こどもとIT

iPadのある学びが、中高6年間の「興味関心」と「未来の可能性」を広げる

――東京成徳⼤学中学・⾼等学校の取り組み③

いつの時代も学びの主役は子どもたち。1人1台端末で学ぶ時代へと本格的にシフトした今、当の子どもたちは、ICTを活用した学びについてどのように感じ、どのように成長しているのだろうか。

Appleの先進的教育機関「Apple Distinguished School」にも選ばれている東京成徳大学中学・高等学校の生徒たちを見てみよう。同校の取り組みについては、前々回でiPadを活用した中学校の授業を、また前回は高校生が取り組む探究ゼミの様子をレポートした。本稿では同校で学ぶ中学生と高校生はどのように成長しているのか、生徒たちの等身大の声をお届けする。

インタビューに協力してくれた生徒たち。左から川口暉人さん(中2)、神村 慧さん(中2)、高橋岳大さん(高2)、小澤周生さん(高2)、古川万里子さん(高2)、平木さくらさん(高2)

体験を伴う学習を通して、興味・関心を広げる中学生たち

東京成徳大学中学・高等学校は高入生を入れない、6年間の完全中高一貫校

社会の変化に対応し、主体的に活躍できるグローバル人材の育成をめざす東京成徳大学中学・高等学校(以下、東京成徳中高/東京都北区)。同校ではICT教育や探究学習、また3か月に渡るニュージーランド学期留学など、生徒の可能性を広げる教育活動に力を入れている。

その根底にあるのは、多様で豊かな体験と学びを通じて、生徒たちが多くの刺激を受けながら成長してほしいという学校の想い。iPadはこうした学校の教育理念にどう生かされているのか。同校で1年間を学んだ中学2年生の2人から話を聞いた。

――中学校での授業や学校生活では、どのようにiPadを使っていますか?

川口暉人さん(中2)

川口さん: よく使っているのは「Google Classroom」です。「Pages」で作ったレポートを提出したり、先生から連絡がきたりします。ほかにも、試験前に先生が作ってくれた解説動画を見たり、YouTubeの解説動画もよく見ます。プレゼンでは「Keynote」もよく使っています。

神村さん: 自分の意見をクラスで共有するときに「Padlet」を使うことも多いです。iPadを使って友だちと意見を共有できるのが楽しくて、授業のモチベーションにもつながったりします。友だちと教え合う授業も多くて、分からないことがあっても友だちだと聞きやすいので楽しいです。

神村 慧さん(中2)

川口さん: 僕は、歴史や公民の授業が楽しかったです。地理も最初は、知らないことが多かったけど、授業で先生がたくさんのスライドを見せながら、いろんな話をしてくれたので興味を持ちました。模擬国連も楽しかったですね。

神村さん: 僕も、模擬国連の授業が印象に残っています。みんなで国に分かれて、それぞれの立場で環境問題や人種差別の問題を話し合ったり、最後に意見をまとめて発表したりしました。自分はイギリスだったのですが問題を探すのから大変で。世界のいろんな問題を知ったことや、いろんな意見があることに気づけてよかったと思います。

模擬国連の授業の様子

川口さん: 公民の授業でやった選挙も楽しかったです。

神村さん: そうそう。先生が“実際に選挙をやってみよう”と言われて。QRコードが付いた入場券が配られて、先生のiPadに読み込んで会場に入り、投票用紙に記入して投票する、といった一連の流れを体験しました。ほかにも、歴史の授業で偉人にインタビューする動画を作ったのも印象に残っています。

川口さん: こういう授業は、興味のある教科や好きな教科はさらに面白くなるし、その教科が好きじゃなくても、自分の興味が広がるので良いと思います。自分も実際に選挙を体験してみて、公民に興味を持てるようになりました。

神村さん: 僕も、こういう授業はいいと思います、嫌いな教科も飽きないし、めんどくさがらずにやれるのがいいですね。特にiPadで動画を作るのはモチベーションがあがります。友だちと相談したり、話し合ったりしながら作品を作るのは楽しいです。

プロジェクトの課題が多いのは東京成徳中高の特徴。夏休みにはSDGsを調べてKeynoteにまとめ、音声の説明を入れて提出する

――東京成徳中高に入学して、自分ではどういう部分が成長したと思いますか?

