こどもとIT

教育現場ニーズに合わせたこだわりの「プログル6年理科電気キット」のすごさ

NPO法人みんなのコード、株式会社スイッチエデュケーション、TFabWorksを運営する株式会社ベクレルセンターが、プログラミング教材「プログル」の新たなシリーズとして「プログル6年理科電気キット」を共同開発、2019年5月13日より販売開始した。

5月12日には、販売を記念した製品リリースイベントを都内で開催した。当日の模様と教材の特徴についてレポートする。

日曜日にもかかわらず、多くの学校関係者が参加した

詳しくない教員も今すぐ始められる教材

2020年から施行される新学習指導要領で、小学校においてもプログラミング教育が必修化している。盛り込まれた箇所は「総則 情報活用能力の育成と関連」「算数 5年 正多角形の作図」「理科 6年 電気の利用」「総合 情報に関する学習」の4箇所。そのうち「算数 5年 正多角形の作図」は、従来のプログルでカバーできていた。

「プログル6年理科電気キット」は、小学6年の理科「電気の利用」の単元で、発電や蓄電のしくみを学びながら、電気を効率的に使うためのプログラムを実際に組むことができる教材となる。ポイントは、現場の教員に「できるだけ負担がかからないよう取り組むため」に開発されている点だ。

キットには、micro:bit、プログルボード、USBケーブル、電池ボックス、micro:bitケース、準備物から操作方法までを解説したスターターガイド、動画・授業用マテリアルデータDVDが入った「先生用キット」(1万2800円)、micro:bit、プログルボード、USBケーブル、電池ボックス、micro:bitケースのみの「児童用キット」(8800円)が用意されている。児童用キットにはmicro:bitなしのものもある。

左から「先生用キット」(1万2800円)と「児童用キット」(8800円)、違いはスターターガイドと授業用マテリアルデータDVDといった指導用資料の有無のみ(写真はプログル公式サイトから引用)

micro:bitは、ウェブブラウザ上でMakeCodeエディターを使ってプログラミングする。プログルボードは、6年理科の電気の学習に特化して開発されたものだ。micro:bitの端子の穴に、プログルボードのスプリングを差し込んで接続する。人感センサーやスピーカー、リレースイッチが搭載されており、ワニ口クリップを使って豆電球やモーターなどを接続できるため、前時までの実験に使った回路がそのまま使えるようになっている。

キットの使い方をわかり易く紹介している「スターターガイド」、そのまま授業で使える「指導案」や「ワークシート」、児童用の「応用サンプルプログラム集」、理科以外でも活用するための「レクリエーションアイデア」もそろっている。

プログルボードを使ってプログラミング体験

当日は日本全国から駆けつけた教員中心の20名あまりが参加。各テーブルに「プログル6年理科電気キット」がWindows PCと共に並べられており、キットが体験できるようになっていた。

「プログル6年理科電気キット」に加え、豆電球とワニ口クリップ、電池ボックスが用意されていた

はじめにワニ口クリップで回路を作り、豆電球がつくかどうかを確認した。「プログラムのせいでつかないのか、回路のせいでつかないのか、問題の切り分けをするための確認」という。その後、プログルボードにmicro:bitを取り付け、回路と接続する。

まず、みんなのコード 主任講師の竹谷正明氏によるキットの紹介があった。2020年からの新学習指導要領によると、「温度センサーなどを使い、モーターの動きや発光ダイオードの点灯を制御するといったプログラミングを体験することで仕組みを体験的に学習する」ことが事例として挙げられており、指導要領に則ったキットという。

みんなのコード 主任講師 竹谷正明氏

micro:bit本体にも明るさセンサーが標準で備わっているが、プログルボードによって人感センサーが利用できるようになる。ただし、人感センサーは120度という広い範囲の存在に反応してしまうため、赤外線を遮断するチューブを付けることで指向性が持たせられるという。一通りの説明がされた後、実際にプログルボードを使ったプログラミング体験をすることになった。

プログルボードの人感センサーに指向性を持たせるチューブを取り付けたところ

早速、Windows PCでMakeCodeエディターを開く。「ボタンAが押されたとき~」「ずっと~」「もし~なら~でなければ~」などの使いそうなブロックがはじめから並んでおり、探す手間を省いた作りとなっている。

当日は学校現場の環境を意識して、Internet ExplorerでMakeCodeエディターを使った場合の操作が説明された

暗い時で人がいる場合に豆電球がつくが、明るいとつかないなどの、実生活で使えそうなプログラミングが可能だ。人感センサーに手をかざした状態で、明るさセンサー部分を覆って暗くすると、無事に豆電球がついた。

ワニ口クリップで豆電球と電池ボックスをつないだプログルボード

「手間をかけさせない」こだわりが随所にちりばめられた、「Maker Education」のための教材

続いて、TFabWorksを運営するベクレルセンター代表で、micro:bitに関する著作も持つ高松基広氏によるプログルボード設計秘話と製品への思いが述べられた。

