Edvation x Summit 2018レポート

高校教育の変革の必要性に踏み込んだ、「企業CSV/CSRと教育イノベーション」

――EdTechの未来と取り組みの今を知る「Edvation×Summit 2018 Day1」レポート

「Edvation×Summit 2018」は、デジタルテクノロジーによる教育のイノベーションに取り組む事例を持ち寄り、展示会やワークショップ、講演やパネルディスカッションを実施する教育イノベーターの大型イベントだ。一般社団法人教育イノベーション協議会が主催し、「新しい教育の選択肢を提示し、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すこと」を目的として、紀尾井カンファレンス・千代田区立麹町中学校の2会場で2018年11月4日~5日の2日間にわたって実施された。2018年度の教育イノベーションのまとめと振り返りの意味を込めて、本イベントの講演とパネルディスカッションから特に興味深かったものをピックアップしてレポートする。

パネルディスカッション「企業CSV/CSRと教育イノベーション」では、経済産業省サービス政策課長の浅野大介氏がモデレーターを務め、課題について問題提起しながら、全体で議論していった。

経済産業省サービス政策課長 浅野大介氏
5つの課題が提示され、議論を進めて行った

まず文部科学省財務課長の合田哲雄氏が、高校教育の「課題」と「可能性」について発言。日本の義務教育は、中学校ではOECDでも世界最高水準と評価されているのに、高校になると急に失速するという。「農業科」「商業科」「工業科」などの専科は非常に活発だが、全体の7割を占める「普通科」の改善が必要であり、大学受験がゴールになってしまっている普通科で、「高校の学びは何のために行っているか」を見直す必要があると語った。

文部科学省財務課長 合田哲雄氏

次に、高校生に対するキャリア教育の提供に長年取り組んできた株式会社キャリアリンク代表の若江眞紀氏がコメント。自身がキャリア教育の取り組みを進める中で、「高校生でキャリア教育をしていたのでは遅すぎる」と実感し、現在は小学校・中学校を対象とし、早い段階で「学校で学ぶことが社会にどうつながるか」を実感できるような取り組みを進めているという。「テストのための勉強」ではなく、それを学ぶことで「社会課題の解決にどうつながるか」を伝えているとのこと。「高校生になると、もう考えることを楽しめていなかった。結果を広げて考えることができていない」と指摘した。

株式会社キャリアリンク代表 若江眞紀氏

株式会社リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長の山口文洋氏も、これまで同社が2300校以上にキャリア教育の情報コンテンツや出張授業の提供をしてきたことを説明。プログラムは、「自分は何者なのかを考え、社会はどう広がっているかを学べるような内容になっている」という。そして、「高校はオンライン学習などを活用して基礎的な学習のみに絞り、できた時間で企業やその仕事を極めた人の実例をもっと学ぶ必要がある」と語った。

株式会社リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長 山口文洋氏

若江氏が、「小・中学校では“探求”が進みつつあるが、高校になると急に取り組みがなくなる。上位のイノベーティブな高校生は企業に通用するほどの能力がある。企業に高校とつながることの価値をもっと認識してほしい」と切り出すと、浅野氏は、企業は社会貢献の一環としてCSRを提供するのではなく、戦略として高校とかかわる必要があると指摘。合田氏も、多すぎる普通科文系の割合や地域とのかかわりがないことが問題とし、「日本の教育は小学校の方が総合学習が盛んで徐々に少なくなるが、本来は逆であるべき。小学校では基礎学力を、高校では総合学習をもっとすべき」とコメント。しかしこうした公教育に関する新しい取り組みには、実際は抵抗が非常に強いと現実も話し、保護者や生徒たちに社会全体が変わってきていると分かってもらう必要があると訴えた。

また、山口氏は、同社の就職面接で「あなたは大学生までの間に何にテーマ設定して打ち込んできましたか」「失敗したときどうやり直しましたか」と聞くとし、失敗が学びであると原体験している人ほど入社後活躍すると説明、「大学入試と就職試験が真逆」と指摘する。それを受けて浅野氏は、「私立大学の大きな収入源ともなっている大学入試は、大量に処理できるよう採点が処理しやすい試験になってしまっている」とし、高校生はガイダンスさえあれば大学院生が取り組むような内容も取り組める力があり、広尾学園のようにSTEAM教育を受けている生徒は「テーマを知っている」という強みがある、と語る。合田氏も「特に首都圏の大きな私立大学の改革が急務」だと指摘した。若江氏は「高校生も、興味がないわけではなく、探求の仕方を身につけていないだけ。探求の面白さや失敗を乗り越えることの楽しさを早く体験させてあげることが大切。高校1年生ぐらいの段階で、もっと企業と具体的な課題に取り組んでいくべき。」と語った。

最後に浅野氏は、「子どものために答えが用意された課題ではなく、解決できていないリアルな課題に子どもが取り組むことが大切」と指摘。若江氏は「イノベーティブな人材を求めるなら、企業もイノベーティブにならないといけない」と語った。文部科学省の合田氏は「子どもたちが新しい価値や文化を生み出してくれることを期待したい。子どもたちを子ども扱いしないことが大事。」とまとめた。

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。