こどもとIT

プログラミング+「外側」の設計・デザインを境目無く発想し、Nintendo Laboで自分だけの発明品を作る

Tech Kids School presents Nintendo Labo Hackathonレポート

Nintendo Switchの遊びを拡張するダンポール工作キット、Nintendo Laboが発表されたとき、筆者の周りのクリエイティブ系パパ&ママたちは、「これおもしろそう!!」とざわついた。そして2018年4月に発売となると、子どもからねだられるのを待たずにいち早くクリエイティブマインドを刺激されて購入した親たちもいる。

そんな話題満点のNintendo Labo(以下Labo)を使ったワークショップ「Tech Kids School presents Nintendo Labo Hackathon」が、夏休みに入りたての7月25日、26日の2日間連続、渋谷で開催された。小学生向けのプログラミングスクールを運営するTech Kids Schoolの主催で、同スクール生と一般募集合計30人の小学4年生~6年生が2日間連続でオリジナル作品の「発明」に取り組んだ。

発明品作りに取り組む子どもたち

まずはNintendo Laboで遊ぶ

今回応募した子ども達が皆Nintendo Switch(以下Switch)を持っているのかというと決してそんなことはなく、このワークショップで初めて触るという子も多い。SwitchもLaboも持っているという参加者の方が少なく、Switchは持っていてもLaboは持っていないという子どももいた。

初日はそのコンセプトを知りアイディアを膨らませることにあてられた。「リモコンカー」と「つり」のキットを実際に作って遊び、まずは体験する。

「リモコンカー」と「つり」のキットが配られた
作った「つり」キットで遊ぶ子ども達、とても楽しそう

Laboは、とにかく説明や解説の類が充実していて、Switch本体で全て見られる。「つくる」のメニューでは、ダンボールキットの組み立て方をビジュアル的にとてもわかりやすく教えてくれるし、「あそぶ」のメニューも手順が明快にわかる。どちらも大人が教えなくても子ども達は自分のペースで進められる。

説明や解説はSwitchの画面で全て確認できる
作る手順は動画や視点をぐるっと変えられるなど、わかりやすい工夫でいっぱい

ここまでだと「よくできた段ボール工作でオリジナルのリモコンやゲームを作るだけでしょ? 結局ゲームで遊ぶだけじゃない?」と言いたい人もいるかもしれない。正直にいえば、初めてLaboの予告動画を見たときの筆者にも、そんな「親」的な不安がふわりと浮かんだ。だが、Laboの奥深さはここから。「わかる」のメニューから、各キットが機能する仕組みを知ることができる。

チャット風に進む説明と動画で、子どもが自分でスイスイと読み進められる

そもそも、Switchは画面の両サイドについたリモコン(Joy-Con)を外して遊べるゲーム機だ。LaboではSwitch本体とJoy-Conを分離し、それぞれを段ボール工作にセットすることで、一般的なゲーム機からは想像もつかないモノに変化する。「つり」のように段ボール工作にセットしたJoy-Conの傾きや加速度センサーの情報をSwitchに伝えて釣り竿とリールの動きを画面上に再現したり、「リモコンカー」のようにSwitch本体をリモコンにしてJoy-Conの振動によって段ボール工作を動かしたり、ということもできるわけだ。

Toy-Conガレージでプログラムの仕組みを知る

仕組みを理解したところで、今回のワークショップのメインテーマに入る。参加者全員が、各自がオリジナルの作品を「発明」するのだ。それには、「どうやってオリジナルのプログラムを作るか?」を理解する必要がある。そこで登場するのが、Toy-Conガレージだ。

Toy-Conガレージではオリジナルのプログラムを作ることができる。Laboのプログラムの考え方はとてもシンプル。「入力」のハコと「出力」のハコを線でつないで、仕組みを作っていく。例えば、「右のJoy-Conのボタンを押したら(入力)、ソの音がピアノの音で鳴る(出力)」というプログラムはこうなる。

入力の条件と出力の命令を線でつなぐだけ
ひとつの入力で出力を2つにした例、音が出て画面が光る

さらに「中間」のハコで条件を加えると、より複雑なプログラムが組める。例えば「中間」として「AND」を入れると「右のJoy-Conのボタンを押す」と「右のJoy-Conをふる」を同時にしたときだけ音が出る、という仕組みにできる。