TFabWorksを運営するベクレルセンター 代表 高松基広氏

高松氏によると、プログルボードのコンセプトは、「学びとして正しい&楽しい授業がスムーズにできるよう、事前準備や組み立てゼロ、授業の中で余計な配線ゼロ、先生が説明できる機構、ケースには入れない」というものだ。

たとえば、FETスイッチなら少ない電流で大きな電流を制御できたり、モーターの回転速度を制御できる(PWM制御)。ところが「極性があることが分かりづらく、先生が仕組みを説明できないブラックボックスになってしまう」ため、電磁リレーを採用。電磁リレーなら極性はなく、電磁石なので5年でのコイル巻きとつながり先生でも説明でき、カチッと音がするのでスイッチが入った感が伝わる。その代わり、PWM制御は諦めたという。

教材としてのわかりやすさと説明のしやすさを考え、スイッチには電磁リレーを採用

バネプラグもこだわりが多い。micro:bitの端子は本来バナナプラグ用だが、奥まで刺すとグラつくなど不都合が起きる。そこで当初は奥までいかないようストッパーも考えたが、量産には向かず断念した。

続いてmicro:bit用のバナナプラグを作成したが、コストの問題などで断念し、板バネでクリップするような構造のプラグを考えて町工場に片っ端からアポを取ることに。ここでもコストの問題で断念したが、天伸株式会社によるアイデアからスプリングを使って実現したという。耐久テストでは1000回まで問題なく利用できるそうだ。

スプリングによって実現したmicro:bitとの接続端子部分、特許を申請しているという

このように、随所にとにかく手間を掛けさせないことへのこだわりが満ちている。

続いて登壇した、5歳の息子さんを育てているというスイッチエデュケーション代表取締役社長である小室真紀氏は、元よりmicro:bitの日本ローンチを担当。2019年5月現在、BBC micro:bitの日本唯一の正規販売代理店として、2017年8月から約5万台の販売実績がある。

スイッチエデュケーション 代表取締役社長 小室真紀氏

“自分が考える最強の何か”を作る「Maker」を育てる「Maker Education」を目標としており、Makeに役立つモジュール開発にこだわってきた。5歳の息子さんが楽しくモノを作れるモジュールを前提としているため、はんだ付けはせず、配線を間違えることもなく、壊れにくく、安価という点をこだわってきたそうだ。

“俺の考える最強の○○を作る人”(Maker)を育てる「Maker Education」

しかし、Maker Educationやプログラミング教育について、小室氏が息子さんの友達のママに話を聞くと、検索はInstagramでパソコンは使わない、クラフト工作は心温かく見守るがデジタルなものには懐疑的、という実態が浮かび上がる。「自分には関係ない」「受験に有利かも」「男の子は稼げるようにしたいが、女の子は気にしていない」という発言が多く見られると嘆く。

特に、「女の子だからプログラミング教育は関係ない」という友達ママの発言に対して小室氏は、「プログラミングは基礎教養であり、リコーダーと同じ豊かな自己表現の手段の一つ」と強調。「プログル6年理科電気キット」は、すべての子どもがMakeできるためにふさわしい教材とした。

プログラミングはリコーダーのような豊かな自己表現手段の一つと訴える

これまでのプログルは「ブロックプログラミング、問題提起型(ドリル型)、教科の単元と密着、関連するブロックのみ使用、Web ブラウザで動く、無料」という特徴があった。

みんなのコード 代表理事の利根川裕太氏は、今回の「プログル6年理科電気キット」は、これまでの問題提起型(ドリル型)から自由に使えるようにし、関連するブロックのみ使用可能だったのが関連するブロックを初期表示するように変えた。実物がある分無料とはいかなかったが、安価に実現したという。

みんなのコード 代表理事の利根川裕太氏は、これまでのプログルとの違いを説明
世界でのmicro:bitの普及に努めているJonathan Smith氏も駆けつけ、「世界のmicro:bit」を紹介した
みんなのコード パートナー事業部 畑 紗羅氏は同キットに込めた思いを語り、涙ぐむシーンも

手間をかけさせない充実のこだわり

「プログル6年理科電気キット」は、全体に「手間を掛けさせない」ための徹底したこだわりを感じるキットだ。準備物から操作方法までを解説したスターターガイド、動画・授業用マテリアルデータDVDが特に素晴らしい。

授業の指導案とワークシートが用意されているので、基本的にそのまま流用可能。どのように授業をすればよいのかが一目瞭然だ。黒板掲示用データが付属しているのも実用的であり、一斉授業の際にパソコンの画面と同様の状態を黒板で掲示することで、子どもたちは格段に理解しやすくなるはずだ。サンプルプログラム集が充実しており、子どもたちが授業などで参考にできるようになっている点も使いやすいだろう。

一般的な教員にとっては、プログラミング教育必修化はハードルが高く、正直気が重いという方も多いだろう。しかし、このようなキットを使うことで、子どもが受けるプログラミング教育の質が教員側の資質によってばらつくことがなくなるはずだ。これからも良い教材が登場すると考えられるので、現場での活用を期待したい。

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/