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優れた技術を世の中に生かすためのテクニックを伝授!──Gunosy福島氏と未踏ジュニアの交流会

一般社団法人未踏は、優れた若いクリエーターの発掘・育成を目指す「未踏ジュニア」事業の一環として、現・未踏ジュニアと“未踏OB”との交流会を実施した。

「未踏ジュニア」とは、独創的なアイデアを持つ17歳以下のクリエーター、プログラマーに対して、専門家によるアドバイスや、開発資金や開発環境の援助などを支援するプログラム。特に突出した成果を残した場合は「未踏ジュニアスーパークリエータ」として認定される。

Gunosyの代表取締役 最高経営責任者(CEO)の福島良典氏は、2012年度に「未踏スーパークリエータ」として認定を受けた、“未踏OB”である。その後、学生時代に立ち上げた無料ニュースアプリ「グノシー」を成長させ続けている。また、同社の共同創業者である関喜史氏も同じく"未踏OB"であり、2018年度のプロジェクトマネージャー(PM)として未踏ジュニアに関わっている。福島氏は今回、「技術の経営への生かし方――やりたいことを実現するにはどう振る舞えばよいか」と題して、若きクリエーターたちへメッセージを送った。

Gunosy 代表取締役 最高経営責任者(CEO) 福島良典氏

優れた技術を世の中に生かすためにはテクニックが必要

交流会は、2018年3月27日に東京・六本木のGunosy社にて行われ、2017年度の未踏ジュニアに選ばれた11組のクリエーターが福島氏と対面した。福島氏ははじめに、「今は大人が正解を知っている時代ではなく、個人が正解を見つけ出す時代だ。みんなが興味を持っていることをそのまま磨いてほしい」とエールを送った。

一方で、その磨いた技術を社会に生かすためのポイントとして、福島氏は下記の3つをあげた。

・テクノロジーに精通すること
・テクノロジーが作り出す世の中にビジョンを持っていること
・ビジョンへ到達するためのテクニックを実践できること

福島氏は特に3つ目に関して、「技術を世の中に生かすには、目的を達成するための効率的なテクニックが必要となる。僕は今日、それをみんなに伝えたい」とした。

福島氏はまず、「現状の世の中」と「これからの世の中」の違いについて解説した。現状の世の中はあらゆる知的作業に対し、“人”を生かし切る状態で成り立っている。機械学習が実現されるこれからは、あらゆる知的作業をオートメーション化する時代になる。「どういう状態になるとサービスを安く提供できるかを考えて工夫する会社が勝つ世の中になる」と福島氏は述べる。

例えば、自動車は従来の“免許と所有”方式から、“自動運転とシェアリングカー”方式に変わっていく。現状は低賃金労働の人たちによって支えられているスーパーは、自動認識・自動決済によって無人スーパーに置き換えられていく。メディアも編集者ごとに存在するメディアの中から読者が自分で好きなものを探して選んで読む形ではなく、自分に合ったコンテンツを自動的に最適なフォーマットで伝えてくれるものに変化する。医療は、コストをかけて育てた優秀な人材に依存する形から、機械が画像を見て自動で診断をしてくれる方向に進化していくだろう。

これらは一例にすぎず、あらゆる業界でこうした変化が起きるだろう。極限まで“人”は減らされ、ビジネスの構造が大きく変わっていく。

ビジネスの構造が大きく変わっていく

“理想の未来”へ到達しようとする企業

大きく変化する時代に成長する企業は、必ず成長するためのテクニックを知っていると福島氏は言う。

例えば、グーグルは「検索エンジンの会社」と思われがちだがそれだけではない。検索エンジンからスタートして、Webの情報を広く覆うために「Gmail」「Google Maps」「YouTube」へと手を広げ、PCだけでなくモバイルも網羅するために「Android」を開発し、次のフェーズとして「自動運転」「衛星Wi-Fi」「Google Home」などへ進み始めている。この進化には、「世界中の情報を手に入れて、誰でもアクセスできるようにする」という一貫した思想が存在している。

Facebookも、大学生向けのSNSから始まり、写真共有SNSのInstagram、メッセンジャーのWhat's UP、ビデオなどコミュニケーションツールに手を広げ、今は、自動翻訳やAI、VR/ARといった技術に進み始めている。Facebookの目指す、「あらゆる人がインターネットでつながり、体験を共有する」未来に向けてどういうステップを踏めばいいかをFacebookは知っていたということだ。