川口さん: 体育祭のときに学年関係なく、上の学年が教えてくれて、みんなで一つのものを作りあげる団結力がいいと思いました。協力し合う力は身につきました。

神村さん: 僕は、友だちとの会話でも人の言うことを聞くようになったと思います。授業で話し合う機会が多いせいか、自分の言いたいことばかりじゃなくて、譲ることも大切だと学びました。またiPadを使うようになってから試行錯誤するようになって、例えば、面倒なことを早く終わらせるには、どうすれば効率よくできるかを考えたりもします。

川口さん: iPadをたくさん学習で使うので、今の時代に対応できる力が身につくことが良いと思います。将来、どんな職業につくかわからないけれど、プレゼンで自分の意見を伝えることは必要だと思うので、今のうちからやっておくと、うまく説明ができるようになると思います。

あと、僕は書くのが苦手なので、iPadを使う方が学習も進めやすいです。先生がYouTubeの動画を紹介してくれたり、いろいろな教材を渡してくれるので、iPadを使って自分で学べることも多いです。

神村さん: 日頃からiPadを使っているので、コロナになっても戸惑うこともなかったですし、友だちとのつながりもあるから、家でも学校のような環境で学習できるのがいいと思います。高校生になったら、好きな教科をもっと掘り下げて学習していきたいですね。

左から川口暉人さん(中2)、神村 慧さん(中2)。中学1年の最初の頃は、iPadの不適切な使い方やトラブルも合ったと打ち明けてくれた2人。しかし、それも中学2年生になると落ち着いたという。学習のツールとしてきちんと定着するようだ。

さまざまな学習の中で、自分の成長を実感している高校生たち

続いて、高校2年生の男女4人にも話を聞いた。生徒たちは、中学3年次にニュージーランド留学を経験し、高1では自主性・多様性・創造性を伸ばす同校の新しい教育活動「探究ゼミ」に挑戦。iPadをプレゼンやレポート作成に日々使いこなす東京成徳中高の高校生は、どのように学び、成長しているのか。

――高校ではiPadをどのように活用していますか?

平木さくらさん(高2)

平木さん: 私は、英語の動画プロジェクトで「iMovie」や「CapCut」のアプリをよく使っています。

高橋さん: あとは、スタディサプリで学習したりすることも多いですね。

平木さん: 私はノートを取るのにApple Pencilで「OneNote」に書き込みます。紙のノートも使いますが、かばんが重くなるので。OneNoteだと何教科分のノートも持って帰れるので試験前とか便利です。

平木さんが使っている「Microsoft OneNote」。iPadにApple Pencilで書き込む
小澤周生さん(高2)

小澤さん: 僕はテニス部ですが、iPadのカメラでフォームを撮って、それを見直して改善したりしますね。試合の時は、iPadで試合を撮ってもらって戦術を見返したりします。機械が得意ではなくて、どちらかといえば、iPadを使うよりも、紙に書いたりする方が好きです。

平木さん: 印象に残っている授業は、高1のときにやった英語で映画を作る授業です。チームごとにテーマを決めて、シナリオから撮影や編集、すべて自分たちでやりました。文法やボキャブラリーなど、ある程度の学習を進めたうえでこういうプロジェクトをやるので学習としても役立ちました。

古川万里子さん(高2)

古川さん: 私も平木さんと同じく、映画作りが楽しかったです。私のグループは、長編のホラー映画に挑戦して。英語の得意な子がセリフや字幕など考えてくれましたが、自分たちでも難しい単語を使わず、言いやすいセリフを考えて作りました。