2つの入力が同時に起きた時だけ、出力が機能する

基本的なコンセプトはこれだけなので、とてもシンプルで理解しやすい。これを様々に組み合わせて、オリジナルのプログラムを作っていく。

Toy-Conガレージの説明を読んでLaboでのプログラミング方式を理解したところで、早速オリジナル作品のアイディアを考える時間がスタート。会場には発明品作りに自由に使える材料が沢山用意されるとともに、メンターがToy-Conガレージで作った作例をお披露目する。子ども達はそのカラクリを見て、創造力が大いに刺激されたようだ。

たくさんの材料が用意され、ワクワク感が増す
メンターが作例の内部構造まで詳しく解説してくれる

初日は、アイディアシートに企画を書いて、各自のペースで発明品作りに取りかかるところまでで終了。2日目は朝から発明品作りの続きだ。プログラムも工作も自分でどんどん作っていく子もいれば、アイディアをどうやってプログラムしたらよいのかメンターと相談しながらゆっくり進める子など、それぞれが自分のペースで思い思いに手を動かして作っていく。

机の上は子どもたちの作り途中の工作と材料や道具類でいっぱいで、プログラミングのイベントというよりも工作イベントといった雰囲気だ。

アイディアシートに発明品のイメージや機能などをまとめる
Switch画面でのプログラミングと工作を平行してどんどん手を動かしていく子ども達

Laboのモノ作りはデザインへの意識が高まる

Laboを活用して発明品を作る過程を見ていて、特徴的だと感じたことがある。子ども達が、プログラムだけが作品を作るのではなく、工作部分の設計やデザインが重要だということを自然と理解しているのだ。

例えば、「出力」の命令に「このエリアを光らせる」というのがあるのだが、それだけでは、Switch本体の画面で黒地に白い四角のエリアが表示されるだけ。でも、ここに例えば文字を切り抜いた黒い紙をあてれば、それだけで、エリアが光ったときに文字が表示されるという仕組みになる。さらに赤や緑のセロファンを挟めば色を変えられる。

画面内のエリアを白く光らせるプログラム
文字を切り抜いた紙が画面に重ねられ、いずれかの文字が光る仕組み
切り抜いた記号部分にセロファンで色をつけている

壊れた家電の分解などをすると気づかされるのだが、武骨な基板についた単なるLEDライトが「外側」のデザインで美しく機能的に演出されていたり、スタイリッシュなボタンの内側で極めてアナログな仕組みで基板のスイッチが押されていたりする。

Laboで発明品を作っている子ども達は、そうした裏の仕組みに自然と気づいて、「内側」のプログラムと「外側」の設計やデザインを境目無く同時にとらえてモノ作りをしているような印象を受けた。Laboのプログラミング方式がシンプルで出力結果が手に取ってわかりやすいからこそ、自然に体感できるのだろう。現代のモノづくりには、ソフト的なプログラムもハード的な設計やデザインも総合的にとらえる目が必要だ。Laboは、それを手軽に体感できる可能性のあるツールだと感じさせられる。

発表会と展示会で発明者としてのまとめ

2日目のお昼過ぎまでじっくり制作したら、発明品の発表会と展示会だ。展示会用に作品紹介ポスターを各自工夫して作成し、準備ができたところで発表会タイム。全員が発明品のポイントを自分の言葉でプレゼンできた。堂々としゃべる子や少し恥ずかしそうな子など様々だが、大勢の大人の前で作品紹介をするのはいい経験になるだろう。

手元の作品を画面に映しながら説明する

そしていよいよ展示会。自分の作品の前に立ち、体験に来た人に説明をして使ってもらう。逆に誰かの発明品を体験したら、良かったポイントを「アイディア/デザイン/プログラム/クラフト」のいずれかにシールを貼って評価を伝える。あちこちで自分の発明品の説明をする声と楽しそうに遊ぶ声が起きる。作るだけではなく発表して人に使ってもらうところまでを今回のハッカソンイベントでは全員が体験した。