Amazonも、本・ゲームに特化したECサイトからスタートしたが、その後、サイト上での取り扱いを増やしてスピーディーになんでも買えるようにした。その次に、Web上にあらゆるアプリケーションが乗る時代に向けてクラウドコンピューティング事業を手掛け、ECサイト運営のノウハウを生かし、いまやECサイトを超えるほどの収益を上げるようになった。その流れで、「Kindle」や「Amazon Prime Video」といったデジタルコンテンツプラットフォームとして成長しようとしている。さらに次の狙いはIoTだ。Amazonはすでに米国で、自動決済を実現した無人コンビニ、無人スーパーを開始しているが、これによってAmazonは、これまで手にできなかった「オフラインでの購買データ」を入手できるようになるわけだ。

Gunosyも同様に、ニュースアプリからスタートし、今は「ストレートニュース」「動画」「ライブ」などスマートフォンの中でのコンテンツプラットフォーム事業を成長させている。そして次は、「情報を最適に届ける」というミッションを助ける技術として、「ブロックチェーン」「機械学習」といった分野の研究を進めている。

成功する企業の3つの共通点

これらの企業はどれも理想の未来を見据えて事業展開をしてきたわけだが、例えば、グーグルが最初からいきなりAndroidや自動運転技術を開発しようとしていたら、果たして成功しただろうか? 同様に、FacebookがいきなりVRやAR技術を、AmazonがIoT技術を開発して世に出そうとしていたら、果たして成功しただろうか。

「これらの企業はみんな、理想の未来に到達する方法を知っていた。自分の望む未来を実現するにあたり、“どの技術から手を付けていくか”はとても大事だ」と福島氏は語る。

その意思決定において重要となる、成功する企業の共通点は下記の3つだ。

・キャッシュフローを作れる
・情報(外から見ているだけではわからない情報)が集まる
・人材や人的ネットワークが集まる

キャッシュフローが回り、情報が集まり、人が集まり、正しく意思決定されながら再投資されるようになると、他社に追いつかれることがなくなる。この3つを満たすようなポジションを狙っていくことがスタートアップにおいて重要となる。

福島氏は、「広告ビジネスはキャッシュフローがいい。ビジョンに到達するには10年スパンで見ないといけないが、10年間も赤字ではお金は出してもらえない。まずビジネスになるものを最初のサービスとして出すべき」、「実際にプロダクトを出すまでは、それが人にウケるかどうかはわからない。開発者視点では、技術的に頑張ったんだからいけるはずだと思いがちだが、正しく判断するには情報が集まる場所にいることが大事」など、実体験から惜しげもなくアドバイスをした。

これらは起業したい人だけに向けた話ではない。「個人も1つの組織として考えたほうがいい」と福島氏は述べ、自分に実現したいことがある時には、どうすればこの3つを満たすポジションを取れるかを考えるべきだと語った。

最後に福島氏は、まとめとして下記3点のメッセージを伝えた。

・テクノロジーは世の中を大きく変える。それに没頭しよう
・戦略や経営(=マネジメント)は、起業したい人やビジネスマンだけの話ではない。個人としても、エンジニアこそその視点を持とう
・自分のやりたいことを実現するテクニックを身に着けよう

セッションの最後には質問タイムが設けられ、子どもたちからは、「Gunosyの中にいて得られる“情報”とはなにか?」、「競合についてはどう考えればいいか」、「このサービスを続けていてもウケないと判断する基準はどこにおくべきか」、「広告モデル以外でキャッシュフローを回す方法はないか」といった意欲的な質問が飛び、福島氏はどれにも丁寧に返答していた。

未踏ジュニアたちと福島氏・関氏との記念写真

優れた発想力や技術力を持つ若きクリエーターやプログラマーが、実際にその力を世の中で生かしていけるかどうかは、テクノロジーの良し悪しとはまた別の課題だと言える。未踏ジュニアでは、そうした課題についても福島氏をはじめとする専門家から具体的なアドバイスを受けることができるのが大きな強みとなる。そうした形でも、子どもたちが“理想の未来”を実現する後押しをしているというわけだ。

池辺紗也子