという間に自動化プログラムを完成させる様子を披露した。ブース担当者によると、「データ入力の作業ぐらいであれば、1分間で自動化できる」と話す。これまで人間が大量のデータ入力を行っていたが、RPAを活用すれば簡単に自動化が可能で、こうした技術がこれからどんどんビジネスの世界に広がっていくと中高生らに語った。

UiPathのブースでは、中高生たちがRPAを使った自動化のプロセスを食い入るように見つめる

株式会社Cogent Labsのブースでは、人の手書き文字を読み取るAI OCRソリューション「Tegaki」のデモを披露。「日本は手書き文化であり、ひとつひとつの書類を入力する業務が未だに残っているが、画像文字認識にAIを活用し、RPAで入力を自動化することで、人間の作業負担を減らすことが可能になった」と説明する。この技術はいずれ学校でも利用できるになるとし、中高生に身近な例として、AIが文脈を読み取るようになれば、生徒が書いた記述式の解答と模範解答と照らし合わせて、自動採点も可能になるという未来を語ってみせた。

手書きの文字を認識するCogent LabsのAI OCRソリューション「Tegaki」のデモ

コールセンターなどで利用が広がるチャットボットを活用した自動応答システム「QuickQA」を展示していたのは、株式会社エーアイスクエアだ。活用の一例として、物を購入する時に入るお客さんからの問い合わせを挙げ、「同じパソコンでも、お客さんによっては“PC”と言う人もいれば、“コンピュータ”という人もいる。お客さんの話す言葉が何を指すのかを判断するのにAIを活用し、自動で返答している」と説明した。

AIのチャットボットとRPAを組み合わせたエーアイスクエアの自動応答システム「QUICK QA」

RPAとAIを用いてウォーターサーバーの減り具合を簡単に知らせるという、株式会社ABEJAのシステム。これはディープラーニングを使った画像認識で水の量を検知し、少なくなればメッセージで知らせるという部分をRPAで自動化したもの。担当者は「RPAの活用はPCの中にあるものだけではなく、AIと組み合わせることで、世の中にあるリアルなものを自動化できる」と、AIとRPAを組み合わせる意義を中高生たちに伝えた。

RPAとAIを活用してウォーターサーバーの減り具合を簡単に知らせるABEJAのシステム

日本電気株式会社(NEC)のブースでは、ディープラーニングを搭載したエンタープライズ品質の機械学習ソフトウェア「RAPID機械学習」のデモを見ることができた。デモでは、製品についた虫や髪の毛を瞬時にAIが画像認識で捉えて不良品だと判断し、その内容をRPAがPowerPointでレポートにまとめる部分を紹介。製造現場でも広がりつつある自動化の実際を中高生たちは学んでいた。

ディープラーニングを搭載したNECのエンタプライズ品質の機械学習ソフトウェア「RAPID機械学習」

このブース見学は約30分。この短い時間の中で、RPAの実演に始まり、AIによる手書き認識やチャットボット、ディープラーニングと画像認識、製造現場での自動化などの最先端のAI活用企業のデモを見て、現場の技術者から説明を受けるという体験は、中高生たちにとって濃密な時間だったことだろう。

ブース見学に続いて基調講演。詳細はここでは割愛するが、もちろん大人向けの(それもかなり技術的にもビジネス的にも高度な)内容を2,000名のビジネスパーソンと共に耳を傾けていた。

交流会の後、2,000名にも及ぶビジネスパーソンと共に、サテライト会場でUiPath代表取締役CEO 長谷川康一氏による基調講演に耳を傾ける中高生たち

RPAとAIの存在を意識することで、実社会や生活の課題を見つけるきっかけに

このプログラムは8:30から始まり、基調講演が終わった時点で2時間半が経過していた。この間、ほぼ休むことなくRPAとAIの情報と知識をシャワーのように浴び続けた中高生たち。締めくくりとして別室に移動し、改めてUiPathによるRPAのしくみやPythonを介してAIを利用する方法のレクチャーを受け、参加者同士でRPA×AIの世界について感想を述べたり、他にも活用できる部分がないかなどアイデアを出し合ったりしがら交流を深めていった。

UiPath Studioを使って、RPAでブラウザを自動で開き、ホームページの情報を取得して、AIを介してサマリーしたテキストをメモ帳に保存するというワークフローなどを学んだ

生徒たちからは、「日本は手書きが多く、RPAの技術は役立つと思った」「(RPAとAIを活用して)ウォーターサーバーのような使い方ができるのは面白いと思った」「人が話したことを解析するAIを初めて知った」「自分が知っていたRPAよりも、いろんな種類があるとわかった」などの感想を聞くことができた。また、「RPAで自動採点ができるようになることを先生に教えてあげたい」といった意見も聞かれた。

続いて、RPAとAIを用いて、身の回りのどのようなことが自動化できるのかについてアイデアを出し合う。ある男子生徒からは、「カメラを設置して人の表情を認識し、その人の健康状態に合わせてランチを提案するようなシステムがあれば面白いのでは」と発言があった。ファシリテーターからは、試験前に励ましてくれるチャットボットはアメリカで実用化されているなど、生徒たちにとって身近な事例をあげて、活用のイメージを広げていた。

RPA×AIについて、身の回りで自動化できるものはないかを考える生徒たち

これまで、中高生にとってテクノロジーとの接点といえば、“ロボットをつくる”、“ゲームをつくる”といったプログラミングを活用したモノづくりが多かった。もちろん、それが出来ることはとても大切なことだが、RPA×AIの世界は“何を自動化したいのか”、“人間の作業をどのように効率化していくか”といった、実生活や社会を起点にした活用や実用性が問いとなる。今後のAIが普及する世の中では、こうした発想はより重要かつ必要になっていく。RPAというツールをきっかけに社会課題に関心を持ち、解決手段としてAIを活用する中高生が増えていくのも面白い。「RPA×AI meets 中高生」という一見すると想像もつかない組み合わせのイベントに、子どもたちの可能性は無限であることを改めて感じた1日だった。

[制作協力:UiPath株式会社]

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。