お互いの作品を楽しみながら展示会が行われた

様々なタイプの発明品で賑わう発表会

子ども達の発明品は様々で、どれもそれぞれの考えが反映されていて興味深いものばかりだった。発想のアプローチ別に、いくつかご紹介しよう。

キットを拡張

Laboの「リモコンカー」キットを元に、操作方法をアレンジし、独自のデザインで作り上げた発明品。たまたま今回のイベントで一緒になった参加者同士でコラボレーションし、相撲の演出をして2人で対戦できるように仕上げたという。

2人で制作中の様子、とても楽しそうに取り組んでいるのが印象的だ

好きなゲームの再現

すでにSwitchで楽しんでいるゲームの仕組みを想像して再現した発明品。Switch用のゲームソフト「1-2-Switch(ワンツースイッチ)」の中の「MILK」のカラクリに気づき、自分なりに作ってみようと思ったそうだ。好きなゲームの仕組みを再現しようとするのも大きな学びだろう。

牛乳しぼりゲームの制作中、画面には白いバーが表示されているだけだが……
完成品には「外側」がセットされて、白いバーは牛乳がたまる表示だったことがわかる

機能活用アイディア

Joy-ConについているIRカメラという赤外線カメラを利用した発明品。たくさんの穴のどこかにIRカメラの付いたJoy-Conを差し込み、もうひとつのJoy-Conのボタンを押すと当たりかどうかが判定されるゲームだ。IRカメラが的として貼っておいた反射シールを検出することで、当たり判定の仕組みを作っている。

当たると音だけでなく画面のOK表示が点灯する

仕組みの応用

Laboの「つり」キットのリール部分の仕組みを改造して利用し、手回しオルゴール風にした発明品。Toy-Conガレージでは、「つり」のリールのようにキットで使われている入力のプログラムを利用できるので、この入力を応用して全く違う仕組みと演出の作品を作った。

「つり」と同じ仕組みを応用して全く違う発想の作品ができ上がった

プログラムに集中

プログラム部分に興味を持って独自のゲームを作った発明品。画面上の光った箇所に即応して指定のボタンを正しく押せるかどうかを競う。基本コンセプトはシンプルだが、思うようなプログラムを作ろうとすると、線のつながりはとても複雑になる。

光る場所は出題者が持っているJoy-Conから操作している
このゲームのプログラムを画面に表示したところ

様々なタイプの作品

2日間6時間ずつたっぷり時間を使ったこのハッカソンイベント。慣れて遊ぶための時間から入り、制作時間を十分に取り、発表と展示会などの組み立てもとてもよく構成されていた。子どもたちがそれぞれとてもリラックスして「発明品」の制作に取り組んでいたのが印象的だ。ゆったりした時間設定や大人のメンターが大勢いて適度な距離でサポートしているのがポイントだろう。

今回のイベントを主催したTech Kids Schoolの通常のカリキュラムは、子ども向けのビジュアルプログラミングツールであるScratchで基本の学びを積み上げたあとに、プロが使うのと同じツールとプログラミング言語でアプリ開発やゲーム開発を学ぶ。それに対してNintendo Laboはかなりアプローチの違うツールだ。スクールを運営する株式会社CA Tech Kids社長の上野朝大氏に話を聞いてみると、今回のイベントは通常のカリキュラムとは全く別の、いわば「サプリ的」なもので、プログラミング学習のトレーニングとは捉えていないという。「子どもは『遊び』を通してたくさんの学びを得るものです。今回のイベントもそうで、Nintendo Laboを駆使して楽しく遊ぶ中で、自然とプログラミング的な学びや図工的な学びにつながったのではないでしょうか」と語る。上野氏は、Nintendo Laboを「遊びと学びの境界線が良い意味で曖昧になってきた象徴的な存在」と捉えているそうだ。

確かに、のびのびと作品作りを楽しんでいる参加者の様子を見ていると、プログラミングの経験のある参加者には「サプリ」となり、経験のない参加者にはプログラミングへの入り口になったのではないかと感じた。今回プログラムと「外側」の設計・デザインの両方をバランスよく取り組んだ経験を生かして、これからも様々なアイディアを形にしていってほしい。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。