小澤さん: 僕は中学2年の時に受けた数学の授業が印象に残っています。素数大富豪(※)やモンティ・ホール問題(※)などを先生が面白く紹介してくれて、それがきっかけで他の有名な問題にも興味が出て数学が好きになりました。

 ※素数大富豪……”素数しか場に出せない”などの変則ルールを採用したトランプゲーム
 ※モンティ・ホール問題……確率論の有名な問題のひとつで、高名な数学者でも間違ってしまう難問と言われている

高橋岳大さん(高2)

問題集を解くばかりじゃなく、夏休みには数学に関わりがあるものを調べて発表するという課題も出て楽しかったです。

高橋さん: 僕は現代社会の授業で、株式学習ゲームをみんなでやったのが楽しかったです。1000万くらいのお金を渡されて、株を売り買いして一番お金を増やせた人が勝ち、というゲームですが、それまで全く株のことなんて知らなかったけど、何回か授業で説明があってやってみたら本当に楽しかったです。

高橋さんが話してくれた「株式学習ゲーム」

平木さん: 東京成徳って、そういうゲーム感覚で学べるプロジェクトや、楽しめる課題が多いんです。iPadを持っているから、できることの幅が広がるというか、この学校ならではだと思います。

古川さん: 自分たちは課題やプロジェクトと思ってやっていても、結果的に、いい思い出になっていますね。例えば、映画でいうと「このあと来るのって進行形だっけ?」という時に、英語できる子が「そうだよ」って教えてくれて、それが身に沁みついて、自然と楽しく覚えられる感じがあります。

小澤さん: プレゼンなど学年が上がっても似たようなことやるので、去年と比べて自分の成長を感じやすいのも東京成徳のいいところですね。自分も中1のとき作ったプレゼンの原稿を見ると文法とかめちゃくちゃで……。そこから振り返れば成長しました。

平木さん: 私もたまに中学の時のプレゼンを見返したりします。プレゼンも最初の授業でKeynoteの使い方を教えてもらいましたが、その後は、自分たちがプレゼンを作っていくうえで必要な機能や新しい機能を学びます。知っている子に聞いたりしながら、自分で学んでいき、いつの間にか成長しているって感じがします。

平木さんが使うMacBook Proには、中学の時に作ったプレゼンもフォルダに残っている

自分の好きだったことが高校になって深堀りできる

ーー高校になってみなさんが選んだ探究ゼミについて教えてください。

平木さん: Webデザインの仕事や、デザイン関係の分野に進みたくてプログラミングの探究を選びました。今までコードを書いたことがなくて、一から覚えたのですが結構むずかしくて。何度も失敗しましたが、先生に教えてもらったり、できる友だちに聞いたりしながらがんばりました。トライ&エラーの精神や試行錯誤する力が身についたと思います。

プログラミングの探究ゼミで作成した実際のゲーム

古川さん: 私は自然や田舎が好きなので、「人と自然の関わり」を学ぶ探究に入りました。学校に作りたい新たな自然環境として、寂しいベランダに藤棚を提案したり、谷津干潟に行って、干潟のプラスチックゴミを拾ったりもしました。あとは自然を体験するツアーを考える課題で、私は屋久島を選んで2日間で自然を楽しめるプランを考えました。

ゼミを通して、知っているようで知らないことが多く苦労しましたし、谷津干潟に行くと小さいゴミの量の多さに驚きました。今までは自然といえばきれいなイメージで、そこが好きだったのですが、今は汚された自然についても考えられるようになり、どうにかいい方向に改善できないかを考えてプレゼンできたところに、自分の成長を感じます。

小澤さん: 僕も自然の探究を選んだのですが、ツアー計画を考えるときに直前で作り直しして大変でした。もともとは海の深海が好きでしたが、ゼミでは東京湾で釣りをしたり、干潟に行ったりして、陸の方の虫や植物、貝の種類も知って自然の深さを学べたことは良かったです。

ゼミではプレゼンがとても多かったので伝える力はかなり伸びたと思います。特にテーマに対して現状の課題を考えて、それについて歴史や今の自然環境について必要な情報を集めるなど、道筋を立てて取り組める力が身についたと思いますね。

高橋さん: 僕は芸術の探究に入りました。理由は、祖父が何でも自分で作る人で、その影響もあって昔から物を作るのが好きだったので。ゼミでは、グラスハープを作ったり、面白そうで成功と失敗がわかりやすいピタゴラスイッチに挑戦しました。先生に「すでにYouTubeに出ているものじゃなくて自分で考えてみて」と言われたことが印象に残っていて、ずっと考えましたが、結局全然思いつかなくて。すでに出ているものを改良しながら作りました。

ゼミを通して、すでにあるものを進化させるような応用力が身に付いたと思います。普段の勉強でも“なぜ、こうなるのだろう”と考えた上でプレゼンする機会も増えました。

――卒業後の進路については、どのように考えていますか?

平木さん: デジタルデザインの分野に進みたいと考えています。もともとデザインなんて触れたこともない世界でしたが、東京成徳でプレゼンやレポートなどiPadを使ったクリエイティブな授業を受けるようになって、自分はこういう分野が得意だと思うようになりました。また留学も経験して、将来は海外で働けたらいいなと思っています。デザイン関係の大学や海外の大学への進学を考えています。

古川さん: 私はもともと人前に出るのが得意ではなかったけど、プレゼンはみんなも頑張っていたし、自分も頑張らなきゃと思って中1からやってきました。今では人前に出るのも苦ではありません。あとは留学で海外の人とコミュニケーションできた自信とプレゼン力で、観光業につきたいと思っています。ツアープランナーでプレゼン力を活かしたり、ホテルマンになっていろんな観光客に臨機応変に対応できる人になりたい。大学は観光学部か異文化コミュニケーション、英語が飛び交っている大学もいいなと考えています。

高橋さん: 僕は体育学部に進もうかと考えています。昔、熊本に住んでいて、自衛隊の人や、警察の人に手を振ったら振り返してくれたり、挨拶したらしてくれたり、そういうのを見てかっこいいなと憧れがありました。警察官になるには体育学部がいいそうです。一番好きなのも体育だし、面白いと思ったことを徹底して面白がれるタイプなので、好きなことを仕事にしたいと思います。

小澤さん: 数学が好きなので先生になれたらいいなと考えています。数学は問題を解くだけじゃなくて、公式ができた過程や、なぜそうなるのかを突き詰めることに面白さがあるので、それを伝えていきたいと思います。難しい式や公式を使えば一気に解ける謎解きのような楽しさを伝えていきたいです。

以上、東京成徳中高の中学生と高校生にiPadを活用した学びや、同校での学びを通じて成長した部分について改めて語ってもらった。中学生は興味・関心を広げる学びを通じて、さまざまな価値観に触れている姿が印象的であり、高校生は自分の好きなことや進みたい進路に向けて、さらに学びを深堀りしながら未来を語る姿にたくましさも感じた。

言うまでもなく、中学・高校の6年間でめざすゴールは大学進学だけではない。これから先の人生をどのようなマインドで生きていくか。その原動力となる部分を形成するのが中学・高校の時期であり、それには学校の教育方針も大きく影響するだろう。東京成徳中高の生徒たちは、さまざまな学びを経験しながら、自分に向き合い、着実に自分の世界や可能性を広げている。そんな生徒の成長こそが東京成徳中高の魅力だといえる。

※東京成徳中高では、10/9(土)にオープンスクール、10/31(日)学校説明会、11/13(土)オープンスクール、11/21(日)学校説明会の開催を予定しています。同校の学びを詳しく知る絶好の機会でもありますので、ご興味をもたれた保護者の方は是非ご参加ください。詳しくはこちらから

神谷加代

こどもとIT副編集長。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。